Appearance
教会の一角にある、ガモットの部屋。
「なあ、ジェイド。出ていったまま帰ってこやんな」
仮面の人物に心当たりがあると言ったまま部屋を飛び出したジェイド。しかし、陽が沈んだ時刻になっても戻る気配がない。
「そうだよな。しかしよ、どこに行ったかも分からないから探すのもできねえぜ?」
「そうやわ。せめて、どこ行ったかは言うてくれんと」
「キノコ、あたしゃ帰るよっ」
ケーキを平らげて満足したのか、ヘイネは部屋を後にした。
「ババア、茶しばいただけで帰りよったで」
「ハセガワくん、お茶飲む?」
「あ、ああ。ありがとう。ええと……詩織じゃなくて」
「セーラ、よろしくねー」
茶葉が入った濾し器をティーカップに置き、湯を注ぐセーラ。
「ハセガワくん、お茶の進みが早いねー」
「ああ。何か、喉が渇いてな」
「緊張してるー?」
「少しな」
「みんなと話して解れたかなと思ったけど?」
「いや、俺も人見知りだが、みんなとは緊張が解けた」
「じゃあ、何に緊張してるの?」
「分からない。何だろう、得体の知れない何かが今すぐにでも来そうな気がしてな」
「それって予知能力じゃない?」
「そうなのか?ただの、虫の知らせのような気がするが」
「予知能力は立派な能力だど?」
「あれ、アイーシャさん。そうなんですか?」
「んだ。人間は誰しも、見えないもんが見えだり感じたりすんもんなだ。少なからず、そんな能力があんだね」
「セーラにはないですよー?」
「そら、いしが能力さ気付かねえだけだぁ」
アイーシャも冷えて残った茶を一気に流し込む。
「今日は茶渋が残ってっけえ、塩梅悪いだ」
「ええと、アイーシャさんだったか。俺が感じてる、嫌な予感は分かるか?」
「分がるよお」
「やっぱり。それで、その正体は分かるか?」
「勿論、分がるだ」
「どんなのか、分かるか?」
「んだね、小さい体でよ、何かボロボロの格好だっけね」
「小さい体でボロボロ、俺の恐怖感の正体はそんななのか。それが誰だか分かるか?」
「あだしにも分かんねえだ。首から上が見えねえ」
「首から上が?」
「何だっけ、仮面で顔が見えねえだね」
「仮面……」
「しかも、あとわんかでここさ着くべ」
「え?」
「聞こえねえか、足音がすっぺね……」
アイーシャが黙り、長谷川も耳を澄ませる。すると、微かな足音が長谷川の耳朶を打った。
「本当だ……確かに足音が聞こえる……」
「ん?おれには聞こえねえぞ」
「わえもや。でんでん聴こえやんやん」
「みんな、静かにすろ。近付いて来てるど」
一同は息を飲む。不自然かつ唐突に、部屋に静寂が訪れた。そして、不規則なリズムで足音が大きくなった。
「おれにも聞こえてきたぜ」
「わえも。何な、この部屋は限られた人間しか知らんど?日中も、誰も来やんし……」
「足音の主は相当の殺気だな」
「やっぱ、分かるんか?」
「分かるさ。元戦闘員だもんよ」
ヴァーラは手近にあった、暖炉の火掻き用の棒に手を伸ばす。
「わえも準備しょうら」
「あだしも」
ガモットとアイーシャの魔導師二人も攻撃に備えて、魔力を練って体表を覆った。それぞれ、緑色と黒いオーラを帯びる。
「セーラも……いつもの斧は忘れちゃったけど」
セーラは掌に光の玉を浮かべる。ガモットたちのオーラと同様の仕組みなのだろう。
「セーラ、お前も攻撃魔法が使えるのか」
「最近始めたばっかりですけどね」
「あの、俺は……」
「ハセガワくんはセーラたちの後ろに隠れてて」
「あ、ああ……」
「ハセガワさん、足音の狙いはハセガワさんだど」
「え……?」
どういうこと、と訊ねようとした瞬間だった。足音が止み、扉が一気に開かれた。
「みんな、来るぞ!」
ヴァーラの号令に、一同は扉から現れた人物に構えた。




