老兵はただ去るのみ
「うっす、元気にしてるかぁ」
「あれ? 和美さん。いつもと違って妙に元気がないですね」
「いやなぁ、今度の日曜を最後に、パートのオバちゃんが店を辞めるんだよ。それで退職金を出さないといけなくなってな」
「パートで退職金かぁ。結構優遇してるんだね」
「親会社からの出張で来てもらっていたんだが、機敏に働いてくれるし、家が近くだったからうちの方に異動してもらっていたんだよ。元々は正社員だったんだが、五年くらい前からばあさんの介護で時間の束縛ができなくなってな、今はパートとして契約社員をしてるんだ」
「普通は介護を人質に、会社を辞めろって言いそうだけど」
「和美さん、子供の頃にばあちゃんについてばっかりだったらしいからな」
「……? 少年から見ておばあちゃんってことは、和美さんからしたらお母さんってことだから――マザ……んぐぅっ?」
「そ、それでだ吉祥天っ! この話を踏まえて、公人に退職金の仕訳を教えてやってくれないか?」
「そ、それは別に構いませんけど、とりあえず黒闇天の顔が青褪めてますから、口から手を放してあげてください」
取引 勤務期間5年の社員に支払う退職金を仕訳する。
「というわけなんだけど、これって仕訳るの大変なんだよね」
「っていうと?」
「まずは就業規則や退職給与規則に基づいて計算しないといけないんです」
「ようするに基本となる退職金がいくらかってことになるんだよ」
「そうだな。とりあえず500万は考えてる」
「そうなると退職金から『退職所得控除額』を引かないとダメだだから(ヒラリ)」
「……っ、なんか黒闇天が紙切れ出したけど?」
「あぁ、これ? これは『退職所得控除額』の早見表だよ。勤務期間が二年以下の場合は80万で、それから一年ずつ、40年まで40万ずつ、最高2,200万円まで増えていくんだよ。今回は和美さんのお店で五年間働いているから『退職所得控除額』は200万だね」
「ってことは、500-200になるから……って結構少なくないか?」
「いやいや少年、そのまま引かれるってわけじゃないから」
「月々にもらえる給料と一緒で、退職金にもそれが当てはまります。所得税と住民税をまず『(退職金-『退職所得控除額』)÷2』から求めると、それが『課税退職所得金額』になるんです」
「ってことは、150万ってことか」
「今回は150万だから税率は5%、控除額は引かれないことになるね」
「控除額?」
「所有金額に対して引かれる金額のことで、計算方法は税率にもよるんですが『(課税総所得金額等×税率-控除額)×102.1%』が基本ですね。ただし『課税総所得金額等』が195万以下の場合は控除額は引かれません」
「そうなると、『(150万×5%)×102.1%』になるのな」
「この計算だと源泉微収税は76,575円になるから、それが所得税の金額になるね。次に住民税も計算しないといけないんだけど、これは『(退職金-『退職所得控除額』)÷2』から10%(市区町村民税6%+都道府県民税4%)になるよ」
「というと、『(500-200)÷2×10%』ってことになるから、15万ってことか? んぅん……」
「なんか納得がいかない表情だね?」
「いや税金を払わないといけないってのはわかるんだけど、なんか余計に取られているって気がしてなぁ」
「でも毎月もらっている給与明細にも、健康保険や年金保険、所得税とかが引かれているんだから仕方がないんだよ。教育・勤労・納税は国民の義務だからね」
「いやなぁ、『退職所得控除額』が退職金から引かれるってのがなぁ」
「……あ、あの公人くん、『退職所得控除額』はあくまで参考であって、それ自体の金額が退職金や給与の基本金から引かれるというわけじゃないんですよ」
「っていうか、四十年勤務したら『退職所得控除額』は2,200万になるから、それが退職金から引かれたら、雀の涙ていどしか残っていないかもしれないわよ」
「最終的には退職金の基本給から所得税と住民税が引かれたものが、もらえる退職金になりますね」
「ってことは、『5,000,000-(76,575(所得税)+150,000(住民税))」になるから、貰える金額は『4,773,425円』ってことになるのか」
「たしかに計算するとそうなるが、それ以外にも保険金があるから、それよりも低くなる場合があるな」
「この退職金の仕訳自体を排除して、一会計期間ごとに各受給者の会社に対する貢献度を計算して、その年度内に期末賞与とかで精算する会社もありますからね」
「メリットとしては節税や資金繰りに有利で、受給者にとっては歩合制だから、定年を待たずに多額のお金が手に入るからモチベーションが上がるでしょ?」
「ただいい反面、悪いところもあって、退職所得控除が使えないので、課税の面に欠点が出てくるんですよ」
「本来納めるべき金額を偽ることになるってことか」
「そういうことですね」
「よし。すこし感謝の気持も込めて、10万増やしておくか」
「……それだと所得税は160万になりますから」
「いや、退職金とは別に資本金から出すよう、本社と話してみるよ」
「ってことは、これも引出金になるのか?」
「お店のお金を個人的な理由で使いますから引出金になりますね。ただ例外で賞与という形なら税金が引かれてという可能性も否定はできません」
「それじゃぁさぁ、ついでに源泉徴収や他の税金の計算を覚えておこうか」
「そうだな。税に関係するのは税理士の仕事だが、やり方を覚えておけば、給料でいくら税金が引かれたのかもわかるかもしれんし」
「それじゃぁ、まずは源泉所得税からですね。これは毎月もらう給与とボーナスなどの賞与で計算は異なります」
「給与の場合は『総支給額-(通勤手当や社会保険料)=金額』に扶養家族の人数で決まる」
「扶養家族?」
「受給者が養っている家族のことだな。基本的には本人を含まない家族のことを言う」
「これには『給与所得の源泉徴収税額表』が必要になるんだけど、参考にしている本によると、扶養家族が二人で、さっきの計算が159,000円以下なら、9,900円が源泉所得税になるね」
「賞与の時は『総支給額(だいたい給与の3ヶ月分)-(社会保険料)=金額』に、おなじく扶養家族の人数で源泉所得税が決まるな」
「その分が引かれた金額がもらえるやつだったな」
「社員それぞれの源泉所得税の金額を『所得税徴収高計算書』にまとめて、翌月10日までに金融機関か税務署に納税することになるんですが、社員が十人未満だと納期の特例が使えて、一月から六月までの源泉徴収税額を七月に、七月から十二月までのものを一月に支払う事ができるんです」
「毎年二回納税するのか、便利だな」
「とはいえ会社の人数が十人未満ってことは小規模な会社なので、税務署は何百もある会社の、それこそ十人以上の給与に関する税金を毎日処理しないといけませんから、それを踏まえた上での特例だと思いますよ」
「次に住民税だね。住民税はまず毎年十二月末に各受給者の『給与支払報告書』を作成して、その書類を翌年一月末までに受給者が住んでいる地域の自治体に提出しないといけないんだよ。そしてその年の六月から翌年の五月までの税額が記載された『住民税納付書』が会社に送られてくるんだ」
「住民税自体は給料から控除されているんだが、賞与には住民税は控除されない」
「賞与は給与とは別の扱いになるから、給与で払う住民税とは別になるんだな」
「所得税は所得金に対する税金ですからね。賞与でお金が増えますから、その分税金が引かれないといけないんですよ」
「宝くじで1,000万当たっても、まるまる1,000万がもらえるわけじゃないってのと一緒だな」
「住民税には『普通徴収』と『特別徴収』というのがあって、普通は受給者が収める方法。特別は会社が給与から税金を天引きして、受給者の代わりに収める方法だね」
「……もしかして、退職金に住民税が課せられているのは、それ以上働かないからってことか?」
「そうだな。その人はもう会社にいないってことになるから、その分の住民税を控除しないといけないってことになる」
「他にも色々あるんだけど、それは次回に回すよ」




