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半血魔王のクロニクル<年代記> ~魔界で一番外道な貴公子~  作者: 古弥須 凱
第一部 黒き貴公子と贖われぬ花嫁
21/43

19話 悪い友

挿絵(By みてみん)



ルシエルは一人、外廊下の傍らに立ち尽くしていた。


蒼い月が冷たく照らす中、肩を落とし、血の滲んだ拳を握りしめたまま動かない。


「おい、ルシエル」


軽い、馴れ馴れしい声が響いた。


振り返ると、そこに立っていたのはマルコキアス――マルコ。


赤髪に赤銅色の瞳、いつも軽薄な笑みを浮かべる男。


彼も参内していた一人で、大広間の隅からルシエルの様子を苦しげに見つめていた。


マルコはルシエルよりやや低位の貴族だが、幼い頃からの付き合いだ。


彼は軽く肩をすくめて近づき、ルシエルの血まみれの手を見下ろす。


「またアスモデールにやられたな――マジでひどかった。あの野郎、今日めちゃくちゃ調子乗ってたぜ」


ルシエルは視線を逸らす。


マルコは大げさにため息をつき、友の肩に軽く手を置く。


「俺も参内してたけどさ、隅っこでしか見られなくてよ。何もできなくて……マジで申し訳ねえわ」


ルシエルは小さく息を吐く。


「ああ」


マルコは少し声を落としつつ、軽薄に続けた。


「ま、いつものことじゃん。今夜はもう、屋敷に籠もるのやめろよ。ぱーっと気晴らしに付き合えって」


ルシエルは冷たく返す。


「……気晴らしなど必要ない」


「嘘つけって。お前、今めっちゃ誰かを壊したくてウズウズしてる顔してるぞ、マジで」


マルコはにやりと笑った。


「知ってるか?【天界の悦楽(ヘブンリープレジャー)】って社交場(クラブ)


今、マジで流行ってるんだぜ。


中位貴族の連中が毎晩のように集まってさ、『天界の悦楽で一晩中堕ちてくる』って自慢しまくってる。


最近は上位の若手貴族もこっそり通い始めてて、入口の結界が混んでて入れない奴も出るくらいだよ。


媚薬の煙が濃すぎて、フロア入った瞬間に理性飛ぶって評判で、VIPルームは予約で埋まってるらしいぜ。


お前が行けば、みんな『あの公爵が来た!』ってざわつくし、俺もお前のおかげでいい席取れるから、一石二鳥だろ?」


ルシエルは小さく鼻を鳴らす。


「……くだらないな」


「くだらないって言うなら、行ってみろよ。お前みたいな完璧主義者が、あのヤバい霧の中でどうなるか……俺も見たいんだよ、マジで」


ルシエルは一瞬、拒絶の色を見せる。


だが、胸の奥で黒い炎が燃え上がるのを感じた。


淫魔の双子(ペット)たちを人間界へ手放して、時間が経っているのもあった。


「…ふん。くだらないが…少しだけだ」


マルコは満足げに笑い、指を鳴らすと、闇の中から黒い馬車が音もなく現れる。


魔力で浮遊する車輪のない馬車、漆黒の馬が引く。扉には公爵家の紋章が薄く刻まれている。


マルコは扉を開け、ルシエルを先に押し込む。


「ほら、乗れ乗れ。お前の馬車なら専用入口(エントランス)の扱いも断然違うぜ。今日はお前の好きにしていいからな」


ルシエルは馬車に乗り込み、暗い窓の外を眺めた。


マルコは向かいの席に座り、軽く足を組む。


「【天界の悦楽(ヘブンリープレジャー)】はガチでヤバいって。今マジで魔界の若手貴族の間でバズってるぜ。


俺、前にフロア行ったとき、入った瞬間媚薬の霧で頭、真っ白になって、気づいたら隣の女魔族に尻尾絡められて腰振ってたわ。


マジで理性が飛んで、朝まで抜け出せなかったもん。


みんなガンガン踊りまくって、密着して、胸押しつけ合って……もう完全に獣みたいになってたわ〜」


ルシエルは無言のままだ。


「VIPルームは俺まだ入ったことねえんだけど、噂じゃ黒いベッドが浮かんでて、鏡張りで360度丸見えらしいぜ。


めちゃエロの淫魔娼婦がいっぱい待ってて、翅で包み込んで、尻尾で縛り上げて、喉奥まで咥え込ませて……。


あそこじゃ一晩で何人堕とせるか、競い合ってるってよ、いやーマジで楽しみだわ」


マルコは興奮冷めやらない様子で笑い、馬車の窓から外を指す。


「ほら、もうすぐ着くぜ。準備しとけよ、ルシエル。


天界の悦楽(ヘブンリープレジャー)】で、ガンガン女を抱いて、そのくだらねえプライドもぶち壊して、ぜんぶ忘れちまえって」


馬車は魔界の夜道を滑るように進む。


ルシエルの瞳は、窓の外の蒼い月を映して、暗く、静かに光っていた。

▼次話

20話 天界の悦楽

挿絵(By みてみん) 

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