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夢幻酷法  作者: SOR
第三の反乱

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17/18

威厳と真相

それは、如月むつきがルチアになる少し前の話。






正直、私はまだミロック王になる覚悟ができていない。

王を引き受けたのは売り言葉に買い言葉な部分もある。

それ以上でもそれ以下でもない。

…ただ、もう引っ込みはつかない。

やるっきゃないんだ。


「大丈夫だよむつき。初めは僕もそんな感じだったからさ」


何も言っていないのに、クルミル様は声をかけてくれた。

それほど不安オーラに出ていたのだろうか…


「クルミル様はミロック王になる時、どんな気持ちでした?

「そうだねえ。僕の場合はお父さんから継いだからそういうのはなくて…」


すごい!全く役に立たない!!!

成り上がり野郎だ!!!


でもクルミル様なりに励ましてくれているのかもしれない。

気持ちだけ受け取っておこう。気持ちだけね。


「そもそもなんでミロック王交代の話になったんですか?」

「あ〜…それもね、むつきと同じような状況からなんだよ」


遠い目をしながら続けた。


「僕の場合は、血縁関係からの昇格だからさ。

それを良く思わない輩がいたんだよ。

そいつらが集まったグループみたいなのが反ミロック組織」

「なんですかそれ。そんなの仕方ないんじゃないですか」

「だよね。僕もそう思ったよ。

でもね、反ミロック組織なんて大層な名前は付いてるけど、そこまで大きな事件は起こしてないんだよ」

「なるほど、だから止めようにも止められないってことですね」

「そう、やりそうだから逮捕しました〜が罷り通らないのと一緒だね。あまり波風は立てたくないし」

「そんな緊張状態で決まった次の王が、ミロックにわかで女の私だったと」

「…そういうこと」


そりゃ炎上もしますわ、コレ。


全員の意見に耳を傾け始めるとキリがない。

ただ認知してしまった以上、無視ができないのもわかる。

難しい問題だな…


プルルルル、プルルルルルル。


どこからか電話が鳴る。


「あっごめん、ちょっと出るね」


クルミル様が受話器を取る。

ミロック王専用の固定電話なのだろうか。

鳴っているのは初めて見た。


「…うん、うん、わかった。場所は?…うん、了解。すぐに行くよ」


受話器を置いたクルミル様の表情は先ほどと全く変わっていた。

どうしたんだろう、何かあったのかな。


「さっそく仕事だよむつき。一緒に行こう」

「は、はい!えっと、どこへ…?」


真っ黒なコートを翻し、クルミル様は言った。


「病院だよ」









向かった先は小さな子どもの病院だった。

中へ入り、受付に挨拶をするとそのまま中へと向かう。

クルミル様、顔パスだった。すご。

そしてとある病室の前で立ち止まった。



『春宮涼太様』


コンコンとノックをすると、どうぞと女性の声がする。


「あっクルミル様だ!クルミル様〜!!」

「こら涼太!ケガしてるんだから大人しくしなさい」

「だってクルミル様が来てくれたんだよ、うれしーじゃん!」

「こんにちは、具合はどうですか?」

「みなさんがすぐ動いてくださったおかげで大事にはなりませんでした、ありがとうございます」


病室の中には5歳くらいの幼い男の子がいた。

左腕にギプスを巻いている。


「すみません、せっかく来てくださったのに何もなくて」

「いえいえ、お気遣いなく。元気そうで何よりです」

「本当にありがとうございます」


ぺこりと女性は頭を下げる。

どうやらこの男の子の母親らしい。

後ろからやりとりをジッと見ていると、涼太くんがこちらに気づいた。


「クルミル様、後ろにいる女だれー?」

「お、女…??」

「こら涼太!失礼なことを言わない!」

「ハハハ、気にしなくても大丈夫だよ」


なんで今クルミル様が返事した?


「紹介が遅れてしまったね。

こちらは如月むつき、次のミロック王だよ」

「えっ、クルミル様ミロック王辞めちゃうの?」

「うーん、まあそうなるかな。ミロックにはいるから安心してね」

「それはよかった!また元気になったら遊ぼうね!」

「うん約束だよ」


クルミル様と涼太くんが楽しそうにゆびきりげんまんをしている。

あれ、今の会話の主人公って私だったのでは??

なんか置いてけぼりでは??

空気だとしてもせめて酸素にはなりたいな???



これがミロック王の姿なのかなあ。

普段一緒にいるからあまり実感はないけど、クルミル様はやっぱりすごい人なのかもしれない。

…私もこうなれたらいいな。


「それじゃそろそろお暇します。涼太くん、またね」

「うん、待ってるよクルミル様!」


涼太くんはニコニコしながらクルミル様に手を振った。

………私には????

私にはそういう言葉ないの??え???




病院を出ると、クルミル様が話し始めた。


「さっきの涼太くんね、ケガしてたでしょ」

「はい、左腕ですよね。

どうしたんでしょう、遊んでて転んだとかですか?」

「違うんだ、反ミロック組織の襲撃を受けたんだ」

「えっ!?」


一瞬で空気が変わる。


「さっき、大きな事件は起こしていないって言ってませんでした?」

「そうなんだよ。なのに住民を、しかも小さな子どもを狙ってケガをさせた。

むつき、これがどういう意味かわかるかい?」

「宣戦布告、ってことですか」


クルミル様は大きく頷いた。


「本格的に動き始めるから覚悟しておけ、僕にはそう聞こえてならないんだ。

りゅうからはいつもよく深読みしすぎだって怒られるんだけど」

「…私もそう思います。なんというか、話が変わってきますよね」


もしこの抗争を引き起こしている原因が私なのだとしたら。

私のせいで涼太くんがケガをしたのだとしたら。

私はここにいていい存在なのだろうか。


私の表情を見て、クルミル様は声をかけてくれる。


「君は気にしなくて良いよと言いたいところだけど、そうはいかないだろうね。

ごめん、僕もこんな深いところまで話すべきじゃなかったかもしれない。

むつきの負担になるだけだった」

「そんなことないです、こちらこそごめんなさい。

できることを探してやっていきます」


クルミル様みたいなミロック王になれたらなんて、軽々しく口にするような言葉ではない。

そう思い知った。

彼と私では全く違う。経験値も中身も全て。

私はもっと、自分の無力さを自覚しなければならない。






それから数週間後、第一の反乱が起きた。

零の目的は俺と兄貴との接触、そのためにミロックから現実世界に出て行ったという。

この件に関しては無事解決、したのだがまだ問題は残っていた。


ミロック内の襲撃事件だ。

クルミル様から聞いた話によると、相手は銃を持っていたらしい。

幸い銃弾は当たらず大けがにはならなかったが、転倒した衝撃で左腕を折ってしまったらしい。


そして被害者は春宮涼太。まだ、子どもだ。

こんなことが起こっていたなんて全く知らなかった…

ケガの程度がどうであれ、あってはならない出来事には違いない。



「むつき、この後ちょっと時間あるかな?」

「あっごめんなさい、クルミル様。今日は少し用事があって…」

「なら良いよ、また明日話すね。ごめんね呼び止めてしまって」

「いえ、お疲れ様でした」


そそくさとミロック城を後にするむつき。

最近ずっとこんな感じだ。


「前まではだらだらみんなで話してたのにどうしたんだろうねえ、むつき」

「まあいろいろあるんじゃないですか?お年頃の女の子だし」

「「そういうこと!!?」」

「おう鏡賀兄妹、お前らは本当にいつも元気だな」


…好き勝手言いやがって。


「でも俺、ここを出てからミロックハウスで勉強してたことがあったんだけどむつきに会わなかったよ」

「え?じゃ家には帰ってないってこと?」


イライラしながら俺は言った。


「たまたまその時だけなんじゃねえのか?」

「いや、私もこの前ミロックハウスで作業してたけどむつきに会わなかったわよ」

「もしかして!やっぱり!好きな人に会いに行ってるとか!?」

「たまたまその時だけなんじゃねえのか?」

「優が壊れちゃった」

「利愛辞めてあげて、効きすぎてるわ」

「え〜面白くな〜い」


好きな人、好きな人?

あのむつきに好きな人が?

いや、ないない。あるはずがない。

あんな恋愛に疎そうな、興味なさそうなあいつが…


「……帰る」

「むつき何してたかまた教えてね〜。

一人で背負ってたりしたら心配だし」

「だから帰るって言ってるだろ!むつき探しに行ったりしねえよ!」 


行くんだけどな。

俺はおもむろにカバンを持ち、ミロック城を飛び出した。


……さて、どこから探そうか。

おそらくミロックの方でうろうろしてるんだと思うけど。

もしかして、こっちに想い人でもできた??


「…早く探そう」


考えれば考えるほどイライラする。

…といってもミロックは広い。

そんな簡単に見つかるはずもなく。

結局歩き回っただけで夜になってしまった。


本人に連絡して聞けば良い話なんだが、なんか負けたような気もする。

ただ気になり始めるとずっとモヤモヤする。


「あ〜、クソッ……」


俺はいつからこんなナヨナヨするようになったんだ。

良くない、ちゃんと自分の立場をわきまえないと。

ブレてはいけない。


あいつをこの世界に引き込んだのは間違いなく俺だ。

責任は俺にある。


もしその?仮に?好きな人?と会ってるなら?それはそれで良い。

何か巻き込まれてるとかそういうのがなければ良い。

………いや、良くはないけど。ちょっとだけね。


もうプライドなんか捨てて明日本人に聞くか…



俺は近くのスーパーに寄り、適当にお菓子を買う。

そのまま病院へと向かった。


春宮涼太。

反ミロック組織の襲撃を受けた男の子だ。

クルミル様から話を聞いて、お見舞いに行くことにしたのだ。


「あら、優さん?」


病室のドアを開けると、涼太の母親が出迎えてくれた。

驚いたような顔をしている。


「こんばんは、急にすみません。お邪魔でしたか?」

「いえいえ、そうではなくてちょっとびっくりしちゃって」

「近くまで来たから寄っていこうと思って」

「そうだったんですね。なら入れ違いだったのかな」

「入れ違い…?」

「あれ〜?優さん、むつきと会ってないの?」


全く話が見えない。

なんでここでむつきの話が?


「むつきのやつさ、毎日のように来てくれるんだ。

ずっと病院にいてもつまらないからってさ。

見てよこれ、全部あいつが持ってきたものだよ」


そう言うと、涼太はベッドの近くにある段ボール箱を指差す。

その中には絵本やおもちゃがたくさん入っていた。


「こら涼太、むつきさんと呼びなさいっていつも言ってるでしょ」

「別に良いじゃん。呼び捨てでいいよって言われたし。

さっきも来てたけど嫌そうじゃなかったよ」


ああ、もしかして。

むつきが最近早く帰るのって。


「次は人生ゲームとかしたいなあ」

「何時間かかると思ってるのあれ、この前も遅くまで付き合わせちゃったでしょ」


母親は俺に向き直り言った。


「むつきさん、初めてお見舞いに来てくださった時から、ずっと涼太のことを気にかけてくれてるんです。それが私も嬉しくて…

また会ったらありがとうございますと伝えておいてください」

「…わかりました、絶対伝えておきます」

「優さんもお菓子ありがとね!またむつきと3人で遊ぼうぜ」

「ああ、また来るよ。それじゃ」


元気に手を振る涼太と深々とお辞儀する母親に見送られながら、俺は病室のドアを閉めた。



なんて愛おしいんだろう。

言葉にするにはもったいないような、不思議な気持ちがいっぱいになってたまらない。


あいつの側にいたい。素直にそう思った。






その日も私は帰りに涼太くんの病室へ寄った。

最近はこれが日課になっている。

初めはクルミル様に嫉妬して通い始めたのだが、なぜか涼太くんに懐かれてしまった。


そう、涼太くんに懐かれてしまったのだ。

決して私が涼太くんと遊ぶのが思ったより楽しい訳ではない。


彼にせびられたからいろいろおもちゃを買っているのであって、自分もやりたいから用意しているのではない。

次はクルミル様とかも呼んで人生ゲームとかやりたいなあとか思ってはいない。

決してだ。


「あっむつき来た!」


病室に入ると涼太くんが言った。

もう呼び捨てには慣れたものだ。


「なあなあ、明日も来れる?」

「え〜どうしよっかな〜迷うな〜〜」

「そんなこと言って来てくれるんだろ。分かってるよむつきのことは」

「ははあ〜、全然信ぴょう性ないけどねえ?

私が今何考えてるかわかる?」

「今日のご飯は何かなあ、でしょ?」

「クッ、なぜ分かった…!」


こんな中身のない会話を延々とするのは案外楽しいものだ。


「それで、明日は何かあるの?」

「秘密!」

「何よもったいぶってさ〜」


私は笑いながら言った。


「明日も絶対来るから、待っててね」

「うん、ありがとう!」


涼太くんのお母さんにもお辞儀をして、私は病室を後にした。

さて、今日はそのまま帰ろうかな。


「きさらぎ、むつき」


突然名前を呼ばれ、私の身体は固まった。

後ろから声がするが、振り返ってはいけない気がする。

なんかこんな都市伝説あったよね。


いやいや、ふざけている場合ではなくて!


「ダ、ダレデスカ」

「私?私は、そうね……」


その女は、後ろから私の目を隠して言った。


「私は、×××よ」


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