Combat
ガモットの部屋。ノックもなく、不躾に扉を開けた人物があった。
「仮面……?」
「おまん、誰な!?」
現れた人物は、武装した騎士が被る兜というよりは幽閉された囚人に被せられる鉄仮面を被っていた。背丈は一同で最低のアイーシャより低く、扉の背の高さで余計に小さく見えた。小さな体に不釣り合いな大きさと厳つさの仮面である。
「私ですか?申し遅れました、私はマスカレド・ミステリオと申します。長いので、かめんちゃんとお呼びください」
かめんちゃんと名乗る人物は、重そうな仮面を垂らしてお辞儀をした。
「かめんちゃん……おう、こいつだ!ヴォルフが言ってたやつだ!」
「こいつが侵入者なんか!?」
「そうだ!やっちまえ!」
ヴァーラは火掻き棒を振りかざすと、勢いよく仮面に振り下ろした。
「……え?」
確かに、棒を握る手には反動があった。しかし、鉄製の火掻き棒は先端から曲がってしまっていた。
「嘘だ、手応えはあったのに……殺す気でやったんだぞ?」
「確かに、痛かったかもしれません」
「かも、って!いくら分厚い鉄仮面でも、おれのスイングに耐えられるわけがねえ!」
「じゃあ、この仮面が特別なんですね」
かめんちゃんは仮面のせいで表情は判らないが、恐らく、仮面の下でもけろっとしているだろう。ヴァーラの攻撃は効いてないようだ。
「あなたには用がありませんので、お返しします」
かめんちゃんはヴァーラに開いた手を翳す。
「……っわあ!」
目に見えない力で吹き飛ばされるヴァーラ。体は宙を舞い、壁に激突する。
「ヴァーラさん!」
「う……」
セーラが駆け寄ると、ヴァーラは頭から血を流して意識が朦朧としていた。
「ヴァーラ!おまん、ヴァーラに何したんや!?」
「何って、頂いたものをお返ししただけですよ」
「ふざけんなや!」
ガモットは指を鳴らし、床から青い火柱を喚んだ。術式省略の魔法だ。火柱を掌に集め、かめんちゃんに向けて放った。
「ガモット!やんでねえ!」
「もう遅いわ!」
アイーシャの制止を振り切り、火柱がかめんちゃんに降り注いだ。青い炎は鉄の仮面を焼く。しかし、かめんちゃんはなにも言わず、ヴァーラにやったときと同様に掌をガモットに翳した。
「……っぐわあああああ!!!!」
かめんちゃんを焼いていた火柱がガモットに跳ね返ったのだ。まさかの事態にガモットも回避が間に合わず、火柱を全身で受けてしまう。
「ガモット!」
「あ……ああ…………」
魔法の炎の温度は科学技術で産み出せるものより遥かに高温だ。ガモットの魔法防御力を差し引いたとはいえ、それでも高温を保つ炎はガモットの着衣や露出していた肌を酷く焼いた。
「あなたにもご用はございませんので、お返ししたまでです」
「……この野郎!」
怒りに我を忘れ、セーラは光の玉をかめんちゃんに投げつけようとした。
「セーラ!止めろ!」
「ア、アイーシャさん……」
「待っつくろ」
アイーシャは人差し指で床を撫でた。すると、紫色で半透明の炎が床から噴出し、それが天井まで伸びた。
「ハセガワさんも入れ!」
「あ、ああ……」
「地獄の炎で結界ば張っただ。こんで、向こうはおんらさ攻撃ができねえ」
炎の結界の内に身を寄せる長谷川と、負傷して意識がないヴァーラとガモット。
「アイーシャさん……あの仮面は?」
「あだしと同じ、闇の人間だどな」
「闇?」
「んだ。人間の成りはしてっけどが、もう人間でねえだね」
「アイーシャさんも?」
「あだしもだな。あと1000年以上は生きる契約だけっどが、したっけ、それは人間であんめ?」
「1000年……」
「いしは気にしねえでいいだよ」
「そして、あの仮面はヴァーラさんとガモットに何をしたんですか?」
「食らった攻撃ば相手さ返しただね」
「攻撃を返す?」
「んだ。神聖や理魔法の分野にはねえ魔法だな。だから、いしらには対処ができねえ」
「対処ができないって、どうしたらいいんですか!?」
「大丈夫。いしらには出来ねえだけで、あだしには何とか出来っから」
「へ?」
そう言うと、アイーシャは紫の炎のカーテンを潜り、結界の外に出る。
「アイーシャさん、何をするんですか?」
「あだしは上と相談すんだよ」
アイーシャは人差し指と中指で空中に複雑な紋様を刻んだ。指先が金色に輝き、その光が宙に残像を生み出す。




