秘密なんか
「おいやめろ二人とも!」
千春は烈の制止を聞かず、花弁を俺の周りに集める。桜色の間から見える彼女は怒っている。そりゃそうか。
意味のわからないことを言っているのは俺だ。千春が姉貴を尊敬しているのは知っている。家族だと思っているのも知っていて、俺は行くなと言った。
「遥希、答えてください。どうしてですか? 私たちは家族です。家族が文化祭に行ってはいけないのですか? それともなんです、私たちは家族ではないと?」
「そういうことじゃないよ」
「じゃあどういうことなんですか?」
「それは、…」
本当のことを言えば、きっと千春の怒りは収まるだろう。
でも、怒りを収める引き換えに最悪なことを思い出させるくらいなら。
「…なんで言えないんですか。どうして…私たちの間に秘密なんかなかったのに」
桜吹雪が、細く集まり始めた。そのまま俺を拘束する。俺は大人しく、されるがまま。
「やめろ千春! 落ち着け、家ん中で能力使うんじゃねぇよ!! 遥希も理由くらい言ったらどうだ!?」
烈が千春を押さえる。しかし千春は、能力を解く気はないらしい。
ごめん。ごめんな、二人とも。
内緒にされるのが、秘密にされるのが嫌いなのに。いつだか言ってたね。一人にされるような気がして嫌だと。わかってる、忘れてなんかいない。でも。
俺が悪者でいいから。俺を恨んでいいから。
「…今度こそ、守らせてよ」
☆ ★ ☆
「えっ!? メニュー間違えてた!?」
「そうらしいの〜! ごめん、二人とも! こっちに絵描きなおしてくれる…?」
午後はまた、メニュー作成班とともに教室の飾りを作ろうと思っていた私と雪奈ちゃんの元に、クラスメートがやってきて手を合わせた。班から私たち二人だけ抜け、受け取った紙に、また絵を描く。雪奈ちゃんはひたすら鏡餅を描いていた。
「それもうさぎ?」
「ううん、これはネコ」
「えぇ…いや…鏡餅…」
描き終わった頃には、終業時刻になっていた。軽いホームルームを済ませて、机を戻す。
「雪奈ちゃんは部活?」
「うん! 梓ちゃんはそのまま帰るの?」
「ううん、スーパー寄ってから」
「あ、一人暮らしなんだっけ? 凄いなぁ、朝昼晩ご飯準備とか絶対無理。姉さん絶対やんないだろうし…」
「雪斗ちゃんがいる前提なんだね」
姉妹仲がいいね、と笑いつつ教室の前で別れる。
「また明日ね!」
「うん、ばいばい」
下駄箱で上履きをしまった時、ポケットに入れた携帯が震えた。
慌てて靴を履いて、校門を出る。画面に表示された名前は『家電』。買い物のリクエストかと思いながら、通話をスライドした。
「もしも」
『おねえちゃん!!』
電話口から聞こえたのは、碧流の悲痛な声だった。




