Doggy
「ワンちゃんもこっちおいで」
ヘイネは長谷川に手招きする。
「待てよ、ババア。おまん、目まで見えやんようなったか?」
「キノコは何を言ってるんだい?しょっちにいるのはワンちゃんでしょ?」
「人間やご!」
「嘘だねっ!隊長のヴォルフだろっ!アタシは子犬の頃から知ってるんだよっ!」
「一応はヴォルフやったけど、今はハセガワっちゅー人間や!」
「何だ、しょうだったのかい」
ガモットの言葉に、妙に聞き分けが良いヘイネ。
「えらい素直に納得しよったな、気持ち悪う」
「ば、ヘイネさん。ハセガワが元・ヴォルフだって分かるのか?」
「分かるしゃ。匂いがヴォルフだし」
「匂いて、目で分かってへんやんけ」
「俺、獣臭いのか?」
「ワンちゃんの匂いがしゅるね。人間の匂いはしないよ」
「ババア、時間寄越せや。知っとること、詳しく聞かせてもらおか」
「キノコは馬鹿だねぇ!あたしは時間が無いんだよっ!」
「今日は、本部の近所でケーキが安かってん。買うてきたんやけど、食いやんか?」
ガモットは指を鳴らす。すると、宙から紙袋が現れた。
「いつでも手ぶらな魔法は便利だな」
「あがらの部屋でケーキ食おら」
「……しょうがないねっ!」
「ボクも出来るだけ引き継ぎを急ぐさかいに、ヘイネ様はガモットさんと一緒に」
「本当にしょうがないねっ!キノコたち、行くよっ!」
「よっしゃ」
ガモットたちはヘイネを引き連れて、目的の場所まで移動した。
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教会の奥、ガモットの空間。納戸の更に奥に追いやられた、日も大して当たらない場所にその部屋はあった。
「あれ、鍵開いとるわ」
ガモットはドアノブに手を伸ばすも、ドアノブは抵抗することなく扉を開けた。
「あっ、ガモット!いらっしゃーい!」
ガモットの部下であろう、数人の黒いローブの人間に混ざって、白いローブの少女がソファーに腰掛けていた。
「何な、セーラ。来てたんか」
「うん。お邪魔してまーす」
「邪魔してんねやったら帰ってや」
「ひっどーい」
「冗談やがな」
「ガモット、今日はお客さんだらけだね」
「そや。おう、お前ら。空いとるとこに座ったらええよー」
「空いてるところってよ……」
「散らけてて、座っとこあんめな」
ヴァーラとアイーシャが顔を見合わせる。
「ヴァーラさん、久しぶりです!」
「おう、セーラ!頑張ってるか?」
「はーい。最近は回復役より攻撃役が増えました」
「良いことだ。セーラ、ちょっとつめてくれるか?」
「良いですよー!どうぞ」
セーラはソファーの端に身を移す。空いた場所にヴァーラとアイーシャの女性陣が腰を置いた。
「女の子同士で座りましょ」
「あ、おれ、自分が女だって忘れてた」
「あだしも。女の子っつー歳ではねえけっど」
「俺たちはどうするんだ?」
「待っとれよ」
ガモットは部屋の大部分を占める、大きな本棚から数冊の本を取り出すと床に置いた。
「ほんま邪魔くさいねん、この本棚」
「ガモット、本をそんな扱いすると罰当たるよ?」
「かめへん。罰なんか当たりやんて。聖書の異端解釈本やから、そもそもが罰当たりな本やし」
「何でそんな本があるの?」
「昔、教会の現体制に反対する勢力があってな、その勢力が主義主張の根拠にしてたんが異端解釈本やねん。最終的には武力鎮圧したけどな、教会が異端な本は回収してんよー」
「そーなんだ」
「そーなんだ、て。お前も教会の人間やろ」
「知らなかったー」
「知っとけよー。ほ、お前ら。椅子が出来たさけ、座れよー」
忌々しい本で出来た即席の椅子が小さなローテーブルを囲うように設けられた。
「じゃあ、俺はここに」
「そうすね、おれはハセガワさんの隣に」
「ババアも座れよー」
「あたしは座らないよっ!本に座るなんて、お尻が曲がっちゃうからねっ!」
「腰も根性もひん曲がってんねやから、今更かまへんやろ。まあ、ええわ。ほだら、わえは茶淹れてくるわ」
「魔法は使わないのかよ?」
「ヴァーラ、茶は自分の手で淹れな旨くないんやで?」
「そうなのか?」
「そういうこっちゃ。珍しい面子が集まっとるさけ、話してたらええよー」
そう言い残し、ガモットは退室した。




