Before the Incident
「ところで何だ、抜き打ちの監査か?」
「ちゃうわ。こえ、頼まれもん持って来ちゃってん」
小脇に抱えた黒い紙袋を突き出すガモット。
「アダルトなグッズか?おいおい、朝からやめてくれよ」
「ちゃうわ!ヴォルフにいつもの頼まれてんよー、ヴォルフおるか?」
「今はいねえけど、今日も後で来るんじゃねえの?」
左足のサイドポケットからカッターナイフを取り出すと、刃を出しては引っ込めながらヴァーラが言う。
「そのナイフは何な?物騒やな」
「仕事用さ。お仕置き用にも使えるけどな」
「お仕置きて何な?ヴォルフ、何かポカでもやったんか?」
「ポカもポカ、大ポカさ。あいつ、部外者をみすみす軍内に入れちまったんだよ」
「えらいこっちゃ、そら。何な、部外者てどんな?」
「素性の知れない、仮面の人物さ」
「めっちゃ怪しいな、そえ!ヴォルフ、そんなん入れてもうたんか?」
「らしいぜ。一応、軍のナンバー2なのによ。平和ボケしちまってんだよ」
「ほいでも、仮面の人物なら周りから浮くやろ?王さんがおる宮殿と違て、ここには鎧兜の人間はおらんはずや。なあ?被り物のプロよー」
「……ふ、ふえっ!?」
急に話を振られて、ジェイドが咄嗟の返答にまごつく。
「何な?話、聞いてへんかった?」
「話、話……何の話っすか?」
「お前、眠いんか?」
「い、いえ。眠くないっすけど」
「そやったら、わえとヴァーラの話も聞こえてたはずやで?あがら、何の話しとったか分かるかー?言うてみ」
「え、えーと……」
「いっこも聞いてへんかったんやな。雑談の中に大事なことが紛れ込んでてんよー。軍の一大事になるかも分かれへんで?」
「軍の一大事っすか?」
「そや。お前とおんなし被り物の怪しいのが軍内を彷徨いてんねんな。被り物のプロとして、何か分かれへんかー?」
「か、被り物のプロ……」
「そこは冗談の部分や。大事なんは気い引き締めや、っちゅーこっちゃ」
「気を引き締めて……」
「そや。何な、お前。仮面の侵入者の話題になってから静かになったな」
「い、いえ。そんなことないっす」
「そんなことあるわ。表情が変わらへん虎が俯き加減になってん。何か知ってるやろ?」
「おう、ジェイド。仮面について何か知ってんのか?」
「もしかしたら、なんすけどね……」
ガモットとヴァーラの二人に詰められ、重い口を開くジェイド。
「その……仮面の人物、おれ、知ってるかもしれないんす」
「何やて?知ってんの!?」
「いえ、その人物を実際に見てないから確証はないっすけど、もしかしたら。もしかしたらで、おれが知ってる人間かもしれないっす」
「でもよ、仮面被ってて誰が誰だなんて分かるのかよ?」
「それがおれ、分かるんすよ」
「ちょ、待てよ。そえ、ホンマか?」
「本当っす。信じてもらえないかもしれないっすけど、おれ、特殊な能力があるんす」
「特殊な能力て?」
「仮面の下の素顔が見える能力っすね」
「何なそえ。ホンマにホンマか?」
「嘘じゃないっす。おれの地元の人間は全員、その能力を持ってるっす」
「何な、そえやったら、わえが持っちゃーる紙袋の中身も分かるんか?」
「いえ、それは分かんないっすけど。ただ、何かに覆われた顔は判別できるっす。それこそ、最初から素顔のように見えるっす」
「お前には覆面は無意味ってことかよ」
「そうっす。軍のアサシンや敵の密偵なんかも、素顔丸出しに見えるっす」
「えらい能力やな、そえ。顔限定で透視ができるんか」
「そういうことになるっす」
「軍にそえは言うてんのか?」
「言ってないっす。大した能力じゃないと思ってたんで」
「言えや、お前。強盗とかの検挙に役立てんで?」
「そしたら、おれはそっちの部署に回されるじゃないっすか。おれ、今の軍の仕事が好きなのに」
「適性より業務内容の好き嫌いで今のポジションにおるんかいな」
秘密にしていたのには理由があったようだ。すると、トーンダウンしだした場にノックの音が飛び込んできた。
「誰な?」
「ヴォルフでーす」
「あっ、ヴォルフさん!」
「ヴォルフさん……!」
場に2名、ヴォルフと聞いて上気するのがいた。
「おう、セネが大好きなヴォルフのご出勤だぜ」
「セネもヴォルフが好きなんか?」
「私も、って?」
「ジェイドもヴォルフのことが好きなんよー」
「好きじゃないっす。愛してるっす」
「お前、きしょいこと抜かすな」
虎頭を叩くガモット。
「何すんすか!?」
「カミングアウトすんなら、もっと気持ちの整理させーや。受け止めちゃるさけ」
「違うっすよ。おれはヴォルフさんに憧れてて、ただの好きどころじゃないんす!」
「虎に狼って、まあヴォルフの後追いって感じはあるな」
「アニマル……いえ、ビーストパラダイス……!」
「どさくさに紛れて、お前も何言ってんだ」
「え?私、何か言いました?」
「パラダイスなのはお前だけだろ」
「あの、入ってもいいか?」
入りづらいのか、焦れるヴォルフ。
「何な、ノックなんてしやんでも入ったらええよー」
「朝早くに事務室に人が多いって、何かあったのかと思ったんだ。それじゃ」
漸く、ヴォルフはドアを開けた。




