王の悩みと新たな夢
「あら、また来たの?今度来る時は竜くんと優くんの2人でおいでって言ったんだけど」
「す、すみませんクソバカスケコマシしかいなくて…」
クソバカスケコマシって何?
ていうか、今さりげなく私のこともクソバカスケコマシにした???
「先ほど塩の話をしてくれたじゃないですか。
あれの発注先の住所、教えていただけませんか」
圭太は率先して交渉を進める。
「え、住所を?」
サラ様は怪訝そうな表情を浮かべた。
それはそうだ、発注先の住所なんてあまりにも個人情報だ。簡単に教える訳がない。
「その発注をしていた人物こそが僕たちが今追いかけている人なんです。
日常的に使う塩を届けさせていた場所、普段住んでいる場所に違いありません」
「なるほど、そういうことね」
「ここ最近ずっとサラ様のことを頼ってばかりなのはわかっています。
だから、出来る限りのことはするつもりです」
「……それは本当?」
サラ様の眼光が鋭く光った。な、なんだ…??
でもここを逃すとチャンスはないかもしれない。
私はすかさず圭太のフォローをした。
「本当です。ミロック王としても二言はありません」
「ふふっ、こんなところで王の権力を使うなんて、あなたもらしくなってきたんじゃない?
それに何その言い回し、武士?」
「ぶ、武士でござる!」
「むつき先輩、落ち着いて」
しまった、ござるは忍者か。
「そこまで言われると仕方ないわね。良いわよ、教えてあげるわ」
「…!ありがとうございます!この恩は一生忘れません!」
「ところで私、あまり貸し借りはしたくない派なのよ」
「は、はい…?」
「だから、今すぐ条件を飲んでくれるなら良いわよ。ねっ?」
サラ様は楽しそうに言った。
「で、なんで俺が???」
不満を全面に出しながら俺は言った。
「そこんとこお願いしますよ優さん。ほらほら、ミロックのためだと思って…」
「ミロック王はてめえじゃねえかよ」
「元はと言えばあんたのせいでこうなってるんじゃん。忘れたんですか〜?私がミロック王になったきっかけはほぼあなたですよ〜?」
「ソンナノシリマセン、アナタハダレデスカ?」
「おもんな、何それ」
「一回しばかれたいか???」
「はーいお二人さん、もうすぐ着きますよ〜〜」
竜の言う通り、サラ国が見えてきた。
むつきと圭太によると、どうやらジュゼッペはサラ国から塩を輸入していたらしい。
その塩は歯磨き粉代わりに使っているという。
兄貴に聞いたところ、吸血族の歯は丈夫で俺たち人間とは違う性質のためあり得る話だそうだ。
逆に言うと人間用の歯磨き粉では歯を綺麗にできないらしい。なんだそれ。
情報が少なすぎる今、少しでも関係しそうなものには飛びついた方が良い。
その案には賛成なのだが…。
「なんで俺なんだよ……」
俺はもう一度ため息をついた。
住所開示なんてそう簡単に出来ない。
ましてや王がそれをやっているとなるとコンプラ的にも大問題になるだろう。
こちらからすると四醋剣について知れるチャンスではあるが、サラ国には全く関係ない。
だからむつきたちから条件を提示されたと言われてかなり身構えていた。
きっと国単位で動かなければならないような、そんなお願いかもしれないと。
「こんにちは、昨日の今日でまた来てくれて嬉しいわ。
しかもちゃんと優くんと竜くんを連れてきてくれたのね」
「はい!もうなんなりと!!」
「3代目ミロック王はシゴデキなのねえ」
ニコニコしながらサラ様が言う。
…そう、交換条件は一週間の間サラ国でお手伝いをしてほしいということだった。
俺だけ、俺だけ!!!
「それじゃ少しだけ優くんを借りるわね。大丈夫、取って食ったりしないから」
「それ、サラ様が言うと怖いっす」
「そんなことないわよ、竜くんもまたゆっくりお話しましょうね」
「はい!ではさよなら!」
「ちょっと竜!おいてかないでよ!
それじゃクソアホスケコマシをお願いします!また一週間後に来ます!」
ペコリと頭を下げてむつきも出ていった。
クソアホスケコマシ…???どこで覚えたそんな言葉。
「さっそく外に出ましょうか。まずは優くんにサラ国のことを知ってもらいたいし。
トゥクトゥクを用意したの。それで移動しましょう」
「とぅ、とぅくとぅくですか…??」
「そうよ、乗るの初めて?」
「はい、というか実物を見るのも初めてですね…」
「なら優くんの初めては私がもらっちゃうことになるのかしら。ごめんなさいね〜私なんかが〜〜〜」
「誰に謝ってるんですか???」
トゥクトゥクといえば三輪の常用自動車だ。
観光地とかでたまに見かけるけどサラ国にあるとは…
言われるがままサラ様とトゥクトゥクに乗って移動する。いや何この絵??
数十分ほど二人でトゥクトゥクを堪能し、たどり着いたのは大きな畑だった。
金色に染まった綺麗な稲穂が辺り一面そよいでいる。
あまりもの絶景に俺は言葉が出なかった。
「すごいでしょう?うちの農家はみんなプロなのよ」
「あっサラ様じゃないですか」
汗を拭いながら一人の女性が歩いてくる。
「こんにちは、みんな頑張ってるわね」
「はい!お陰様で。あっこの前の整備もありがとうございました。
機械が壊れていたので作業ができずに困っていたんです…すぐに対応してくださって本当に助かりました」
「いえ、当たり前のことをしたまでよ」
「サラ様〜!!こんにちは〜!!」
奥から小さな子どもたちが走ってくる。
「こんにちは、みんなお手伝い?」
子どもと視線を合わせるためにサラ様は屈んだ。
「うんっ!今日は学校休みだからみんなで手伝ってるんだ!」
「そうなんだ、偉いね」
「おいしいお米また届けるから待っててね!それじゃ作業に戻るね!」
「楽しみにしてるわね」
バイバーイ!と手を振り子どもたちは去っていく。
「すごく良い国ですね」
「そうね、自慢の場所だわ」
ん??今なにか………
「少し場所を移しましょう。この近くに小さなカフェがあるの。
自家製のコーヒーがとても美味しいから案内するわ」
「…はい、お願いします」
俺たちはもう一度トゥクトゥクに乗り込み、サラ様の言うカフェへと移動した。
適当な場所に座り、さっそくコーヒーを注文する。
サラ様も同じものを頼む。
少ししてブラックコーヒーが2つ運ばれてきた。
店員に会釈をした後、俺は先ほどの違和感について口にした。
「サラ様、なにかありましたか?少し寂しいような顔をしていたので」
「えっ!?」
サラ様はびっくりしてコーヒーカップを落としそうになる。
「さっき住民と話していた時です。
みんなサラ様のことを慕っているのがよそ者の俺でもすぐに分かりました。
なのに寂しいというか、複雑な表情をしていたのでつい…おせっかいならすみません」
「いえ、良いのよ」
少しコーヒーを飲み、ゆっくりとソーサーの上に置いた。
「やっぱりあなたを呼んでよかった」
「えっ……」
「やだ、そういう意味じゃないわよ。真面目な意味でよ」
逆に不真面目な意味って何??
「優くん、サラ国ってどういうイメージがある?主観で良いから教えてほしいな」
「サラ国、ですか…そうですね、ミロックと比べてすごく大きい国だと思います。
僕が言うのもなんですが、その、他の国と関わらなくてもやっていけるほどのポテンシャルを持ってます」
「うん、それでそれで?」
サラ様は頬杖をつきながら俺を見る。
早く絵本の続きを読んでほしい、そんな子どものように笑顔を浮かべていた。
「だから少し疑問はあったんです。どうしてミロックとの交流を認めてくれたのかって。
サラ国側にあまりメリットがないような気がするんですよ。
ミロックから何か輸入している訳でもないし」
ここまで言ってハッとする。
この話、サラ国の王女に話して良いことか??
もしかして本音で話しすぎてるんじゃ…
「ねえ、優くん。
これまで何回かサラ城に来てくれたと思うけど、その時私の側近に会ったことある?」
「側近ですか?」
記憶を辿るが、それらしき人は見当たらなかった気がする。
側近どころか、仲間というかお世話係も見たことがない。
ウーンと唸っているとサラ様は答えを言った。
「そう、サラ城にはいないのよ、そういう人。
あなたはミロック王補佐だからあまりピンと来ないかもしれないけど、私は基本一人で生きてるの」
遠い目をしながらサラ様は続ける。
「…私ね、一人ぼっちなのよ。みんなから好かれてる一人ぼっち。
街の人は私のことをよく思ってくれてるし、ああやって声をかけてくれる。
でも所詮、王は王。みんなとは違う。その厚い壁を嫌というほどいつも感じる。
その度に私は惨めな気持ちになるのよね。何やってるんだろうって。
サラ国のために王になって、いろんなことを頑張って。
みんなの笑顔が見れて嬉しいはずなのに、でもその度に心は空っぽになる」
喉が乾く。
まさかサラ様がそんなことを考えていたなんて思いもしなかった。
自分の考えの浅さに恥ずかしくなってくるほどだ。
「王の悩みだってもちろんたくさんあるんだよ?でもさっき言ったように側近はいない。
住民に王の悩みなんて話せない、話せる訳がない。
だって、王はみんなのお手本にならないといけないから。
それなら側近を作れば良いじゃないって思うかもしれないけどそう簡単にもいかないの。
サラ様なら一人でも大丈夫、サラ様の近くにいるなんて恐れ多いってみんな離れていく。
私だって普通の人間なのにね、そんなすごい人じゃないのに。
でもみんなの前では胸を張って王にならないといけない。矛盾してるよね」
俺はただただ静かにサラ様の話を聞いた。
「それでね、考えたの。どうすればこの状況を打開できるのかなって。
その答えが貿易だった。
他の国の王なら私と同じ立場だから同じように話せる、そう思ったの。
さっき優くんはサラ国側にメリットがないって言ったじゃない?
その答えがこれ。私は友達が欲しかったのよ。変でしょ?」
「変、じゃないです」
「ちょ、ちょっと優くん!!?」
サラ様が慌てる。どうしたんだろう?
そう思った次の瞬間、俺の目から雫が落ちた。どうやらサラ様の話を聞きながら泣いていたらしい。
「もう泣くなんてビックリするじゃない!
有能なミロック王補佐を泣かせたなんて知られたら、せっかく積み上げた私のイメージが崩れちゃう」
「…それでも良いんじゃないですか?」
「……そうね、よく考えたらそれも良いかも」
サラ様は満面の笑みで笑いながらハンカチを差し出した。
すみません、と言い涙を拭う。
「はあ〜でもちょっと話しすぎちゃったな。こんなに全部言うつもりはなかったんだけど。
でもスッキリしたわ、ありがとう。でも全部聞いたからにはこれからも仲良くしてよね」
「もちろんです、こちらこそよろしくお願いします」
「うんっ」
サラ様はサラ様なりにやはり思うところがあったのだろう。
完璧すぎる人間なんてこの世に存在しない。
「もっと住民と交流する機会を増やしてみても良いんじゃないですか?」
「交流?」
「はい。なんかこう、聞いてるとすごくすれ違ってる感じがするんですよね。
完璧じゃなくてもみんなサラ様のこと好きだと思います」
「そう、かな…」
「そうですよ、王が来てあんなに出迎えてくれる国いないですよ。
子どもまで寄ってくるなんてびっくりしました。
もっと素のサラ様を出して良いと思います。あなたは十分頑張ってる」
「うん……」
「そもそもわざわざ畑まで見に行く王なんていないですよ。
うちのクルミルなんて影薄くて気づかれない可能性だってありますし。そのまま稲穂と一緒に畑に埋まってるかもしれません」
「ふふっ、それは言いすぎじゃない?」
確かに少し盛りすぎたかもしれない、ごめんクルミル様。
あとサラ様が笑ってくれてよかった。スベるところだった。
「それじゃ私も田植えしようかしら」
「……はい???」
出されたコーヒーを一気に飲むと、サラ様は腕まくりをした。
「よしっ少年!もう一度畑に戻るわよ!
きっとまだ作業してるだろうから、今から合流すれば間に合うはず!」
「ちょっと待って、意味がわからな「行くわよ!!早く飲んで!!」
「待ってください、このコーヒー思ったよりしっかりブラックで一気に飲めな…アッッッツ!!!!」
サラ様は俺のカップを持つと、グイッと口にコーヒーを押し込んだ。
少々強引すぎませんこと??この王女様????
「善は急げよ!」
苦みと熱さをまだ口に残したまま、俺たちはトゥクトゥクに乗り畑へと戻った。
この飛び出していく感じ、どことなくむつきに似てるな……
「あれ〜?サラ様戻ってきたよお母さん」
「なにかお忘れものですか?探しますよ」
「私も今から田植えをします!!」
大声で宣言するサラ様に住民たちは呆然とする。
そりゃそうだろ。
「…かしこまりました!今つなぎを二着用意しますのでお待ちください!」
さすがサラ国。飲み込みが早い。
寛容な心を持った王の国は大きくなるのだろうか、勉強になるなあ。
…今、二着って言った?
「なんで俺が!!!!!??」
それからみっちり1時間。
住民の方に教えてもらいながら俺は田植えをした。
腰が、腰が終わり散らかしている……
「こんなに動いたの初めてかも、大丈夫?優くん」
「な、なんとか…」
なんでこの人はまだ元気そうなんだ?
これが弱小国との違いか??謎の敗北感…
「お二人ともお疲れ様でした。とっても助かりました。これよかったらどうぞ」
渡されたのは牛乳。サラ国限定らしい。
田植え後に牛乳…???
「ありがとう、とても良い経験になったわ」
「えっと、卯月優さんでしたっけ。いつまでいらっしゃるんですか?」
「来週までいる予定です」
「そうですか、なら最終日もぜひ来てください!
今度はご飯もごちそうしますから。サラ様もぜひ」
「ならまた来るわね」
あれ?なんかまた田植え決まった?
牛乳を渡してくれた女性は畑へと戻っていった。道具などの片付けがまだあるらしい。タフだな…
「ふぅ〜、なんか少しわだかまりがなくなった気がする。ありがとうね優くん」
「いえ、俺は何もしてないですよ。サラ様の今までの行動のおかげです」
「…あなたがそばにいるミロック王は、とっても幸せものね」
サラ様がボソッと言う。
俺がそばにいるミロック王、むつきのことか??
そういえば俺、むつきとこんな深い話したことあるっけ。
こうやって親身に話をしたことあったっけ。
サラ様とは王ということもあり少し距離があった。
だから深い話をし始めた時、しっかり聞いてアドバイスをした。
こうすれば良い、そんなことないと芯のある返答をしたと自分でも思う。
…でもむつきに対してはどうだろう。
あいつはなんだかんだ一人でなんとかする。俺が言わなくても大丈夫。
心の何処かでそう思っていた。
むつきのことが嫌いだからではない、むしろ逆だ。
信頼しているからこその行動だった。
でもそれって、サラ様がしんどいと思っていることと同じなんじゃないか?
ふと、圭太の言葉が脳裏をよぎる。
『そんなんだから、今むつき先輩が一人で背負ってるんじゃないんですか?』
「…優くん、めっちゃ怖い顔してるけど大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ。何の話してましたっけ、竹藪を焼いたらどうなるかでしたっけ。きっと火事になりますよ」
「うん、全然違うわ」
違ったらしい。
「ごめんなさい、私がちょっと意味深に言っちゃったからよね」
「いや、サラ様のせいではないですよ」
「そう?」
まあでも、と言いながらサラ様は大きく伸びをした。
「どれだけ親しい国の仲間でも悩みまでは打ち明けられない。
これって王であればみんな同じ気がするのよね。サラだけじゃなくて他の国も同じだと思う。
だから各国の王が話し合いできるような、そんな場があれば良いのにねえ」
確かにそういった場はここにはない。
サラ様がそうだったようにみんなそれぞれ悩みを抱えている。
少しでもそれを和らげるできるような機会があれば、メンタルだけではなく国の発展にもなるかもしれない。
そういった組織、俺に作れるのだろうか。
「俺も賛成です」
俺はもらった牛乳を飲みながら言った。
それは、今まで飲んだ中で一番おいしい牛乳だった。




