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半血魔王のクロニクル<年代記> ~魔界で一番外道な貴公子~  作者: 古弥須 凱
第一部 黒き貴公子と贖われぬ花嫁
29/47

27話 忠義の仮面

挿絵(By みてみん)



エドマンドは、粗末な使用人用のベッドに腰掛け、お互いを激しく求め合っている双子の淫魔・リリアとソフィアを眺めていた。


銀縁の眼鏡を押し上げながら、淡い灰色の瞳に、いつもの無慈悲な光が宿る。


魔界からこの王国に戻った瞬間から、ルシエル公爵の第一従者(ヴァレット)、レジナルド・チェンバースという存在は彼の中から消えていた。


彼は、王太子の召使エドマンド・グレイだ。


人間界では決して外さない仮面――それが彼の忠義の証明(あかし)だった。


そして双子たちは――ただ本能のまま、淫らに、激しく求め合うだけ。

 

魔界でルシエルの愛玩物(ペット)として奉仕するために生まれた、この可愛らしい生き物は、たった一夜の渇きも耐えられない。


人間としての寿命を吸い上げられながらも、彼女たちと夜を過ごし、奉仕(ケア)してきたレジナルドだが、今夜の彼は、その淫らな日常には加わらなかった。


ルシエルの血を受けて王宮に戻った後、彼は双子との交わりを絶つことを決めていた。


限られた人間としての寿命。そのすべてを、ルシエルの為に使う覚悟が出来ていた。


そのためにこの忠実なルシエルの第一従者は、淫魔(サキュバス)の仔と交わる――寿命をすり減らすような行為を自らに禁じたのだ。


ただ、目の前の光景を眺めてはいた。


しかし誰も知らない彼の内面で、一瞬、エドマンドという仮面が、粉々に砕け散りそうになる事実(こと)を自覚してもいる。


息を殺して眼鏡を直す手が、微かに震えた。


 


 

双子が余韻からようやく体を起こした頃、エドマンドは部屋の隅の椅子に座り直し、静かに口を開いた。


「ルル、私が不在の間の、リーザ姫の様子を教えてくれ」


ソフィアはベッドに肘をつき、髪を指でくるくる巻きながら答える。


「うーん、普通に可愛かったよぉ♡」


ぴょこぴょこと尻尾を跳ね回しながら続けた。


「レジナルドさんがぁ、出発した日にぃーリーザちゃんはアンナさんと、ずっと二人で話しててぇ、アンナさんは泣いてた……。でも、リーザちゃんが優しく抱きしめて、肩をだいて慰めてたの見たよ」


リリアが小さく頷き、補足する。


「……アンナさん、すぐに暇を取って出て行っちゃったみたいです。それからは私たち二人が、直接リーザ姫の身の回りのお世話をしています」


エドマンドの眼鏡の奥で、淡い灰色の瞳がわずかに細まる。


「詳しく話しなさい」


ソフィアが楽しげに続ける。


「リーザ姫、すっごく優しいよぉ♡……ぜんぜんツンツンしてないしぃ~フツーに笑ってくれるからうれし♡


私たちに『ありがとう』って言ってくれるし、仕事中に疲れてベッドで眠っちゃったのに、寝てていいよって怒らなかったんだ♡


昨日なんて、リリアも誘って3人で一緒に昼寝したよぉ♡リーザちゃんはお姉ちゃんみたい♡撫で撫でしてくれたよ~♡」


リリアは頰を赤らめ、恥ずかしそうに目を伏せる。


「……リーザ姫の匂い、甘くて……安心するんです。


私たちの出したお茶もお菓子も、何も疑わずに喜んでくれてます。


最近はアレクシス王太子にも、親しげに声をかけていて……『今日はいい天気ね』とか、『一緒に庭を歩きませんか』とか……すごく明るくなってます」


エドマンドは無言で聞き終える。


指先で眼鏡の縁を軽く叩きながら、静かに呟いた。


「……疑わない、か」


エドマンドは振り返り、冷たい視線を双子に向ける。


作戦は怖いほど順調に進んでいた。


媚薬は少しずつリーザ姫のなかに蓄積し、人間界のどこにいても、ルシエルの夢と繋がる状態になりつつある。


精神が呼応し、魔力の力を借りて固く結び合えば、いずれ媚薬なしでも彼らの夢は固く結びつき、離れられなくなるはずだ。


悪いことではない。ただ……不自然だ。


実際に、リーザが優しい視線をアレクシスに送ることで、王太子は舞い上がっており、今になって進行している彼女の政略結婚に難色を示しだしている。


小議会は混乱し、リーザの叔父である国王と王太子の対立が激しくなるだろう。


(……まるで時間稼ぎだ)


リーザの本心はわからなかった。


ルシエルはすでに4度彼女と夢の中で交わり、すでに彼女の肉体を手に入れたと言っていた。


だが、言葉を変えれば、リーザ姫は彼の求婚を少なくとも4度、拒んでいることになる。


ルシエルは穏やかに、彼女への愛の深まりを語っていたが――。


何もかも完璧に組み合わされたパズルの中に、たったひとつ空白があるような、エドマンドのなかに言い様のない暗い不安がよぎった。

▼次話

28話 女性のあしらい

挿絵(By みてみん) 

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