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夢幻酷法  作者: SOR
第三の反乱

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第三十四話:自己と欠如

「ただいま〜…」


真っ暗な部屋に声だけが響く。

返事がないことは分かってるんだけど、どうしても辞められない。

もしかするとお父さんやお母さんの声で、おかえりって返ってくるかもしれないから。


適当に学校のカバンを置き、洗面所に向かう。

手洗いとうがいを済ませてとりあえずソファに座った。


もう何年、こういう生活をしているのだろうか。


俺、出背圭太は今親戚のおばさんと二人で住んでいる。

両親は俺が小さい時に亡くなった。車の事故だったらしい。

らしいというのは詳しく知らないからだ。

今更知ろうとも思わないけど。


おばさんは看護師として働いており夜はほぼいない。

夜勤の人数が足りなくてずっと働き詰めだ。

たまに様子を心配して帰っては来るが、会話はほぼしない。

俺はいつも、独りぼっちだった。


友達を作ろうとしたこともあった。

でも両親の話をする度に人が離れていった。

別にケンカをした訳じゃない。かわいそうだねって哀れみの目を向けられて、それで終わり。

お父さんとお母さんがいるのが当たり前、それが世間の認識なのだ。


別に無理して人と関わらなくても良い。俺は一人でも生きていける。

そう思い始めると、全てが面倒になった。


でも他の人に嫌われたくないから明るく振る舞う。

矛盾した生き物、出背圭太はこうして出来上がっていった。


だからこそ、俺にとってミロック界はとても魅力的な場所だった。

これまでの人生をなかったことに出来る。

現実世界から来た人、もともとミロック界に住んでいる人。

いろんな出自の人がいるので何も気にしなくて良い。

ここが俺の居場所なんだって思えた。





『完璧っすよマリックさん!思惑通りっす』

『そうか、よくやった。宿ったのは竜の四季剣か?』

『そうっぽいっす…本来の狙いとはちょっと外れちゃったけどそこは多めに見てください』

『いいだろう、これからどうなるか楽しみだよ』


マリックさんと出会って、極秘のミッションを達成した時のこと。

四醋剣をミロックに流用してワルモノを倒す。

狙うは黒髪の男、卯月優。 

計画はとても順調だった。上手く関係値を結ぶことができたし、怪しまれはしたがバレなかった。

ただ四醋剣が選んだのは優先輩じゃなくて竜先輩だった。


俺がやったのはここまで。

良いことをしたんだってマリックさんに褒められて鼻高々だった。


でも違った。苦しむむつき先輩たちを見て俺は間違えたんだってすぐに分かった。

なぜ四醋剣をミロックに流出させるのか、どうしてこんなことをするのか。

理由は全く知らなかった、知らなくても良かった。

両親がいない俺でも誰かと何かに向かって頑張れる。それに意味があった。



竜先輩の体調が悪いと聞いて、俺はすぐにミロックへと向かった。

お見舞いと称して様子を見に行くためだ。

竜先輩は元気そうにしていたが、雰囲気が違うことはすぐ分かった。それも悪い意味で。

俺が、四醋剣を持ち込まなければ。


その時にはもう手は打ってあった。

むつき先輩に、一時的に仮死状態にできる薬を渡していたのだ。

用途を伝えると彼女はひどく驚いていた。

それはそうだ、こんな物騒なもの普通に生きていたら見ることすらない代物だ。


それでも、むつき先輩は何も言わなかった。

分かったと頷くだけだった。

なんで圭太がこんなもの持ってるの?どうして私に渡すの?

今回の件はアンタが犯人なんじゃないの?

むつき先輩は何も、言わなかったんだ。



さっさと退散しようとしたところ、優先輩に捕まってしまった。

何をしに来たんだと詰められた。あの人は本当に勘が鋭いな、マリックさんが狙う理由もよく分かる気がする。


『僕の実験は大成功でした、さっそくマリック様に報告しないとー!それじゃ、また会いましょう!』


そんなわざとらしい演技をして彼の元を去った。

きっと嘘だと分かったんだろう。それ以上は優先輩も何も言ってこなかった。



俺がミロックにいるのは、ここが居場所だと思ったから。

両親がいないことってそんなにデメリットなのか?なんでそんな哀れみの目を向けるんだよ。

悲しくない、別に悲しくなんかねえよ。


でも今はどうだ?俺がミロックにいるのは、贖罪のためか?

自分の寂しさを紛らわせるために軽率な行動をして、国に悪い影響を与えたからか?

むつき先輩たちを苦しめたからか?

俺は、俺は……


「こんにちは」


いきなり声をかけられ俺はハッと前を向く。

そこには女の人が立っていた。顔にモヤがかかっており誰か分からない。

あれ?俺確か自分の家にいたはずだよな?ここは、どこだ?


「あなたはだあれ?」

「誰って俺は出背圭太だよ。いったい何を言って…」

「あなた、本当に出背圭太なの?」


俺の言葉を遮り女の人は言った。


「だって証明できないじゃない。戸籍もない、出生記録もない、親子関係も確かなものがない。

それでも自分が出背圭太だって言える?」

「バカ言ってんじゃねえよ、両親は死んでおばさんのところに住んでるんだよ俺は」

「両親はいつ亡くなったの?そのおばさんの名前は?」

「俺が小さい頃だから分かんねえよ。おばさんの名前はユキノだ」

「ユキノ?名字がユキノ?それとも名前がユキノ?」

「そ、それは」


分からない。おばさんの名前はなんだ?

夜勤のせいでろくに会ってないし表札なんて見る習慣がない。

あれ、両親がいないのは物心つく前に亡くなったからか?

ならいつだ、俺が何歳の時に死んだ?

本当に死んだのか、実は生きていて捨てられたんじゃないのか。


「い、いやそんなことはない……市役所とか行けば書類で確認できるはず………」


女の人は1枚の紙切れを目の前に向ける。そこにあったのは戸籍謄本だった。

名前は白紙、本籍も白紙、出生も白紙。

白紙白紙白紙白紙白紙白紙白紙白紙白紙白紙白紙白紙白紙白紙白紙白紙白紙白紙白紙白紙白紙白紙。


俺は、誰だ?


「あなたは私と似ているけど真逆。私は自分の名前だけ知ってるけど、他は何もわからないの。

あなたは名前だけ分からないのね、かわいそうに」


女の人はなぜか楽しそうに言う。



ある時、女の人は普通の高校生で父と母がいた。

ある時、女の人はクローンだった。

ある時、女の人はミロック王になるために英才教育を受けていた。

ある時、女の人は粗相をして虐待を受けた。

ある時、女の人は敗北を知って全てを投げ捨てられた。

ある時、ある時、ある時。



「うわあああああああ!!!!!」


俺は恐怖のあまり絶叫した。

頭がガンガンする、痛いとも言えない不思議な感覚。

不快感が大きく脳を揺らす。


なんだ、なんだ今のは。断片的な記憶を一方的に流し込まれる。

この人はなんだ?そもそもなぜ自分にそんなことをするんだ?怖い、怖い。


「たとえば、お腹が空いた時に炭酸水を飲むと一時的に空腹は満たされるわよね。

ただ根本的な解決にはなっていない。お腹の中に入っているのはただの液体だもの。

時間が過ぎればまた空腹状態になる。

一生満たされることはない、それが今のあなた」


女の人は何かを差し出した。あれは、キーホルダー?

考えるよりも先に俺はそれに手を伸ばす。

受け取った瞬間、ズンッッッと重みを増した。

思わず投げようとするが手から離れず、そのまま地面に倒れ込んだ。


お腹の辺りから何かが迫り上がってくる感覚がある。

我慢できずそのままゴホッと咳き込むと、口から赤いものが飛び出てきた。

……血?なんで血が出てくるんだ??


「これはあなたと私だけの秘密。せいぜい足掻きなさい」


そう言い残し、女の人は姿を消した。

頭がぼーっとして意識が遠のいていくのが分かる。


ああ、これが俺が受ける報いなのですか、神様。

どうか、どうかお許しください。俺が愚かでした。

一生背負って生きていきます。

だから、教えてください。


俺の生きる意味って

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