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数字が苦手な少年に、お金の神様が『簿記』を教えるそうです。  作者: 乙丑
もう少しだけお付き合いください
41/44

ほんの少しだけ原価計算に触れてみる

「それにしても、亜紀さんの作る料理は美味しいですね」

「富の女神さま二人に褒めてもらえると嬉しいわ」

「片っ方は貧乏ガ……いってぇ?」

「はい少年。無駄な話をしない」

「いてて……、でもこんだけ料理が美味しいってことは、それだけ和美叔父さんの店の野菜が良いっていう証拠だな」

「ん~~っ……」

「あれ? お姉ちゃんどうかしたの?」

「いや、公人くんも簿記に慣れてきましたから、すこしステップアップしようかなと(ピンポーン)」

「(ガチャ)おっす亜紀ちゃん、頼まれてた注文品持ってきたぞ」

「あ、和美ちゃん。ちょうどあなたの店の野菜が美味しいって話をしていたところだったのよ」

「お、そいつは嬉しいね。なんだ公人も来てたのか」

「そうだ和美さん、今日持ってきた野菜ってなんですか?」

「なんだ? まぁこんなの持ってきたぞ」


 小麦粉(1キロ)200円 砂糖(1キロ)160円

 卵(1パック10個入)180円

 たまねぎ(10個)300円 ニンジン(5本)150円

 ジャガイモ(20個)600円 キャベツ(1玉1キロ)200円


「合計で1790円になります」

「はい。この前お客さんからもらった商品券だけど、いいかしら」

「いいですけど、お釣り出ませんよ」

「残金は次に注文した時の手付金ということでお願い」

「了解しました」

「少年、今の和美さんと亜紀さんの取引を、亜紀さんの視点でちょっと仕訳てみようか」

「えっと、多分こうなるんだろうな」


 (仕入)1,790/(商品券)2,000

 (前払金)210


「うぅん正解なんだけど、ちょっと惜しかったかな」

「えっ? 正解なのに間違ってたのか?」

「今回、亜紀さんはお客さんからもらった商品券を代金として使用しています。自分の会社が発行した商品券ならそのままでいいですが、他社が発行した商品券なら『他店商品券』として仕訳る必要があるんですよ」

「商工会が発行した商品券ならうちと亜紀ちゃんの店も参加しているから商品券として仕分けられる。だけどお客さんがかならずしも、商店街が発行した券を使ったとは限らないから今回は『他店商品券』が摘要されるな」

「そうか。これも気をつけないといけない勘定だな。ところで商品券って勘定だと資産になるのか?」

「え、えっとですね。商品券は負債になるんですよ。商品券を発行した会社がその金額を支払うことになるんです。つまり商品券を使用したお客さんの代わりに、発行した会社が代金を払うことになりますから、資産ではなく負債になるんですよ」

「手形と似たようなものか」

「そう思っても、まぁいいかな」

「あなたたち、ちょっと待っててね。あ、和美ちゃんもそこに座ってて」

「亜紀さん、なにを作るんだろ」


 …………十分後――――


「はい、できたわよ」

「うわぁ美味しそうなホットケーキッ! しかも大きいし、膨らんでる」

「そうだわ吉祥天さん、公人くんに原価計算のやり方を教えてあげたら」

「はい。そろそろ教えておいたほうがいいかなと思っていたところだったんです」

「原価計算? 原価って材料のことか」

「うぅん、まぁあながち間違いではないんですけど、生産における原価計算というのはそれとはまた違うんですよ」

「たとえば次のリストが今作ったホットケーキの材料と分量ね」


 小麦粉100グラム 砂糖150グラム

 卵3個 サラダ油大さじ1 マヨネーズ小さじ1


「牛乳使ってないのか……ってかマヨネーズ?」

「マヨネーズの中にも卵が入ってるから、ふくらし粉の代わりになるわね。味はしないから心配しないで」

「少年、これをさっき仕入れた料金で按分してみようか」

「えっと、さっきの仕入を参考にすると……」


 小麦粉100グラム 20円(200*(100/1000))

 砂糖150グラム 24円(160*(150/1000))

 卵3個 54円(180*(3/10))

 サラダ油大さじ1 5円

 マヨネーズ小さじ1 5円


「……ってことか。(分量は%計算になるんだな)合計すると108円。これを人数分で分けると4人だから27円……結構安いんだな」

「――ええ、材料費()()を計算すると安いんです」

「少年、これがお店に出されるとして、ほかになにか必要だと思う?」

「ほかに? そりゃぁ作ってくれる職人に対しての人件費とか、光熱費が――あっ!」

「お、結構早く気付いたじゃないか。そう生産における原価っていうのは材料、人件費、道具、光熱費などを計算したものになるな」

「今のは材料だけの説明だったけど、たとえば道具でオープンを使ったとするよ」


原材料・小麦粉100グラム 20円 砂糖150グラム 24円

 卵3個 54円 サラダ油大さじ1 5円 マヨネーズ小さじ1 5円

人件費・一時間 1,000円

道具・ボウル 200円 泡だて器 100円 オープン 50,000円

その他・水 約5円 電気 約5円

合計 51,310円


「……いや、ちょっと待て? なんでオープンの値段そのままなんだよ? おかしいだろ? 常識的に考えて」

「黒闇天……、ちゃんと道具は按分して計算しないと、『製造原価』がおかしくなるって教えてあげないとダメでしょ?」

「お、お姉ちゃん、目が笑ってない。目が笑ってないからぁ」

「あぁ、やっぱり按分するのな」

「まぁそんなに難しい計算じゃないですよ。道具の合計金額から使用する期間を分数で計算すればいいんです。今回は毎日一回、10年間使用するという仮定で計算をします」

「それだと『50,300/(365×10=3650)=13.8』になるわね」

「ということは合計で1,131.8円になって、4人分作ったわけだから一人282.95円になるんだな」

「それだけじゃないよ。利益を出さないといけないから、217.05円追加して500円かな。それから消費税を加えると」

「最終的には一人前540円になるのか。だけどお惣菜のコロッケとかたまにひとつ50円とかで売ってるけど」

「あれはそれだけ大量に作るからですよ。たとえば製造原価が2,500円のコロッケがあるとします。それから売る数を割った数字を売上原価にして、それから利益と消費税を加算していくんです」

「10個だったら原価がひとつ250円になって、100個だと25円になるからその分安くなってるんだよ」

「たまにメーカーが大量に作りすぎた商品を安く仕入れられる時があるんだが、その場合も今黒闇天が言った計算が用いられているな」

「それってこっちからしたら得じゃないのか?」

「とは限らない。牛乳とか消費するものだったらまぁいいんだが、そんなに売れない、消費が見込めない商品を大量に仕入れると売れ残った時の処分代がバカにならないんだ」

「牛乳が安く仕入れられる場合のほとんどは、乳牛の乳の出が良すぎて、材料が余りある状態ですね。牛乳は新鮮が第一ですから余りすぎると処分せざるを得なくなるんです」

「賞味期限が結構あるのに牛乳が安く売られているのはそういう理由か」

「まぁそれは置いといて……、少年、水道光熱費ってどうやって計算するかわかる?」

「えっ? ………………すみません、わかりません」

「聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥ですから、恥ずかしがることはないですよ。というより私たちも水道光熱費に関してはわからないんです」

「まぁ大抵は適当ってわけじゃないけど、水道光熱費に関しては約計算になるな」

「たとえばお風呂に80リットルの水を入れたとして、1リットルあたりの水がいくらなんて計算がすぐにできないでしょ? それに本当に、キッチリ1リットル使ったなんてわからないわけだし」

「そういわれると、これくらい使ったっていう計算になるっていうのがよく分かる」

「電気にはワット数が書かれていますが、これもケーキを焼いているあいだに、どれくらい使用したのかわかりませんし、ほかの電気を使う道具と併用して使っている場合がありますから」

「ちゃんとした数値がわからないってことだな」

「そういうことです」

「公人のように原価=材料費と思われているが、お店に並んでいる商品の原価というのは『経営における一定の給付にかかわらせて、把握された財貨または用役の消費を、貨幣価値的に現したもの』を意味している」

「や、やっぱり、これにも貨幣が関係してくるんだな」

「そりゃぁそうよ。簿記ではお金にできないものは計算できないってお姉ちゃんから教えてもらってるでしょ?」

「給付は生産物。財貨は金銭や資源(材料)。用役はサービス(人の労働力)と思えばいいわよ」

「一言でいうと、原価というのは『ものを作るために消費した金額』ということになりますね」

「あぁ、それならなんとなくイメージできる」


 ①経済的価値のあるものの消費である。

 ②生産物と関連付けられる。

 ③生産物の精算と販売の目的のための消費である。

 ④正常な消費に限られる。


「以上の四つが原価の性質ですね」

「①は無価値なものの消費や消費をしなかった場合は原価とされないという意味だね。たとえば空気なんてあって当たり前のようなものだから無価値だし、消費しても金銭価値がないから計算に含まないんだよ」

「②はかならずそれが製品として使われているというやつだな。例えば机を作るとして、材料の木材で使わなかったものは計算に入れてはいけないということになる」

「③は本業に関するものだけが原価とされるわね。借金の利息は原価に含まないわ」

「④は災害などの損失は原価計算に含まないというものですね。正常な失敗は原価計算しないといけませんが、予期せぬ失敗(災害などで壊れる)したものは原価計算に含みません」

「――つまりそれが作られない限りは原価計算もないようなものってことか」

「そういうことになるのかな? まぁこれは『製造原価』だから、売上原価とは違うんだよね」

「売上原価って、ようは仕入高ってことだろ?」

「そうだね。売上から売上原価を引いた数字が売上総利益ということなるよ。売上原価は『販売した商品に対応するそれを取得するために要した金額』ってことになるんだよ」



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