プレゼント
僕は果実の売買の仕事をしています。果実は、そのまま生で食べることが出来ます。果実の価値を考える時、価格的に安いということは大切ですが、それ以上に重要なのは、食べた瞬間の「甘い!」と感じる衝撃になります。調理をすることで美味しく食べる野菜とは、ここが違う。どんなに安くても甘くなかったら、お客様は残念な気持ちになるでしょう。
そのような果実を、鳥類や哺乳類は好んで食べます。僕たちの祖先の猿にしても、木の上で生活をしながら、果実を好んで食べていたのでしょう。そのようなご先祖様が大地に降りて、なぜ二足歩行をするようになったのでしょうか? 今日は、そんなことを考えてみたい。
ホモサピエンスと遺伝子的に近い種は、チンパンジー、ゴリラ、オランウータンになります。これらの種の雄と雌の関係性は全く違います。オランウータンは雄と雌が出会い交尾をしても、その場限りで別れます。群れを作らない単独性。ゴリラは、一夫多妻を基本としたハーレムになります。これらの種から生まれた子供たちは、大人になると親元を離れるそうです。
人間に最も近いチンパンジーは、群れを作りますが、雄どうしの間に強い絆が見られます。縄張り意識がとても強く、協力してその防衛に当たります。また、狩猟に関しても協力をし、とれた獲物は仲間で分け合います。ただ、この雄どうしの絆には個体間の競争が存在しており、序列が生まれます。つまりヒエラルキーな社会性が見られるのです。
因みに、近縁ではありませんが、ニホンザルは雌を中心とした母系社会を形成しています。母親とその娘たちからなる血縁関係が核となり、そこに他所からやってきた雄が加わり子を成します。雄に求められるのは子種だけ。チンパンジーの社会では、性成熟前に雌が群れから去るのに対し、ニホンザルは雄が群れから去るのです。同じ猿でも全く違う。
――ん!?
実は、この事実に衝撃を受けました。僕は、日本の古代史を勉強してきましたが、チンパンジーとニホンザルの違いは、大陸と日本列島の社会制度の違いとよく似ているのです。大陸は男尊女卑の思想が発展しましたが、縄文時代からの日本の風習は母系社会だったと考えられます。その痕跡は平安時代まで続きました。詳しくは説明しませんが、かぐや姫的な世界観になります。姫の元に、男たちが次々と求婚を迫りました。卑弥呼の存在にしたって、母系社会の表れだと考えるのです。
猿社会とホモサピエンスの人間社会に、因果関係はありません。しかし、僕は学者ではないので、このような痕跡から古代を想像するのが楽しい。1万年も社会を継続させた縄文人の特殊性を、D因子で説明する記事は多いですが、これにしても因果関係はない。なぜならD因子が原因で縄文時代が継続したわけではないからです。4万年前に日本列島にやってきたD因子を持つご先祖様が隔離された環境のなかで、1万6千年前に縄文土器を発明しました。その後、1万年という途方もない期間の縄文時代を継続させていくのですが、その遠因こそが母系社会だったのではないでしょうか。ニホンザルと縄文人に因果関係はありません。しかし、日本列島という環境的な要因が、母系社会の優位性を継続させたのかもしれません、ダーウィンの進化論的に……。
ところで、猿から枝分かれした猿人が、700万年前に二足歩行を獲得します。その理由について、学者のオーウェン・ラブジョイは、「食料供給説」を唱えました。別名で「プレゼント仮説」と言うそうです。
猿人の特徴の一つに、発情期がなくなったことが挙げられます。雄と雌が交配するほとんどの生物は、繁殖期があります。交配が可能になった雌は発情をアピールして雄を誘うのです。猿であれば臀部が真っ赤に染まり、フェロモンを巻き散らし、発情の奇声をあげます。雄はそのサインを見て発情しました。しかし、受精すれば、雌は雄に関心を示さなくなり、その場限りで終わります。
ところが、猿人になるとその信号が分かりにくくなりました。このことによって、雌が特定の雄と配偶関係を結ぶカップルが生まれるのです。雌と雄の関係性は、セックスという行為で継続されていきます。また、二足歩行によって骨盤の骨格が変わり、胎児は未熟児で生まれるようになりました。雌は、数年かけて子供を育てる必要があります。その間、雄は雌と子供を守るために食料を採取して運搬する必要がありました。この運搬に、二足歩行が役立ったのです。これが別名「プレゼント仮説」の由来です。
多くの生物の食事は、その場限りです。ところが、二足歩行を獲得したことで運搬が出来るようになった事実は、人類史の大きな革命でした。猿人の身体的な変化を追いかけると、まず初めに、二足歩行が挙げられます。その事によって、両手の自由が生まれました。当初は、食料の運搬が主たる目的でしたが、次に道具を使うようになります。果実から、ナッツと言った堅果類を食べるようになり奥歯が臼歯へと進化しました。その後、火を使うようになると、堅果類を柔らかくして食べることが出来るようになり、臼歯が急速に退化します。この頃に、旧人が誕生し、脳の肥大化が始まりました。火を使った調理は消化が良く胃の負担が少ない。このことによって、一日の活動時間が劇的に増えました。
書籍「進化と人間行動」を半分くらいまで読みました。実に面白い。断片的に耳にしたことのある内容は色々とあるのですが、それら断片が関連付けられています。バラバラだったジグソーパズルのピースが、一所に収まっていくような快感があります。今後、物語を紡いでいくうえで、僕の大きなバックボーンになってくれるでしょう。僕なりに咀嚼した内容は、今後も書き記していきたいと思います。さて、来月は嫁さんの誕生日。何をプレゼントしようかな?




