ごめんね
今日の夕飯は、空気が重かった。
無気力さんは話さない。碧流は心配そうにちらちら私と無気力さんを交互に見ていて、烈は何故か無言。千春も、烈と何か話をした後、必要以上に話さなくなった。
いつもの賑やかな食卓が、なくなった。
ご飯が美味しくない。鼻の奥がツンとする。
俯いたまま、もそもそとご飯を食べていると、烈が立ち上がった。
「ごっそさん。碧流、食い終わったら風呂入れよ」
「あっ、うん!」
「千春」
烈は千春の方を見て顎をしゃくった。
「…わかりましたよ」
千春は何を読み取ったのか、嘆息してから丁寧に手を合わせた。
「ご馳走様でした、お姉様。私、烈に包帯変えてきてもらいますね」
そう言って、烈と千春は階段を登って行ってしまった。
今日、皆んな食べるの早くない…?
「ごちそーさま! お風呂はいってくる!」
「あ、うん。行ってらっしゃい…」
そうして、あれよあれよという間に、私と無気力さんの二人ぼっちが完成した。
気まずいなんてもんじゃない。
「…」
「…」
ポタリと、手の甲に水が落ちてきた。
「あねっ…」
驚いたような声を発する無気力さん。
涙は止まらない。
彼が慌てたように椅子を押しやり、私の側でしゃがむ。そして、綺麗なオレンジの瞳を揺らしながら、私の頬に手を伸ばした。
「姉貴、ごめん、泣かないで」
親指で涙を拭いながら「ごめん、ごめん」と繰り返す。
「…今朝、話聞かなくてごめんね」
「えっ?」
「昨日は、何も決断できなかったのにもっといい方法があったって責めて、私、リーダーなのに…みんなの、お姉様なのに」
話を聞かなかったこと。決断してくれたのに、もっといい方法があったなんて言ったこと。
私がリーダーなのに。お姉様なのに。
「…最低だ、私」
「違う、違うよ姉貴。姉貴は間違った事言ってない。…俺、焦ってたんだ。今朝も、碧流に言わせた時も…姉貴が、いなくなるかもしれないって、そう思ったら…」
無気力さんが、私の手を握って、自分と向かい合わせになるように誘導する。
「…謝るのは俺の方だ。ごめんなさい…俺、姉貴とこんな気まずいの嫌だ」
「私、だって嫌だよ。ご飯は美味しくないし、空気だって重くなっちゃうし…」
「じゃあ、これで仲直りしよう」
そう言って、無気力さんは立ち上がり、私を抱き締めた。
ふわふわした髪の毛が耳に触れて擽ったい。高めの体温に包まれて、悲しかった気持ちが徐々に消えていく。
私も、彼の背に手を回した。
「…うん」




