十面相
「あれ? こんにちわ」
「おう、美樹も買い物か?」
「そうだけど、和美さんもこんにちわ」
「よう、今日も別嬪さんだねぇ美樹ちゃんは」
「いやだぁ、和美さんうまいんだからぁ。あっそうだ、これお母さんから頼まれたやつ。コレに書かれた料金分のお菓子を適当に見繕ってほしいって」
「ほいほい……。そうだ今回はさっきの手形の話をもっとしておくか。ほら、これが実際の約束手形だ」
「手形の金額欄には『金弐千円也』って書かれてるね」
「えっ? アラビア数字じゃないのか?」
「これは一種の防犯だな」
「防犯?」
「もし、この小切手の金額を手書きで書いた場合、それを他の人が捏造できるんだよ」
「この小切手が、もし手書きのアラビア数字で書かれたら、その後にお金の金額を書き加えられるんだ。漢数字の時も一緒だね。特に『一』なんて、『三』にもなるから」
「そうならないためにも、手書きは漢数字、それ以外はチェックライターで判を押すことになってる」
「えっと、チェックライターって?」
「事務用品店やそれを扱っているお店に売られているもので、簡単に言うと数字の印紙ができる機械だね」
「まぁ、手書きの場合は漢数字(海外ではその国の数字のスペル*これに関しては後述)で記入されていないと、小切手に詳しい人には受け取ってもらえないからな」
「いちおうアラビア文字でもいいんだけど、やっぱり漢数字のほうが処理はされやすいんだ」
取引 123,450円分の会食をし、その代金を小切手で支払った。
(会議費)123,450(費用▲)(当座預金)123,450(資産△)
「会食って食事(外食費)なのに、仕訳では会議費になるんだな」
「会食って『人と会話をしながら食べる』って意味だから、それが仕事に関わるものだったら会議費として処理されるんだよ(もちろんそのような報告があればですが、ただの食事なら外食費になります)。さて、ここで公人くんに問題。取引では小切手で代金を支払うことになったわけだから、小切手にはどう書かないといけない?」
「えっと、手書きの場合は漢数字で書くんだよな?」
『金一二三四五〇円也』
「うん、すっごく見本になる間違いをしてくれて、教える立場としてはすごく嬉しいよ」
「えっ? どういうこと? ちゃんと書いたぞ?」
「いや、数字は合ってるんだけど、書き方が間違ってるんだよ」
「まず漢数字は『加えられやすいもの』は大字で書かないといけない」
「大字?」
「漢数字の難しい書き方だね。一=壱、二=弐、三=参ってなるよ。それから『十』は『千』って書き加えられることもあるから『拾』と書かないといけない」
『金壱弐参四五拾円也』
「数字の書き方は合ってるね。でもまだこれじゃぁ処理はされない」
「もしかして、『千』とか『万』も書かないといけないんですか?」
「美樹ちゃん正解。そう、アラビア数字みたいにカンマ(,)が入っていないから、これがいくらなのかわからない」
「えっと、拾円が最後になってるんだからわかるんじゃ?」
「そうなんだけど、もしこの数字のあいだに文字が書ける隙間があったら書き加えられるよね? それを防止するためにも面倒だけどしないといけないんだよ。『万』のうしろにまた『万』があったらおかしいよね?」
『金壱拾弐万参千四百五拾円也』
「書く文字が多いですが、手書きでの金銭の取引が安全に行なわれるためには、こういう書き方をしなければいけません」
「これがもし海外だったらどうなるんですか?」
「右記の数字を例にしていいなら、「One hundred twoty three thousand for hundred fifty」になるね」
「わけがわからん。Hundredって百って意味だよなぁ? でthousandは千だから……なんで千の前に百があるんだ?」
「そういう混乱を避けるためにも、できるだけチェックライターでの記入がいいんだ。あと、その人のサインよりは実印のほうがいいよ」
「亜紀ちゃんところの印鑑が押されているから、間違いなく亜紀ちゃんが書いたものだということがわかる(ゴソゴソ)」
「叔父さん、なにやってるんだ」
「いや、ちょっとお小遣いをと思ってな。ほら約束手形で5,000円記入したから、これでなんか好きなものを買え」
「お、サンキュー和美叔父さん」
「よし、それじゃぁ今のやりとりを取引で仕訳てみようか」
取引 資本金として、5,000円を受取手形として受け取った。
(受取手形)5,000(資産▲)(資本金)5,000(純資産▲)
「この時点ではまだ現金にするかどうかという会話がありませんが、お小遣いという形で貰ったので資本金(純資産▲)となります」
「それじゃぁ、それを現金に換金したらどうなるんですか?」
取引 右記で受け取った手形を現金に替えた。
(現金)5,000(資産▲)(受取手形)5,000(資産△)
「現金(資産)が5,000円増えた代わりに、『受取手形』(資産)も同額でなくなったことになります。当座預金に代金を入金した場合も仕訳方は同じですね。借方側の現金の摘要を当座預金に変えるだけだからね」
「ほんじゃぁ、早速これを銀行に持って行ってお金に変えてくるか」
「はーい、ちょっと落ち着こうね」
「なんだよ神さま? オレ今月ピンチでこれは神の恵みなんだからよぉ」
「うん、お金に困ってるのはわかるけど、それが手形だったら、すぐに交換できるってわけじゃないんだよ」
「えっと、どういうこと?」
「前回も説明したけど、約束(為替)手形には『誰が、いつ、誰に、いくら』お金を払うかだよね。この場合は『和美さんが、いつ、キミに、5,000円』支払うかってことになってる」
「そうだけど……」
「その『いつ』が重要なんだよ。ちょっと手形の裏を見てみて」
「えっと、なんか名前と住所を書く欄が四つばっかしあるけど」
「手形は他の人に譲渡することができるんだ。つまりその手形自体は持っている時点で君のものだから、『受取手形』という勘定項目で資産▲になる」
「ってことは、これを仕入れの支払いに使えるってことか?」
「そういうこと」
取引 1個500円のおもちゃを10個仕入れ、他者から受け取った手形を裏書譲渡した。
(仕入)5,000(費用▲)(受取手形)5,000(資産△)
「もちろん、公人くんから手形をもらった人も同様に受取手形(資産)として使えるけど、裏書の欄に書ける人数(4つなら4人まで)に限られているから注意が必要だよ」
「つまり、それまでは一種の貨幣(資産)ってことになるんですね」
「考えとしては間違いないかな。それからもうひとつ、話を戻すけど、この手形が『いつ』から使えるのかが重要になるんだ」
「書いた時点から使えるんじゃないのか?」
「いや手形としては書かれた時点で使えるんだけど、これをお金にするには支払期日を過ぎてからなんだ」
「えっと、どういう意味ですか?」
「つまり、購入側(銀行など)は支払期日前の手形を現金として処理できないんだよ」
「手形を処理できないって?」
「購入側は手形に書かれた金額(額面)どおりに現金と交換すると、獲得できたはずの利息分、損をするってことになるの」
「要するに手数料に加えて利息分取られるってことか?」
「そうだね。手形を現金にするなら、できるかぎり利息は避けたいんだよ」
取引 支払期日が到来した受取手形を銀行に持ち込み、、現金に交換した
(現金)5,000(資産▲)(受取手形)5,000(資産△)
「これは先程の取引と同様ですが、もし期日前での取引だと次のとおりになります」
取引 受取手形5,000円を銀行に売却して、割引料500円、手数料50円を差し引いた差額が現金で受け取った。
(現金)4,450(資産▲)(受取手形)5,000(資産△)
(雑費)50(費用▲)
(手形売却損)500(費用▲)
「手形を使って商品の仕入れをした場合、『支払手形』という形で負債▲になります(その手形が後日、当座預金口座から代金が引き落とされるからです)。受取手形の場合は、その手形がある程度の期日を過ぎると、引き落とし先の当座預金口座にたとえ兆億あろうとただの紙切れにすぎないので注意が必要です」
「えっ? どういうことですか?」
「それに関しては今は言わないでおくわ」
「あれ? まだ銀行に行ってなかったのか?」
「あぁ、和美叔父さん。これ今は取っておくわ。考えたらそんなすぐに欲しい物もないしな」
「そうか。どうやら支払期日前に換金するとお金が引かれることを教えてもらっていたみたいだな。そうだ、亜紀ちゃんところにこれから頼まれたつまみを配達するんだが、一緒に来るか」
「お、いくいく」




