…久し振り、みこくん
秋とはいえ、日差しはまだ強い。
僕、佐伯尊は、梓が買ってきてくれたメイド服の確認をし、メニュー案でできるものとできないものの選別、そしてかかるコストの計算をしている。
梓も残るって言ってくれたけど、気持ちだけ貰うことにした。彼女は、早く帰って仲直りしたほうがいいと思う。
計算機を叩きながら、自嘲気味に笑う。
小さい頃、幼いながらに僕は梓を幸せにすると決めた。それが、今となっては梓の幸せを奪おうとしたなんて。あの頃の僕が聞いたら怒られるんだろうな。
「…佐伯くん」
前を向くと、ショートカットの女の子が座っていた。
さっきまで、いなかったのに。音もしなかったし気配もなかった。
「…みこくん」
その呼び方には、覚えがあった。
幼馴染の妹が、今、家出している暦ちゃんが、僕のことをそう呼んでいる。
「みこくん、外で、待ってるね」
女の子はそう言って、席を立った。
去って行く彼女の項に、紫の円が見えた。
「…暦ちゃん、まさか」
僕は大急ぎで机の上を片付け始める。
地球市民は二つに分類される。能力を持っているか否か。能力を持っているのは世界でも一握り。しかし年々増えている。噂では、遺伝子に関係があるとかなんとか。詳しいことはよくわかっていない。しかし、遺伝子がどうのという話にはソースがある。
兄弟姉妹の一人が能力を持っていれば、他の兄弟姉妹も高確率で能力を持っている。
梓は能力を持っている。あの話を信じるとするなら、暦ちゃんも高確率で能力持ちということになる。
階段を駆け降り、玄関でスニーカーに履き替える。校門を出て、道路の真ん中に、彼女は立っていた。
「…久し振り、みこくん」
梓と同じ色の髪。半分だけを耳の上で結った、暦ちゃんの髪型。
「…どうしたの、暦ちゃん」
「うん。…あのね、お願いがあって」
暦ちゃんは、パーカーのポケットから紙を取り出した。
それをひらりと揺らし、眉を下げる。
「これ、飛行機の搭乗券。…みこくん、イギリスに、帰って」
彼女の目元が微かに歪んだ。
僕は半歩足を引く。家出した暦ちゃんは、どこかで足を踏み外したみたいだ。
「…嫌だ、って言ったら?」
心の中で、プリーモに呼びかける。
暦ちゃんは「そっか」と無感情な声を漏らした。
次の瞬間、足元に紫色の魔法陣が浮かんだ。光で目が眩む。その中、暦ちゃんの声が響いた。
「だったら、無理矢理帰らせるしかないよ」




