第三十六話:夕張ロシアと円陣
暖かい風が頬を撫でる。
もうすぐ6月、梅雨が明けたら夏がやってくる。
この2ヶ月間、いろんなことがあった。
…本当に、いろんなことが。
「むつき、少し良いかな」
クルミル様が声をかけてくる。はい、と私は返事をした。
「りゅうから聞いたと思うけど、デモ活動してた人たちについて報告があってね。
全て落ち着いたそうだよ。Be Quietがすぐに動いてくれたのもあったけど、なにより…」
「圭太、ですよね」
あれから圭太には会っていない。忽然と姿を消してしまった。
本人も言っていたように四醋剣の能力は瞬間移動なのだろう。
それもまた特殊で、《逃げ》に特化している。
何度も会おうと連絡を取っているのだが、電話が繋がらなかったり家に行っても不在だったりタイミングが合わない。
きっと四醋剣のせいなのだと私は思っている。
「ああ、そうだ。あの告白文が効いたみたいだね」
失踪してから数日後。ミロック中に手紙がばら撒かれた。
そこには全ての元凶は自分、出背圭太である、ミロックからは姿を消すと書かれていた。
住民たちはこれを見て落ち着いたらしい。
「一体、何を考えてるんでしょうね」
思わず乾いた笑いが出てしまう。
彼は最後、誰かに認められたくて全てから逃げてきたと言っていた。
でもそれって悪いこととは思えない。誰だって逃げたくなる時はある。
なのにどうして、そこまで背負ってしまったの。
「圭太、僕に対してたまに謝って来てたんだよ。
本当に申し訳ございませんでしたって、本気のトーンでね。
何の話?って笑いながら返しても表情ひとつ変えなくて。
彼なりに第二の反乱のことを引きずっていたのかもしれないね」
「でもあれは、慶太だけじゃなくてマリック様も関わってて…」
「君たちの姿を見てたんじゃないかな?」
「私たちの姿、ですか」
「うん、竜を助けるためにむつきと優が体内に入っていろいろあったでしょ。その一部始終を見てた可能性がある」
「確かになんか天井からピンポン玉が落ちて来ましたね…」
「何それ?どういう状況??」
圭太はいつから、どんな気持ちで私たちを見てたんだろう。
自分がしたことを悔やみながら、ずっとずっと克服する機会を伺ってたのかな。
「もっと、話をすれば良かったですね。今更言っても遅いですけど」
「そうだね、でもまだ希望はあるんじゃない?」
凹む私に対してクルミル様は微笑んだ。
「だってさ、圭太はまたねって言ったんでしょ?さよならじゃないしいつかまた会えるよ」
「…確かにそうですね。ここでへこたれてたら笑われちゃいますね」
「どんな結末とはいえ、ミロックの住民たちは落ち着いたんだ。それは紛れもなく圭太のおかげだよ」
「はい、ありがとうございますクルミル様」
「どういたしまして」
まだまだ人生は長いんだから、ここで終わりじゃないよ圭太。
あなたからもらったモノはずっと大事にしていくから。
なんたって命を2回も助けてもらってるからね。
この恩は絶対に返すから。
「………いつまでも凹みすぎじゃね?」
「ああ優、準備できた?」
「はい、だから呼びに来たんですけどこいつ女々しくないですか?まだ圭太のこと言ってんの?もう良いだろ時効だろうが」
「クルミル様!!この人ひどいです!!!首を刎ねましょう!!」
「あなたにそんな権限ありませんが??」
「あります〜王なんであります〜〜」
「ははは、今日も元気だねえ君たち」
「むつきここにいたのか、みんな待ってるし早くやろうぜ!」
「え?何をやるの竜」
「何って、流しそうめんに決まってるだろ!?」
な、ながしそうめん…??
この時期に??まだ早くない??
「夏先取りって感じよ、なんか最近みんなジメジメしてるしさ。カラッと行こうぜ!」
「ま、そういうことなので急いでくださいルチア様。
あなたがジメジメしているとカビが生えて腐ってしまうので。あ、もう手遅れか」
「こんな時だけルチア呼びするな!腐ってないよ!!」
「はははっ!なんか最近優も情緒不安定だよな!言ってる意味わかんね〜!」
「とりあえず行こうか。みんなを待たせる訳にはいかないからね」
クルミル様が場をまとめ、私たちはミロックハウスへと移動した。
…そこには通常の三倍くらいある流しそうめん器があった。赤い彗星?
「やっときた〜!さっそくそうめん流そ!」
「何この機械、デカすぎない?」
「白空と利愛が作ったんだって。気合い入りすぎよね」
「そう言う零ちゃんも戦闘体制入ってるじゃん」
「気のせいよ、私はいつも通りだわ。生きるか死ぬか、その瀬戸際に立たされているの。チャンスは一瞬だけ、絶対に逃さない」
零ちゃんはお椀を左手に持ったまま箸を構える。
流しそうめんってそんな感じの食べ物だったっけ?
「あちぃ〜この人数分一気に茹でると熱気がやべえわ」
大きなザルを持ったりゅうさんがキッチンからやってきた。モクモクと湯気が立っている。
「え、りゅう兄これ絶対熱いじゃない。氷入れてもっと冷やしてよ」
「いやそうは言ってもこの量はすぐ冷めないぜ?」
「ならマジカルバナナしよ〜!」
急に?マジカルバナナ??
「…マジカルバナナって何?」
「うわ!マジカルバナナ知らなさそうな人から知らない発言きた!あんま驚かない!!」
「いや違えよ、なんで今マジカルバナナやるんだよって言ってるんだよ。マジカルバナナ自体は知ってるよ」
「確かに優は縁なさそうだな」
「なんだそれ、バカにしてんのか?」
「なんで!?なんで白空は許されて俺は許されないの!?愛情の裏返し!?」
「竜うるさ、それじゃやるわよ、マ〜ジ〜カ〜ル〜バ〜ナ〜ナ」
「零ちゃんが一番やる気満々なのなんで?」
「バナナと言ったら黄色」←零ちゃん
「黄色と言ったら卵!」←利愛
「卵と言ったら黄身!」←私
「キミと言ったら愛してる♡」←竜
ちょっと待って?
「それたぶんきみ違いだよ。利愛のは食べ物のきみ、竜のは人のきみ」
「あっそっちか〜!小説じゃないから分からなかったわ!」
「メタやめな!?黄色と言ったら君って何!?」
「イメージカラー的な?」
「なるほど、そういう捉え方もあるのね…」
「零ちゃん感心しないで?」
「誰も愛してるに言及しないの、若いねえ」
「クルミル様が一番若いですけど…」
「あらら」
気を取り直して。
「それじゃ俺からね。バナナと言ったら果物!」←竜
「果物と言ったらメロン」クルミル様
「メロンと言ったら夕張!」←りゅうさん
「夕張と言ったらロシア!!」←白空
………はあ?
「ちょちょちょ、ちょっと待って。何が起こった?」
「白空ダメじゃん順番抜かしちゃ、次優の番だったでしょ?」
「ああごめんごめん!つい言っちゃって。でもこういうとこが面白いゲームだよな〜!」
「違う違う、夕張と言ったらロシアって何?」
「え?夕張ロシアでしょ?」
「「「「夕張ロシア???」」」」
この世に生を受けて早十六年、初めて聞いた日本語だ。
「なんだよみんなして。夕張の中にあるロシアだよ、知らないの?日本の中の東京みたいな」
「せめて逆であれよ、ロシアの中に夕張だろ。それも意味分からんけど」
思わずりゅうさんが突っ込む。
誰からも賛同を得られなかったからか白空は少し寂しそうにしていた。
「それじゃ次は…」
「いやこれ、流しそうめん始めるまでに何時間かかるんだよ。地獄だからもう辞めよ」
「あ、優がやりたくないから自分の順番が来る前に強制的に終わらせた」
こうしてマジカルバナナ大戦は幕を閉じた。何が???
大して時間も経っていないのでそうめんは熱々からぬるま湯になったほどだった。
しかし零ちゃんが我慢できなかったらしく、そのまま流しそうめんはスタートした。
「ちょっと白空!そんな上の方で待ってたら他の人が食べられないでしょ」
「だって零ちゃんが早すぎて取れないんだってば!」
「慌てない慌てない、そんな人のためにお椀のそうめんも用意してるよ」
「さすがクルミル様シゴデキ!でも俺は流しそうめんから逃げないぜ。勝負だ零ちゃん!」
「私に勝つなんて百万年早いわ。一昨日来やがりなさい」
「二人ともファイト〜!!」
どこから持って来たのか、利愛が応援用のボンボンを振っている。
「お、俺にも応援くれ……入り口が高すぎて腕が攣りそうだ…」
「りゅうさんも頑張れ〜!加齢に負けるな!」
「そんな年離れてねえよ!」
「むつきはどうする?流しそうめんバトル参戦する?」
「いや、お椀でください…」
あんなところで揉まれたら命が危ない(?)
私は少し離れたところに座り、そうめんを啜った。
こうやってみんなで騒いでると圭太のことを忘れることができる。
本当はもっとできることがあったんじゃないかとか、もっと圭太に寄り添ってたら結末は変わったんじゃないかとか、頭の中をずっとグルグルしている。
「どした?色付きのそうめん食べられないから拗ねてんのか?」
優と竜が私の様子を見に来た。二人とも流しそうめんよりお椀派らしい。
「私はそんな子どもじゃないよ、竜。それに色が違うだけで味は変わらないでしょ。なのにこだわるなんてあり得な……」
そう言いかけた私の視界に優の手元が目に入る。
中にはピンク、緑のカラフルなそうめんがお椀の中で泳いでいた。
「むつき謝って、今のは良くないよ。楽しみにしてる人もいるんだからさ。世の中いろんな考え方があるんだからもっと心を広く持たないと。多様性多様性」
「確かにそうだね、竜の言う通りだわ。ごめんね優」
「よろしい!」
「……この世の全ての色付きそうめん食ってやるからな、覚えてろよお前ら」
どういう報復の仕方なんだ。
「まあでもこうやってみんなで飯食えてひとまず良かったじゃん?人生長いんだからさ。別れあれば出会いありって言うし」
「逆じゃない?」
「細かいことはいーの!」
「竜の言う通りだ。それに死んだわけじゃないし会おうと思えば会えるだろ。高校も隣だし」
「…もしかして二人とも励ましに来てくれたの?」
「そんなんじゃねえよ」「そうとも言う!」
「意見合わせてくれない!?ここ大事なシーンだよ!?」
まあ二人らしいといえば二人らしいけど。
竜はでもさあ、笑いながら言った。
「圭太がきっかけで起きたこともあるかもしれない。でもそれ以上に楽しい思い出もできたしさ。俺らは俺らで前向いて頑張ろうぜ!」
「うん、そうだね!まだまだ始まったばかりだもんね。ミロック、ファイト〜、オー!!」
「オー!!」
「なんだよそのダサい掛け声。ダッサ」
「2回言わなくても良くない!?」
「なになに〜?何してるの〜?」
「みんなで頑張ろうの会を発足した!」
「あっさ、何よその会。何も伝わってこないけど」
「まあまあ零ちゃんもそう言わずにさ。みんな集まって円陣組もうぜ!」
「うわ出た、陽キャが好きなやつ。アレの意味分かんないんだよな。やったところで何も生まれないしそれに…」
「ほらほらぶつくさ言わずにやる!」
竜に手を引かれて嫌そうに肩を組む優。
「面白そうだね、僕らも入ろうかりゅう」
「ですね!これでハブられたら悲しくて泣いてましたよ俺」
竜、零ちゃん、白空、利愛、りゅうさん、クルミル様。そして、優。
全員の顔を見てから、私は宣言した。
「これからいろいろあると思うけど、みんなで頑張って乗り越えましょう!ミロック〜〜オー!!」
「「「「「「オー!!」」」」」」
「ちょっと、優。オー言ってなくない?やり直しよ」
「なんでお前は流しそうめんしかりマジカルバナナしかり変なとこでこだわるんだよ。ちゃんと言ったって」
「優が言うまで無限円陣編に突入するけど良い?」
「キツすぎる、興行収入100円とかだろ。なんなら当事者の顔見てみろよ、顔真っ赤だぜ」
「む、むつき…?」
「ごめん、実は私こういうことしたの初めてで…」
「全然実はではないけどな。想像通りだろ」
「ゆ、優!アンタはどっちの味方なの!?」
一度は悲しさに包まれたミロックは、まるで雨が上がった後のように明るくなっていた。
別れあれば出会いあり、か。
次に来る出会いは、私たちに何ももたらしてくれるのだろうか。
無限酷法、第三の反乱編はここで終わりです。
いや〜なんだかんだボリューミーな反乱でしたね。
第二の反乱の主人公はむつきたちの後輩、出背圭太です。
敵なのか味方なのか分からなかった圭太の過去が明らかになりました。
あいつは本当に根は良い奴なのです。ワルモノではないんです。
圭太と高校が同じということもあり、何気にあかりも活躍しましたね。
さて、物語は第四の反乱へと足を踏み入れていきます。
第三の反乱と比べてもっと重い、ドロドロなストーリーになっていきます。
どうか最後まで、お付き合いいただけると幸いです。




