Cursed Head
「ちょっと待ってくださいっす」
「何な、ジェイド?」
「いきなりなことが連続で起こりすぎて、追い付けないでいるっす」
虎頭を掻きながら、ジェイドは口を割る。
「そやな、わえもでんでん追い付けやん」
「じゃあ、整理すっか?」
「そうですね、整理は私たちの得意分野ですし」
「頼むわ。ほだら、まずは」
「いつもの毛むくじゃらヴォルフが部屋に現れた」
「そこまでは普通やな」
「そして、ヴォルフの頭が落ちて人間が出てきた」
「はい、ストップ。そっから普通ちゃうわ。唐突な展開やわ」
「だよな、おれも言ってて訳分からねえ」
「隊長の変装をした人間の方、ですかね?」
セネは長谷川を見遣る。
「おう、どうなんだ?」
「ヴァーラさん、私たちの言葉は」
「おっと、そうだった。ガモット、通訳頼むわ」
「こっからがわえの仕事やな。おう、ハセガワとか言うたな。お前よ、ヴォルフやったときの記憶とかあれへんのか?」
「いやあ、それが全く。ついこの間のことのように、今はハロウィンまでの記憶しかない」
「ハロウィンて何な?」
「ハロウィンはあれだよ、祭だ」
「祭?誰かの聖誕祭とかか?」
「いやあ、俺も分からん」
「分からん祭があってんか?何なそえ」
「既に祭があって、誰も起源もやり方も知らない外国の祭さ」
「そんなん祭っちゅーんか?」
「日本て国はそういう国さ」
「ニホン、ああ、ジパングか。ミステリアスやのう」
「おい、ガモット。何だって?」
「記憶にございません、やて」
「何だよ、それ」
「謎は深まるばかりですね」
「深まる以前に、明らかなことなんかあれへんど」
「なあ、ふと思ったんだけどよ」
ヴァーラは足下に転がる狼の頭を拾い上げる。
「これを被せたら、記憶が蘇るんじゃねえか?」
「あー、あり得そうですね」
「えっ、ええ!?」
狼頭と長谷川を交互に見比べるヴァーラ。ガモットの通訳を挟まずとも、ヴァーラが何をしようとしているのかが長谷川には分かった。
「やってみるだけやってみるか。おう、ジェイド。そいつを押さえてろ」
「了解っす」
「お、おい!はっ、離せ!」
ジェイドは長谷川の後ろ手を拘束する。
「やっ、やめろ!せっかく人間に戻れたのに!」
「何て言ってるか分からねえけど、よっ!」
「ぎゃあああああ!!!!」
抵抗も空しく、狼の頭が長谷川に被せられてしまった。
「どうだ?」
「取れ!取ってくれぇ!」
いやいやと首を振って狼頭を落とそうとする長谷川。しかし、すっぽりと狼は長谷川の頭を食い、なかなか離れてくれない。
「駄目だな、こりゃ」
「そうっすね」
「言葉もジパング語ですね」
「ジェイド、もういい。離してやれ」
「はいっす」
「っはぁ!」
ジェイドを振り払うと、長谷川は急いで狼の頭を剥ぎ取った。
「あー、怖かった。また脱げなくなるかと思った」
「狼が本体で記憶もそっちにあるかと思ったんだけどなぁ」
「予想が外れましたね」
「それにしても、怯えすぎだろ」
「あっ」
長谷川の手から狼頭を引ったくると、ヴァーラはそれを自らの頭に被せた。
「うっす、おれ、ヴォルフ。よろしくな」
「うわあ、隊長だー」
空洞だった眼窩からヴァーラの赤い瞳が覗き、マズルもぎこちなくヴァーラの口の動きに合わせる。マスクに仮初めの命が宿り、首から上は狼になったようだ。
「かっ、かっこいいっす!ヴァーラさん、次、おれおれ!」
「ジェイド、マスクの上にマスクかよ。てか、脱いでいいか?このマスク、すげえ臭いんだよ……ん?」
耳を掴んで狼頭を脱ごうとしたヴァーラは違和感を覚えた。
「あれ?変だな、脱ぎづらいぞ」
ぐいぐいと狼の耳を引っ張るも、長谷川が脱いだときとは違ってすんなりと脱げないようだ。
「あれあれあれ?やっべ、マジで脱げねえ!?ちょ、セネ!手伝ってくれ!」
「え、あ、はい」
セネは狼の耳を掴み、ヴァーラは全身を奮わせて狼頭から自らの頭を抜こうとした。それでも、狼頭はヴァーラを離してはくれないようだ。
「痛たたっ!何だこれ!?マスクがおれの皮膚にくっついてんのか!?」
「ヴァーラさん、大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ!セネ、構わねえ!お前も力一杯やってくれ!」
「分かりました!」
セネも狼頭をヴァーラの頭から引き剥がすように、力を込めて引っ張った。




