転生7
部屋の外が騒がしくなってきた。
やけに忙しない足音が部屋の前で止まり、勢いよくドアが開いた。
バタン!
「ごきげんよう!」
今日も胡散臭さ全開のスマイルのチョロリーノが登場し、その後ろには、どでんとウスイーノが立っている。
(いや、大人なのに、ノックとかどうしたよ...)
と思っていると、院長が後ろから慌ててやってきた。
「困ります!お二人とも!勝手に中まで入られては。お客様もいらっしゃいますし…!」
(え、勝手に入ってきたの。不法侵入じゃん…)
少しびっくりしたが、院長の慌てぶりを見ていると、なぜか冷静になる。
「客!こんなちんけな孤児院にこんなに良い話しを持ちかけているんですよ。我々以上の客などいません!」
と、チョロリーノは暴言を吐いたが、そんな事言っている人のところに誰が行きたいというのだろう。
余計心象を悪くしているだけな気がしたが、とりあえず黙って見ていた。
チラッとアルドの方を見ると、アルドは机の上で一人黙々と作業していた。
シャットダウンが素晴らしいな、と少し恨めしい目線を送っておいた。
「院長、昨日も言いましたが、この手の話しはとにかく早く進めた方がいいんです。こんなチャンスまたとないでしょう。その子にとっても、良い事でしょう?」
「いいえ。昨日も申し上げましたが、それを決めるのはこの子です!」
院長は、私のそばに来てギュッと肩を抱いた。
「ふん!どうせこんなガキ…子どもに、この重要性がわかるわけないでしょう!私たち大人が決めればいいだけのことです」
決めつけで話を進めようとするチョロリーノたちに、院長は困り果てていた。
「こほん。あの、私、お断りいたします」
私は、収集のつかなくなった会話に参戦してみた。
「はぁあ!?正気かあ?いや、わかってない。全くわかっていませんね!一生安泰のポジションですよ?断る意味がわからない」
(こっちは、あんたのその断る意味がわからないと思っていることがわからないけど)
確かに、仕事内容や待遇だけ見れば、とても好条件なのは間違い無いだろう。
何を優先したいか、それは人によって違う。
お給料、福利厚生の充実、休日日数、仕事内容、通勤距離、人間関係、やりがい、プライベートを優先できるか、勤め先の知名度?
何を優先させたいか、本当に色々な理由があるだろう。
(…私は。私は、せっかく魔法が使えるのなら、魔法を極めたい!たとえ魔法を使う仕事に就けなくても、あんたらのために、自分の労力を費やすことはないんだよ…)
「お前のためを思って言っている」
突然、これまで黙っていたウスイーノも、口を開いた。
「お前は、うちにくればいい。そうすれば、幸せになれる。大人の言うことを大人しく聞いておけ」
「私のような孤児に、仕事や住む場所まで保証し与えてくださるのは、とてもありがたく貴重なお話だと理解しています」
「ならば」
「足を運んでいただき、本当に申し訳ありませんが、私は、このお話をお受けすることはありません」
と、丁重にお断りした。つもりだったが、もちろん伝わらず、チョロリーノはキレた。
「お前…いい加減身の程をわきまえろ!お前は断る立場にない!さっさと書類にサインしろ、もたもたするんじゃない!」
丸めた書類を握りしめ、ズカズカと近づいてきたチョロリーノは手をあげた。
「…チッ」
アルドの舌打ちが、やけに大きく聞こえた。
「な…!舌打ち!?誰だ、お前は!ウスイーノ様もおられるのに、失礼だぞ!」
チョロリーノは、振り上げた書類でそのままアルドを指した。
「はぁ…失礼なのは、いったい、どこのどなたでしょうね」
アルドは作業をやめ、立ち上がってチョロリーノとウスイーノを見据えた。
「っ…なに!?そんな口をきくとあとで痛い目にあいますよ?」
「そんなことはどうでもいいが、彼女は、我が屋敷で教育することとなった。すでに書類に、双方のサインが済んでいる。貴様らの話を受ける筋合いはない」
「いつからそんな話が!?聞いていないぞ!」
アルドに威圧されたチョロリーノは、院長と私を見て怒鳴った。
「先程から、彼女に決定権があると言っているだろう。理解できんのか?」
「…くっ!そんなのは許されないぞ!どこの馬の骨とも知れないやつに…!いいんですか、院長!!あとから、こちらに泣きつかれても遅いんですよ!」
(どこの馬の骨って…いつから私の父さんになったのか…いやだようこんなお父さんは)
「この子が決めたことです」
院長が、再び力強く口を開いた。
「手続きは、もう済んでおります。失礼を承知ですが、この子のことで今後ご迷惑をかけることはないでしょう。どうぞお引き取りください」
「…っ!!」
院長の態度にチョロリーノは少したじろいだ。
その時、ウスイーノが前にでた。
「お前は、私のものだ。他のやつには渡さない…!!」
静かにキレていたウスイーノが、手を上げて何かしようとした。
その一瞬でアルドが動き、何かを弾いた。
チョロリーノは、わけがわからず目をパチクリしている。
(今のは、なに…?)
「ほぅ…力づくで連れて行くつもりか?」
アルドの声の威圧が、一段と増したようだ。
「それならば、こちらも力で返そう。ちょうどいい。お前たちは不法侵入者なのだろう」
そう言ってアルドは2回しっしっと腕を振ると、廊下の窓が空き、重量物のウスイーノがゆっくりと持ち上がり、そのまま窓の外にフェードアウトしていった。
「わお…!」
思わず私は声を上げた。
窓の外から地面をズズズズーと滑る音がした。
強制退場したウスイーノは何が起こったかわからないだろう。
(あれも魔法…??あんなに簡単に…って、ウスイーノにあんなことして大丈夫なのかな)
ちらっとアルドの方を見ると、思ったことが顔に出ていたのか、しれっと説明してくれた。
「問題ない。俺の魔法には1ミリの狂いもない。骨は折らず、多少スピードをつけて、地面を滑るように着地させておいた。悪趣味な洋服を新調するのにちょうどよかろう」
いや、その心配じゃないんだけど…まいっか。
チョロリーノの方は、目を見開きアルドを見ていたが、ハッとし慌てて強制退場のウスイーノを追いかけて、自ら退場していった。
◇
翌日。
今日から魔法の特訓が始まる。
午前中は、やるべきことを分担しできるように、みんなに教える。
お昼を済ませたら、サイラス邸へと向かう。
昨日渡された子どもの手のひらにも乗るサイズのコンパクトな物体。
「ん?どうやって使うんだ…??」
昨日の一悶着の後、アルドからこれを渡された。
『先ほど、作っておいた。こいつが邸まで案内する。明日はこれがあれば一人でもこれるだろう。』
と言われ、使い方の確認もせず頷いてしまった。
なにせ、あんなドタバタ劇があった後だ。
気が抜けて確認を怠ってしまったのだからしょうがない。
「手のひらに乗せるんだぜ」
「うわ…っ!」
私は突然声をかけられて驚いた。
足元を見ると、いつものもふもふがいた。
「もふもふ!どうしたの?こんなとこまで!?」
「お前、あの人の屋敷に行くんだろ。俺がついてってやるよ。」
(なんで知ってるんだろ?てか、もふもふいると目立たないかな?)
と内心思いつつ、相棒がいれば心強い。
何せ、領主の屋敷など本当に存在しているのかまだ疑っているくらいだ。
まぁ今日は、道順の確認が優先なのでランニングもしなくてもいいし、
到着後も、屋敷の案内や魔法の特訓とマナー教育の説明だけということなので、まずは辿り着く事が大事なわけだ。
「お願いします!」
私は、もふもふに頭を下げた。
「おう!まずは、手のひらにそれをしっかり乗せろよ」
「はい!うわ!なんかでてきた…!」
手に乗せると、盤面にふわっと矢印が浮かび上がった。
「まじか、これ、ルートナビ??どうなってるのこれ」
私は、立ち止まっていろんな角度から眺めた。
昨日チョロリーノたちが来た時にしてた作業は、これか!と理解した。
あの短時間に作成していたのだ。
「これが、魔道具…祝!人生初魔道具!!」
なんだかとてもワクワクするものだ。
一人ニヤニヤしていると、先に歩き出したもふもふが叫んだ。
「おい!いいのか?そんなことしてて、置いてくぞ!」
「わ、ごめん!待って、行くから!」
二人…一人と一匹はサイラス邸へと歩き出した。




