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夢幻酷法  作者: SOR
第三の反乱

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27/28

飛行と土下座

やらかした、やらかしたやらかしたやらかした!!


俺は少女を抱えて空を飛んでいた。


まさか本当に一人で来るとは思わなかった。

あいつには仲間がたくさんいる。だからどうせみんな引き連れてくると思っていた。


塩のせいで居場所を特定されたあの日。

忌まわしいBe Quietがたくさん来ていた。

頭ごなしに俺が悪いと責め立てて、何も話も聞かずに悪者にされた。

…まあ、四醋剣の件に関しては俺が悪いかもしれない。

でもお前らには借りがたくさんある。


だから今回もBe Quietを連れてくると思っていた。

なのに、なのにあいつは一人で来た。

本気で俺と向き合おうとしていた。

フィールド内で位置情報は意味を為さない、仲間と連絡も取れないと伝えてもあいつは動揺しなかった。



『私を、ここで殺すんでしょ?』


大きく動揺した。

そう言うあいつの目は、みなにそっくりだったからだ。

虐げられ、無力なのを理解しながらそれでも立ち向かおうとする強い心を持つ人の目だった。

そこで我に帰った。


俺は、何がしたかったのだろう。


みなに戻ってきて欲しかった。

あいつの存在でみなの信念が揺らいでしまうのが嫌で嫌で殺そうとした。

でも、みながあいつのことをずっと気にかけていたのは分かっていたじゃないか。

みなが大切だと思っているかもしれない人物を傷つけて何になる?

みなのためだとしても、本末転倒なんじゃないか?


俺は、本当に愚かだ。


「クソ、なんで俺は!!!!」


腕の中の少女の身体は少しずつ冷たくなっているのを感じる。

頼む、間に合ってくれ…!!









「おい、どうなってんだよ。またかよ!!」


俺は大きな声で怒鳴る。

近くにいた利愛がビクリと身体を震わせる。


「…悪い、別にお前らが悪い訳じゃないのに。むしろ協力してくれてるのにな」

「優の気持ちくらい分かるよ、気にするなよ。なっ利愛」

「そうだよ!むつきを助けたいのは私も同じだから。ちょっとビックリしちゃっただけ」



時は少し遡り1時間前。

むつきに渡したお守りの位置情報が消えた。

マリックの国境を超える辺りでレーダーが消滅したのだ。

俺は慌てて管制室へ飛び込み、白空と利愛に尋ねる。


「あのお守り、絶対に位置の特定ができるんじゃなかったのか?」

「そのはずなんだけど…」

「私も確認したから間違いないよ」


あれは普通のお守りではなく、白空に作ってもらった発信機だった。

謎のボイス機能をふざけて付けたせいで、何か仕掛けがあると少しバレかけたが。

…バレてるか、さすがに。


発信機の調子は順調だった。

マリックの国境付近に到着するまでは。


「白空、なにか考えられる理由はあるか?」

「ん〜そうだね、GPSを邪魔するものか…」

「ねえ、フィールド化の問題って解決した?」

「あ、してない。それかもしれないわ、さすが利愛!」


白空は続ける。


「おそらくむつきはフィールド内にいる。

あの空間は特別だから電波に干渉されて跡を追えない可能性がある」

「フィールド化?それってつまり…」


むつきは今、ジュゼッペと戦闘している可能性がある…!?


「急ごう優、私車用意してくるね」

「お前らも来てくれるのか?」

「当たり前だろ、発信機を作ったのは俺だし一緒にいた方が良いだろ?」

「ああ、助かる。ありがとう」

「え〜なんか優丸くなった?ありがとうなんて変な感じ〜」

「うるせえよ」


利愛にいじられながら、俺たちは車に乗り込んだ。

目的地はマリックの国境。運転は利愛がしてくれるらしい。

大きくアクセルを踏むとエンジン音が鳴る。

そして次の瞬間、窓の外の景色が早送りになった。


「うぇーーい!!利愛今日もノッてんねえ飛ばしてんねえ!!!」

「ふざけてる場合じゃないよ白空!早く行かないとむつきが危ないんだから!」

「むつきの前に優が気絶してるって!!」

「えっ?そんな訳ないじゃん。元気だよね?優?」

「か、かなりギリギリ」

「嘘っ!?ごめん優、生きて!!」


こいつ、こんなに運転荒いのか!?

時速何キロ出てるんだ、早すぎて周りが見えない。

ありがたいことではあるが、気を抜いたら気絶しそうだ…


「てか利愛、お前運転免許持ってんのか?」

「えっ何!?風とエンジン音で全く聞こえない!!」

「免許だろうと!無免許だろうと!お前はもう二度と!運転を!!するな!!!さっさと返納しろ!!

さもなくば俺がこの車を!!壊す!!」

「あっ優見て、反応が復活した!」

「どこだ!!?」


とんでもないスピードの中、なんとか白空から発信機を受け取る。

確かにむつきを表す点は移動しているが…


「これあまりにも早すぎないか?」

「早い、利愛が運転するこの車より早い」

「えへへ〜そんなことないよ〜」

「「褒めてない!!」」

「そんなんでハモらないでよ〜一旦車止める?」

「その判断は助かるけど待て、今急に止まると確実に事故……」

「「ギャーーーーーーッッッ!!!!!」」


慣性の法則って知ってますか??


俺と白空は急ブレーキを受け吹っ飛ばされた。

今はいらないってこういうの。

ちょこちょこと利愛は申し訳なさそうに寄ってくる。


「二人とも大丈夫??ごめんね」


本当に申し訳なさそうに言う。てかなんで無傷なの??


「…おい、あの車作ったのって誰だ?あんなスピードで出る車がある訳ないだろ」

「俺だよ、利愛が車に乗りたいって言うから要望を聞きつつオーダーメイドしたんだ」

「ならお前が悪い」

「それは本当にごめん」

「あと、そんな才能を授けた神様も悪い」


俺は起き上がると改めて発信機を見た。まだレーダーは移動している。


「車より早くむつきが動いてるってこと?新幹線くらいしかなくない?」

「でもマリックから新幹線なんて通ってないよ」

「うーん、でも他にあるかなあ…」


行き先が確定しないので安易に追いかけられない。

今すぐにでもむつきを助けに行きたい気持ちを抑えながら、俺たちは点の行く先をジッと見つめた。


そして数分が経ち、またレーダーの反応が消えた。

その様子を3人で見つめる。


「ジュゼッペがまたフィールド化したってこと?なんのために?」

「わざわざ場所を移動して戦闘を再開した…ってのはまああり得ないよなあ」

「フィールドの他に電波が入らない所は?絞れないか?」

「あっもしかして」


白空はスマホを取り出し何かを検索し始める。

その様子を俺と利愛は見守った。そして叫び声を上げる。


「分かったぞ、むつきたちはここだ!!すぐに行こう!!!!」


白空の話を聞いて俺たちはすぐ車に乗り込んだ。

外ではポツポツと、雨が降り始めていた。








「頼む、助けてくれ」


目の前で膝をついている人物を見て俺は固まった。

なぜ、ジュゼッペがむつきを抱えて頭を下げているんだ?


「聞きたいことが山ほどあるのは分かる。だが今は何も言わずに助けてくれ。

じゃないと、こいつは死ぬ」


そこで俺はむつきの姿を確認した。

先ほどまでジュゼッペが抱えていて見えなかったのだが、全身が赤く染まっている。


身体中が傷だらけだ。出血もひどく鉄の匂いが充満する。

それに服の血の付着の仕方、もしかして腹に穴でも空いてるんじゃ…


気を失っているのか呼吸が浅いのがわかる。

だらんと垂れた腕からは、いつもの元気なむつきの姿は感じられなかった。


「…中に入れ」


俺は部屋へと案内した。すぐにむつきを特殊カプセルの中へ入れる。


「こ、これで助かるのか?」

「とりあえずは安全だ、と解答しておこうか。

なんせ俺でも見たことない重症だ。普通のケンカでもこうはならない。

一体なぜこんなことになったんだ?」


ジュゼッペはただ一言、こう呟いた。


「俺が、やった」


なんとなく予想はしていた。

むつきは一人でジュゼッペに会いに行く。そんな話を風の噂で聞いていたからだ。

少しくらいはケガをして帰ってくるかもしれないとは思っていたが、まさかこんな状態になるとは…


俺の見立てで言えば、むつきの四季剣は最強クラスと言っていいほどの力を持っている。

まだ使いこなせない部分はあるかもしれない。

それでもジュゼッペに匹敵するほどではないかと踏んでいた。


それがなぜ、こんなにボロボロなのだろう。

まるで攻撃を全て受けているかのような…


「とりあえず身体拭きな。お前まで風邪を引かれたらたまったもんじゃない」

「…すまない」


俺はジュゼッペにタオルを渡す。外では雨が降り始めていた。


「お前はただむつきを助けた訳じゃないな?」

「それは君レベルなら見て分かるだろう」

「煽ってんのか!?」


俺は思わず近くの机をガンッと叩いた。


「ああ分かるよ。これほどまでの力を持っている人間はなかなかいない。

本気で殺そうとしない限りはこんな傷はできないこともな」

「…悪い。ケンカをするつもりではないんだ」

「なら答えろ。なぜむつきをここに連れてきた?あのまま放置すれば確実に死んでいた。

それでお前の悲願は達成、ご主人様に褒められてハッピーエンドじゃなかったのか?」

「みなのことは悪く言うな!!!!」


俯いたままジュゼッペは叫ぶ。

ああ、なんとなく話の流れが読めてきた。


「なるほど、今回はお前一人の単独行動だったんだな。

なぜかみなはむつきに執着している。大怪我をさせて殺すなんてことしないだろうな」


ジュゼッペは何も言わない。

この無言は肯定と受け取って良いだろう。


「とにかく身柄は預けた。すまないが後のことは頼む」

「おい、待て!」


ジュゼッペはその場を立ち去ろうとする。

なんて身勝手な男なんだろう。

自分で傷つけて、やりすぎてしまったからと敵に土下座までして頼み込んで助けにきて。

そんなことが許されてたまるか。


「まだ話は終わってねえぞ」


部屋の手口に立っていたのは、優だった。


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