転生6
孤児院に帰った私は、
大きくなった広場(もはや広場というレベルなのだろうか)、湖と三角の小山、転移魔法、治療魔法、魔法の特訓、サイラス、アルド、そして…しゃべるもふもふ…
と頭の中で無限に繰り返していた。
(夢でありませんように)
と何度も繰り返して記憶に焼き付ける。
思い返しては、時々、怖くなって真顔になったり、魔法にニヤニヤしたりと、孤児院のみんなには不審がられたかもしれない。
バクバクする心臓を押しやり、いつも通りやることをこなして、
夜、眠る前に院長の所に行った。
「あら、シオン。どうしたの?」
院長は温かく迎え入れてくれた。
温かい飲み物も淹れてくれた。
私は、思い切って今日あったこと、心に決めたことを話し始めた。
「院長、人と会話ができるもふもふって知ってます?」
「??」
院長はポカンとした。
「あ、質問間違えました。イカ耳の…じゃなくて…私は、自分の意思で、進む道を選んでも良いのですよね?」
「ええ…もちろん。みんなそうよ」
正気を取り戻した院長は答えた。
私はもふもふのことは一旦おいておき、気を取り直し、意を決して話し始めた。
「院長、私は…チョロリーノさんたちの話は、お断りします」
「あら、そう」
「お屋敷のメイドさんなんて、孤児院出身の子の働き口としてはとても魅力的なポジションだということは、わかっています。でも…私たちのことを物だとでも思ってるような人たちのところへは行きたくない…です」
俯き気味に自分の気持ちを伝え、院長の言葉を待った。
「あなたはちゃんと人を見る目があるわね」
院長の意外な反応に顔をあげた。
「…お断りしてもいいですか」
「ええ。問題ないわ。あの人たちは、ちょっと強引すぎたわね」
あっさりと答えた院長は、あれはないわね、と苦笑いした。
「そもそもどうしてここがわかったのかしら…」
と不思議そうに首を傾げた。
それから私は、
チョロリーノたちが帰ったあと、森でたまたますごい魔法を使える人たちに会って、その人の下で魔法を学ばせてもらえることになったことを話した。
「学ぶって…、あなた魔法が使えるの?」
「はい、実は…魔法を使えるようになりたくて」
院長は、目を丸くしたが、私はここ最近ずっと一人でみようみまねで練習してたことを伝える。
上手くはいかなかったが。
今日の森の爆発音は自分の魔法が失敗?したことも一応伝えておいた。
「あらあら、まぁまぁ!知らなかったわ。怪我はなかったの?」
「はい、一応…応急処置をしてもらいました」
「まあ。『応急処置』…ね。そう…」
院長は、目を細め私を見ながら何か察しているようだ。
私は、その人のもとで、魔法を学ばせてもらおうと思うこと、
森で出会って、魔法のことは詳しくは言えないけど、とにかく本当に魔法が素晴らしかったことを伝える。
「森に入れる人間…ふふ。そんなに魔法がすばらしい方に出会えるなんて、あなたはラッキーね」
院長は、訳ありを察してくれたのか、そのことについてそれ以上詳しくは聞かなかった。
ただ、不審者が来たとは思っていない様子なので、私は少し安心した。
「明日、ここに来るって言ってました」
「そう。明日…早いわね。でも、寂しくなるわ」
院長は、子どもは知らないところで成長していくものね、と一人納得していた。
「それが、12歳になるまで、ここから通っていいって言ってくれました。準備や引き継ぎもあるだろうしってことで」
「まぁ!こちらにそんなに配慮してくれる方なんて寛大なのかしら。治療魔法までお世話になって。まだお会いしてないから確実なことはわからないけれど、少しは信用に足るお方のようね」
治療魔法を施してもらったことはバレたようだが、院長は、ほっとした様子だ。
私もほっとして、一口お茶を飲んだ。
「最初の話に戻るけど、孤児院の子どもたち、みんな自分の意思で、自分の進みたい道を選んでいくの。私の役割は、孤児院の院長として、あなたたちをこの世界に馴染ませて、送り出すこと」
「まだ子どものうちに送り出さなければならないことは過酷ではあるけれど、選べる道は少なくても間違っていても、こちらから強いたりすることはないわ。自分で選んで進んで行く子どもたちは、誇らしいわ。あなたのようにね」
院長は優しい目で私をみた。
送り出す、それが、院長というポジションなんだと私は思った。
「信じられないようなことばかりなのに、私の話を信じてくれるんですね」
「もちろんよ。シオン、あなたが考え抜いてここに来てくれたんでしょう」
「はい」
「あなたは、まだまだ子どものはずなのに、時々大人のような顔をすることがある。無理しすぎないか、我慢しすぎないか、それがちょっと心配だったの。でも自分の気持ちと向き合って答えを出したのだから、もちろん、信じて応援するわ」
「ありがとうございます、院長」
本当の母親みたいだ、と思った。
信じてもらえること、応援してもらえることですごく不思議なパワーに包まれた気がした。
「とにかく、良い方に出会ったのね。魔法が使えるなんてお貴族様でしょうけど、どんな方なのかしら」
「サイラスって言ってました」
「サイラス…?」
「はい、サイラス・アルヴェスターさん」
「アルヴェスター!?あなたその方って、この町の、いえ、このあたり一帯の領主様よ!」
「りょ、領主様ー??!!!」
とりあえず、お茶を最後まで飲み干して、院長の部屋を後にした。
◇
部屋に戻るとドアの前に、カイが立っていた。
「遅かったじゃん…」
「起きてたの?」
「今日帰ってきてから、様子がおかしかっただろ。…みんなが寝てから聞こうと思ってさ」
「カイは、なんだかんだ優しいねぇ。ありがとう」
私は、心配してもらえたことが嬉しかった。
「いつものところ」
「うん」
そういってカイと私は、優しい月明かりの裏庭に出た。
「で?」
と切り出したカイに、私は、チョロリーノたちのことや、魔法の爆発のこと、森であったすごい人たちのことなど、包み隠さず今日あった一部始終と私の思いを話し始めた。
「りょうしゅ?」
「うん。なんかすごい人たちだった」
「そんな人たちに、魔法を教えてもらえるのか??!」
「うん、教わりたいと思う」
「それで魔法を極めて、魔法の仕事につくのか」
「うん!そのつもり…でも、すごく怖くなる時もある。本当に、私にできるのかなって思いもある」
「できる、シオンなら」
カイは断言した。
「困ったらおれもいるしみんなもいる。それに、すごい魔法をつかえる凄腕の人が教えてくれるんだろ」
「そうだね」
カイは、弱気になった私を元気づけながら、両手を前に突き出した。
「〜っ!」
「え、なに?どうしたの?」
「お、俺も、魔法をつかえるようにならないかな?!」
「え??」
「だって魔法なんて最強だろ?一番つえーじゃん!」
「そ、そうなのかな?」
「俺も魔法を使えれば、最強になれる」
「かも、ね?」
「そしたら、おかしなやつらをまとめて倒す」
「う、うん、すごいね…」
「そして、みんなを守る」
「うん」
「みんなで、美味しいものもお腹いっぱい食べる」
「いいね、ふふ」
「みんなで、楽しく過ごす」
「最高だね」
「シオンもどっかに行かない」
「…?」
カイは、一点を見つめて言った。
「みんなずっと一緒にいられたらいいのに」
「カイは、みんなのこと大好きだね」
「シオンもだろ。りょうしゅさまのはいりょで、あと2年はここから通えるんだろ」
「確かに、私もみんなのこと大好きだね」
孤児院は、貧しくとも、ここは居心地が良いんだろうな、と改めて思った。
「まぁおれは、魔法を使えなくても、立派で最強の冒険者になる。おれには剣がある」
「そうだね」
カイの決意は堅いようだ。
そんなカイを、私は心から応援したいと思った。
「カイ、私たちは孤児で、親がいないから早くにそれぞれ自立しなきゃいけなくて、別々の道に進んで行くけど、いつか何処かで道がまた合流してるかもしれないし、実は並走してるかもしれない」
「へいそう?なんだそれ」
「大人みたいなこと言っちゃった」
「子どものくせに」
カイのセリフが可笑しくて、気持ちが少し和らいだ。
「どこにいても何してても、大事な人たちが大事な事に変わりないなって。カイの話きいて、大事な人たちに、恥ずかしくないように頑張ろって、思えた!」
私は、正直に今思ったことを伝えた。
「おう!二人で最強になるぞ!」
「最強??」
そこまでは言ってないけど、カイはもちろん真剣だ。
「お互い頑張ろーぜ!」
私たちは、拳を合わせて笑い合った。
◇
領主様は、翌日、約束通り孤児院にやってきた。
いつもの付き人を従えて。
院長は少し緊張している様子だったが、サイラスとアルドは、院長に対しても礼儀正しく接した。
私と話したように、院長にも当分の間通いで良いことや2年後には見習いとして働く契約など、事務手続きなどについても話した。
明日から魔法の特訓を始めることになった。
そしてサイラスは、急用を思い出したと言って颯爽と帰っていった。
そのため、アルドが書類の記入などで少し残っていた。
私は、昨日助けてもらったことやこれからお世話になることへの感謝を伝えようと、アルドのところへ行った。
「アルドさん、今いいですか?」
「ああ…怪我の具合はどうだ」
アルドは顔をあげずに答えた。
「問題ありません。昨日は本当にありがとうございました。今日も本当に来てくださって…」
アルドが少し顔を上げて私を見た。
「あの方は、突拍子もない方だが、約束を破るようなことはしない。まぁお前を選んだことが正しいかどうかは知らんが」
「…」
私はなんとも答えられず、沈黙が流れた。
「はぁ、しかし、また撒かれたか…」
「え?」
「いや、なんでもない。いつものことだ」
アルドはぼやいた。
「やると決めたからには、お前も簡単に弱音を吐かないことだな。あの方の元で学びたいと希望するものは、五万といる」
「はい…お世話になります…」
(そ、そうなんだ。そんな人たちを飛び越えて、私は教えてもらうことができるんだ…できるかな、私に…私なんかに時間を割いてくれるなんて、本当にいいのかな…)
そんなことを思って不安でいっぱいになった私は、うつむいてただただ床をじっと見た。
「顔をあげろ」
そう言われ顔をハッと上げると、アルドは私の目を真っ直ぐ見つめて言った。
「下を向くな。どんなことがあっても。俯いてる暇はない」
アルドの言葉は、私の心にすごく刺さった。
(やるって決めたんだ!こんなチャンスはない。この世界で、魔法を使えるなら、とことんやってみよう!)
「…はいっ!」
私も、アルドの目を真っ直ぐ見て返事をした。
「…チッ」
(舌打ち!??)
アルドは、壁の向こうを見た。
「…何か嫌な気配が近づいてきたな」
嫌な気配、それは本当だった。
私にとっての悪魔がやってきていた。




