沈黙が辛い。
「…」
「…」
沈黙が辛い。
学校から帰宅、リビングで尊が来るのを待っていた。
カチカチと進む時計の音が大きく聞こえる。
「…」
遅い。
おかしいな、もう学校閉まる時間なんだけど。そろそろ夕飯も準備しなきゃだし…。
「ただいまー!」
「あら、二人ともまだいたのですか?」
「もう六時だぞ。…まさか二時間も無言でいたんじゃねえだろうな」
買い物から帰って来た三人が、各々喋り出す。烈は顔をしかめていた。
うん、二時間無言だよ何か悪い?
「来ないんじゃねーの?」
「そんなことない! …と、思う…思いたい…」
そんなに文化祭の実行委員の仕事に時間がかかっているのか。
それとも、何かあったの…?
「…ねえ、やっぱり私見てくる」
「駄目だよ」
無気力さんが口を開いた。
でも、目はこっちを見てくれない。
「だって、おかしいよ。迎えに来るって言ったのに…」
「駄目だ。…絶対に、駄目」
無気力さんは頑なに首を横に振る。
どうして? 今朝、何か言いたいことがあったんだろうか。何も聞かないで置いてったから怒ってるのかな…。
ピコン、と携帯の画面が点いた。
「あっ…尊だ」
画面には『用事ができた、ごめん』の文字。
「どうです? お姉様」
「うん…用事ができたんだって」
「それでは夕ご飯を作りましょう! 千春がお手伝いいたします!」
「私も! てつだう!」
二人に背中を押され、台所へ入る。
ちらりと顧みた無気力さんは、やはりこちらを見ていなくて、俯いたまま座っていた。
* * *
「…お前、馬鹿だろ」
「烈にだけは言われたくない…筋トレ馬鹿」
姉貴が座ってた席に、烈が座る。
向かい合う形で、烈は溜息をついた。
「あれはねーわ。せっかく俺たちが話す時間を二時間も作ってやったのに、何してたんだよ」
姉貴が帰って来てから、前もって事情を話してあった烈と千春は碧流を連れて買い物に出てくれた。俺が、ちゃんと姉貴と話ができるように。
当の俺は、話す以前に目も見れなかったわけだが。
「しかも、何で急にヘタレ発揮し始めたんだよ。ちょっと前まで手繋いだり一緒に台所立ったりしてただろうが!」
「そうだね、烈は千春と手を繋ぐどころか一緒にご飯作ったこともないもんね」
「俺の話じゃねえ、今はお前の話だ」
烈がいつになくガチトーンだった。
「…いやその、タイミングがね?」
「ヘタレはすぐにタイミングのせいにしたがる」
「経験論?」
「俺の話はいいっつってんだろお前だっつの」
烈が頬をひくつかせる。
わかってる。タイミングなんて言い訳だ。だって二時間もあった。二時間、俺はなんて切り出せばいいのかわからなくて、悩んでたらいつのまにか過ぎていた。
「あと、さっきのもねーわ。嫉妬丸出し」
「…何も言い返せません」
「謝ることが増えたぞ」
「謝る前に話せないんだよぉ〜助けてよ烈〜」
烈がぐだる俺を見て、大きく溜息をついた。
「次のチャンス駄目にしたら、もう知らねーからな。後は自分でやれよ」
そう言うと、烈は小さな声で話し始めた。




