Peeling Skin
「え……?」
ヴォルフの狼頭があった場所に現れた人物が声を出す。
「おま……ホンマに誰な!?」
「いや……え?」
「嘘や!お前の足元見てみ!」
言われるがまま、人物は自らの足元に視線を落とす。ふさふさでモコモコな狼の頭がそこにはあった。口は力なく緩んで開き、瞳を無くした眼窩が暗くこちらを見つめている。
「あ、狼の頭……」
「何で頭が二つもあんねんな?」
「え?」
「鈍いなー。まだ現実を把握しとらんのかえ。ほだら」
ガモットは懐から手鏡を取り出すと、開いて人物に突き付けた。
「え?あ……!」
人物も鏡に映る顔を目の当たりにして、表情を変えた。
「おっ、俺の顔だ!」
「あん?おまん、何ちゅーた?」
「いや、俺の顔だって」
「待てよ待てよ、さっぱり分からん。おまん、ヴォルフやご。ほいで、おまんの顔は人間や。そやから、あがらがポカーンてなってんの。分かるか?」
「え?え?え?そっちこそ待って、ヴォルフって誰?」
「お前や!」
「いや、俺は長谷川ってんだけど。何言ってんだ、仲本」
「ハセガワて誰な!?わえはガモットや!ナカモトて誰な!?」
「ガモット?何だよ、何言ってんだよ。何のドッキリだよ。というより、ここはどこなんだ?仲本、お前は何でハリポタみたいな格好なんだ?お前のそばの男女と虎は何なんだ?」
「わえと、男女と虎て……お前」
「男女っておれらのことだろな」
「でしょうね。合ってます」
「虎はおれっすね」
どうやら、目の前に現れた人物の長谷川はヴォルフとイコールでないらしい。長谷川はヴォルフの記憶を持っていないようだ。
「ちょー、待てよ。お前、ヴォルフちゃうんか?」
「だから、ヴォルフって誰なんだよ?俺は長谷川だってのに」
「ヴォルフ、記憶喪失なのか?見てると、おれらを初めて見るような素振りだけどよ」
「だとしたら、変ですね」
「変って?」
「ええ。ヴォルフさんが狼のときは、私たちのことも記憶にありました。しかし、頭が脱げて人間になってから、私たちのことはすっかり記憶に無いようですし。瞬間的に別の人間になった、というほうがしっくり来ます」
「つーことはだ、こっちに記憶ってか、ヴォルフの本体がこっちか?」
ヴァーラは床に転がる狼の頭を指差す。
「ヴォ、ヴォルフさん……」
「どうしたんだよ、ジェイド」
「そんな、ヴォルフさん……人間だったなんて」
「待てよ。まだ、ヴォルフが人間って決まったわけじゃねえだろ」
「なあ、すまん。脱いで良いか?」
「脱ぐて何な?ええと、ハセガワやったか?」
「ああ。何か、この……毛皮?暑くて暑くて、汗でヌルヌルなんだ」
そう言うと、長谷川は右手で左手の指先をつまんで引っ張った。
「お、やった。やっぱり、脱げるぞ」
「うっ、嘘や……!」
ガモットも信じたくはなかった。長谷川が指先を引っ張ると、するりと毛皮が脱げてしまった。まるで、それは肘まで覆う長い手袋を脱ぐかのようにだ。同様に左手で右腕も脱ぎ、ズボンを脱ぐかのように下半身も脱ぐ長谷川。
「あ、やべ。下、パンツ穿いてなかったわ」
恥じらうこともなく下半身の毛皮を脱いだ長谷川だったが、下着を纏ってなかったことに気付いた。咄嗟に、毛皮の上に着ていた制服で局部を隠す。
「そして、最後だ」
Tシャツを脱ぐように、腹部から肩までを覆っていた毛皮も脱いだ長谷川。獣の毛に覆われることがない、人間の肌を持った姿になった。




