第三十七話:書庫とアイドル
「え、それ本当?」
「本当だよ!やっぱり凛子ちゃんに似てる気がしてさ。親戚とかにいたりしない?」
「うーん、歳が近いいとこならいるけどルチアって人はいないな…」
「さすがに偽名だと思うけど…本名聞きそびれちゃった。
とりあえずミロック城の近くにある書庫で待ち伏せしてみない?私たち民間人でも入れる図書館みたいなところなんだ。
そこならミロック城に出入りする人も見れるし」
「分かった、そうしよっか。ていうかカコ、本読むの好きだから行きたいだけなんじゃ??別に私に似てようがあんま興味ないでしょ??」
「あ、バレた?」
カコはペロッと舌を出した。なかなかの策士だ…
でも私に似ているルチア様というミロック王も気になりはする。
だって王なんだもん、きっとすごい人に違いないよ。
さっそく書庫へと向かい、ミロック城を監視することにした。
といっても見ているのは私だけだ。
カコはものすごい量の本に目を輝かせてどこかへ行ってしまった。
でもミロック王か、どんな人なんだろう。
王なんて想像がつかないなあ。
そもそもこんな場所が存在していること自体変な話なのかもしれない。
ここはミロック国といって、現実世界とは違う異世界らしい。
正直私もよく分かっていないんだけど。
カコは現実世界の方で出会った友達だ。
ミロックを抜け出して本屋巡りをしていたのだが、迷子になってしまったようで、私に声をかけてきたのだ。
それ以来、こうやってミロックで遊んだりしている。
出会いは変だけど、カコは私の一番の親友だ。
出身地が違おうと何も関係ない。
って、危ない危ない。ここに来た目的を忘れるところだった。
ルチア様を一目見ないと帰れないや。
「……キャッ!!」
小さな段差があったらしく、思わず躓いてしまった。
身体が大きく揺れる。そのまま床に頭をゴッツンコする……直前で誰かの腕が出てきた。
「大丈夫ですか」
倒れる直前で助けてくれたのは、黒髪で灰色の瞳をしたとても綺麗な男の人だった。
表情を変えず、私の身体を腕一本で支えてくれている。
「あ、あ、ありがとう、ございます」
「いえ」
「いたいた。おーい、目当てのもの見つかったか?」
「ああ、見つかったよ。帰るか竜」
「んだね〜」
男の人は軽く頭を下げてその場を後にした。
「凛子ちゃんどう?見つかった……ってどうしたの?」
両手で本を抱えたカコが戻ってくる。私は彼の後ろ姿から目が離せなかった。
「あれ優さんじゃない?何かあったの?」
「優さん…?」
「あ、やっと返事してくれた。そうだよ、卯月優さん。ミロック王補佐をやってる人だよ。
確かお兄さんが二代目王のお付きだったんじゃないかな」
「卯月、優…」
カコから教えてもらった名前を口に出してみる。素敵な名前…
「ねえ、カコ。明日からもここ来るの付き合ってもらって良い?」
「別に良いけど、もしかして凛子ちゃん……」
「私、優さんとお近づきになりたい!!!」
クルミル様からミロックの書庫の存在を聞いたのは、圭太がいなくなってからだった。
基本的には住民向けに解放しているものだが、中にはディープな内容のものもあるらしい。
もしかすると四醋剣の情報が得られるかもしれない…
そう考えた私たちは入れ替わり立ち替わりで書庫へ通っていた。
「え〜っと、今日の当番は…げ、私と優じゃん」
「げってなんだよげって。それはこっちのセリフだわ」
「この前竜と行った時に見つけた本は空ぶってたらしいけどねえ?もしかして無能ですかあ?そんな人と一緒なんて、ねえ?」
「……ケンカする?」
「お二人さんがんばれ〜〜あそことんでも無い量の本があるからすぐ日が暮れるぞ〜〜」
竜はやる気のない声援を送ってくる。まあでもミロックのためにやるしかないか。
書庫についた私たちは手分けして棚を探し始めた。
…それにしても広い、広すぎる。
ほぼ毎日来ているが全部確認できているか自信がない。
そもそも四醋剣なんて重要な情報が、住民も見れるような場所に落ちているのだろうか…
ふと隣を見ると、優はある棚の場所で立ち止まっていた。
そこは私が先ほど見たところなのでいくら探しても見つかるはずがない。
さてはお主、サボっているな?
背後からソーーッと近づき棚にある本を見た。
『人類の神秘〜どのようにして命は生まれるのか〜』
「う、うわあ………」
「ッ!?お前いつからそこに…」
思わずドン引きの声が出てしまった。なんて本見てんの??
私の考えていることがわかったのか、優は急に慌て始めた。
「いやいやいや、違うって。そういうんじゃないって勘違いするなよアホが」
「まあ優くんもお年頃なのね…」
「ちげえよ!なんか腹立つな!!」
違うから、と優はもう一度否定すると書庫の入り口付近に視線を向けた。
「俺、割とここには来てるんだけどさ。毎回なんか視線を感じるんだよな」
「視線?」
「ああ、見られてる気がするというか…」
「まっさかあ、勘違いじゃないの?」
「そうだと良いんだけど、ここ何日がずっとそうだからさ」
「自意識過剰なんだって優は、どうせさっきあった絵と勘違いしてました〜とかいうオチでしょ。分かってるってそういうのは………」
ん??????誰かこっちを見ている???
もしかしてあの人????
あえて優から距離を取ってみる。するとその人も私の動きに合わせて視線を動かした。
「これ見られてるの私じゃん!?」
「…みたいだな」
なんだろう、王だからだろうか。
確かに書庫に来る回数はみんなよりも少なかったけど…
考えても仕方ない。私は警戒しながらその人に近づいた。
そして、ここにいるはずがない彼女の名前を呼んだ。
「り、凛子ちゃん!!?」
「むっちゃん、やっぱりむっちゃんなんだね!!!?」
「どうして凛子ちゃんがここに…。隣にいるのは?」
「友達のカコ、ミロックに住んでるの。カコに連れられて私もこっちに来たんだ」
「なるほど、そういうことだったんだ…」
「あっ凛子ちゃん、私が言ってたのはこの人だよ!雰囲気にてるよね!?」
「あ、ああそうねカコ……」
後から来た優が凛子ちゃんを見て言った。
「あれ、君は…」
「先日は助けていただきありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる。知り合い??
「えっと、それで誰?むつきの知り合い?」
「私のいとこの如月凛子ちゃんです…」
「いとこ!?身内だったの!?」
お友達のカコも驚いている。そりゃそうだよねえ…
「ミロックの王がむっちゃんだったなんて…びっくりしちゃった」
「私もだよ、おばさん元気にしてる?」
「うん、元気だよ。私季未高に通ってるんだけど、むっちゃん千両だよね?」
「えっ全然近いじゃん、お隣じゃん」
「そうなんだよね」
まあ、とりあえずと凛子ちゃんは場を締めくくろうとする。
「連絡先教えてください。今後いろいろと聞きたいことがありますから」
「う、うん分かった。ラインで良いよね、えっと…」
「あ、いや、むっちゃんじゃなくて」
凛子ちゃんが向けた視線の先には。
「え、俺????」
「先日助けていただいたし、そのお礼もしたいというか…。それにカコから聞きました。ミロックにもお詳しいって」
「間違いではないけど、いとこなんだし王のむつきの方が話しやすくね?」
「そんなことないですっ!お願いしますっ!!」
凛子ちゃんはスマホを優の方へ向けた。
「ま、まあ別に良いけど…」
卯月優は、押しに弱い。
「ありがとうございます、また連絡しますねっ。それじゃあ!」
「凛子ちゃん!?私まだお目当ての本見つかってな…あ〜れ〜」
二人はそのまま書庫の出口へと消えていった。な、なんだったんだろう…?
結局めぼしい情報は何も見つからず、私たちは書庫での調査を打ち切ることになった。
正直そこまで期待はしていなかったが、実際に何もなかったとなると気分が沈む。
「今月末には期末試験があるからしっかり勉強しておくように」
担任の声が聞こえて我に帰る。
そうだ、今授業中なんだった。最近ミロックでいろいろありすぎて学業が疎かになっている。
学級委員長としてあるまじき事態だ……
「テスト、面倒よねえ」
お昼休みの食堂。頬杖をつきながら零ちゃんがボヤいた。
「零ちゃん勉強は苦手?」
「ううん、苦手ではないけど面倒だなって。ちゃんと復習しないと良い点取れないし」
「まあそうだよねえ…。そういえば優と竜は今日お昼一緒に食べるんだっけ」
「もうすぐ来ると思うわよ。ちょっと頼みごとしてて」
「頼みごと????」
「はあ、はあ…お待たせ、しました…………」
息を切らしながら師走竜、登場。片手に焼きそばパンを持っている。
「遅かったじゃない、ありがと」
「クソッ、ジャンケンに勝ちさえすれば…!」
うーん、なんか全部わかったぞ。
竜と零ちゃんでジャンケンして、竜が負けたから焼きそばパンパシリされてるってことか。
「おっす〜……」
後ろからさらに顔色が悪い優が現れる。片手に焼きそばパンは持っていない。
「優は負けたの?焼きそばパン論争」
「いや、そもそも参加してねえよ」
「じゃなんでそんなげっそりしてるの」
「ラインがヤバいんだって」
ふぃ〜と竜はイスに座って言った。ラインとは??
「もしかして例のいとこさん?」
「そう、見てもらった方が早い」
そう言うと優は自分のスマホをテーブルに置いた。みんなでそのトーク履歴を覗き込んでみる。
『優さん、おはようございます!起きてますか?私は今から学校です!』
『優さんお疲れ様です!もうお家着きましたか?私は部活に入っていないので放課後は割と暇なんです。優さんは部活してたりしますか?』
『優さんこんにちは!今、夜ご飯の買い出しに来てます。メニュー迷ってるんですけど、何かオススメありますか?好きな食べ物とか知りたいです!』
『優さんこんばんは!今日は満月みたいです。私の部屋の窓から眺めてます。優さんも見てますか…?』
「「「えっっっっっっっっぐ」」」
「わかるだろ、俺の気持ち。これが一週間続いてる」
すごい怒涛のメッセージ。そして全て中身があんまりない。
優は凛子ちゃんからの連絡に全て返信していた。
「あんたも律儀ね。こんなの無視しとけば良いのに」
「それもなんか悪いだろ?ライン交換しても良いって言ったの俺だし…」
「ストレス溜めてたら元も子もないじゃないの、バカ?」
零ちゃんは焼きそばパンを食べながら言った。この女、いつも強かである。
「しんどいなら私が言ってこようか。確か通ってるの季未高よね。今日の帰りによってガツンとやってくるわ」
「いやいやいや、良いって!怖えよ零!」
実力行使、即行動、唯我独尊、梅崎零。
「にしても凛子ちゃん、だっけ??なんかすごい子だよな。むつきの前で言うのもなんだけどさ」
「私も凛子ちゃんとはあんまり会ってないんだよね。小さい頃はおばあちゃんちで集まったりしてたけど最近は全然」
「親戚ってそんなもんよね」
私たちが話をしていると、ある男子生徒二人がコソコソとこっちを見てきた。
「ん?なんだろう。聞いてくるわ」
思い立ったらすぐ行動ニキ、竜が立ち上がる。
こう見ると竜と零ちゃんの行動原理、似てるかもしれない。
「どした?なんかあったか?」
「ああいや、さっき凛子とか言わなかったか?」
「言ったけど知り合い?」
「えぇ!?師走知らないの!?季未高のアイドルだぜ!!?」
季未高の、アイドル…????
「可愛いよな凛子ちゃん、いつもキラキラしててさ。長いツインテールも良いしなんせ女の子らしい。守ってあげたくなるな…」
「おい、先に目をつけたのオレだからな!?抜け駆けはなしだぜ!?」
「いやいや、凛子ちゃん狙いの男なんて星の数ほどいるって。
という訳で師走、もしなんかあったら教えてな!」
男子生徒はその後も凛子ちゃんを褒め称えながら食堂を出ていった。
「同じ血が流れてるのにこの差とは…。どんまい」
「むつきがいとこだってことは内緒にしとくね。名字一緒だから時間の問題だろうだけど、俺がフォローするからさ…」
「あんたら失礼だと思わないの!?私だってやればできるわよ!」
「何ができるんだ??」
「な、なんか……」
「見苦しいわよむつき、諦めなさい」
みんなひどい。
「そういや凛子ちゃんって俺らの一つ下なんだっけ。しかも季未高なら圭太と同級生じゃん。もしかしたら知ってるかもな」
圭太という単語が出てきて少し空気が冷える。
遠い存在な気がするけど、実際は隣の学校にいるんだもんね……
「だから引きずりすぎだって、しつこ」
優はそう言い席を立った。いつのまにか昼休みの時間も終わりそうだ。
「次体育だろ、行こうぜ竜」
「あっちょっと待てって!んじゃお二人さんまた放課後に!今日は部活ないから俺もミロック行くぜ!」
「はーい、またね〜」
にしても卯月優はなんだ、圭太の話したらすぐ機嫌悪くなるじゃん。
「分かりやすい嫉妬よね〜〜〜」
零ちゃんは私をチラチラ見ながら言った。
「面倒くさい男に好かれるのって大変ね。まあ逆も然りなんだけど」
「零ちゃん…??」
「私たちも行きましょ、次移動教室だし」
「そ、そうだね」
嫉妬?優が??私に???付き合ってる訳でもないのに????
そう、そうだよ!付き合ってないんだよ!
それじゃ赤の他人じゃん、何言われようが関係ない!うんうん!!!
「どした優、そんなスマホ見つめて」
「あ、いや、なんでもねえよ」
「ふーん、実は凛子ちゃんのこと気になってるとか?」
「………」
「えっ図星ですか?」
「悪い竜、ちょっと用事ができたから今日は先にミロック行っててくれ」
「え〜〜せっかく今日は一緒に行けるのに。遅くなるの?」
「…どうかな、分からねえわ」




