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夢幻酷法  作者: SOR
第三の反乱

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20/28

後悔と行動


ひと通り事情を話した後、圭太はさらに不思議そうな顔をした。


「まあ事情は分かりました。でもなんでそれがマリックがいるのがおかしいことに…?」

「みなは、あの時確かに他の人はもう傷つけないと断言したんだよ。

だからまたこんなことになってるのはおかしいんだ」

「へえ、優先輩も意外とお人好しなんですね。そんな奴の言葉を信じてるんですか?

そんなんだから、今むつき先輩が一人で背負ってるんじゃないんですか?」


それとこれとは関係ねえだろ。

圭太を睨む。睨むことしか俺は出来なかった。


「図星か」


圭太は振り返り言った。


「とりあえずみなが普段どこで探しているかを突き止めましょう。

白空先輩と利愛先輩に相談して、手を貸してもらうんです。

今ここでマリックを襲撃したところで雲隠れされて終わるだけです。だから外堀から詰めていきましょう」

「…そうだな」


こうして俺たちは、ミロックへと戻ることにした。








マリックへ潜入した優と圭太の話を聞いて、私はショックを受けた。

みなは確かに手を出さないとはっきり言った。

私と正々堂々闘いたいから、と。


ただマリックにいた以上、これまでの件と無関係なはずがない。

第二の反乱にも関わっている可能性が高い。


「ごめん、いろんな情報網を使ってみたんだけど…」


申し訳なさそうに利愛が言う。

圭太の提案ですぐにみなの捜索を行なったが、彼女の痕跡は全く見つからなかった。

ジュゼッペがいた場所ももぬけの殻だったという。


「謝ることなんかないわよ。

ここまでやるような奴らが私たちに気付かない訳がないし、先手を打たれたんでしょう」

「まあ、予想の範囲内だよねえ」


りゅうさんは言う。

ここで消息を断つということは、みなが無関係ではないと言っているようなものだ。


「今消息を絶ったってことは、優先輩と俺がマリックへ行ったのもバレてるでしょうね。

だからもうみなはマリックへ近づかない」


…八方塞がりとはまさにこのこお。

みなが関わっていると分かっただけで十分だと思っていたが、痕跡を消されては何もできない。

ましてや相手は、反ミロック組織のリーダー…


「み、みんなそんな落ち込まないでよ!

俺たち何か他にできることがないか探してみるから!

ほら、まだ当たってないデータベースがあるかもしれないし」

「そうね、私と白空でもうちょっと調べてみる!」

「なら私も知人をあたってみるわ」

「俺も何が出来るか考えてみる!いっぱい考える!!」

「バカなんだから考えても何も出ねえよ」

「そんなことないやい!三人寄れば文殊の知恵って言うだろ?

今ここには3人以上いるじゃん。だからもう文殊の知恵どころか文殊の神様になるぜ!」

「ふふっ、何それ」


思わず私も笑ってしまう。

竜は嬉しそうに、私だけに聞こえるように言った。


「むつきはやっぱり笑ってた方が良いよ。一人で溜め込まないでね。だーいじょうぶ、俺たちもいるしなんとかなるよ」

「ありがとう、竜」

「おうっ!」


クヨクヨしている暇はない。


「でもちょっと今のはキモかったかも」

「え?え??なんて???」

「それじゃ私、ちょっと顔洗ってきます」


割と本気でショックを受けていそうな竜を置いて、洗面台へと向かった。思いっきり冷たい水を顔面に浴びる。

よし、もう大丈夫。しっかりしなきゃ。

パンパンと頬を叩くと、後ろから声をかけられた。


「ミロックのみんなはやっぱりすごいですね」


そこにいたのは圭太だった。


「確かにすごいかも。あのバカさ加減に救われてるところはあるかもね」

「そうやって立ち直れるむつき先輩もすごいですよ」

「…圭太?」


ずっと目を逸らしながら言う。いつもの圭太らしくない。


「…もし自分がマリックを逃げ出さなければ、みんなの力になれていたかもしれないのに」

「逃げ出す?」


ここでようやく圭太は私の目を見た。

その瞳には既視感があった。


「俺はマリックから逃げ出したんですよ。

そのせいでミロックが危険に晒されている気がして。気がしてというか、実際俺がやってたんですけど。

ちゃんとサラ様やマリックに事情を聞いていれば防げたかもしれないんです。

それこそ居場所なんてすぐ分かったでしょう。俺が仲間のままならね。

でも、あの場所は怖くて、怖くて、怖くて…。

身を引くとしても逃げなければまた復帰することもできた。こんなコソコソしなくて済んだ。

でもその選択肢すら自分で捨てたんです」


ああ、そうだ。あの時の私と同じに瞳をしてるんだ。


ミロック王になると決めて、でも何も出来なくて。

第二の反乱でミロックの安全と引き換えに四季剣を差し出そうとした時、みんなに止められて。

自分を犠牲にするしかミロックを守れないのにそれすら叶わなくて。


ただただ、悔しくて。


「口だけは達者で面白いでしょ、行動にはなんにも移せないのにさ。笑ってくださいよ、むつき先輩」

「笑いどころなんてあった?」


自虐的な圭太の言葉に被せるように私は言った。


「ですよね、むつき先輩はそんなことしないですよね。

でも、笑い飛ばしてくれた方が楽になることもあるんですよ」


また私から目を逸らし、圭太はその場を去った。

かける言葉が見つからなかった。

そんなことない、たった7文字が言えなかった。

それは、私も同じだから。そんな言葉で自責の念が消えないことも知っているから。





次の日。

珍しくあかりから連絡が来た。

その内容は、圭太が学校に来ていないとのことだった。


『そうなんだよ、最近全然見てなくてさ。なんか体調悪いとか言ってた?』

「いや、何も聞いてないけど…」


ミロックのことなど話せる訳がない。


『ん〜そっか、あの子が休むなんておかしいってめっちゃ言われてさ〜』

「言われた??」

『そーそー、圭太バカ元気だからさ。雨が降ろうが槍が降ろうが絶対に学校だけは来てたんだよね。

だから急に休んでみんなびっくりしてるんだよ』

「圭太ってそういうキャラなんだ…」

『まあ、プライベートはいろいろ大変そうなんだけどねえ』

「何それ、どういうこと?」


含みを持たせながらあかりは言った。


『なんか、今は親戚のおばさんと住んでるんだって。

そのおばさんも看護師?かなんかで夜勤ばかりだから、ほぼ一人で暮らしてるんだとか。

ああやって明るく振る舞ってるのも、きっといろいろあった反動なのかもなあって』

「知らなかった、圭太ってそうだったんだ…」

『あ、私が言ったってのは内緒にしといてよ?

本人から直接聞いた訳じゃなくて学校でウワサになってることだから』

「うん分かった、ありがとう」

『とりあえず何か分かったら教えて。私も心配だからさ』


そう言い、電話を切る。

この前のこともあるからめちゃくちゃ心配だけど、今圭太が行きそうな場所なんて一つしかない。


「マリック、行くしかないか…」


元々は圭太と私が話をしに行くはずだった。

体調を崩してしまったから優に変わってもらった。

だから今度は、私が行かなくちゃ。





いつ来てもマリック城は小さい。城というか、もはや民家だ。

ミロックと比べて住んでいる人も少ない気がする。

というか、これまでマリックにいて誰かに会ったっけ???

マリック様くらいしか会ってない気がする。


「さて、どうしますか」


…咳をしても一人、とはまさにこのことだろうか。

誰にも声をかけずに来たから当たり前なんだけど。


この句には、一人の時に咳をすると音が余計に反響して、より孤独さが増して寂しくなるという意味があるそうな。

またひとつ賢くなったね!


試しに咳き込んでみようか。


「ん゛、ん゛ん゛ッ「何するんだ、離せ!!!!」


とんでもない音が反響してきましたが??

この声は圭太!?それもマリック城の方から聞こえてくる。

考えるよりも先に私は走り出していた。


「圭太、そこにいるの!?」

「む、むつき先輩!?」


予想通り圭太はそこにいた。

マリック様ともう一人に羽交締めにされている。

そのもう一人を、私はよく知っていた。

赤い目に鋭い八重歯、間違いない。


「ジュ、ジュゼッペ……」

「ああ、そういえばそうか。みなが名前を呼んだから俺の名前バレちゃったんだね」

「なんでここに??」

「それはこっちのセリフだよ。コレは君の差し金じゃないの?」


圭太を指さしなからジュゼッペは言った。


「むつき先輩は関係ねえ。俺が来たくて来ただけだ」


私たちが話している隙をついた圭太は、羽交締めから脱出した。


「あーあーめんどくさいな、そもそも俺がここにいるってバレたのがめんどくさい」

「まあそう言うなよ。それは俺も同じだし、元はと言えば君から声をかけてきたんだろジュゼッペ」

「それもそうか」


そう言うとジュゼッペは思いっきり圭太のお腹を蹴り飛ばした。

ヴッと声にならないうめき声を上げ、圭太はうずくまる。

突然のことで反応できなかった。


「圭太!」


慌てて駆け寄る。

苦しそうに圭太は肩で息をしていた。


「…舐められたモンですね」

「ハア?」

「圭太、気持ちはわかるけど煽るのは辞めて。何も良いことないよ」

「でも俺ッ!このまんまじゃずっとやられっぱなしで!!」

「ははっ!冷静な先輩がそばにいてくれて良かったねえ!もっと命は大切にしないと」


マリックの笑い声を聞き、圭太は俯いた。

正常な判断を下せないようだ。

そもそも一人でマリックに乗り込むこと自体無謀すぎる。


「まあ、その先輩も調子に乗りすぎないようにしないとな。なんてったって」


グイッとマリックは私の顎を掴み言った。


「あの、霜月みなに目をつけられてるんだから」


みな?なんでここでみなの名前が……


「マリックさん、こいつらまだ分かってないですよ。俺がここにいる意味」

「ああ、なるほど、なら教えてやるよ。この前のミロックの異常事態、引き起こしたのは俺だ。

圭太を介してサラ国に四醋剣を送り込んだ」

「な、なんでそんなことしたの!?」

「なんでって言われてもねえ。

それに君ら、一回マリックに忍び込んできただろ?その時にみなを見つけた。

そんな趣味があったとか嫌だなあ。ストーカーとか趣味悪いよ、気持ち悪い」

「もしかしてこの前の涼太くんの件もあなたの仕業!?

反ミロック組織には関与してない、勝手にやってるだけって言ってるけど、本当はアンタが裏で手を引いて……」

「あのさあ、うるさいよお前」


ジュゼッペは近くにあったバターナイフを手に取り、こちらに投げつけてきた。

突然のことに動けず、頬をかすめる。

ツーと静かに血が流れた。


「今のは、その気になればいつでもお前を殺せるっていう意思表示な。

ホイホイこんなとこで話す訳ねえだろ」


身体が、動かない。

言い返したいのに声が乾いて出てこない。

この人は本当に殺す気だ。

ただジュゼッペを睨むことしか私にはできなかった。


「あ〜でも面白いから一つだけ教えてやるよ。何が聞きたい?一つだけな」

「………あんたは何者なの、ジュゼッペ」

「俺?そうだなあ」


ニヤニヤしながら私の方へ近付いてくる。

圭太が立ち上がり警戒する。


「如月むつき、お前のことが憎くて憎くて仕方ないただの一般人だよ」


近くに来てわかった。ジュゼッペは本気で言っている。

あまりにも殺気が漏れすぎている。


「むつき先輩、逃げて!」


ジュゼッペの空気を圭太も感じたらしい。

ポケットから何かを取り出すと近くの壁に投げつけた。

一瞬見えた赤オレンジの光……。

圭太はライターの火を点けたのだ。

あっという間に炎は燃え広がっていく。

さすがのマリック様たちもこれには驚いたようだった。


「へえ、お前にそんな度胸があるなんて知らなかったよ。

それならもっと重たい業務を任せても良かったかもね」

「マリック、このままじゃここは…」

「分かってる、撤退しよう」

「むつき先輩、こっちへ!」


私の手を引き、圭太はドアへと走り出した。

その時見えたマリックは少し笑っているような気がした。






一心不乱に逃げた。とにかく逃げて逃げて逃げた。

止まると死んでしまうから。

マリック国をもうすぐ出るというところで、私たちは足を止めた。


「ここまで来れば、もう、大丈夫、なはず…」

「圭太…」


かなり走ったからか、今の状況に脳が追いついていないからか、言葉が出てこない。


「へへっ俺初めて放火しました。こんな気持ちになるんですね。

この場合ってどんな罪を与えられるんだろう。終身刑とかではない気はしますけど」


そう言う圭太の足はガタガタと震えていた。


「帰ろう圭太、ミロックに」


手を差し出すと、圭太は笑った。

少し安心したような表情をしていた。


「何ですかそれ、むつき先輩らしくないですね」

「どういう意味よそれ」

「そのままの意味ですよ。正統派主人公みたいなのは似合わないですって」

「ちょっと待って本当にどういう意味?」


少しずつでも良い。

きっと私たちはいろんな壁にぶつかりながら、前に進んでいくんだ。

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