サンタとルチア
前回のあらすじっ!☆
なんか変な人に捕まった!
鏡を見たら全然知らない女の人になってた!
こんなところ逃げ出してやる!
終わり!
でもどうしよう。
こんな姿で人と会ったところで相手は私だと分からない。
じゃあなんて説明する?さっき会った男の人の話をすれば良い?
あいつのことなんて何も分からないのに…
モヤモヤしながら歩いているたび、いつの間にかミロック城まで来てしまっていた。
なんかすごく久しぶりな気がする。
みんな元気にしてるかなあ、恋しくなってきちゃった。
あ、こんなところに花咲いてたんだ。
あんまり入り口をウロウロすることないから知らなかった。
こっちにはクローバーが咲いてる。
いち、にー、さん、しー…
四葉!四葉のクローバーだ!!!
きっとこれから良いことがあるんだろう、うんうん。
栞とかにしたらオシャレかも。
うーん、でももぎ取ってしまうのも少し可哀想な気もするなあ…
四葉のクローバーって繁殖するっけ?
「っ!?そこにいるのは誰だ!?」
聞き慣れた声がして、私は飛び上がった。
その姿を見て気持ちが緩む。
「ゆ、優ううう〜〜〜」
泣きそうになりながら目の前にいる人の名前を呼んだ。
「な、なんだ…?俺の熱心なファン…?まあいてもおかしくないか。
なんか隠し撮り写真を販売してるみたいな話も聞いたことあるし。
…いやでもちょっと気持ち悪いな、やっぱりクルミル様に報告しておこうかな」
「あんたバカじゃないの?」
「むつき?」
なんで!!?
なんでそのセリフで特定できる!?
つうと言えばかあというか、ぬるぽガッみたいな関係でちょっと嫌なんだけど!!?
「お前……」
優は私に近づいてきてジーッと顔を見つめる。
いくら見つめても私じゃないわよ。だって今はみなとかいう人の姿をしてるし。
ただ言っても良いのだろうか、私はむつきだって。
みなにもなにか事情があるのかもしれないし…
「優、何やってんの?クルミル様が呼んでるけど」
ガチャ、とミロック城のドアが開く。
そこから出てきたのは如月むつきだった。
私、如月むつきは如月むつきと対面している。
私はむつきと見つめ合い、沈黙が流れる。
彼女?はみななんだろうか。
はたまた別人が入ってるのだろうか。
「おっ修羅場じゃん。気になってきて来て正解だったかもね」
カツカツと足音を立てながら近づいてくるその人は、先ほどまで私といた男だった。
つ、連れ戻される…!?
と思ったら、私の横を通り過ぎてむつきへと向かった。
「成功させたんだね、みな」
みなって言った!?
今、みなって言った!!!?
「…ジュゼッペ、なんで来たの」
「むつきを追ってきたらたまたま見つけたんだよね。
中身、むつきで合ってるよね?」
「はあ、あんたはいつも余計なことを…」
「何の話をしてる?」
優が二人を睨みながら言う。
「はあ、どうやらここまでのようね。如月むつき」
私の姿をしたままみなは私の名前を口にした。
「私はね、あなたと対等にやり合いたいの。わかる?」
「いや分かるわけなくない?何がなんだって??」
「悪いがこれに関してはむつきに同感だ、過程をふっとばし過ぎだよ」
「全部話すのも面倒なのよね」
「いやちゃんと話して!?」
みなは考えるような素振りを見せながら続ける。
「もっとわかりやすく言うと、あなたをミロック王にさせたかった。
だから民間人を狙った。そうすればあなたは復讐するために動くと思ったから」
「お前が涼太を襲ったのか!?」
怒りに溢れた声を優が上げ、そのままみなに殴りかかろうとする。
しかし、その拳をジュゼッペがヒョイと止めた。
そしてそのまま引き寄せ、至近距離でガンを飛ばした。
「みなに手を出したらただじゃおかない。殺すぞ」
今までで一番低くドスの効いた声。
さすがに分が悪いと思ったのか、優は拳を下げる。
「私の名前は霜月みな。
反ミロック組織…って言われてるのかな。そういうのをやってる。
でも実際にリーダーをやってる訳ではないよ。
私の話を聞いたミロックに反感を買う人が勝手に名乗ってるだけ。迷惑な話よね。
その涼太?っていう男の子もそいつらが勝手にやっただけ」
ハッとして優は言った。
「だからか、だから涼太を襲った犯人のことを知っていたのか」
「そうよ。私の名前を出せば犯人はすぐ名乗り出る。
だからそれを使ったの。
そうすればむつきの評価が上がって、ミロックの住民からも認めてもらえるキッカケになるだろうから」
「でもそれとむつきとやり合うのに、何の関係があるんだよ」
「察しが悪いのね。不本意でも、私は反ミロック組織のリーダーである。
そして如月むつきと真っ向勝負がしたい。
なら、彼女をミロック王に持ち上げるのが早いでしょ?」
筋は通っているように聞こえてしまう。
ただ動機が全く見えてこない。大事なところをまだ隠しているような気がする。
「それはわかったけど、なんで私なの」
みなは、少しだけ動揺する姿を見せ、不敵に微笑んだ。
「さあ、なんでだろうね」
「お前………」
「優、ダメ。我慢して」
「何はともあれ、目的は達成できた。あなたは絶対にミロック王になる。
ちょっと強引だったけど、これ以上誰かに手を上げたりケガさせたりは絶対にしない。
誰も傷つけないわ。それは約束する」
その言葉に一番驚いていたのは、なぜかジュゼッペだった。
「正々堂々やり合いましょう、如月むつき。
このミロックという舞台で」
その後、みなは私に近づき人差し指で額を小突いた。
一瞬だけ視界が暗転し、次に目を開けるとみなが立っていた。
「また会いましょう」
それだけ言うと、みなとジュゼッペは去っていった。
残された私たちはただ呆然と二人の姿を見ていた。
霜月みな、どこかで会ったことがある?
なんであんなに私に執着するんだろう。
私とやり合いたいってことは、なにか恨みでも買ったのかな。
ミロックにいるということは、私に王になってほしくないから?
でもそれは辻褄が合わない。
だってみなは、間接的ではあるけど私をミロック王にするために涼太くんを襲撃したのだから。
長らく続いた黙を破ったのは、優だった。
「今はむつきなんだよな?」
「…うん。そうだよ」
「入れ替わってたのか、なら今までの違和感はそういうことか…」
「え、何、気付いてたら気付いてたでなんかキモいだけど」
「そんな言い方はなくね???涼太の話をした時変だったんだよ。
毎日通うくらいなのに退院したことを知らなかったなんてあり得ない」
「退院…?涼太くんが?」
「ああ、もう家に帰ってるらしいぞ」
「どこ!!?」
「えっ…病院の近くだって聞いたけど」
優が言い終わる前に私は走り出した。
絶対に来てって言ってたのは退院日だったからなのかもしれない。
そんな大事な日に私は…なんてことを……
とにかくすぐに行かなくちゃ!!
「…そうそう。これでこそむつきだよな」
病院に着いた私は春宮という表札がある家を片っ端から探し始めた。
勢いで出てきてしまった。普通に優に涼太くんの家の場所聞けばよかった。
とても後悔している、とても。
その時、コロコロとサッカーボールが転がってきた。
誰か遊んでいるのだろうか。
私が拾い上げると、目の前に待ち人が立っていた。
「あ」
「涼太くん!!」
複雑そうな表情をしながら涼太くんは目をそらす。
それはそうだよね、だって約束を破ったんだから。
私はすぐに頭を下げた。
「ごめん、本当にごめんね涼太くん。あの日、病院に行けなくて。退院したんだね、おめでとう」
「…もう俺のこと忘れたのかと思った」
少し涙声になりながら涼太くんは言う。
「そんな訳ないじゃん!?
忘れたならこんな毎日お見舞いになんかいかないよ!?
おもちゃも買わないよ!!」
「へへっ、それもそうだよな。おもちゃのセンスも絶妙にないし」
「お?なんだ?ケンカか??」
「バーカバーカ」
そう笑う涼太くんは、もういつもの涼太くんに戻っていた。
「あっむつきさん!いらっしゃってたんですね」
後ろから涼太くんのお母さんが声をかけてきた。
「お母さん、本当にごめんなさい。退院の日に行けなくて」
「良いんです。むつきさんも忙しいですから。ミロック王になるお方ですからね」
ミロック王…。
さっきまでしていたみなとのやりとりを思い出す。
「涼太はずっと愚図ってましたけどね。むつきが来ない!来ない!って」
「それは言わないでって言ったろお母さん!?」
「そうなんですか?可愛いとこあるじゃん涼太くんも」
「うるせー!もう帰るからな!!!」
大きな足音を立てながら涼太くんは行ってしまった。
「…涼太、1年の中で一番クリスマスが好きなんです」
涼太くんとお母さんが話し始める。
「誰かの誕生日でもない、なんでもない日ですけどみんなでちょっと豪華なご飯とケーキを食べられて。
それがすごく楽しみなんですって。
まあ、サンタさんからのクリスマスプレゼントが本命だと思いますけど」
ニコニコとしながら続ける。
「何が言いたいのかというとあの子、まるでサンタさんを待っているときのようにむつきさんと会うのを楽しみにしていたんです。
ずっと病室のドアの方を見てまだかな〜まだかな〜って。
それを見て、本当にむつきさんの存在って大きいんだなって思いました」
そこまで言うと、深々と頭を下げた。
「本当にありがとうございました。感謝してもしきれません」
それを見て私もさらに深く礼をする。
「こちらこそありがとうございました。
また必ずここに来ます」
涼太くんの家からの帰り道。
私はクルミル様とした会話を思い出していた。
『ミロック王はニックネームというか、愛称がいるんだ。僕のクルミルみたいにね』
『え、クルミルって本名じゃないんですか?』
『お前アホか、クルミル様どう見ても日本人だろ』
『アホは言い過ぎでしょバカウヅキユウ』
『カタカナにしても日本名ですみませんねえ??』
『コラコラ、メタは辞めな二人とも。クルミル様の本名は武田奥斗って言うんだよ』
『ほぇ〜』
『むつき、今どうでもいいって思ったね?』
『ま、まさか〜』
これまであまりピンと来る名前がなかったけど、今決まった。
涼太くんと同じで私もクリスマスが好きだった。
みんなでご飯を食べて、ケーキを食べて、プレゼントをもらって。
その時、いつも聞いていた音楽があった。
サンタ・ルチア。
イタリア、ナポリで生まれた民謡である。
音楽の授業でも出てくるくらい有名なので、きっと聞いたことがあると思う。
クリスマスの雰囲気を出すために!といつも両親が流していた。
壮大な音楽が逆に場に合わなくてみんなで笑った思い出がある。
こうして私は、ミロック王3代目、ルチアになったのだ。
「なあ、なんでむつきの姿のままでいなかったの?ずっと夢だったとか言ってたじゃん」
「それでも良かったんだけど事情が変わったというか」
「事情?」
「うん、さっきも言ったように本気で戦いたくなっちゃったんだ。
あのままむつきとして生きるのも選択肢としてはあった。でも、もっとむつきと話したいと思って」
「変なやつだな。なんでそんなにあいつにこだわるんだよ」
「それは…ジュゼッペにも言えないかな」
「なんだよ、いろいろ協力してやってんのにさあ」
「ごめんね」
「謝られると何も言えないって。んで、これからどうすんの」
「何もしない。さっきも言ったように私は暴力は好きじゃないの。
だから私のことを祭り上げながらミロックのことを叩く輩が嫌いなのよ」
「………………そうか」
「何?」
「いいや、なんでもないよお姫様。仰せのままに」
「わかったらさっさと戻るわよ。むつきがミロック王になる瞬間を見届けなくちゃ」




