Wound
演習場。陽が沈み、白い灯りがほの暗く辺りを照らしていた。
「やっべーな、暗くなっちゃったよー」
華奢で長躯な見た目で、腰に得物を携えた男が演習場の側を通りかかった。
「終電、ギリ間に合うっしょー」
演習場がある中央区から鉄道で自らの住まいに戻るようで、男の足取りも早足だった。
「今、演習場かー。最近、練習してないなー」
男は演習場、とみに土を均したグラウンドに何気なく目を遣る。
「あれ?何かあるねー」
グラウンドに、薄明かりに照らされた黒い物体がある。
「演習で使ったものを片付けてないのかなー?」
男は演習場の沿道からグラウンドの、その物体に行き先を変えた。
「えっ、動いてる?」
物体に近付くにつれて、その物体が動いてることが分かった。
「ちょっと待って、ウソ、人間?」
物体から間合いを空け、携帯していた灯りを点して更に物体を照らす。
「ウソッ……えっ!?」
半歩退く、男。携帯の灯りに照らされた物体の正体を目の当たりにして、頬を引き釣らせた。
「めっちゃ怪我してんじゃん!えっ、大丈夫ですか!?」
勇気を出して、男は物体と思っていた人物に近寄る。
「う……うう……」
「え、顔怪我してる?」
灯りに照らし出されたのは、表皮が剥がされたかのように、血が滲んだ肌の顔だった。
「う……だ……れ?」
「えっ?」
「だれ……?」
「おれ?おれはマット、君は?」
「マット……おれだ……ジェイド……」
「ジェイドくん!?」
変わり果てた姿の人物はジェイドだった。白い虎の毛皮をあしらった着衣で、マットも目の前の人物がジェイドだと理解したようだ。
「ジェイドくん、どうしたの!?」
「なんでも……ない…………」
「何でもないわけないじゃん!顔、めっちゃ怪我してるよー!?」
「それ……とってくれ…………」
「それ?」
血に塗れた指でジェイドが差すのは、同じく血で汚れた虎のマスクだった。
「これ、ジェイドくんの頭……」
「いいから、早く……」
「え、うん……」
マスクを拾い上げ、ジェイドに渡すマット。ジェイドはそのマスクに頭を突っ込んだ。
「少し痛みもマシだな……」
真皮が外気に触れるよりは良いのだろうか、目と唇が覗くマスクの隙間から血が溢れている。
「ジェイドくん、話せるの?」
「少しだけ、回復した……」
「一体、何があったの?」
「……分かった。話すよ。すまん、起こしてくれ」
「あ、うん……」
マットは屈み、肩を貸してジェイドの上体を起こした。
「見ての通り、おれはやられた……」
「誰に?」
「侵入者だ……」
「侵入者?」
「ああ……」
「その、侵入者って?誰だか分かるの?」
「ああ……おれの故郷の人間だ」
「ジェイドくんの故郷の?」
「そうだ……名前はグルヅァテという」
「グルヅァテ、あまり聞かない音の名前だね」
「おれの故郷の言葉だからな……」
「その、グルヅァテさん?その人がどうして?」
「マット……お前は一連の出来事を知らないから話が長くなる……端的に言うと、そいつが軍に何らかの目的でやって来たんだ」
「軍に?何の目的で?」
「分からねえ……けど、良いことじゃないのは間違いねえな……」
「それで、そのグルヅァテさんはどこに行ったの?」
「多分だけど……ガモットさんのところだ」
「ガモットくんのところ?」
「おれが知っている……悪い、マット。ガモットさんのところまで、肩を貸してくれ」
「あ、うん。いいよ」
ジェイドはマットの肩に腕を回し、マットはジェイドの体をゆっくりと持ち上げた。
「すまねえ……帰るところだったんだろ?」
「大丈夫だよー。今日、どっかに泊まるから」
「すまねえな……」
マスクから血を滴らせ、よたよたと演習場を後にした。




