Each Self
「実は……あの後、私は毛皮を着てしまったんです」
「毛皮っちゅーと、元はヴォルフのか」
「セネも見てただろ?おれが頭を被ったら脱げなくなりそうになったのを」
「はい。ただ、ほんの興味本意で……少しなら大丈夫かなと思いまして」
「それにしちゃ、がっつり頭まで被って完全装備じゃねえか」
「……返す言葉がありません。全て纏った後、脱ぐ間を与えずに毛皮が独りでに肌に貼り付いて脱げなくなりました……私は気を失って、目を覚ましたときには狼の姿になっていました」
「変身してもうたんやな」
「いいなーいいなー!おれが変身したかったっす!」
「お前は虎じゃなかったか?」
「それ、おれのときと同じだ。どんなに引っ張っても狼の頭が脱げない」
「全てを受け入れ、私は狼のセネとして生きていくことを決めました。勿論、室長としても働きます」
慣れ親しんだヴォルフの姿に、セネの挙作動作や言葉遣いが加わる。現時点で一同は慣れるのに時間がかかると思った。
「ただよ、ヴォルフは退任したんやろ?ヴォルフは長いこと隊長待遇やったさけ、それで問題は起こらへんのか?」
「そうだ。そして、お前自身が狼になっちまったのはどうするんだ?中身はセネでも見た目がヴォルフだろ?」
「ヴォルフさんは隊長待遇に未練はないと仰ってましたし、新しくジェイドさんが隊長に就任しましたのでポジションは問題ないかと思います。私自身は、魔法の失敗で狼になって元に戻れなくなったと説明します」
「魔法の失敗……そえで大丈夫やろ。たまにこの世から消えてまう研究員もおるさけ、説明つくやろ」
「ヴォルフの野郎、本当は辞めたかったんだな」
「有事も長いことあれへんさけ、上層部も隊長ポジションを絞りたかったんやろ」
「しかし、ジェイドは虎に、セネは狼になっちまったか……」
ヴァーラは徐に、いつも額に巻いているタオルを解いた。
「えっ、ヴァーラさん、それは……!」
タオルの下、ヴァーラの額にあったものにセネは息を飲む。朝焼けより赤い輝きを放つ宝玉が埋め込まれていたのだ。
「この際だ、おれも明かしちまおう。おれ、ドラゴンなんだ」
「え、ヴァーラさん!人間じゃなかったんですかー!?」
「ああ。厳密に言うと、親父が神龍で母親が人間のハーフだ。生まれたときから人間の形はしてるけどよ、親父の遺伝が強いせいか、最近はドラゴンの姿になりつつあるんだ。この宝玉もドラゴンの特徴でな、いつかはおれも完全なドラゴンになっちまうみたいだ」
「だから、今までずっとタオルをバンダナ代わりにしていたんですね」
「一応は人間の姿で通していこうと思ったからな」
「あの……いつかはドラゴンになるんすよね?それはいつっすか?」
「分からねえ。数年後かもしれねえし、こればっかりは」
「ドラゴンになったら人間には戻れないんすか?」
「それも分からねえな。ただ、親父は人間の姿で母親と出会ったから、戻れる可能性はあるかもな」
ヴァーラはタオルを肩に掛ける。
「おれはドラゴンになる日まで人間で通すから……ただ」
「ただ、何すか?」
「実はおれ、自分でも決められねえことがあるんだ」
「何すか、それは?」
「……自分の性別」
「ヴァーラさん、前に言ってましたねー」
「えっ、ヴァーラさんは女性じゃないんすか!?」
「一応、どちらかといえばな。かなり小さいけど、胸が出てるから取り敢えずは女で通してきたんだ」
「月経があったのも覚えてますよ」
「じゃあ、女性でも……」
「いや。月のものって毎月あるもんだろ?おれにはたまにしかねえんだ。それに、信じてもらえないかもしれねえけど、生まれてから暫くはジェイドに生えているものが生えていた」
「えっ、男だったんすか!?」
「ああ。あるときから消えて、女の体になったけどな。それから今に至るし、また男になるかもしれねえ」
「不思議な体やな」
「全く不思議な体だよ。おれ自身、自分がどうなってくのか分からねえし。ただ、女だった時代が長かっただけで性別らしい性別もねえよ」
背を向け、タオルを再び額に巻くヴァーラ。肩幅は極端に広くなく、くびれた腰が女性を思わせる。
「……何ちゅーか、事務所の人間が異様な風体やな」
「訳ありだらけだぜ」
自席に腰を落とすヴァーラ。ガモットとジェイドも手近の椅子に腰を掛ける。




