私、みこくんと戦いたくない
僕と暦ちゃんの間に、砂煙をあげてプリーモが降りてくる。
「…ごめんね。僕は、イギリスに戻れない」
暦ちゃんが紫の光の中で俯いた。
そして小さな声で言葉を紡ぐ。
「…私、みこくんと戦いたくない」
「じゃあこんな事やめよう。…梓も、心配してる」
彼女の肩が震えた。そして、きらきらとした雫が地面に落ちる。
「できない。私は…私は、みこくんを、イギリスに帰さなきゃ」
魔法陣が広がる。プリーモに担がれた僕は、その魔法陣から離れたところに降ろされた。
暦ちゃんが動く。同時に魔法陣も移動する。
「…プリーモ」
暦ちゃんの能力が何かはわからない。けど、教室に来た女の子の項に見えたのは、今思えばこの魔法陣だ。
だったら系統は絞られる。操作系か洗脳系。もしくは変身かもしれないけど、彼女は僕を追い掛けてきている。変身はないと見ていいだろう。
「マスター、ご命令を」
「ああ。…プリーモ、暦ちゃんを捕まえろ。怪我はさせるな」
「畏まりました」
プリーモが飛ぶ。暦ちゃんはぼんやり立ったまま、プリーモを眺めている。
「…難しい命令だね。怪我をさせるな、なんて。あなたのマスターは無茶を言うんだね」
独り言のように呟き、手を宙に翳す。魔法陣の光が強くなった。光が、プリーモも暦ちゃんも飲み込む。
「プリーモ!」
繋がりが、ふつりと切れた。
僕の能力は、人形に命を吹き込み意のままに操る。命を吹き込んだ時、僕と人形は糸のようなもので繋がる。
その糸が、繋がりが、途絶えた。
「みこくん、あんまり部下に無茶を言っちゃダメだよ」
光が薄くなる。プリーモの頬に、紫の魔法陣が刻まれていた。
「…暦ちゃんの能力、洗脳系だね」
「うん。『夢心地』って言うの。この魔法陣に入って、私に触れられると私の洗脳にかかる」
「それ、教えちゃうんだ?」
「だって、教えなくたって教えたって、みこくんは私の洗脳下におかれるから」
すごい自信だ。僕の頬を冷や汗が流れる。
プリーモは奪われた。取り返すのは容易じゃない。もう一人、喚ぶ。
「…来い、セコンド!」
黒い髪が靡く。セコンドが着地した。
「みこくん、何人喚んでも私の洗脳下に置かれたらみこくんが不利になるだけだよ?」
「わかってる。だから、僕はこれから喚ぶ子を暦ちゃんの洗脳下には置かせないよ」
続けて、テルツォ・クアルト・クイントも喚び出す。僕の人形たちが、揃った。
「僕だって馬鹿じゃない。そう何体も、渡さないよ」
暦ちゃんの結ばれていない髪が、揺れる。
「…無駄な、悪足掻き」
プリーモが地を蹴った。




