人間は考える葦である
「はいはーい、絶世の女神黒闇天ちゃんが前回の話(貸倒引当金の決算整理)について、可憐に説明しちゃうからねぇ」
「うん、それはいいとして、前回お前が出した問題の答えをまず教えてもらおうか?」
「ありゃぁら、乗り悪いなぁ」
取引 前期の12月に、120万円を取引先に返済期間を六ヶ月として、貸付金を口座に振り込みました。ところが五月の支払期日が来ても返済が済まされていません。支払いの催促に対して取引先は、支払利息を本来の月返済に対し3%加算して払う代わりに、七月の中期決算でまとめて支払うといい、それを了承しました。最終的に入る貸付金の返済はいくらか仕訳てください。
(仕訳については前回を読んでください)
「この取引で生じた残りの支払いに対して、前期末の決算でいくら貸倒引当金に当てられていたのかという問題でしたね」
「売掛や貸付金の何%を貸倒引当金に当てているかだったな」
「取引の文章をよーく読んでね」
「……うーん、もしかしてこういうことか?」
(貸倒引当金繰入)14,400(費用▲)(貸倒引当金)14,400(資産△)
「答えの仕訳だけど、貸付金120万円に何%貸倒れを見積もったのかな?」
「12%だな。ほかの月は漢数字だったのに、12月だけアラビア数字だった。つまり答えは12%だ」
「……正解。よく問題を見ていたね。仕訳の問題じゃなくても、ちゃんと文章は読んでおかないとね」
「前回の話が済んだようなので、まずは有価証券の決算整理の説明をしますね」
取引・一 一月二四日に購入した一口2,000円の株券を20口購入した。期末においてその株の市場価格は3,000円だった。
(売買目的有価証券)20,000(資産▲)(有価証券評価益)20,000(収益▲)
「実際は売却するわけではないので、この利益や損失が確定しているというわけではないんですが、売買目的の有価証券に関しては時価(市場価格)で評価したほうが正しい状態を示すと考えられます」
「売買目的はって、そういえば会社って、子会社とか他の会社の株を持ってる場合もあるな」
「そうだね。詳しくは株に関する本を参考にしてもらうとして……、『子会社株式』や『満期保有目的債券』は売却する予定がないから時価の変動に影響を受けてないと考えて評価替えしないよ」
「えっと……ようするに、余程のことがない限りは手放さないってことか?」
「子会社を持つってことは親会社はそれだけ大きいし、子会社も株券(純資産)を親会社に持ってもらっているからね」
取引・二 売買目的有価証券の会計処理について、洗替法を採用した場合の翌期首の仕訳
(有価証券評価損)20,000(費用▲)(売買目的有価証券)20,000(資産△)
「洗替法については前回(第二一話)を参考にしてもらうとして、取引・一で得た利益に対して同額の損をしてますが、これで帳簿価格が購入時の原価と一致します」
「取引・一は『切放法』として仕訳られていて、評価替えをしたらそのままで、元に戻さないんだよ」
「つまり、この場合の洗替法は売買目的ですが、売らずに原価として持っておくという仕訳ですね」
「ということは損をしたら、その分『有価証券評価損』として仕訳るんだな」
「そうですね。ただ必要なのは期末時の値段ですから、原則洗替法を採用しています」
「というわけで、有価証券の決算整理についてはこれでおしまい」
「……早くね? そんなに時間経ってないぞ?」
「いや有価証券に関しては以前に説明してますし、今回は評価替えの説明が主だったので、そんなに話すことがないんですよ」
「というわけで、これまでの決算整理を済ませたというかたちで、これから『決算振替』と『帳簿の締め切り』について説明するよ」
「『決算振替』というのは、はじめのころに説明した、資産・負債・純資産による、財政状態を示すグループ。費用・収益による経営成績を示すグループで分けた二枚の成績表を作成することです」
「前者を財政状態。後者を経営状態というわね」
「手順としては、まず経営成績に関する費用と収益に対しての処理を行います」
「財政状態からじゃないんだな」
「えっとね、それでも構わないんだけど、経営状態の方が一番お金の流動があるし、仕入れたり売り上げたり、商品を値引きとかしてとかいろいろ細かいことがあって、勘定に対する項目が多くてめんど……いくら利益(損失)があるかわからないんだよ」
「たとえば、補助簿にこのような仕訳がされていたとしますね」
仕入 売上
24,500(空白) (空白)25,000
外食費 受取利息
50,000(空白)(空白)20,000
「というものですが、これらを合計すると貸借が一致しませんね」
「この場合、『損益』という勘定項目で整理するんだよ」
(仕入)24,500(損益)24,500
(損益)2,500(売上)25,000
(外食費)50,000(損益)50,000
(損益)20,000(受取利息)20,000
「仕訳の時と同じ書き方になっていますが、貸借の位置は先程の元帳と同様のものです」
「こうやって各勘定の貸借を一致させるんだ。当然『損益』も勘定項目だから、それの補助簿も必要で、損益を当てた勘定を貸借に分けるよ」
「以上の決算振替の段階で各勘定を締め切ります。これ以上数字が入らないようにするためですね。合計の下に二重線を入れることをお忘れなく」
「っってもよぉ、こういうやりかただと『損益勘定』の方は数字が合わないわけだよな((借方)74,500≠(貸方)45,000)」
「そうですね。ただこの差額が利益、損益になるんですが、これにも貸借を一致させないといけません」
「これが『決算振替』の第二段階『資本振替』をもちいるんだよ」
「ま、まさかまだ第三形態があるのか。さすがはラスボス、手強い相手だ」
「いやいや、『決算振替』は『損益勘定』の不足分を仕訳る『繰越利益剰余金』で貸借の金額を合わせて終了ですから」
「……えっ? そうなの?」
「『繰越利益剰余金』っていうのは純資産の勘定で、それを『損益』で振り替えるんだよ。この勘定は今まで留保していた利益額を累積したものだね」
損益勘定
(仕入)24,500(売上)25,000
(外食費)50,000(受取利息)20,000
(空白)(利益剰余金)29,500
「これで『損益勘定』の貸借が一致して、費用・収益の処理は完了です」
「補助簿が多いと簿価の整理も大変だな」
「うん。だから一番良く使う収益・費用の整理を先にした方がいいんだよ」
「現在は会計ソフトもありますから計算が楽になりましたけど、振替用紙や領収書が手書きの場合、読めなくて実際の数字と違っているということもありますし、打ち間違いなんてこともあるので、普段から気をつけていればいいんですけどね」
「間違えやすいって、たとえばどんなのがあるんだ?」
「くせのある書き方だとわかりにくいね。とくに気をつけているのはへ・ウ・ワ・1・7・0だよ」
「へはカタカナとひらがなが一緒の書き方ですよね? 1は書き方によってはアルファベットのIや7にも見えますし、7はその逆もあります。ウとワもそうですね。0はアルファベットのOにも見えますから、取引先のメールアドレスでこのようなことがあったら連絡が取れなくなります」
「書く時はしっかりと、他人が読めるようにしないとね」
「名刺だとワープロで印刷されているから大丈夫だとしても、手書きだとこういう弱点があるんだな」
「領収書を切る時にレジから排出されたレシートをもらうけど、今でも領収帳簿をつかって手書きで切るお店もあるから。もらってそのまま経理に回さず、間違いがないか確認してからわたしてほしいと思うよ」
「ところで、『繰越利益剰余金』に関しては以前(第十一話)説明しましたけど、おぼえてます?」
「会社が儲けた利益のうち、まだ処分(次期の資産(純資産)にするかどうか)が決まっていない金額のことだったな」
「結構前の話なのによくおぼえていましたね。たとえば決算整理をして、『損益勘定』で貸借を合わせた後で利益を加えると資産が増えますよね?」
「借方に入る資産50%に対して貸方の負債19%・純資産31%なら数字は合うけど、それに利益5が入ったら資産55%になって合わなくなるでしょ。それを合わせるために純資産として『繰越利益剰余金』が入るんだよ」
「つまりというか、やっぱりというべきか、利益(損益)分を『繰越利益剰余金』にするんだな」
「それじゃぁ前期の決算で生じた『繰越利益剰余金』がどのようにうつっていくのか、当期首から当期末までの流れを見てみるね」
繰越利益剰余金(期首時)
(空白)(前期繰越)600
「期首の段階で前期からの繰越金として計上されます」
繰越利益剰余金(期中時)
(支払配当金)30(前期繰越)600
(利益準備金)12
「前期の利益に対して、株主総会で配当金の額が決定されます」
「株主総会って決めるって、それじゃぁ『支払配当金』は個人営業の店とかには出ないのか?」
「いや全部が全部ってわけじゃないけど、Yショップとかデイリーヤマザキって小売店があるでしょ? あれはパンメーカーのヤマザキが運営している小売店だから、資本金は基本的に親会社から出ていることになるんだよ」
「えっと親からお小遣いをもらっているようなものか?」
「たとえるならね。ただ利益準備金は法律に沿って金額を決められているから、好きに渡せるってわけじゃないんだよ」
繰越利益剰余金(期末時)
(支払配当金)30(前期繰越)600
(利益準備金)12(損益)240
「そして当期の『損益勘定』の結果が振り替えられます。これで『繰越利益剰余金』の記載が終わりましたので、資産・負債・純資産の勘定すべての数字が揃ったわけです」
「なるほど、これがあるから、先に経営状態の仕訳を済ませたほうがいいわけだな」
「いや実際はどちらからでもいいんだよ。ようは帳簿の貸借が揃えばいいわけなんだから」
「え? それってどういうこと?」
「それを説明する前に、元帳の振り替えでこのような事になりました」
現金 買掛金
1,200(空白) (空白)120
売掛金 資本金
2,000(空白) (空白)1000
建物 繰越利益剰余金
3,000(空白) (空白)240
「少年、今回習った『損益勘定』ではどうするんだっけかな?」
「元帳の貸借が合うようにそれを不足している摘要欄に加えるんだろ?」
「そうですね。右記の振り替えにも同じようにやります」
「っても『損益』は言い換えれば繰越利益剰余金だろ? 同じ補助簿に書くってわけじゃないだろ?」
「よく気付いたね。その場合は、こういうふうに振り替えるんだよ」
現金 買掛金
(諸口/1,200)(次期繰越金/1,200) (次期繰越金/120)(諸口/120)
売掛金 資本金
(諸口/2,000)(次期繰越金/2,000) (次期繰越金/1,000)(諸口/1,000)
建物 繰越利益剰余金
(諸口/3,000)(次期繰越金/3,000) (次期繰越金/240)(諸口/240)
「空欄だった摘要に次期繰越金がはいるんだな。ところで『諸口』ってなんだ?」
「『諸口』というのは仕訳をしたとき、借方と貸方どちらかにふたつ以上の勘定項目があった場合、その勘定項目を抜き取って見やすくするものですね」
(現金)500(資産▲)(借入金)1,000(負債▲)
(当座預金)500(資産▲)
「右記は1,000円借り入れたお金を現金と当座預金にそれぞれ分けた仕訳です。これでもいいのですが、元帳にまとめる場合、借入金の補助金に現金と当座預金を書かず、二つ以上当てはまるという意味で『諸口』をもちいります」
(借入金)1,000/(諸口)1,000【借入金補助簿】
(借入金)500/(現金)500【現金補助簿】
(借入金)500/(当座預金)500【当座預金補助簿】
「どっちも貸借が同額の合算になりました。ちなみに諸口はあくまで行を綺麗にするものでグループに属しません。この『諸口』だけを抜き取っても金額は仕訳と同じになるので、わかりやすくなるんですね」
(諸口)1000/(諸口)1000
「『諸口』のみを抜きっ取って合算したものです。こうすると一行だけで見やすくなりましたね」
「……というか、『諸口』は初期に覚えるものなんだよね。だから決算整理の話で出てくるものじゃないんだけど」
「――っ!(神さまのほうを見ながら)」
「もしかして、おねえちゃん教えてなかったの?」
「わ、忘れてたといいますか、参考にしている本で仕訳方に突然『諸口』って出てきて……次回に続きます」
「「逃げたな」」




