↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半血魔王のクロニクル<年代記> ~魔界で一番外道な貴公子~  作者: 古弥須 凱
第一部 黒き貴公子と贖われぬ花嫁
25/45

23話 征服者

挿絵(By みてみん)



夢の扉がどこかで、音もなく、しかし確実に開いた。

 

リーザは瞬間、体が凍りついた。


――ルシエルが、夢に入ってきた。


逃げなければ……あの子(ルーク)が教えてくれた秘密の隠れ場所へ。


長い回廊を下った、その先にある図書館の古い書架の奥、埃っぽい隠し扉。


そこに立っていたのは、あの黒い髪の少年だった。


壊れそうな脆さを持つ紫の瞳。涙の跡が頰に残り、唇が震えている。

 

「リーザ……ごめん……あいつが来るのを、俺は止められなかった」

 

声は震え、まだ幼さを残した少年のままの涙に、リーザの胸が、鋭く痛んだ。

 

たとえリーザが赦したとしても、ルークの胸の奥にはまだ、あの苦しみが生々しく残っている。


ルークはかけ寄り、その腕でリーザの頭を抱いた。


2人の背丈は、ほとんど変わらなかった。

 

震える声で、リーザにすがりつく。


「リーザ……俺は、怖いんだ。お前がどんどん、俺を嫌いになるのが……」


彼の悲しみに、胸がいっぱいになる。


「ルーク……私は貴方を赦したわ」

 

しかし、次の瞬間――


ルークに身体ごと、強引に抱き寄せられた。

 

「ま、待って……ルーク……?」

 

リーザの声が震える。

 

ルークは顔を上げ、涙を浮かべたままやさしく微笑んだ。

 

「リーザ……俺を赦してくれてありがとう。


だから……今度は俺を、受け入れて……」

 

ルークの唇がリーザの首筋に触れ、吸う。


リーザの体がびくんと震える。


「いや……やめ、やめなさい……ルーク!」


ルークはやめなかった。拒むリーザを固く抱きしめたまま、強引に唇まで奪う。


(違う……これはルークじゃない……こんなこと……)


リーザが酸素を求めて呼吸しようとしても、黒髪の少年は許さなかった。


「逃げないで、リーザ」


「あっ……! ルーク……やめて……」


「リーザ……好きだよ……俺……お前を……ずっと……。

だから、もう一度言ってくれ。俺を赦すと。頼む、俺を赦す、と言ってほしい」


リーザは早くなる吐息の中で、力無く抗う。


「俺を赦すと言って、リーザ……」


少年の息づかいはより残酷に、甘くリーザを突き動かしていく。


「……ゆ……るすわ……」


リーザの声は途切れ、かすれる。


彼女は美しい眉を歪めて、声を絞り出した


「あ……あなたを赦すわ……ルーク……」

 

ルークはなおも、うわごとのようにリーザの耳元で囁いた。


「今の俺は……化け物だ。でも……お前は赦してくれた。


お願いだリーザ……俺を全部受け入れて……俺の全てでお前を満たしてあげる。


リーザ、お前とずっといたい。ひとつになりたいんだ」


「あ……だめ……ルーク……」


リーザの拒む声は弱々しく、いつしかルーク自身を求め始めている。


「リーザ……リーザ……俺を受け入れてくれ。何度でも……」

 

「あぁぁっ……! ルーク……だめ……っ」


しかしもう、ルークの両手で頬を掴まれていた。


悪魔の接吻——


その美しい紫の瞳に魅入られて、気高い人間の姫君としての誇りを、リーザは保つことが出来なかった。



 


荒く呼気を乱しながら、そのまま力なくぐったりと、リーザは少年に組み伏せられていた。


「ルーク………貴方とこんなことになりたくなかったわ…でも私は赦してしまった……


もうこのまま私の夢から立ち去って。


――私のことはもう忘れてほしいの」

 

ルークの孤独を身体で受け止めながら、リーザ自身の孤独を彼に委ねたのがわかった。


「……俺はいやだ、リーザ」


冷たい拒絶の声だった。


「お前は俺のものだ、もう手放さない。——永遠に、俺のものだ」

 

次の瞬間――


ルークのなかから、幼さだけが消え失せた。


ふたたび、彼がその紫の瞳を開いたときには、その容貌は美しい魔王のそれへと変わっていた。


リーザを組み伏せているのは、まぎれもなくルシエルその人だった。

 

「いや……っ」


「お前の知っているルークはもういない。……もともといないんだ、リーザ。お前が赦したのは、俺自身だ」

 

ルシエルは、声も出せないでいるリーザの唇に、強引に自分のそれを重ねた。


(ルシエル……!!)


彼女の恐怖と拒絶の念を感じながら、ルシエルは低く、昏く笑った。


(今度は、ルークではなく俺を受け入れろ。お前自身の意思でなくていい。もう俺を赦しただろう)

  

リーザは涙を流しながら、ルシエルから逃れようと身をよじった。


「……ひどい……貴方を赦した覚えなんてない」


「だがもう、お前は逃げられない。さっきまでのお前は愛らしく、素直だった。俺をもう、愛し始めていたな」


「……勝手な理屈だわ」


彼女をじっと見つめる、紫の美しい瞳を見ることが出来なかった。


ルシエルという美しい悪魔が与える——その感覚のすべてがリーザを苛んだ。


ルシエルの唇に求められるまま、舌を絡めた。


「……リーザ、俺のものになれ」


リーザは答えなかった。


「リーザ、俺を愛するだけでいい。そうすればすべて、叶えてやる。言え、俺を永遠に愛すると」


「貴方は可哀想なひとだわ」


「今日は肉体だけを貰っていく。それだけでも、俺は昂まる――」


これは夢だとわかっている。


ルシエルがリーザの首筋に歯を立て、強く吸い——耳元で冷たく囁いた。


「お前は、もう俺のものだ……永遠に、俺のものだ」


 

 

 

夢の図書館に、甘い喘ぎと魔力の脈動が満ちる。

 

悪夢はいつまでも、閉じなかった。


ルークとルシエルの声が重なる。


「この夢は終わらない。お前が俺を愛すると決めるまで、幾夜でも続く――」


そして最後に、ルシエルはリーザを抱き寄せ、長い接吻(くちづけ)を彼女に与えた。


「……お前は初めて、俺のものになったぞ、リーザ」


ルシエルは美しい獲物を抱き、ついに手に入れた、己の勝利に酔いしれていた。

▼次話

24話 託されたもの

挿絵(By みてみん) 

------------------


ブクマやリアクションをいただけたら、作者が泣いて喜びます。

評価がまだの方は、★★★★★にチェックいただけると嬉しいです。


                 ▼


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。