転生4
あれから数日、時間を作っては森で魔法の練習を重ねている…のだが、残念ながら進歩という進歩は見られない。
孤児院には、魔法に関する本もなく、院長も魔法に関してはさっぱりのようで、お手上げ状態だ。
「キュ〜」
膝の上では、いつものもふもふが気持ちよさそうに目を細めている。
相変わらず、天使レベルで可愛い。
「のんきだな〜」と言いながら、遠慮なく撫でまくる。
「はあ…もし本当に私が魔法を使えたら、絶対魔法を使う仕事に就きたいんだけどなあ」
魔法を極めればなんだってできるんじゃないか。
孤児院ルート(?)の人生もましになるんじゃないか。
なんて考える。
他のところはわからないが、私のいる孤児院では、12歳までに仕事を見つけて自立し孤児院を出ていかなければならない。そのため外の大人がたまに孤児院に出入りすることがある。
養子に迎えられる子どももいるが稀で、ほとんどが12歳で追い出される形で孤児院を出る。
そのあとは、個人の責任となりなかなか定職に就けない子も多いとか。
前世の知識的にも、魔法を使う職業なら間違いなく高給取りなはずで、イメージとしては公務員的な安定職ではないかと期待してしる。
平民で魔法が使えるとなると、貴族と色々なごたごたもでてくるかもしれないが、魔法を上手に使えるなら、良いように使われたりせずにすむかもしれない。
平民上がりだからと多少虐められたとしても、一回死んでる身としては痛くも痒くもないはず。
それにガッツリ稼げるようになったら、少しだけかもしれないけど、この孤児院の設備を整えたりみんなに美味しいものをお腹いっぱい食べさせてあげたい。
幼馴染のカイも、そんな風に思って冒険者になるなんて言っているみたいだ。
「キュ!」
「もふもふに言っても仕方ないかあ、よしよし」
つぶやきながら、またもふもふの毛並みを撫で回した。
◇
別の日。
私は院長に呼ばれ、院長室を訪れていた。
扉を開けると、そこには見知らぬ外の大人が二人ソファに腰掛けていた。
うわ、何この嫌な予感しかいない空気…
「やあやあ初めまして!君がシオンちゃん!商人ギルド所属で職業斡旋・仲介者のチョロリーノと申します。今日は君の就職先の紹介に来ましたよ」
胡散臭さが満載の営業スマイルで、妙に馴れ馴れしい男が話しかけてきた。
もう一人は、豪華な服を着たでっぷり体型のギラギラと着飾った無口な中年の男。
え、どういうこと?と驚いた私は、院長を見る。
院長も少し困惑気味の様子だ。
斡旋・紹介…?
というか私、この間10歳になったばかりなんですけど。
とにかく院長を見つめる。
「一旦、お掛けください。ええと、この子はまだ10歳になったばかりでして、他に数名12歳を迎えようといている子どもたちもおりますが…」
困惑気味の院長が、できるだけ丁寧に話す。
「ええ、存じております。ただ、ご同行していただきましたこちらのウスイーノ様たってのご要望がございまして、今回このようにお伺いした次第です」
紹介された中年の男は、でっぷりとした体をさらに膨らませ、無言のまま見下ろしてくる。
「君が、町で買い出しかな?ひとりで熱心にお遣いをこなす姿を見かけて、心を打たれたそうですよ。それでぜひウスイーノ様のお屋敷で働かないかとのことです」
どう見ても胡散臭いチョロリーノが、ヘラヘラと書類を差し出してくる。
待って、ちょっと待って。
町への買い出しなんて、たまのたまのたまにしかいかないのに何でそんなことに!?
なんとなくあと2年でなんて考えてはいたけど、こんなに早くに出ていくことになるの?
孤児院という時点で仕方ないとはいえ、ワンチャン、魔法が使えたら…なんて夢を見ていたのに。
「こんなに幸運なことはありませんよ」
一層胡散臭い笑顔を見せて話を進めるチョロリーノ。
「仕事内容も保証も申し分ないですよ。お仕事は、もっと広いお屋敷ですが、ここでやっていることと同じような内容ですし、メイドとして働いて、食事も出るし相部屋だけどベッドで眠ることがでる。もっと過酷な職や定職に就けない子どももいる中で、こんなに良い条件は他にないと思いますよ。それに、この話が決まれば孤児院にも寄付金を出してくださると、ウスイーノ様は仰られています。特に問題がなければこのままこの話を進めさせていただければと」
畳みかけるような営業トークに、しばし呆然とする。
確かに、孤児院の子どもの就職先として「食事・部屋付き」のお屋敷メイドというポジションが保証されているというのは破格かもしれない。
でも…勝手に決められて、寄付金と引き換えに、私は連れていかれるの??
「あ、あの、少しお待ちください。」
それまで黙っていた院長がおずおずと口を開く。
「本日は、あくまで面会をというお話のはずですが…」
「いやいや院長、こんなに良い案件は本当に少ないんですよ。決めるなら早いほうがいいに決まっています。この子にとっても良いことしかないんですから。」
院長も、胡散臭さを感じ取っているのか、すぐに返事はしなかったが、チョロリーノはそのまま話を続けた。
「別にいいんですよ、またとない貴重な案件ではありますが、こちらとしてはご縁がなかったということになっても。ただこちらにお越しいただいているウスイーノ様たってのご希望で、しかも善意でということで、急いでこちらに話をお持ちしましたので、そこも汲んでいただけると」
と露骨にYESの答えのみを迫ってくる。
相手は権力を持った大人。断りきれずに押し切られてしまいそうだ。
私は、縋る思いで院長を見つめた。
行きたくない。
ギュッと拳を握りしめたその時、院長が意を決したように口を開いた。
「…申し訳ありませんが、少し検討させてください」
「なっ…!院長、正気ですか!?」
「ええ、すみません。ありがたいお話だとは存じますが、この子が孤児院を出ないといけなくなるまであと2年弱の猶予があります。この子なら自分できちんと考えて後悔のない答えを出せるはずです。ね、シオン?」
院長が、優しく微笑んで私をみながら言った
希望を聞いてくれるんだ…
涙が出そうになるのを必死で堪える。
院長の毅然とした態度に、ウスイーノがイラッとし始め、チョロリーノは長居しても仕方ないと思ったのか、「それでは良いお返事をお待ちしてます」と言って、二人は帰って行った。
「院長、ありがとうございます、私…」
「いいのよ、シオン。突然のことで驚いたでしょう。私が事前にもっとよく確認しておくべきだったわ。あなたに怖い思いをさせてしまってごめんなさいね」
院長も予期していなかった展開となったが、一旦返事を保留してもらえたことに安心したが、せっかく転生したものの、自分の人生を自分では決められないかもしれないという不安が大きくなった。
その後、不安を押しやってなんとかやるべきことを終わらせた私は、逃げるように孤児院を飛び出した。
◇
向かう先は、私の大好きな場所、私だけの聖域。
駆け込んだ私の様子を、もふもふが心配そうに見ている。
「…嫌だ…、あんな…大人に…勝手に決められるなんて…!」
私は、今の気持ちを吐き出した。
品定めするような、ただ『商品』を見るようなあの目は、とても信用できない。
森の中の小さな広場に駆け込んだ瞬間、押さえ込んでいた不安と恐怖が一気に溢れ出した。
お屋敷のメイドのポジションが保証されてるとしても、ウスイーノのお屋敷なんて…絶対ない!
今まで面識もない、なんの関わりもなかった人間に、チョロリーノなんかに勝手に決められて、押し込まれるなんて……絶対、嫌だ!!
前世でお人好しすぎて、他人の分まで無駄に働いて、誰のために死んだのかもわからない自分。
せっかくもらった二度目の人生なのに…!
もう、どうでもいい誰かのためになんてならない!
もう、何かの役に立たなくてもいい!
「私の居場所は、私が自分で決めるんだからーーーーー!!!」
涙目で叫びながら、不安と恐怖を一気に押し出すように、両手を空に突き上げる。
体の奥から湧き上がる流れに全部を委ねた、その瞬間。
ドッッッッッガァァァァァン!!!
「うわっ!きゃっ!??」
「キューーーーーー!!??」
天を貫きそうな炎のような光柱が立ち上り、
あたり一帯がゴゴゴゴゴーという音に包まれ振動し、一部が三角に隆起した。爆風が吹き荒れ、木を薙ぎ倒した。そして一瞬の静寂ののち、晴れた空からキラキラと雨が降り注いた。
吹き飛んだ勢いでぶつかったシオンは、しばらく気絶していた。
◇
ドッッッッッガァァァァァン!
ゴゴゴゴゴー
ゴロゴロピシャン!
ザザザザザー
大きな音と急な天気の変動に
町の人々は驚いた。
「な、なんだ今のは!?」
「森の方からだぞ!」
「……森か」
「……森だな」
「森なら、まあ……しょうがねーな」
「だな。とりあえず警備だけ強めておくか」
とあるお屋敷にて
「サイラス様、今のは…」
「ふむ。あの森であんな魔法をぶっ放す愚か者がいようとはな…」
「人を遣りましようか」
「いや、私が行こう」
サイラスと呼ばれた初老の男は、森の方を見ながらつぶやいた。




