昔とった衣笠
「公人くん、ちょっと、手伝ってくれる? あ、店のコピー機使えるかな。代金はまとめて払うからさ」
「手伝うって、また大きな紙袋持ってきたなぁ」
「なになに?」
「あぁ黒闇天さんたちも手伝って。明日のイベントまでに作らないと間に合わないんだよ」
「見たところ同人誌みたいですけど、オフ本ではなく、コピー本なんですね」
「そうだ。いくらで売るかも考えてるんだけど、どうしたらいいかな?」
「神さま、この場合も製造原価の計算でいいのか?」
「ええ、まぁコピー本の場合は製本方法でちょっと違いますけど。これを両面印刷可能のコピー用紙で製本したとしますね」
A5サイズの同人誌(表紙フルカラー。本編モノクロ)24ページ20部(@=単価)*中綴製本
印刷費
コピー料金(5*20=@100*部数(20))2,000
*一枚につき4ページ(本文20ページなので5ページ)
コピー料金(表紙カラー)1,000(@50*部数(20))
*表紙表のみ。
合計3,000。一部にあたり150円
「とまぁ、印刷費の他にも、原稿用紙やペン軸にペン先、定規などの画材とか、執筆に弄した時間なども考慮に入れないといけないんですけど、今回は印刷費のみの計算になってしまいますね」
「それ以外にも本を出すイベントの参加費、交通費とかも考慮に入れるといいかな」
「意外に高くつくんだな」
「これは筆者が昔同人イベントに参加していた時のことだけど,
コピー本の売価は200円から300円あたりだったよ(B5サイズの本でも製造原価は変わりません)」
「ただこれは中綴での場合だね。片方にホッチキスで止める製本だとこうなるよ」
A5サイズの同人誌(表紙フルカラー。本編モノクロ)24ページ20部(@=単価)*片綴製本
印刷費
コピー料金(10*10=@100*部数(20))2,000
*一枚につき2ページ(本文20ページなので10ページ)
コピー料金(表紙カラー)1,000(@50*部数(20))
*表紙表のみ。
合計3,000。一部にあたり150円
「あれ? 印刷費は一緒なのな」
「そりゃぁそうだよ。ページ数が一緒ということはコピーする回数も一緒ってことだから。A5サイズの本だったら、印刷をA3にして、片面4ページの一枚8ページにする方法もあるね」
「でもそれだと一枚余るんじゃ……」
「その場合は二枚おなじものができますね」
A5サイズの同人誌(表紙フルカラー。本編モノクロ)24ページ20部(@=単価)*中綴製本片面4ページ印刷
印刷費
コピー料金1,800
(20/1P×4=@80*20=1,600)+(20/2P*10=200)=1,800
コピー料金(表紙カラー)800(@80*10(1/2))
*表紙表のみ。
合計2,600円。一部あたり130円
(片面を作成するために一度原稿用紙二枚をA4サイズにする必要がありますが、今回は計算に含んでいません)
「という計算になります。これが家の印刷機で作った場合は、インク代や用紙費で計算するといいかもしれません」
「その場合はこうなるよ。製本は一般に普及されているA4プリンターで中綴で製本した場合の計算になるね」
A5サイズの同人誌(表紙フルカラー。本編モノクロ)24ページ20部
*中綴製本片面2ページ印刷
用紙費
A4サイズコピー用紙(300円*500枚入)72円
(300*(6/500)=3.6)*20=72
印刷費
プリンター 16.5(30,000/1,825=16.5)
*一日1回、5年使用したとして
インク 44.8(@1,000/90=11.2)*4色
*一日一回。三ヶ月(90日)でなくなるとして計算。
ホッチキス 40.5(200/365=0.5+(100/100)*40=40)
*本体(200円)を一日一回、一年使用。針(100円/針百本)を製本×2箇所綴じとして計算。
合計 157.3円 1冊単価7.865円
「さすがにここまでやって、売価200円はボッタクリな気がしますのであまりおすすめはしませんね。それにインク代は4色だったり6色(特にキャノンとか)だったりで変わります。またインク代はあくまで一例ですので、これよりも早く切れる場合があります。お店のコピー機はインクの量も家庭用より多いので、できればお店で刷ったほうがいいかもしれません」
「印刷会社にお願いする場合は、印刷費を部数で割って、売価を決めるってのもありだね」
「仮に売れた場合はどうなるんだ」
「それは普通に仕訳る方法でいいですよ。それじゃぁ製造原価を最初の例でやってみましょうか」
取引 製造原価150円の同人誌を売価200円で20部販売し、15部売上、残りを繰越商品とする。なお支払いは現金とする。
(現金)3,000/(商品)2,250(150*15=2,250)
(空白)/(商品販売益)750
(繰越商品)750/(商品)750
「これでいいのか?」
「繰越商品は仕入値が逆になることが多いからね。この場合も製造原価で仕分けられるから、この仕訳方で正解だよ。引っかかるかなぁと思ったけど」
「もうひとつ、これがオフ本として、お店などで委託販売した時のことを話しておきましょうか」
「委託って、他のサークルに販売する場合や、同人ショップで取り扱ってもらう場合ですか?」
「そうだね。知り合いのサークルなら売価に委託費を加えるか、売価をそのままにして、売上の一部を委託費にする方法がいいかな」
取引 製造原価150円の同人誌を売価200円として、10部を委託販売。商品は完売し、売上の20%を委託費として支払った。なお売上における支払いは現金とする。
(現金)1,600(売上)2,000
(支払手数料)400
「委託費は支払手数料でいいよ。お店に委託販売する場合も同じかな」
「よくお店に行くと、B5サイズで表紙4色の20ページの本が500円くらいで売っていたりしますけど、これも委託費が含まれているからですか?」
「そうですね。一般的なCDの販売を例にすると、売価の30%がお店の取り分になりますから、それと同じだと思っていいですよ。取り分に関しては、委託するお店の委託取引に関する資料を熟読してください」
取引 製造原価150円の本を委託販売。お店の取り分30%を考慮にして、店での売価を400円として、20部委託販売。
商品は完売し、委託費を引かれた状態で、当座に代金が振り込まれた。
(当座預金)5,600/(売上)8,000
(支払手数料)2,400
「当座預金に振り込まれた代金と元々の売価の総額を引けばいいから、商品販売益は2,600円になって、単価130円の利益が出ているね。それから本の発送費もあるからもしかしたら赤字の場合もあるかもしれないけど(*運送費はお店負担の場合があります)」
「むこうも販売する手前、売上利益が必要になるわけか」
「そうだね。計算としては製造原価+お店の取り分+利益が良心的かな(だからといって、1冊に対する利益が多いと売れなくなるので、大体製造原価の2/3がいいと思います)。売価は利益を出すこと前提で計算しないとただの赤字だから」
「ところで、本や新聞などの、いわゆる出版物を購入した場合の勘定項目では何というか知ってますか?」
「えっ? いつもみたいに仕入じゃないのか?」
「図書や新聞の場合は『新聞図書費』になるんですよ。また研究のために購入した場合は『研究開発費』という勘定項目になります。ただしこれは購入した場合の仕訳ですので、これを販売する場合は普段通り仕入として仕訳ます」
「経理って、状況によって勘定項目が変わるから、その商品が購入だけなのか、販売目的なのかで、状況を判断して仕訳ることだね」
「ついでに、週刊連載をしている漫画家の、一話に対しての製造原価もやってみようか」
「今回は道具なども考慮しての計算なので、それを踏まえてやりますね」
週刊誌連載(一話19ページ)に費やす製造原価費
道具費
原稿用紙 \190(500/50)*19)*B4サイズ原稿用紙50枚入り
製図用インク \17(500/30)*一ヶ月でインクが切れる計算
ペン軸 \2.4(@300*3/365)*左記のペン先に対して三種類。それぞれ一年使用したものとする。
ペン先 \450((300/10)*5=150*3)*Gペン・カブラ・丸ペンそれぞれを一話につき五本ずつ消費したとして
定規 \0.8(300/365)
カッター(デザインカッター)\60.8
*本体(\300)を一年償却。刃代(\200/10)を三枚使ったとして
スクリーントーン \2,500(500*5)*一話につき5枚使用したとして
人件費*一日8時間勤務として四日間。アシスタントは4人
102,400
(@800/時間)*8=6,400*4=25,600*4=102,400
家賃 12,500(50,000/4)*一ヶ月4週間として計上
合計\118,121 一枚単価@6,216(小数点四捨五入)
(右記は紙の原稿用紙の場合における計算です。すべてがデジタル原稿の場合は、道具費をパソコンとソフトウェアで計算してください。もちろん按分して計上)
「という計算だね(考えたらトーンでだいぶ使ってるなぁ)。って、どうかしたの?」
「い、一枚にたいして約6,300円もかかるのか?(ガクブル)」
「ま、まぁ家賃は所有物(固定資産)なら計算に入れなくてもいいんですけど、仕事場が借家の場合は支払わなければいけませんから計上しないといけないんです。あと原稿用紙は出版社が作っているものを使用することがほとんどなので含めなくてもいいですよ」
「売れない漫画家が貧乏なのは、ほとんど人件費による赤字だね。一枚につき5,000円前後の原稿料を受け取ってる場合があるけど、一話につき95,000円前後だから、ぜんぜん足りないんだよ。むしろ赤字が嵩張る一方」
「週刊連載の場合は、どちらかと言うと単行本の印税や著作権使用料で補いますね。9話収録の単行本(@450)が一万冊売れて、一話に対する製造原価から原稿料を引くとなんとかできる状態です」
@45*10,000=450,000*@450円の単行本を印税10%として一万冊売上。
118,121*9=1,063,089*単行本作成に費やした製造原価(9話分)
@6,000*171=1,026,000*週刊連載時における原稿料9話分(19*9=171)原稿料@6,000
450,000-(1,063,089-1,026,000)=412,911
「黒字なのになんとかできる状態ってどういうことですか?」
「悲しいかな、連載作品って自分から終わらせる以外は人気がなくて打ち切りというのがほとんどだし、打ち切りになるってことは、それまでの話が単行本にならない場合もあるから」
「それまでに費やした製造原価の回収もできなくなるってことか?」
「そういうこと。その作品がアニメになれば著作権使用料が支払われるし、グッズが売れればそれも売上の一部から著作権料として資産が増えるけど、それってよほど人気があるか、アニメ会社の制作企画に通って、スポンサーがついてめでたく放送した話だけどね。だから漫画家を夢見ている人は、貧乏になるのが当たり前って覚悟をしておかないとね。まぁ漫画家だけじゃなくて作品を作る人全般に言えることだけど」
「物書きだって、資料を調べるために、本を購入したり、舞台にしようとしている場所へと取材に行ったりなど、色々と出費が嵩張るんですよ(ファンタジーでも建物のイメージを掴むためにそれに近い場所を取材をする場合があります)」
「意外にお金使ってるんだな。でも雑誌に連載してるってことは給料とか出るんじゃないのか?」
「……物書きに固定給付があるわけないですよ。ほとんどが本の印税か、雑誌の原稿料ですから」
「つまり、売れれば天国、売れなければ地獄ってことか」
「現実を言うとそうなりますね。ただそれでも漫画家や作家を目指す人はいますし、私は応援してますよ」
「今回の仕訳に関して注意することは、詳しい製造原価を出したい場合は、道具費やそれをどれだけ使用したのかを記入して仕訳るのがいいね。(特にトーンとかよく使う漫画家は、一話につき何枚使っているのかわからないし)今回はあくまでたとえでしかないから」
「それから前回、道具は合計して按分すると言いましたが、画材はなくなることがほとんどなので、別々の計算になってしまいます。そこも考慮にして製造原価を割り出してください」
「ペン軸や定規は同じものを長年使用する場合がありますから、それは計算に含まなくてもいいんですか?」
「そうですね。原稿執筆の費用は、あくまで消費するものですから、消費しないものは計算に入れなくても大丈夫ですよ。それでも消費した場合は計上します」
「ペン軸の場合は余程のことがない限りは償却することはないから、入れなくてもいいけど、定規を使ってカッターをすると削れる場合があるから費用として計上しないとね」




