信念と玉砕
前回までのあらすじっ⭐︎
サラ国に囚われた卯月姫を救出後、私は独りでマリックへ立ち向かうことにした。
その際に渡された白空の撮り下ろしボイス付きのお守り。
果たして、私の命を守ってくれるのだろうか。
それとも素敵なデバフをくれる疫病神になるのだろうか。
マリックは今鎖国状態になっている。私たちのせいでだ!!!
なのでとりあえず国境付近に行くことにした。
このままマリックの領土へ入ろうとすると、なんかこう難しい法律に引っかかるそうだ。前科持ちにはなりたくない。
でもどうしよう。
ジュゼッペの連絡先なんて聞いてないしこのまま帰る訳には…
『よく来たね、待ってたよ』
次の瞬間、辺りが一瞬真っ白になる。
そして目の前にジュゼッペが現れた。
これはフィールド化だ。一瞬のうちに飲み込まれたのだろう。
説明しようッ!
フィールドとは、四季剣などの武器を使って戦う際に展開される特殊な空間のことだッ!
周りに危害を加えないよう安全性を保つために使われることが多いッ!
ただフィールド化によって一時的に現実ではないどこかに飛ばされたりした人もいるのだとかッ!
飛ばされた先では、自分の思い入れが強い人や物、自分の妄想が色濃く反映されるそうなッ!
説明終わりッ!
「…どうしてフィールド化を?」
「どうして?分かってるくせに」
ジュゼッペは不敵に笑う。
「まあまあ適当に座れよ、ここから長くなるんだからさ」
そう言うとあぐらをかいて腰を下ろした。
「何のために私を呼び出したの?」
「あ〜、もしかして自分がミロック王だからとか思ってる?」
「違うの?」
てっきりそうだと思っていた。
ジュゼッペが第二の反乱を引き起こした張本人なら、ミロックに何か恨みがあるのだろう。
それなら王である私を呼び出す理由になるし、そう推測するのは簡単だった。
でも今回は理由なんてどうでも良い。どちらにしてもやることは変わらないから。
「お前のせいでみなは変わってしまった。それが許せないんだよ」
ジュゼッペは怒りに顔を歪めながら言う。
「前まではあんな人じゃなかった…!
夢のために、虐げられた人たちのために頑張ろうって約束したのに。
俺は一生、みなについていくと誓ったのに。
なのにお前が現れてからみなは目的を見失った。お前が全てを奪ったんだよ!!」
ゴンッとジュゼッペは床を殴った。
「忘れちゃダメなんだ、あの屈辱を。繰り返さないように俺らが止めなきゃいけないんだ。
なあ、如月むつき。それに対してお前はどうだ?
こんなに苦しんでるのに、お前はのうのうと生きてる。それが死ぬほどムカつくんだよ」
話が見えてこない。
みなとジュゼッペの間にはきっとすごく複雑な何かがあったのだろう。
今まで見たことないようなドスの効いた声で、彼は話を締め括った。
「だから、どんな手段を使ってもここでお前を潰す。殺してやる」
あまりの殺意に少し後ずさる。
ジュゼッペの手には一本のナイフ。ただそれだけなのにただならない覇気を感じる。
このままだと本当に殺される…!
『四季剣解法、立春!』
私は思わず四季剣を解放する。
吸血族だからか、より目を真っ赤にしたジュゼッペは、お構いなしに突っ込んできた。
私の四季剣の方が相手のナイフよりリーチが長い。だから距離を取って戦うしかない。
大丈夫、私ならやれる。
ポケットに入っているお守りを握りしめた。
なーんて、そんなご都合主義の展開などなくて。
私はびっくりするほどジュゼッペに太刀打ちできなかった。
ナイフでの致命傷は避けられるものの、その後の拳が避けられずほぼ全ての攻撃を受けた。
それはもう、悲惨なものだった。
狭いフィールドの中で、逃げ回ることしかできなかった。
よく考えたらそりゃそうだ。相手は男性でしかも吸血族だ。
家の屋根にも簡単に乗れるような人に私が勝てるはずがない。
距離をとって戦うなんてこと出来るはずがない。
「何とか言えよ!!」
「ヴゥッッッ」
思いっきりお腹に蹴りを入れられ、ついに私はうつ伏せで倒れた。
痛い、痛い、痛い。頭の中の感情が一つに統一される。
うずくまりつつも、なんとか脳を働かせて考える。
今から私ができることはなんだ?
ふと太ももを見ると大きく腫れ上がっている。
さっき転んだんだっけ、それとも蹴られたんだっけ。
この痛みだと、もしかすると骨が折れているかもしれない。
全治何ヶ月かかるんだろうか。
選択肢は無くなった。もう逃げることも、立ち上がることもできない。
人の感情は本当に不思議なもので、一度認識するとより感覚が鋭くなってくる。
全身から痛みが発せられ、熱を帯びてくる。その熱はだんだんと脳へと上がってきた。
頭がぼーっとする。徐々に何も考えられなくなる。
…ダメだ、気だけはしっかり持て如月むつき。目的を忘れるな。
ジュゼッペは足で私を仰向けに転がし、目の前にナイフを向けた。
「正春じゃなくて立春を選ぶなんて、俺も舐められたものだな。勝つ気あんのか?てめえ」
返事よりも先にゴボッと痰が絡んだような咳が出た。
鉄の味がする痰は思ったより量が多く、口の中に留められずそのまま床に吐き出す。
真っ赤な血の塊が視界に映った。
これは、自分の身体から出たもの?なんで私は血を吐いてるんだ?
いつの間にこんなに攻撃を受けていたのだろう、わからない。
「ちなみに言っとくと、完全に死ぬことはできないぞ。ここは現実世界ではない特別な世界だ。
まあ、今のお前の状態じゃ《死んでない》だけだろうけどな。壊れた身体で戻るだけだ」
「ぐはあぁっ」
ジュゼッペは私の手を踏み付けてくる。
スパイクがついているのか、棘が手のひらにダイレクトに食い込む。
「だからここって殺し得なんだよな、現実世界では死なないから。
だからどれだけ痛めつけようが関係ないんだよ。
フィールド内での死の概念はあるから、お前は死ぬのと同じくらい苦痛を味わうだろうがな。
言ってる意味わかるか?ん?」
髪を掴んでジュゼッペは言う。
割と近い距離に彼がいるはずだが、いつもとは違い視界がボヤけているような気がする。
……ああ、違う。左目が空いてないんだ。さっき殴られたんだった。
「最期だから教えてやるよ、てめえの大事な大事なお仲間さんは絶対に来ないぜ。
フィールド内はどんな電子機器でも位置情報の取得ができない。
フィールド化する直前の場所は分かるかもしれないけど、実はフィールド内って他の人から干渉できないんだよね〜。絶望した??」
『だからなんだ、私には関係ない』
その言葉は、私の耳に届かなかった。
ただパクパクと口を動かしているだけで声にならない。
「………なんだよ、もうくたばったのかよ。おもんねー。
まだまだこれからだと思ったんだけどなあ。
ならもう殺すね、俺も暇じゃないし。ここでは死ぬけど、目が覚めたらまた地獄だ。せいぜい余生を楽しんで」
ジュゼッペはナイフを躊躇なく私の胸に突き刺した。
その時、何か固いものが当たる音がする。
「ッ!?お前、胸ポケットに何か入れて……」
そこには、優からもらったお守りが入っていた。
お守りといえば布製なのになぜかプラスチックのような素材で出来ていた。
そのおかげでナイフの切先から私の胸を守ったのだ。
苛立ちながらジュゼッペはお守りをポケットから投げ捨てた。
「ふざけやがって…!これでもう終わりだ、如月むつき!!」
ジュゼッペがナイフを振りかぶる。
怒りで我を忘れた彼の姿を、私はしっかり視界に映した。
虚しさでも悲しさでもない、いろんなモノを混ぜた感情を瞳に浮かべて。
「………えっ?」
その瞬間、カランカランとジュゼッペの手からナイフが落ちる。
目を丸くして驚いたように彼は静止した。
それから何秒流れただろう。意識が朦朧としているせいか、時間の感覚がない。
ジュゼッペは信じられないというような目を向けており、何やら判断に迷っているようだ。
「私を、ここで殺すんでしょ?逃げて良いの?」
消え入るような声でジュゼッペに訴えかける。
私は初めから彼に勝つつもりはなかった。
だから勝つ気のある正春じゃなくて、能力が上がる立春を選んだ。
ジュゼッペの目的はミロックじゃなくて私、如月むつき。
なんとなくそれは察していた。
普段の言動を見ればわかる。ジュゼッペにとって霜月みなは大切な人。
詳しいことはわからないけど、どうやら私はみなを変えてしまったらしい。
もし第二の反乱の原因を起こした原因がミロックじゃなくて私個人なのなら。
こんなに辛い、事実はない。
だから私はジュゼッペの話に乗った。
勝つのではなく、終わらせるために。
私が死ねば彼の復讐は終わる。そうすればミロックは救われる。
でもやっぱり、痛いし怖い。全身がズキズキする。
こんな痛み、人生で初めて味わう気がする。
ジュゼッペは本気で私のことを殺すつもりだった。
殺意を向けられて思った、なんだかすごく悲しい。
痛みが少しずつ引いてきた。
その代わりに長時間正座をした時のような痺れたような感覚になってくる。
…違うな、身体の感覚がもうなくなってきてるんだ。
この後、私はどうなるんだろう?
もう死ぬ間際なのは、なぜか自分でもよく分かる。
ジュゼッペは元の世界に戻っても身体は壊れたままだと言っていた。
そりゃそうだよね、こんなに痛いんだもん。
すぐ元気になるなんてそんな漫画みたいな話ないもんね。
ツーッと頬に涙が流れる。
ああ、ごめんね優。
約束、守れるか分からなくなってきちゃった。
結構自信あったんだけどなあ。
やりたいことは出来たはずなんだけどなあ。
もっとみんなと、一緒にいたかったなあ。
そこで私の意識はプツリと途絶えた。




