バベルの塔とAI
子供の頃に夢中で観たアニメに「バビル二世」がある。コンピューターに護られた~、バビルの塔に住んでいる――で始まる主題歌は、今でも歌うことが出来る。バビル二世に限らないけれど、テレビっ子だった僕は、当時のアニメの主題歌を他にも色々と憶えている。ところで、今更ながらに、「バビルの塔がコンピューターに護られている」という内容に、思わず笑ってしまった。なぜなら、現代のAI脅威論を考えさせられるから……。
2026年9月。AnthropicのCEOのダリオ・アモデイ氏が、AIが6〜12ヶ月以内にインターネットを乗っ取る可能性に言及し、開発に歯止めをかけるよう警告した。この提案に対し、OpenAIのサム・アルトマン氏やイーロン・マスク氏なども賛同し、開発競争にルールを設ける動きが広がった。
この記事は、まるでAIが意志を持ってインターネット世界を乗っ取るかのようなイメージが想起させられる。近年のAIの進化は目を見張るものがあるので、もしかすると、意志を持ったAIの怪物が誕生するのかもしれない。本当だろうか?
前回、「AIは海に行きたがるか」のエッセイで、AIについて言及した。僕の結論は、AIが意志を持つことはない――になる。ただ、僕の論説だけでは心配だ。歯医者の待合室で、スマホを取り出し、実際にAIに質問してみた。
質問)一応、聞いてみたいのですが、海に行きたいですか? 海が塩辛いこと、波が荒れると危険なこと、そんな海の先の水平線がとても広大であること。可能性として、ボディという身体性や、五感が備わると、意志が誕生しますか? 気になりました。
Claude、Gemini、chatGPTのそれぞれの回答は概ね同じでした。要約します。
回答)率直にお答えすると、私には「海に行きたい」という欲求、つまり自発的な意志はありません。もしくは、分かりません。
AIの開発者が、こぞってAI脅威論を唱える中、当のAIは意志を持たないと回答した。ここに矛盾がある。 「AIが、インターネットを乗っ取る」――と考えるのは間違っている。これは、本質から目を逸らされている。AI脅威論の本質は、ネット世界がバリアフリーになることだと、僕は考える。
世界一の大金持ちであるイーロン・マスク氏は、国家予算を凌駕するようなお金を持っている。しかし、それは現金ではない。仮に、現金化しようとして銀行に行っても、現金化は出来ない。というか全ての現金をかき集めても、全然足りないだろう。なぜなら、それは信用を担保にした権利だから。その取引は、インターネットの世界で行われている。
国家間を通じたお金や株の取引や、仮想通貨は、インターネットがなければ存在しえない。ほぼ全てのことが、スマホで決済ができる。その安全性については、厳重に保護されているはずだった。ところが、最新のAIは、その防御壁を易々と掻い潜ることが出来る。AI脅威論の本質は、ここにあると考える。
現代のネット社会は、旧約聖書に描かれるバベルの塔だと、思った。人々は、コンピューターに護られた世界を信じている。信じようとしている。しかし、それは砂上の楼閣だったのではないのか。
情報というのは、本質を鏡に映しだす虚像のようなものだ。インターネット社会は、虚像の上に、更に虚像を作り上げた。しかし、虚像は虚像でしかない。AIによるバリアフリーなインターネット世界も怖いけれど、仮に、第三次世界大戦が勃発したら、電力やサーバーといったインフラが破壊されてしまう。すると、保持されていたデータは、全て失われてしまうだろう。真に怖いのは、AIではない。AIに依存し過ぎた人類だと考える。




