日本 方針その三
ようやく書き終わった……
「暇だ……」
翌日。オルフェウスの身分証明が出来ない為に一悶着あったが堂島の紹介により大学にて無事検査を受ける事が出来たオルフェウスが放った一言はそれだった。血液検査やレントゲンなど初めての体験が多くそれらは刺激を与えるものであったが散々付き合わされて感動などを覚えるはずもなくむしろ不機嫌になっていた。
そしてオルフェウスの待つ部屋のドアが開き、その人物を見る。
「オルフェウスさん。こちらが検査結果です」
それを受け取り、見ると専門用語がぎっしりと並んでいた。
「(なんだこりゃ……さっぱりわからん)」
漫画もまともに読めないようなオルフェウスに専門用語がいくつも並ぶ紙を見ても思考が停止するだけであり理解の理の字も現れない。故にショートしながらそこで固まっていると堂島が現れた。
「オルフェウス殿。その様子だと終わったみたいだな」
「ああ。三十分とは言え二度としたくないがな」
「まあわからなくもない……ところでオルフェウス殿、総理と約束があると聞いたのだが教えてくれないか?」
「検査が終わり次第、飯を奢ってくれるんだよ。わかったらアキヒサに連絡してくれ」
堂島が電話を出し、君島に連絡を取る。
「了解した……もしもし、総理ですか? 堂島です。オルフェウス殿の検査が終わり……えっ? わかりました。それでオルフェウス殿に何を奢らせる……それは少し……いえ、オルフェウス殿にご伝え致します」
「そう言えばオルフェウス殿、料亭はご存知かな?」
「料亭?」
「日本料理でも最高級の料理店……と認識してくれて構わない。私もその認識だしな。我々政治家は料亭で懐石料理等を食べる。政治家達がそこで食事をする理由はそれが旨い……という理由だけではない。料亭には個室があり、そこで機密情報を語り合うからだ」
「それだったらネカフェでいいんじゃないのか? あそこも個室あるし」
「確かにある。しかしネットカフェは安く済む故に誰でも入れてしまう。そんな所で機密情報を語れば間違いなく盗聴されてしまい、面倒な展開になる。私達の行く料亭はそんな人間が出入りしないように会員制になっている」
「会員制……つまり、会員でないと出入りも出来ないってことか」
「そうだ。更に言うと会員からの紹介でなければ会員になることは出来ない。私や総理は両親達の紹介で会員になれたが私は料亭というのはあまり好きではない」
堂島が政治家にあるまじきとんでもないことをカミングアウトした。
「そうなのか?」
「料亭の料理に私の好物であるプロテインがないからな」
「プロテイン?」
「筋肉を増量させる為のサプリメントのようなものだ。政治家になった今でも筋トレを続けている私にしてみれば料亭の料理はさっぱりしすぎて食べた気になれん」
「わがままだな……サダミツは」
「とにかく料亭と言うのは私は好きになれない。月に一回仕事であそこに行くだけでも税金の無駄遣いとか言われるんだぞ。他の政治家はともかく私や総理はポケットマネーで払っているのに税金の無駄遣い扱いさせるのは筋違いと言うものだ」
「俺に言うなよ。そいつらに言えよ」
「すまない。オルフェウス殿にしか愚痴れない内容だからな。それだけ料亭と言うのは高級料理店であることと、そこを指定した総理がオルフェウス殿と話がしたいということを認識して貰いたい」
「それはわかったが俺が箸を使えないことの心配はしないのか?」
「そう言えばそうだった……オルフェウス殿、箸はどのくらい使える?」
「見よう見まねなら出来る」
「仕方ない。私が箸の使い方を教えるからそれを見て覚えてくれ」
「わかった」
オルフェウス達は近くの蕎麦屋に入り、堂島が蕎麦を食べながら指導するとオルフェウスは箸の使い方をすぐさま覚えてしまう。その速さは僅か数分。理由は至って単純でオルフェウスはアニメの影響で箸で虫を掴むということをやっていた。そのアニメの箸の持ち方が良かった為にオルフェウスの箸の持ち方も良く、作法を仕込むだけで済み数分で指導が終わってしまった。
「オルフェウス君、堂島君、お疲れ様。今日は私の奢りだ。食べてくれ」
料亭に君島が一言放つ。
「頂きます」
「有り難く頂きます」
「いやぁ、それにしても愉快なものだ。ここまで上手くいくと笑いが止まらんよ」
「総理、何があったんですか?」
堂島が尋ねると君島が更に笑みを深くし、くつくつと笑い始めた。
「あれは良い狩りだった……野党のアホウ共やマスコミの無能連中を一網打尽、社会的に叩き潰して」
「一体何をしたんだ?」
「ある者には多重国籍であることを暴露させ、また別の者には秘書に対する暴言を揉み消そうとしたことを口に出させたり、代案も用意しないようなアホウ共の顔が真っ青に染まって絶望する姿は今思い出してもスカッとする」
「アホウ共ってそれも十分暴言なんじゃないのか?」
「ここにいるのはオルフェウス君と堂島君のみだ。堂島君は私に逆らっても利益もなければ不義理者となる故に暴露せん。オルフェウス君は私を総理から辞職させたら不都合なだけ。この君島彰久を嘗めて貰っては困る」
途中で何処にでもいるサラリーマンの雰囲気から総理大臣の雰囲気へと変化し、目を細める。しかし、僅か数秒でそれを止めて本題に移ろうと話を切り替える。
「まあ、そんな話は後回しにして本題といこうじゃないか」
「本題?」
「そうだ。憲法改正案をダミーにしてオルフェウス君の地下迷宮の権利を確保させた」
「確保させたって大丈夫なのか?」
「他の政治家達は呆気に取られて憲法改正のことしか頭に残っていない。オルフェウス君の権利などあろうがなかろうが憲法改正に比べれば何でもないからな。その隙を利用して確保させたということだ」
「アキヒサ、サダミツが言うには俺は公務員扱いになるらしいが大丈夫なのか?」
「それも心配ない。すでにオルフェウス君は地方公務員として登録してあって仕事に応じて給料が上がるようになっている。それに地下迷宮の構造上無理やり地下迷宮の管理をオルフェウス君以外の者に任せたりすることはできない。仮に出来たとしても堂島君の管轄に入っている以上、それを変えることは不可能だ。根本的にそれを無くさせようとする動きがあったとしてもオルフェウス君……君が実績を上げれば文句を言えないようにした。それでも文句を言いそうな輩は私が処分するから安心したまえ」
まるでゴミを処分するかのように言い放ち、箸を進めると咀嚼し飲み込む。
「堂島君、君次第で日本と地下迷宮の関わり方が決まる。……頑張ってくれ」
君島が真顔で堂島に警告すると堂島も緊迫感に満ちた顔になる。何せ相手は異世界に住んでいた魔王。それ故に未知の常識や領域というものがあって、それを堂島一人が調べなければならない。その責任の重さと重圧は計り知れない。
「はい。総理の期待に応えてみせます」
「その意気だ。堂島君」
君島が笑い、堂島も一息つくとオルフェウスが口を挟んだ。
「アキヒサ、地下迷宮の運営はいつからすれば良い?」
「明日以降だ。予想以上に上手くいったからな」
「そうか……サダミツ。地下迷宮の魔物はどうだった?」
「一般人ならかなり苦戦するが、自衛官や特殊部隊等鍛えている者達であればそつなく倒せるな」
「堂島君、戦ったのかね?」
「ええ。尤も上階層のみで後は戦っていませんが、それでも年甲斐もなくはしゃいでしまいましたよ」
「ふむ……思ったよりも地下迷宮の魔物のレベルが高いな。オルフェウス君。どうにかレベルを低く出来ないのか?」
「どういうことだ?」
「堂島君とプライベートで北海道の山奥にあるゴルフ場に行った時に4m超の熊と遭遇してな。その熊を素手で倒してしまったのだよ」
「熊? グリズリーのことか」
「概ねそんなところだ。……日本において熊を素手で倒せる人間はいない。いたとしてもこの堂島君を除けば2mもいかないような熊しか倒せないだろう。そんな堂島君がはしゃぐほどだ。魔物というのはそれに匹敵する」
「……なるほど言いたいことはわかった。だが暫くの間様子を見させてもらう。地下迷宮内では死んだとしても大丈夫なような仕組みになっているからな」
「オルフェウス君、そういうことではないんだ。肉体的には平気でも精神的に死んでしまう恐れがある」
「精神的に?」
「私は小学生時代の時に起きた飛行機事故の恐怖で飛行機に暫く乗れなくなった時期がある。その期間は10年だ。その期間の間に私はそれを克服したがそれでもやはり不安になる。わかるかね? 死ななかっただけでも死ぬ恐怖は取れない。それを死ぬことを前提にしてもらうと何が自分を襲って来たとき過剰なまでに反応してしまい、トラウマになる者が続出するだろう」
「そうなったら流石にマズイな。俺の利益にもならない」
「レベルを下げられないのであれば、徹底的に注意を促してくれ。そうすれば彼らの自己責任だからな」
「よし、それでいこう」
こうしてオルフェウスと政治家二人と会談し、地下迷宮の運営方針が完全に決まり、翌日地下迷宮が開催した。
次回からようやく地下迷宮の運営に入ります。




