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遺灰が芽吹く世界で──神木と腐敗の世界で、海を探して──  作者: ヒトミ


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同行

枯れた木々が破片となって、ぬかるんだ地面と同化している。


前を向くと、少し離れた前方を歩いているエルドが見える。


彼は迷う素振りも見せずに、崩れた木々の獣道を進んで行く。


胞子で濁った視界の中、エルドの赤髪だけが、妙に鮮明に浮かび上がっていた。


そして彼は、時おり手に炎を(まと)うと、無造作な動きで、小さな腐怪を焼き払っていた。


その(たび)に、鼻を刺す腐臭が爆ぜた焚き火の匂いに変わって、眉を(しか)めればいいのか、それとも深呼吸したらいいのか悩んだ。


「どこに……向かってるんですか?」


夜深い気配が漂う中、やっと立ち止まったエルドに、息をあまり吸わないように、浅い呼吸をしながら聞いた。


「ずっと真っ直ぐ向かった先だ」


視線の先には、大きく開いた暗闇しか見えない。


漂う胞子が、風に揺れて(うごめ)いていた。


腐怪が出てきそうで背筋に冷たい汗が流れた。


近くでガサゴソと動く音がして、体を(こわ)ばらせながら顔を向ける。


するとエルドが、枯れた樹に張り付いていたらしい腐怪を燃やして、そのまま口に入れようとしていて、目を見開く。


「ちょっ。待って、待ってください! それ、食べるんですか? お腹壊す、壊しますって!」


彼は腐怪を食べようとしていた手を止めて、片手を腰に当てた。


「炎で浄化しただろーが。こいつは食べれる腐怪だっつーの」


それは……浄化したのは分かる。分かるけど、せめてもう少し。


「見てる方がお腹痛くなるんで、ちゃんと料理してから食べませんか……」


下処理して、鍋で煮詰めて食べた方が絶対安全だから。


鞄から神木の枝を取り出して、焚き火の準備を始めると、エルドが上から覗き込んできた。


「こんなことで、枝を使うとか理解できねえ……。美味い料理なら村で食べればいいじゃねーか」


小さな鍋に水を入れながら、横目で彼を見る。


「ということは、そのままだと美味しくないということですよね。どうせ食べるなら、少しでも美味しい方が良くないですか?」


納得してくれたのか、エルドの気配が遠ざかり、焚き火の音だけが響く。


彼の行動に驚いたせいか、本当に腹部から脇腹にかけて(うず)くような痛みが出てきた気がして、顔を(しか)める。


それが段々と強まってきて、腹部を押さえながら唇を噛み締めた。


「……おい。どーした?」


背後からエルドの声が聞こえてきたけど、答える余裕もなく(うつむ)く。


冷や汗で目の前が暗くなる中、鞄の隙間から覗く、花柄の巾着袋に目が止まった。


あ、祭祀長の薬……。もしかして、治ったわけじゃなくて、抑えられてただけ……?


「それ……取って」


巾着袋を指差してお願いする。


「あ? ……これか? で? これをどうしろって?」

「渡して」


俯いたまま、手だけを伸ばす。


「……体調わりぃなら、座ってろ。指示だけだせ。で?」

「お湯に溶かして、それ、角砂糖、だから」

「は? 角砂糖?? ……まあ、いーか、いや、いーのか? 角砂糖だぞ……」


お腹を押さえながら、少し苛立つ。


「いーから、早く、それ、薬」

「……性格変わってね?」

「うるさい」


俯いたまま、彼を睨みつけて、すぐに痛みで下を向く。


じわじわと締め付けられるような痛みが、段々と強くなる。


首筋に冷や汗が浮くのを感じながら、目を閉じていると、すっとしたお茶の香りが漂ってきて、少し気分が落ち着いてくる。


「おい、できたぞ」

「……ありがとう」


薄らと目を開けて、エルドからお茶を受け取り、ゆっくりと口に含んだ。


一口飲む毎に、心なしか痛みが引いて行くのを感じ、ほっと息をつく。


「いやもー、分かんねーわお前。何なんだ。いっそ普通に話せよ。本気で意味分からん」


お茶を飲みながらエルドを見て、首を傾げた。


「普通に話してますけど。お茶、作ってくれてありがとうございます」


彼は、頭を乱暴に掻き回す。


「いやこえーよ! やっぱその、丁寧過ぎる話し方やめろよ、ほんとに、頼むから」


エルドが腕を(さす)りながら、こちらから距離を取って行く。


「でもこれが、僕の話し方なんですけど。何でそんなに気にするんですか?」


その動きを目で追っていると、彼は両腕を組んでそっぽを向いた。


「例えば、例えばだぞ。自分より歳上の人間がだ、ずっと自分に丁寧に接してきたら、居心地悪くね?」


目を(またた)く。


自分より歳上の人間。シュンさんとかゲンヤさん、みたいな? 二人が僕に丁寧に接する……。シュンさんもゲンヤさんも優しかったけど、特に居心地は悪くなかったなぁ。


「そんなこと思わないですけど。他人(ひと)に丁寧に接するのに、年齢とか関係あるんですか……?」


エルドが顔を覆って、上を向いた。


「分かれよ……。俺が、居心地悪りぃんだよ! その話し方、鳥肌が立つんだっ!」


急な叫びに目を見開く。


声が暗闇の奥まで響き渡り、腐敗した森が(ざわ)めいた。


「エルドさん、エルド。分かったから! 腐怪がきたらどうするんで……どうするの? 危ないから。落ち着いて……」


見えない闇の中を見渡して、腐臭や胞子の変化がないか確認する。


エルドがこちらをじっと見て口を開く。


「……分かったならいい。騒いで悪かったな。体調悪りぃなら寝てろよ。……置いてったりしねーから」


彼は言いながら腕を組んで顔を逸らす。


腹部の痛みはもう無くなっていたけど、なんだかその言葉が嬉しくて、頬を緩めながら頷く。


「……ありがとう。おやすみなさい」


周りは暗く濁っているのに、不思議と良く寝られる気がした。

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