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秘密結社のお姉様!?  作者: 折上莢
さくらふぶき編
40/71

文化祭準備

翌日。


「…尊が、イギリスに戻った…?」


野田さんから、朝一番にそう告げられた。


「そうみたい。昨日の夜、先生の所に連絡があったらしくて…実行係の引き継ぎは私がやるから、レシート貰っていい?」

「うん。ありがとう、よろしく」


財布からレシートを出し、野田さんに渡す。


「…あ、そうだ。聞きたかったんだけど」


顔を上げると、野田さんと目が合う。

その表情が、どこか固い気がした。


霧谷(きりや)くんと、知り合いだったの?」

「きりやくん?」


誰だそれは。私の知り合いに霧谷という名前の人はいなかったはずだ。


「…ううん、何でもない。忘れて」


そう言って、野田さんは席に戻って行った。


「…きりや…」


心に引っかかったままだが、これ以上野田さんに聞くことはできなかった。


「梓ちゃん!」


はっと我に返ると、目の前には雪奈ちゃんがいた。


「ご、ごめん。何?」

「文化祭の看板作りやることになったんだけど、一緒にやらない?」

「うん、いいよ」

「やった。梓ちゃんいれば何とかなりそう」

「そんなに期待値上げないで…」


今日は終日文化祭準備だ。制服の上から体育着を着て、絵の具で『三組メイド喫茶』と書く。未だすごく不本意だが、決まってしまったものは仕方がない。


「…雪奈ちゃん、それ何の絵…?」

「えっ、うさぎ…」

「ごめん、鏡餅かと思った…」


大きめの板に、絵の具で描いた看板を貼り付ける。左隅にいる鏡餅がやっぱり気になるな…。


「いい感じじゃない?」

「うん! 野田さんできたよー」


雪奈ちゃんが野田さんを呼ぶと、彼女は振り返ってこっちに来た。


「うん、いいんじゃないかな! じゃあ次こっちのメニュー作り手伝ってくれる?」

「いいよ」


メニュー作成班に加わり、打ち出されたメニューの紙に絵を描く。雪奈ちゃんは、また鏡餅を描いていた。


☆ ☆ ☆


「そう言えば、今週末はお姉さまの学校の文化祭でしたね」

「あー、そうだね」


昼食が終わり、食器を台所に出しに来た千春がそう言った。俺は頷く。

昼食作りはいつも千春と碧流がやってくれるので、片付けは俺と烈でやる。まぁ俺に何か作れって言っても出るのはカップ麺だけどね。


「遥希も行くでしょう? 丁度休日ですし、碧流が行っても不審ではありませんし」

「姉御、メイド喫茶? だっけ。すげーな」

「着るかどうかは教えてくれなかったけどね〜」

「はるき、めいどって何?」

「あー…なんて言えば良い? 金持ちの代わりにご飯作ったり掃除したりする」

「おい言い方」


ピッと烈が濡れた指を弾く。顔に水が飛んできた。だって、間違ってはいないじゃん。


「…千春、文化祭行くの?」

「何を言っているのですか? 行くに決まってるでしょう」

「…ふーん」


千春は訝しげな表情でこちらを見ている。「何でそんな当然なことを?」って言いたいんだろうな。

もう一緒にいて十年を超える。それくらいわかるようにはなる。


「俺、行かない方がいいと思うよ。姉貴の文化祭」

「…は?」


俺にはわかる。きっと千春は、姉貴の学校に行ったら辛い思いをする。

千春だけじゃない。烈もだ。


「…いやいやいやいや、遥希何言ってんだよ。行きたくねぇの? んなわけないだろ、お前に限って」

「はるき…?」


二人が心配そうな顔で、俺と千春を見る。


「行きたいよ。だって姉貴がメイド服着るかもしれないんでしょ? それは見たい」

「なら何で」

「遥希」


千春の声が、酷く冷たい。


「理由を、話してください。くだらない理由なら、本気で怒りますよ」


桃色の瞳が強く輝く。家の中だけど、能力の使用も辞さないという意思表示だろうか。


「…言えない」


言えない。言ったら千春に、烈に、最悪な事を思い出させることになる。

Lancelotを結成して、一年。その一年を掛けて蓋をした記憶を、抉じ開けなくてはいけなくなる。


俺は。


俺は、二人が一年前に戻ってしまうくらいなら。


「理由は、言えない。文化祭は、行かないほうがいい」

「…っ、ちはる、ダメ!」


桜吹雪が、視界を覆った。



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