第三十話:学園祭とメダル
前回のあらすじ。
ジュゼッペの阿呆がヘマをしたせいで私はむつきの代わりをしなければならなくなった。
数日間大人しくしていれば良いと思っていたら、出背圭太の学園祭に行くとかいう約束をしていたらしい。
出背圭太、あまり良い印象はない。
マリックと通じている人間かと思ったら、サラ国にも出入りしているようなウワサも聞いた。
そして今はミロックに入り浸っている。
掴みどころがなく、よく分からないタイプの人種なので正直あまり関わりたくない。
面倒ごとはごめんだもの。
ただむつきは出背圭太とそれなりに仲良くしていたので、学園祭も行かざるを得ない。
今日が終われば明日は日曜日で学校は休みだ。
卯月りゅうによると月曜日には回復するらしいのでここさえ乗り切れば終わりになるだろう。
それにしても、あれだけボロボロになっているというのに凄まじいペースだ。
むつきの回復力が高すぎるのか、卯月りゅうの力が強いのか、はたまたどちらもなのか。
とにかくもう少しの辛抱だ。
「なんかむつきテンション低くない?いつものあらすじと雰囲気違うね」
「それに後半よく分からなかったし。圭太のこと嫌いなの?」
「お前ら知らなかったのか?
もう顔を見た瞬間に吐き気を催して鳥肌が止まらずそのままぶっ倒れるくらい嫌いだよ」
「そうなの!?ごめんね!!?」
「え、えぇ…」
なんであらすじ見られてるの?ナニコレ??
「それより白空、利愛。あまり目立ちすぎないように。
こっちに来るの久しぶりでテンション上がるかもしれないけどここは学校なんだからね」
「はーい!3割くらい守るね!」
「せめて5割超えてくれないかしら??」
「それでも低いだろ」
鏡賀兄妹、『ミロックの知脳』と呼ばれている天才の双子だ。
機械の組み立てや製造は兄の白空がやり、企画案や図案は妹の利愛がやっている。
その実力は確かなものであり、国を超えて名を轟かせている。
もっとインテリな人を想像していたんだけど、イメージと違った。違いすぎた。
「んでどこ行く〜?さっそく圭太のお化け屋敷行く?」
「別に行かなくて良いんじゃないか?」
「それじゃ何のために来たか分からないじゃん」
「別に行かなくて良いんじゃないか?」
「あれ、もしかして優ってオバケ苦手?」
鏡賀利愛の質問に卯月優は答えない。その様子を見てバカ笑いを始めた。
「えっwwwそんなベタな展開あるの?wwww
確かになんかオバケとか無理そうだな〜とは思ってたけどまさかwwほんとにwwww」
「草を生やすな、はっ倒すぞ」
「ねえねえむつき、こんな優どう?それでも愛せる?」
…質問の意図が全く分からない。
「俺は優のこと愛せるよ、だってマブだもんな俺ら」
「キモ、俺は竜のことそんな風に思ったことねえしお前に聞いてねえよ」
「それはそれでめっちゃショックなんだけど」
勝手に失恋している人もいる。
「それで?どうなのむつきは。愛せるの??」
「別に良いんじゃない?人それぞれ欠点はあるだろうし。それを含めて私は好きだよ」
シーーーーーン。しまった、私また失言した??
「ほらさっさと行くぞ、ずっとここにいると邪魔になる」
「そ、そうだな」
むつきってそうだったんだ…と後ろの方で鏡賀利愛の声がする。
他の人たちに気づかれないように優は私の肩を小突いた。
「てめえマジでいちいち余計なこと言うなよ」
「だってちゃんと返事しないとバレちゃうでしょ」
「それとこれとは話が違うだろ!?話の流れ読んで!?」
「…あ〜なるほど、そういうこと。
鏡賀利愛はあんたがオバケ怖いとかいうあり得ないほど子どもじみた欠点がありながらもそれでも仲間として受け入れられるかってことを聞きたかったのね」
「句読点なしの早口で畳み掛けるのやめろ」
むつきも同じような解答すると思うけど。
「とにかくむつきの姿で変なこと言わないでくれ」
「ああ、それが本音なのね。理解したわ。あなたは私がみなだって分かってるものね。
むつきに好きと言われているけど違う。本命に好意を向けられているように見えて中身は別人、複雑な気持ちにもなるわ。
ごめんなさい、私の配慮が足りなかった。次からは冷たくするわね」
「だから辞めろって!やり辛えな!!!」
そんな話をしていると、目の前に出背圭太が現れた。到着した。
「あっ先輩たち来てくれたんですね!俺らのクラスはこっちです!」
彼はそのまま流れるように私の腕を掴む。
「おい何掴んでるんだよ」
「何って案内するだけですよ。俺らのクラス分からないでしょ?ねっ先輩」
「そうだけどわざわざ腕を掴まなくても…いや、別に良いのか。むつきじゃないし」
諦めるなよ。
「圭太〜!私、チュロスとか食べたい!売ってる?」
「チュロスはないですけど焼きそばならありますよ」
「焼きそば!俺も行きたい焼きそば!!」
「あ〜はいはい、なら利愛と白空は私が連れていくわ。
むつきたちでお化け屋敷楽しんできたら?」
「えっ?それじゃ俺もそっちに…」
「優は私のサポートしてくれるんでしょ?」
私は笑いながら出背圭太を振り払い卯月優の腕を掴んだ。逃げられないようにしっかりと。
「しねえよ、というかいらねえだろもう。自分でなんとかできるだろ逞しいんだから」
「優は女の子に逞しいとか言わないの。それじゃあとはよろしくね」
梅崎零は鏡賀兄妹を連れてそそくさと去っていった。
「俺たちも行きましょうかむつき先輩!」
「おい待て、俺はまだお化け屋敷OKしてねえぞ!?」
はあ…この地獄みたいな時間よ、早く終わってくれ…。
階段を登り出背圭太の教室へ向かうと、段ボールで作られたお化け屋敷という看板があった。
「それじゃむつき先輩は俺と入りましょう」
「なんでだよ、お前は主催者側だろ」
「主催者でもお客さんの気持ちになって入るのが大事なんです〜優先輩はそんなことも分からないんですね〜」
「んじゃそういうことで」
「なんでお前は乗り気なんだよ…」
ここは出背圭太に近づくチャンスかもしれない。
むつきではなく霜月みなとしてもメリットがある。
私は卯月優を切り捨てて一緒にお化け屋敷に挑むことにした。
「………えっと、じゃあせっかくだし俺らで行く?」
「行かねえよ、何が楽しくて男二人で行かないといけないんだよ」
「たまには良くね?ミロックやらなんやらあって、あんまり話も出来てないじゃん」
「それもそうだけど…」
「大丈夫、俺お化け屋敷とか結構得意だからさ!出口でむつきたちと落ち合おうぜ」
「ここにいても意味ないし仕方ねえな、行くか」
「よし、そう来なくっちゃ!」
「あ、あれ〜むつき先輩って意外とこういうのいけるクチなんですか…?」
「どういう意味?暗闇は慣れてるよ」
「かっけえ!なにそれ!言ってみたいそのセリフ!!」
なんかこうもっと、きゃ〜怖い〜助けて圭太〜みたいなことをやりたかったのに、と出背圭太は呟いている。
初めから人工物だと分かっているのにどこに怖がる部分があるのだろう…?
でもこのお化け屋敷、良くできてるとは思う。
外からの光が入らないように遮光カーテンを使っている。それも等級は一級。
光漏れもないので昼間でも真っ暗だ。こだわりを感じる。
やはりこういう施設は少しでも明るい場所があると白けてしまうので、雰囲気が出ていて良い。
「それで圭太、次はどっちに行けば良いの?」
「強かだな〜…。そこの段差を登ります。気をつけてくださいね」
出背圭太は転ばないように私に手を差し出した。
こういったジェントルマンな部分もあるらしい。
私はその好意を素直に受け取りエスコートしてもらった。
なんの段差だろう?と思ったが、すぐに答えが出た。
「ここ、元々は教室だものね。そのまま平面で使うとお化け屋敷としてはかなり質素なものになる。
だから緩やかな段差のようなギミックを使ってボリュームをアップさせてるのね。飽きさせない仕掛けがあってすごいわ」
「なんか解説始まった!?」
X軸Y軸だけではなく、Z軸を使って空間を考える。
こういった柔軟な考え方を持つのはすごく大事なことだと思う。
「ありがとう圭太」
「ううん?どういたしまして?」
良い経験をした。目的の達成に生かせるかもしれない。
私の目的は、四醋剣をみんなに……
その時、背後から大きな叫び声がした。
「ぎぇえああああ!!!!なんでこんなに暗いの!?
ここ本当に教室!?まだ昼だよね!?
もしかして地球止まった?回るの辞めた?そりゃそうだよね!毎日毎日動いてたら疲れちゃうもんね!!どうでも良いから出口どこ!?」
あの声は、師走竜……
ドタドタと走り回っている音がする。
「やば、竜先輩止めないと作ったお化けとか壊れちゃうかも。
すみませんむつき先輩、あとは自力で脱出してください!僕は竜先輩を止めてきます!」
「え?ちょっ…」
私の返事を待たずに出背圭太は来た道を戻って行った。
…そんなのアリ?
「ゴールおめでとうございま〜す!クリアした方には特製手作りメダルを…あれ、お一人ですか?」
「はい、いろいろあって」
出口にいた生徒はポカンとする。そりゃそうよね、私も意味がわかっていない。
とりあえずお化け屋敷クリア特典とやらのメダルをもらう。
折り紙で折ったものに金と書いてある。まるで幼稚園児が作ったような代物だ。
…思わずふふっと笑みが溢れた。
こんな気持ちになるのはいつ振りだろう。
友達とバカやって、はしゃいで、盛り上がって。
私には今日みたいな思い出、ひとつもない。
「あっむつき先輩いたー!本当に一人でゴールしてるじゃないですか、エグいっすね」
出背圭太が師走竜と卯月優を連れて出てきた。
あんたが置いて行ったんでしょうが。
「てか竜、話と違くね?お化け屋敷得意とかほざいてなかったか?」
「言ってねえ!!暗いとこなんて誰でも怖いだろ!!」
「だからって置いてくな!」
優竜コンビは不毛な争いをしている。ミロックメンバーはビビリばっかなのか?
「あ、そうそう。二人は俺が連れてきたんでゴール記念メダルはないですよ」
「いらねえよそんなもん」
「むつき先輩、大事そうに持ってますけど」
3人の視線が一気にこっちを向く。
「……あげないよ」
「だからいらないって」
後から言われても絶対に譲らないんだから。
「零たちと合流するか。あいつらまだ食いもん見てると思うし」
「出店なら運動場の方ですね!俺はまだ当番なのでここにいますね」
「ほいさ、ありがとう圭太!またミロックでな!」
「ありがとうございました〜!」
ぺこりと出背圭太は頭を下げる。私の仕事は終わったようだ……
へとへとになりながら、何を食べようか話す二人の背中を追った。




