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秘密結社のお姉様!?  作者: 折上莢
かかし編
35/71

やめるんだ、こんな事

「セコンド、テルツォ!」


プリーモの行く手を二体が阻む。

正直、プリーモを奪われたのは痛手だ。僕が最初に作った子。過ごした時間も長く、戦闘の経験も一番ある。

でも、だからと言って、他の子が弱いなんていうことはない。

セコンドとテルツォがプリーモを拘束する。ギシギシと、耳障りな音がする。

頼む、やめてくれプリーモ。僕は、君を壊したくない。

声は届かないけど、そう願った。


「…暦ちゃん」


僕はクアルトとクイントを従え、暦ちゃんの前に立つ。ギリギリ魔法陣の範囲外。ここなら、洗脳されることはないはず。

暦ちゃんは、少し腫れぼったい瞳を細めた。


「何? みこくん」

「やめよう。やめるんだ、こんな事。梓は心配してるよ、だから、帰ろう」


暦ちゃんの顔が歪んだ。


「…無理だよ。私は、お姉ちゃんの所に帰れない。…エゼル様を、裏切れない」


唇を噛んで、肩を震わせる。

自分の腕を抱えると、地面の魔法陣が拡大した。放つ光が強くなる。


「駄目、私には…っ、エゼル様を裏切れない! 私に手を差し伸べてくれた、あの人を!」


まずい、と思って後ずさるが、もう遅い。

光が僕の視界を奪う。

ふいに、地面が消えたような感覚に陥った。ふわふわと、体が浮いているよう。


「…何だ、ここ」

目を開けると、そこは暗闇だった。


一寸先は闇。まとわりつくような黒。自分の体すら見えない。そもそも、僕はちゃんと目を開いているのだろうか。


「マスター」


振り返る。ぼぅっと、一筋の光が見えた。その光は広がり、闇を後方に追いやった。


立っていたのは、セストだった。


色素の薄い人工の髪が靡く。片方を黒い眼帯で隠し、もう片方の赤いドールアイが光を浴び、キラキラと輝いている。


「マスター」


もう一度、呼ばれる。

ヒールが地面を打つ。その音が、どんどん増えた。

光の中から現れたのは、残りの五体だった。でも彼女たちは、今交戦中じゃ…。


「…尊」


愛おしい、声がした。


クアルトとクイントが避ける。その奥から、梓が歩いてきた。

風が吹く。甘い香りがした。

梓に、手を伸ばしてしまった。彼女はその手を握った。


「尊」


細められた瞳に、涙がこみ上げてきた。

何をしているんだ、僕は。これは梓じゃない。

だって、彼女は。

彼女には。


「…君には、彼がいるじゃないか…」


朝、あのまま梓に能力を使ってしまおうかとも考えた。でも、僕と彼女の間に入ってきた、彼を見る目が、初めて見る色で。

その瞬間、駄目だと思った。


梓には、梓の幸せがある。彼女は幸せを見つけた。それを、壊しちゃ駄目だ。


「…梓、大好きだったよ」


口から溢れた言葉に、梓は眉を下げて笑う。

僕の手を握る、彼女のものじゃない手は、ひどく冷たかった。


***


「…ごめんね、みこくん」


私が見上げるみこくんの表情は、無。その首筋には、紫の魔法陣が浮かんでいた。

きっと、今みこくんは夢の中で、お姉ちゃんに会っている。だって、昔からみこくんはお姉ちゃんが大好きだったから。


そして知っていた。みこくんが能力を持っていたことも、お姉ちゃんを人形にしようとしていたことも。


「あ、終わった〜?」

「…慧音、遅いよ」

「ごめんごめん。ちょっと木の上が気持ち良くてさあ。ほら、今日いい感じの気候じゃない? 昼寝日和だよね!」


持参の枕を抱える慧音は無視。

私はみこくんの手に、飛行機の搭乗券を握らせた。


「…ばいばい、みこくん。イギリスでも、頑張ってね」


ふらふらと、みこくんは歩き出した。人形たちは、命令が来ないのを訝しがっている。

私は、プリーモの洗脳を切り、踵を返した。


「ちょっと待ってよ、暦」


その後ろを、慧音が付いて来る。暫くして、彼が口を開いた。


「…彼、兄妹喧嘩に必要ないって、エゼル様が言ってたよね」

「だから?」

「冷たいなー。…ね、知りたくない? エゼル様の言う『兄妹喧嘩』って、何なのか」


慧音を見上げる。彼はこちらに気付いて、笑った。


「…知ってるの?」

「いや? …別に、暦が知ってると思ったとかじゃないからね!?」


キリ。

鬱陶しいツンキリ台詞に、私は溜息をついた。

しかし、そう言われてみれば、私たちはエゼル様の目的を知らない。どうしてLancelotと対立するのかも、何も。


「…気になるよね。じゃあ、調べてみない?」


慧音が悪戯っ子のように笑う。


「僕と暦でさ。僕たちの知らない、エゼル様のことをさ」


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