第三十一話:目覚めとプライド
「へへ〜、大変ご迷惑をおかけしました…」
「ほんとにな!?何考えてるんだお前は!!?」
目が覚めて早々優から怒鳴られる。もうちょっと労わってくれても良いのでは??
え〜っと、というわけでみなさん。お久しぶりです。如月むつきです。
どうやらジュゼッペと戦った後、そのままりゅうさんの家に運び込まれたらしいです。
相当危険な状況だったらしくその付近の記憶はあまりありません。
…というか思い出したくもない、すごく痛かったような気がする。
「まあでも良かったよ元気になってさ。看病した甲斐があった」
「りゅうさん…ありがとうぅぅ〜……」
「なんで泣いてんの!?そんなに優しさに飢えてたの!?」
「それもそうだけどここ最近登場してなかったから…私主人公なのに……」
「あっそこなんだ」
みなさん忘れてないですか?くどいようですがもう一度言いますね。
如月むつき、如月むつきと申します。そうです、私が主役です。
「そこまで軽口が叩けるなら大丈夫そうね。私は失礼するわ」
「おう、世話になったな」
ん?今りゅうさん誰かと話してた?
シルエット的にみなのような気がしたけど…
「とりあえず何があったか全部説明してもらおうか」
「や、やだ優くんこわ〜い。そんな顔してると幸せ逃げちゃうよ?」
キッと優は私を睨む。本当に怖いから辞めてほしい。蛇に睨まれたカエルって感じ。
「俺にも聞かせてくれむつき。ここに来た時、君はそりゃあもう見てられないくらいズタボロのボロだった。50年くらい使い回したぞうきんのように」
その比喩必要ですか?
「でもそれはあり得ないんだよ。むつきはジュゼッペに立ち向かえる十分な力、四季剣を持っている。
立春はともかく正春なら負けることはまずない」
「話がまどろっこしいな兄貴は。要するになんでジュゼッペの攻撃を受けたんだよ」
あ、バレてたんだ。
でもそりゃそうか、もし負けが確定してるなら、優は私をジュゼッペの元に送り出したりはしない。意地でも止めると思う。
でも勝つことはなくても負けないなら、ジュゼッペに会って少しでも四醋剣についての情報を引き出した方が良い。
それくらいぞうきんの私でも分かる。
りゅうさん曰く、私は数日間ぐっすり眠っていたらしい。全く目を覚まさなかったようで本当に心配したと言っていた。
あれ、数日間…?今日何曜日だ…??
「あ!!?学校は!!!無断欠勤した!?」
「ああ、それなら大丈夫だ」
優から事情を聞く。どうやら私の代わりにみなが埋め合わせをしてくれたらしい。
事態がややこしくならないように入れ替わりのことを知っているのは優とりゅうさんだけだそうだ。
…やっぱりさっきいたのはみなだったんだ。
私が起きたのを見届けてから帰ったのかな、私たちに協力的な態度を取るなんて珍しい…
「そもそもここに連れてきたのはジュゼッペだしね。よく分からんよなあいつも。
土下座して頼んできたんだぜ、むつきを助けてくれって」
「そうなんですね…」
私の中の疑念が少しずつ確信に変わっていく。
やっぱりジュゼッペの狙いってミロックじゃなくて…
「なんだ、みんなここにいたのか」
ガチャッと扉が開き、クルミル様が部屋に入ってくる。その背後にはいつもの顔ぶれが揃っていた。
「あっりゅうさん〜!圭太の学園祭行ってきたよ、これお土産!」
利愛が紙袋をりゅうさんに渡す。何か中で蠢いている…??
「これは…?」
「確かドクドクマグマりんご飴だったかな?暑い時こそ熱いモノを食べよう!がコンセプトらしくて。
ほら、冬にアイス食べるとエモいじゃん?」
アイスとはなんかちょっと違う気がするけど。あとネーミングセンスどうなってる?
「むつきも先に帰ってたんだね。姿が見えないからさ」
「ああ、ごめんね。ちょっとまだ体調が優れなくて」
ということにしておこう。みなとの入れ替わりは秘密だ。
「そ、そういえばほらむつき。早めに引き上げたせいで買えなかったものがあるって言ってなかったか?どきどきりんご飴的な」
「言ってません。なんですかその合コンで流行りのゲームみたいな名前」
「あれ〜おかしいな〜〜?利愛が持ってるものがそれかなと思ったんだけどな〜〜」
「これは利愛がりゅうさんのために買ってきたものなので遠慮なさらず!」
「はいっ!どうぞ!」
「左様ですか…」
りゅうさん、アーメン。舌絶対ヤケドするだろうな。
「にしてもやっぱりゅうさんってすごいよな。むつき重体だったって聞いたけど、すぐ復活したもんな」
「あ〜、そうだねぇ…」
りゅうさんはチラッと私を見る。やっぱり例のアレもバレてる…?
「バタバタしてて聞けなかったけど、結局何か情報は得られたの?」
「えっと、みなに関してはまだ分からないけど、ジュゼッペの目的は分かったんだよね」
空気が一瞬ひりつき、全員の視線が私へと向く。
学園祭やらなんやらあったせいで報告が後回しになっていた。
本来の目的はジュゼッペと接触して話をすることだ。
どこから説明しようかと考えていると、三馬鹿の竜、白空、利愛が騒ぎ始めた。
「やっぱり金か?ジュゼッペは金が欲しかったのか?」
「ミロックの資産っていくらなんだろ、意外と儲けてるのかな」
「ミロック界ランキングで言うとサラ国が圧倒的にトップだね。私たちは足元にも及ばない…」
「クルミル様………」
「なんで僕を見るんだよ!仕方ないだろ一生懸命頑張ってこれなんだからさ!てかむつきの話最後まで聞こ!?」
「そう、実はジュゼッペもお金が必要で…」
「本当に金だった!?」
なんかこの感じ久しぶりだなあ…
「じゃなくて、ジュゼッペの行動の元はミロックじゃなくて霜月みなだった。
私と会っている間もずっとみなのことを言ってたんだ。私のせいでみなが変わってしまった、だからお前を殺すみたいな…」
「重すぎない?」
「今こういうの需要あるのかなあ?メンヘラ男?」
「女でもキツイぜ」
三馬鹿がヒソヒソと話をする。
「つまりジュゼッペはみなのためにむつきを排除したい、その一心で動いてたってのか?
むつきが消えればみなはまた自分の元に帰ってくると?」
「そうです。だから私は彼の願いを叶えようと思ったんです」
「願いを叶える…?それってむつきが死ぬってことじゃ」
「ジュゼッペが望んでいる結末にすれば、これ以上ミロックを傷つけない。だから反撃せずに全て受け止めました」
「簡単に言うけど、あまりに捨て身過ぎないかな。
りゅうの技術があったから助かったものの、本当に死んだりしたら…」
「あ〜クルミル様、その件なんですけど自分からちょっと良いですか」
りゅうさんが話の流れを止める。
「プライドが許せないんですよね、何もしてないのに俺のおかげだって言われんの」
その場にいた全員がえっ?という顔をする。…私以外。
「確かに俺の技術は誰にも負けない自信がある。でもあれほどの重傷を治す力は、ない。
せいぜい息を吹き返すかどうかのレベルだ。今みたいに動くことはできない。断言するよ」
「じゃありゅうの力でむつきが回復した訳じゃないの?」
「そういうことです、クルミル様。だから変なんですよ」
りゅうさんの話を聞き、今度は白空は俯きながら言った。
「それ、俺も痛いほど分かるな。俺たち技術者は毎日誇りを持って励んでるんだ。
だからこそ、不自然な成功から目を背けられないんだよ。大きな失敗よりもね」
「はははっ!まさか白空に同情されるとは。ただまあ、その通りだよ。むつき、どういうことか説明してもらえる?」
「…分かりました」
私は机の上に空いた薬のシートを置いた。良くある2錠で1シートタイプのものだ。
「お前まさか…!」
それを見て一番に反応したのは優だった。やっぱり覚えてたんだ。
「この前の竜の四醋剣騒ぎの時、私は死にかけました。…いや、死んでたかもしれません。その時にも飲んでたんです、この薬を」
「これは何の薬だ?」
「一時的に仮死状態にできる薬です。そうすることによって身体の負担を最低限まで減らすことができるんです。
これは、圭太からもらいました。何かあったら飲んで欲しいと」
「そんな非人道的なものを持ってたって言うのか!!?」
珍しくクルミル様が大声を上げる。
でも誰だってそんな反応になる。失敗した時のリスクがあまりにも高すぎるから。
「一度ならず二度までも、お前はこれを飲んだのか…」
優は怒りのような悔しさのような感情が混じった声を出す。
私は空気を変えるためにわざと明るく言った。
「薬って2錠セットになってるから、実はずっと持ってたんだよね!まさかこんなすぐ使うことになるとは思わなかったけど…
ということで、実は全部むつきちゃんの思惑通りなのでした!
死なないって分かってたから反撃せずに、ジュゼッペの前で死ぬ。そうすればジュゼッペの目的は達成されて、今後ミロックに危害を与えることはなくなる。
その後私は圭太の薬でこっそり生き返る。そういう計算で…」
「ふざけんなよ!!」
拳を震わせながら言ったのは竜だった。
「むつきが何言ってんのか全然分かんねえよ、結局結果論じゃねえか。だからってなんで誰にも言わずに一人でこんなことを…」
「私じゃないと出来なかったからだよ」
まさか言い返されると思わなかったのか、竜は少し怯んだ。
「他の人じゃダメだった。ジュゼッペは私を恨んでた、だからこそ成り立った」
「でも、そこまでしてむつきに…」
グルルルルルルルルル。
大きな獣のうめき声のような音が鳴り響く。
なんでこんなところに?またなにか異常気象??
ふと隣を見ると利愛が恥ずかしそうにお腹を抑えていた。
「ご、ごめんなさい…。学園祭でいろいろ出店はあったんだけど、回ってたら時間なくてお腹空いちゃって…」
「…プッッッ!!」
竜が吹き出して大笑いし始めた。
「まーまー、終わったことやいやい言っても意味ないか。ミロックハウスに戻って飯くおうぜ。俺もなんか腹減ったわ」
「そうね、冷蔵庫に食材余ってたと思うわ」
「零ちゃんほんと!?ならカレーにする?とりあえずルーと具材混ぜたらすぐできるもんね!」
「カレー!カレー!カレー!カレー!」
「お前らほんとにカレー好きだな…」
「りゅうさんたちもおいでよ!いっぱい作って待ってるから!」
「そうだね、僕たちも行こうか」
「クルミル様が行くなら…」
「決まりだね」
クルミル様は微笑みながら頷き、総括を始めた。
「むつきはいろいろとアホやり過ぎ。まだ子どもなんだから何でもかんでも一人でやろうとしない。
報告連絡相談、今度から絶対にするように」
「は、は〜い。ごめんなさいでした〜…」
「よろしい」
「あ、あと俺からもむつきに良いか?念のため少しだけ点滴させて欲しい。10分くらいあれば終わるからさ」
「じゃ、むつきは点滴が終わったら合流する感じにしましょうか」
「じゃあこの話はここでおしまい!事務作業終わらせて合流するから先に始めてて」
何カレーにする?と話をしながらおのおのりゅうさんの家を出ていく。
竜が気まずそうに近寄ってきた。
「さっきはごめん、キツい言い方しちゃって。なんか俺らしくなかったよな。別に怒ってるとかじゃないんだよ」
「ううん、私こそごめんね。竜の言いたいこともすごく分かるから」
「ただクルミル様が言ったように今後はチンゲンサイしてくれよ?」
「…ほうれんそうじゃなくて?」
「そうとも言う!んじゃ俺も零ちゃんたち手伝ってくるわ、また後でな!点滴がんば!」
竜も手を振りながら去って行った。
みんなからすると私は今日圭太の学園祭に行ってたけど、実際は今目が覚めたところだ。
正直まだ身体が重い。
「むつき〜点滴するぞ〜」
りゅうさんに呼ばれベッドに横たわる。手際良く注射針を入れると、終わったら呼んでと言い残し私は一人になった。
静寂が訪れる。さっきまでの騒がしさが嘘のようだ。
とりあえずはなんとかなって良かった。またみなにもお礼を言っておかないと。
…それにしても、ジュゼッペがここまで運んでくるなんて。
もしかすると私を傷つけたことに対して罪悪感を抱いたのだろうか。みなに怒られるとでも思ったのかな。
自分で言うのもなんだけどみなから敵意は感じられない。
ジュゼッペはみなのために動き、みなはなぜか私に執着している。そしてジュゼッペは私を憎んでいるという、謎のトライアングルが形成されている。
ジュゼッペの失態をカバーするために私と入れ替わったのかもしれない。
うん、そう考えれば腑に落ちてきた。もうなんかくっ付けば良いのにあの二人。
ジュゼッペはだいぶ重いけど、みななら上手く手のひらで転がせそう。
「…お前、さっき嘘ついただろ」
「なに!!だれ!!!」
「うるさ、そんな大声出るって圭太の薬ってマジで効果あるんだな。よく分かったわ」
扉から優が出てくる。零ちゃんたちと一緒に行ったんじゃなかったんかい。
私は口を尖らせながら言った。
「嘘なんてついてないよ。なんのこと?」
優は私が寝ているベッドの枕元付近で腰を下ろし、肘をついて覗き込むようにこちらを見つめた。
点滴中なので動くことができず見つめ合う形になり、思わず目を逸らす。
そんな私に構わず優は続ける。
「死なないって分かってるなら別に隠す必要ないだろ。初めからまだ薬あるから戦ってくるって言えば良いだけ」
「あ〜すごいな〜急に点滴が効いてきてなんか眠気が…」
「そんな効果ねえよ、兄貴に確認済み」
もしかしてこいつ、りゅうさんに何の点滴か確認してからこっち来た?頭の回転早すぎてもはやキモいんだけど?
「…自信なかった?」
優は突然囁くように言う。かなり距離が近いからか、息がかかり耳が少しくすぐったい。
「仮死状態にできる薬なんて現実的じゃない。1回成功したとしても2回目は失敗するかもしれない。
だからお前は賭けたんだろ、自分の人生を。
生きて帰れたらジュゼッペとの関係は少なくとも変わる。でも、もし、ダメだったとしても」
そこで一度口を止める。
チラッと優を見ると、苦しそうな表情を浮かべていた。
「ジュゼッペに対して精神的に大きな傷を残すことができる。あいつの目的はみなが大事にするむつきだ。
もし殺しでもしたらみなが黙ってない。実際に死んでなくてもみなは俺らに協力していた。
だから、どちらに転んでも良かった。薬のことを話さなくても良いんだよ」
私は黙り込んだ。全てその通りだったから。
返事がないのを肯定と捉えたのか、優は大きくため息をついた。
「本当にお前といると心臓がいくつあっても保たない。
気付くのはいつも終わった後、それじゃ遅いんだよ。俺が守らないといけないのに」
なんだろうこの感じ、すごくドキドキする。
いつもより距離が近いから?いつもと様子が違うから?
…いや違う、優の本気の想いを感じてるからだ。
この数日間、どんな気持ちだったんだろう。
私が最悪死んでも良いと考えていると気付いて、何を思ったんだろう。
私だと嘘をついてみなといる時間を、どう過ごしていたんだろう。
想像しただけでも、残酷すぎる。
きっと優のことだからあの時止めれば良かったとかで自分を責めてたんだろうな。
でもどれだけ後悔したって時間を戻すことはできない。
『大丈夫、必ず帰ってくるから。私のこと信用してよ』
ふとお守りをもらった時のことを思い出す。
優の言う通り、絶対に死なない訳ではなかった。結局は賭けだった。
自分でも分からないのに私は優に必ず帰ってくると告げた。それってすごく無責任なんじゃないか。
「優ごめん、私…」
「は?いやそんなことないよ、優がいてくれたおかげでめちゃくちゃ助かったよぐらい言えよ。役に立ってるだろうが俺は」
優は思いっきり私のおでこにデコピンをした。何が起こったのか分からず呆然とする。
「今良いこと言おうとしたのに!」
「いらんいらんそんなの、お前の口から良いことなんて出てこねえだろ」
「聞かないと分からないでしょ!?」
「ああそうですか、なら言ってみ?聞いてやるから」
優はまた私の顔をじっと見つめる。
「…見られてると言いにくい」
「ほらな、言えないじゃねえかよ」
「そ、それは優が」
コツン。
私のおでこと優のおでこが当たる音がする。
「でも本当に良かった、おかえりむつき」
優はそう笑いながら私の頬を撫でた。心地の良い声が耳を抜け、温かい気持ちでいっぱいになる。
ああ、やっぱり私、優のこと………
「むつき、調子はどう?もうそろそろ10分経つと思うんだけど」
「りゅうさん!!!!!ノックしてよ!!!!」
「え?なんでそんな焦ってんの?」
「ぴったり10分経ったところだ」
いつのまにか優はベットの脇で立っている。
さっきまであんなに近かったのに動き早過ぎない…?
「なんだ優ここにいたのか。もしかしてむつきが一人にならないように点滴が終わるまで話し相手になってたとか?」
「考えすぎだから。俺も先にミロックハウスに行ってる」
「まあそうか!そこまで気が回る男じゃないもんな優は!……いっっって!蹴るなよ!力加減しろ!!」
蹴られた足を抱えながらりゅうさんは言う。
「むつきはむつきでどした?なんか顔赤いけど。もしかして点滴の副作用とか出たかな」
「いえ大丈夫です、すぐ戻ります…」
「そう?なら良いけど。針抜くね」
「お願いします……」
頭の中で優の微笑む顔と優しい声がループする。
なんなのよあいつ、私の方が心臓いくつあっても足んないよ!!!




