Past Survive
「わえも本隊所属やけど、分隊におったときのが良かったわ。首都は首都でええとこはあるんよ、そやけど、人のレベルがちゃうわ」
「何やかんや言って、分隊の居住者は行儀が良いもんな」
「そや。首都なんか酷いで?さっきも言うたギルド連中が暴れよるし、窃盗団はおるし、本隊の治安維持部隊も数が少ないさけ、こそ泥だらけやご」
「分隊では窃盗なんかないよな。そもそも、盗む気も起きねえし、盗もうものならすぐに捕まるしな」
「分隊は平和やし、かといって、気が抜けて弛んどるわけやなし。理想郷やんな」
「一応は外界から緩やかに隔離されてるからな。それでいて、閉塞感もないし」
「むしろ、最新の技術や豊かさが目の当たりに出来るから、人が育つにはええ環境やわ」
「そうっすよ。おれが入隊するまで住んでた地域なんか酷いもんす。ボロ長屋に住んでたんすけど、住民が殺害されたりしてたっす」
「そりゃ酷いな。どこに住んでたんだ?」
「首都でも繁華街の近くっす。地下闘技場に出るのに住んでたんす」
「ああ、そこは治安最悪だわ。おれも住んでたけど、おれのファンだとかいうやつが親衛隊とか作っててさ、毎晩毎晩、押し掛けてきたしよ」
「ヴァーラさんはファンの親衛隊だから良いじゃないっすか。おれなんて、アンチばっかり。火炎瓶や爆竹の毎日っすよ」
「よう生きてたな、そえ」
「あのときは、本隊の治安維持部隊なんか来なかったもんな。完全なアウトロー地区で、自分の身は自分で守るみたいな」
「本当に、冗談じゃなくてそんな感じでしたよね。最悪なのは、私設軍の連中っすよ」
「いたいた、アーネスト私設軍とかだっけ?おれが引退する時期に、とんでもない抗争があったっけ」
「おれもその時にいたっす。アーネストの連中、繁華街のギャングとズブズブで、地下闘技場の経営にもいたらしいんす。取り分とかで揉めて、出場者も巻き込んだ暴動が起きたんすよね」
「あったあった。闘技場で銃ぶっ放すし、刀ぶん回すしで、ギャングと出場レスラーとで殺し合いしてたな」
「おれは闘技場側で、乱闘しているギャングをぶっ殺してたっす」
「何な、取り押さえるとかせえへんの?」
「ガモット、取り押さえてる余裕なんかなかったんだよ」
「そうっす。取り押さえてたら、今度は自分が殺されるっす。因みに、おれがアーネストの幹部を皆殺しにしたんすよ」
「お前だったのか、あれ。おれもアーネストの連中は何人か殺したけど、ザコばっかりだったな。連中、得物は立派だけど扱い方がなってなかったから、あっさり殺れたしよ」
「舞台裏なんすけど、ヴァーラさんの引退試合が拳闘会館でやった理由は、闘技場が滅茶苦茶になったからなんすよ」
「それは知ってる。あんな騒動が場所で引退試合なんか、新たな火種が生まれそうだからな」
「それだけじゃないっす。引退試合のとき、地下闘技場で何があったと思うっすか?」
「それは知らねえ。何があった?」
「闘技場側のレスラーと本隊の治安維持部隊とで、アーネストの残党とアーネスト派のレスラーの処刑っす」
「おれの晴れ舞台のときにそんなことがあったのか……でも、おれは拳闘会館の後に地下闘技場にも引退セレモニーで行ったけど、そんなことがあった気配すらなかったぞ?」
「それは、おれたちが処刑の後に急ピッチで清掃作業をしたからっす。血の一滴も残らないように拭き上げて、ダクトも全開にして、科学班も動員して血の臭いも無くしたんすよ。大変だったんすから」
「お前、そんなこともしていたのか」
「だから、おれはヴァーラさんの引退試合も最後らへんしか見れなかったんす」
「いや、おれの試合は別に良いけどよ。お前、その後は大丈夫なのか?残党を殺したとか言うけど、まだその残りもいるだろうに」
「だから、おれはこれになったんす」
ジェイドは自らの頬をピシャリと叩く。虎のマスクのことだ。
「その日からおれはネグロスのリングネームを捨てて、マスクマンとして試合も日常も過ごすようになったんす」
「やっぱり、命を狙われるのか?」
「そうっすね。今は少なくなったっすけど、あの日からしばらくは安心して眠れなかったっす。処刑に関わった部隊も解散して散り散りに異動になったし、あの処刑の件はなかったことにされたっす」
「何や、えらい事件に関わっとったんやな、ジェイド」
「昔のことっすよ」
無表情な虎マスクの下はどのような顔なのか、ヴァーラたちには分かりかねた。
「ところでよ、あがら東区におるさけよ、中央区の教会には鉄道で行こら」
「そうだな。結構歩くし」
「おれは歩くの大丈夫っす」
「ハセガワってのには厳しいだろ」
「内線なら30分おきに来るさけ、乗ったらええわ」
「だな、タダだし」
一行は鉄道の駅舎に歩を進めた。




