警察と尻尾
「んぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「ねえ零ちゃん、なんでむつきは唸ってるの?」
「さあ?何かに威嚇してるんじゃない?」
「むつきの目線の先……かっぱえびせんだ!あのエビに威嚇してるんだ!!」
キャッキャッと喜びながら利愛は言う。
は?何が???
という訳でおはこんばんちは、如月むつきです。
無限酷法の主人公をやらせてもらってる、如月むつきです。
優がサラ国に行ってから早5日、なんだかモヤモヤする毎日を過ごしています。
「あと4日で帰ってくるのか〜優なにしてっかな」
「そんなに気になるなら竜も行けばよかったのに」
「いや、俺は良いかな〜〜ハハハ」
「あれ、竜今4日って言った?」
私は会話を遮り言った。
「ん?俺なんか間違ってた?」
「合ってるわよ、3日前に行ったから」
「ええ!!?まだ3日しか経ってないの!?」
叫んだ後、ハッとする。
これじゃまるで私が優が帰って来るのを待ちわびてるみたいじゃない!!
「まあこういう時にズバッと突っ込んでくれる人がいなかったら寂しいよねえ。場が締まらないというか」
「ほらむつき、利愛の素直さを見習いなさいよ。
しっかり言葉にしないと分からないこともあるんだから」
「うっ…」
それができたら苦労しないよ!人生ムツカシイ!!
「で、元気にはしてるの?優は」
白空が竜に尋ねる。
私と優、竜、零ちゃんは同じ高校に通っている。
私と零ちゃん、優と竜が同じクラスなので、学校で毎日顔は合わせているはずだ。
「まあ元気っちゃ元気なのかな〜。なんか腰が痛いってずっと言ってた」
「こ、こし…!!!?」
「おーい、良からぬ想像してる阿呆がいるぞ〜今すぐ連れ出せ〜〜」
「こんなのがミロック王なんて………」
「なになに?むつきは何を言ってるの??」
「あんたにはまだ早いわ利愛」
「え〜子ども扱いしないでよ〜〜」
まさかサラ様と優が…?
いやいや、でもサラ様はああ見えて淑女でありレディーだからそういう邪なことで優を呼んだりとかはしてないはず。
というかそもそも別に私は優と付き合ってたり付き合ってなかったりしてる訳であって、二人に何があっても私には関係なくて。
いやでもなんか、優に好きって言われなかったっけ?
なんか、キキキキキ、キッスされなかったっけ??
おでこならセーフ!?私が寝てるフリしてたからセーフ!?
セーフって何が!?アウトになったらどうなるの!?
「零ちゃん、むつきがすごい早さで念仏唱えてるよ!ご利益あるかな?」
「そうね、手を合わせておきましょうか」
パンパンと2拍手する音が聞こえる。
人を何だと思ってるんだ。そんで何を願うんだよ。
「何だお前ら、楽しそうだな。優がいない方が盛り上がってるぞって後で本人にチクッとこ」
「りゅう兄、場をややこしくしないでくれる?」
何も知らないりゅうさんがやってきた。手には封筒を持っている。
「何持ってるのりゅうさん。…あ、もしかして優の隠し撮り写真?」
「え?やっぱあのウワサ本当なの?優から聞いてまっさか〜と思ったけどマジ??」
って違うから!とりゅうさんはノリツッコミをする。
「サラ国からむつき宛に手紙だ」
「く、国から…?擬人化の世界線があるんだ。
でもサラ国ってサラ様のイメージが強いからイマイチパッと出てこないなあ。やっぱり女性なのかな」
「そろそろ辞めとけ、ウザすぎてヘイト溜まるぞ」
ウッ、辞めます自重します。
りゅうさんから手紙を受け取り、私は封を切った。みんなも中身を見ようと近付いてくる。
中には二枚紙が入っていた。
『一週間待つのももどかしいと思うので、先に送ります。サラより』
もう一枚入っている紙を取り出すと、そこには住所が書いてあった。
「……サラ様有能すぎん?」
「優の任務が終わる前に私たちに情報くれたってこと?」
「確かに一週間ただただ待つだけの時間になっちゃうもんね」
「優のアレって任務だったんだ…」
りゅうさんはスマホを取り出しどこかに電話をかける。
要件だけ伝えるとすぐに電話を切り、こちらに振り返った。
「とりあえずこの情報はBe Quiet預かりにするよ、良いね?」
「Be Quiet…??喋るな…??」
「ああ、むつきはあんまり詳しく知らないんだっけ」
「私もよく知らないわ、名前だけなら聞いたことあるけど」
「そうか、なら良い機会だしまとめて説明するか。
簡単に言うと、ミロック国の警察の立ち位置にあたる組織だ。
頂点にクワイエットが君臨していて、その下にオーナーがいて、オーナーは新人二人の面倒を見る。
で、三人一組のチーム動くのがBe Quietの基本だ。
ちなみに生死に直結する組織だからルールにめちゃくちゃ厳しい。クワイエットの意見は絶対で歯向かうことは許されない」
なんか軍隊みたいだ…
「オーナーとその下っ端は、そのクワイエットになるために日々努力している。
ちなみにクワイエットの顔は誰にも見たことがないんだってさ」
「謎に包まれたリーダー、かっこいいわね」
「私も今から匿名にしようかなあ。なんかお面とか被って」
「ならこれどーう!?」
利愛がお祭りで売っているようなひょっとこのお面を持ってくる。この子は私をどうさせたいの??
「…りゅう兄、続けて」
「ほいよ。んで指令はクワイエットから出されるんだけど、いつも声だけらしい。ミステリアスだよな〜」
「りゅうさんは会ったことあるの?」
「いーや、俺もないよ。クルミル様もないんじゃないかな」
ミロックって広いな、大きいな。
まだまだ知らないことがたくさんある。
「とまあ、ある意味ミロックのプロなんだよ。だからサラ様からもらった住所の捜索も頼むことにする」
「わかりました、お願いします!」
「おう」
こういう時、なんだかんだりゅうさんの判断は早い。
そして間違っていないことが多い。さすが年長者と言うべきか。
「それにしてもすごい組織なのね、なんか浮世離れしててびっくりしちゃった」
「そうなんだよ零ちゃん、Be Quietってすごいんだよ!
ヒーローみたいな存在で、小さい子はみんな一度はクワイエット様に憧れるの。
ミロックを守る裏の王みたいかっこいいじゃん?」
「利愛も憧れてたの?」
「私というよりも白空の方かな。ずっとBe Quietごっこやってたし」
「おい、言うなって利愛!!」
顔を赤くしながら白空は反論する。
「コードネームが割り振られるんだけど、みんな宝石にちなんだ名前になるんだ。
白空はなんだったっけ、サファイアだったっけ?」
「…そうだよ、利愛はガーネットだよな。おいガーネット、次の試練だ!って」
「懐かしい!!やってたね!!」
「宝石名かあ、確かにそれはかっこいいかも」
「まあでも、今人不足らしいから本気になればなれると思うよ」
「え、そうなの?」
「夢を壊すかもしれないんだけどさ」
りゅうさんは少し声のトーンを下げて言った。
「表向きはヒーロー、警察だけどクワイエットの采配がエグいらしくてさ。
いろんな依頼を持ってくるんだって。いわゆる何でも屋なんだよBe Quietは。
犬猫探しから迷い人、殺人犯探しもやるし、中には犯罪の片棒を担がされたミッションもあるとか。
そんで上下関係が激しいから失敗するととんでもない罰が待ち受けているそうな…」
「お、俺辞める!ここでぬくぬく過ごす!!!!!」
「いやいや白空、別にここもぬくぬくしてないからね?手を抜いて良い場所じゃないからね??ちゃんと働いてよ?」
「あ、クルミル様」
やれやれと後ろから出てくる。なんか会うの久しぶりな気がするなクルミル様。
「住所の特定ができたらしい、さっきBe Quietから連絡が入った」
「ってことはプロの警察集団に会えるってこと!?」
利愛が目を輝かせて言うが、クルミル様は浮かない表情をする。
「ん〜それがさ、あんまり人数を割いてくれなかったみたいで」
「え、なんですかそれ」
もし本当にジュゼッペがいるなら、大きなニュースになるだろう。
それなのにクワイエット様はこの件を軽視している…?
「とりあえず現場に行こう」
りゅうさんの一声で、私たちはサラ様から教えてもらった住所へと向かった。
そこまで人を割いていない、という割に現場には十数人の人がいた。
みんなジャケットのようなものを羽織っており、そこにはBQと書いてある。
BQ、BQってなんか………
「あ〜なんか今猛烈に肉が食べたくなってきた」
「分かる〜、ピーマンとかウィンナーとかも焼いてね」
「アウトドアって感じ?」
三馬鹿トリオの竜白空利愛が言う。
みんな考えてることは同じなのだろうか。なんかちょっとボケが寒いし、あえて触れないでおこう。
「あっそういうこと!?バーベキューに似てるね!」
シーーーーーーン。
「本当にすまない、クルミル様ってこういう空気読めないとこがあってさ。
こういうのも愛嬌だと思って許してやってくれ」
「なんでりゅうが謝ってるの?僕なんか変なことした??」
そんなこんなで無駄話をしていると、向こうから長身の男性が近寄ってきた。
BBQ…じゃなかった、BQのジャケットを着ている。
「お疲れ様です。Be Quietオーナーのクアです。
大変お待たせいたしました、ご依頼いただいてた場所はおそらくここです。
とりあえず逃げられないように包囲網は張りました。
普段より人数は少ないですが、人員も用意しています。
合図さえいただければすぐに乗り込みます」
す、すげえ!!SPみたい!!!!これが本物のBe Quietなんだ!!!!
「危険物は?」
「見たところありません。辺鄙な場所で逆に怖いくらいです」
そこはマリック城よりも少し小さな一軒家だった。
二階建ての木造建築のようだ。
「まあここがメインのすみかではないんだろうな。転々としてて、たまたま塩の発送先がここだった。
そう考える方が自然だ」
「ですね。それなら居つく前に突入した方が良いでしょう」
「そうだね、異論はないよ。やってくれ」
「かしこまりました、仰せのままに」
クアさんがピーーーーッと笛を吹くと、四方八方から人が飛び出してきて家の中へ突入した。
私も一緒に入ろうとしたのだが、りゅうさんに首根っこを掴まれ止められた。
「お前が行ってどうするんだよ」
「えっ行かないの!?」
「そのためのBe Quietだからね。今は一旦見守ろう」
クルミル様にも言われる。私に出来ることはここで見てるだけなのか…
でも仕方ないのかもしれない。適材適所という言葉がある。
それに先ほどのクアさんの立ち振る舞いを見ると、全部任せた方が良い気がする。
バタバタと建物の中で走り回る音が聞こえる。
こんな家に隠れられるところなんてあるのかな。
ましてやBe Quietから逃げる術なんて…
ハッとして私は空を見た。
黒いマントに赤い瞳、そして特徴的な八重歯………
「ジュゼッペ!!!!」
彼は屋根の上に立ち、私たちを見下ろしていた。
自分を探すのに必死になっている人たちを嘲笑うかのように。
私の声が届いたのか、ジュゼッペはニヤリとして地上に降りてくる。
…なんか普通に解説していますけど、そんなことあり得ます?なんで飛んでるんですか?この人は?
「俺は吸血鬼だから空を飛べるんだよ」
「な、なんで今思ってることがわかったの!?」
「目は口ほどに物を言うっていうからねえ。わかりやすかったよ君」
ジュゼッペはヒョイッと屋根から降りてきて言った。
読まれないように次からサングラスでもするべきか…
「そいつだ、捕まえろ!!」
建物の中からクアさんの声が聞こえる。次の瞬間、Be Quietたちがゾロゾロと中から走り出してきた。
すごい統率力だ……
「ちぇっ、さすがにこれだけいると分が悪いか。またなみんな、どこかで会おう」
マントを翻してジュゼッペは去ろうとし、何かに気づいたように振り返った。
一歩ずつゆっくりと私の方へ歩みを進める。
「おい、むつきに何かしたら容赦しねえぞ!?」
竜が四季剣を構えるが、ジュゼッペは無視しながら近付いてくる。
いつになってもこの人の考えていることが読めない。あのみなよりも心の奥が見えないのだ。
「マリックに一人で来い、絶対に一人でな」
耳元でそう言うと、ジュゼッペは文字通り空へと消えていった。
な、なんなんだあいつは…
「申し訳ございません、取り逃してしまいました…」
クアさんが深く頭を下げる。
「いや、これは仕方ない。とりあえず引き続き家宅捜査をお願いしても良いかな?何か掴めるかもしれない。
結果は僕、クルミル宛で良いから教えて欲しい」
「かしこまりました。すぐに捜査いたします」
悔しさを滲ませながら、Be Quietたちに指示を出し始めた。
「ま、俺らもここまでってことっすかね」
「そうね、ここで捕まえられるとは正直思ってなかったし。
居場所の一つを潰せただけでも大きいかもしれないわね」
「戻ろうむつき、優が帰ってきてからもう一度立て直そう」
「そうだね」
竜に言われ、私たちはミロックへ帰ることにした。
私の頭の中では先ほどのジュゼッペの言葉が渦巻いていた。
一人で来い。そう彼は強調して言った。
これはチャンスだ。
良いよ、行ってやるよ。だからそこで待ってなよ。
私の心の中の闘志はメラメラと燃え上がっていた。




