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怒りの涙-Reunion  作者: 高村聡
第6章「赤く腫れた頬」
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第34話 サヨナラなんてこりごり

 ――来年から、おばあさんの家で暮らすのよ。

 祖母から告げられた別れの知らせ。


 また切り離されていく。


 選択の余地はない。

 

 抵抗しても無駄だから、聡は何も言わなかった。


 孤独の部屋で1人、膝を抱えて静かに泣く。


 逃れられない現実は、さらに苦しめた。


 このまま、ただ別れるのは嫌だった。


 

 彼女の想いを繋ぎ止めたい。

 

 行動することは、自分を楽にすることでもあった。


「もう遅いよ」優希を呼び出した。

「ごめん、遅くなって」

 

「いいよ。ほら、行くよ」彼女は手を引っ張り、デートの行く先へ行こうとする。


「ごめん。デートには行けないんだ」


「え?」彼女は進み始めていた足を止めた。

「今日は君に話があって……」本当はもっと長く優希と一緒にいたかった。


 でも長くなればなるほど、別れが惜しくなる。


 だから、話だけする事に決めたんだ。


「うん? 何?」

「今日はサヨナラの挨拶をしに来たんだ」


「え? サヨナラ? どうゆうこと?」

「実はさ、転校することになっちゃって……」


「そうなんだ……遠いの?」

「うん、大阪……」


「そっか……遠いね……」

「ごめん……」


「何で謝るの?」

「だって……泣いてるから……」幼い彼女のピュアな瞳から澄んだ涙が落ちる。


「泣いてない、泣いてないよ」彼女を強く抱きしめた。


 ――泣かないって決めたのに、ダメだ……。

 彼女につられて、涙が頬を伝う。


「毎日、電話するから……」

「うん……うん……」 時間切れを直感的に分かったのか、彼女の抱きしめる力が強くなる。


 密着した体を引き離し、右腕で涙を拭う。

 

「これ、プレゼント」聡はポケットから包装された箱を取り出した。

 

「ありがとう。開けてもいい?」

「ダメ。家に帰ってから開けて」

 

「分かった」

「じゃあね」

 

「また会える……よね?」


「うん、きっと会えるよ。絶対会いに行くから!」彼女に手を振り、後ろを向いた。


 急に蛇口を捻ったように涙がダラダラと溢れる。


 泣いた顔を見せたくなく、振り向かず前に進んだ。


 帰り道、これで良かったのかと不安になる。



 でも、もう決めた事だから。


 冬休みが明け、新しい学校に転校した。


 何も知らない街は、寂しいようで温かった。


 みんな優しくて、いい子たちだった。


 声をかけてくれたり、遊びに誘ってくれたり、居心地は悪くなかった。


 何よりあの日のことは誰も知らないし、憐憫の眼差しを浴びることもなかった。


 

 同情されるのが辛かった。


 必死に前を向こうとしていても、それがあるだけで余計にしんどくなる。



 どうせ、他人に理解できるわけがないから。

 

 平和な日常。何も邪魔するものはなかった。


 ここなら、また頑張れると気持ちが奮い立つ。

 

 そんな日々も束の間、ある日突然優希と連絡がつかなくなった。


 毎日のように連絡していたが、その日は電話もメールの返信も何もなかった。



 まあ忙しい日もあるだろうと、特別気にしていなかった。死を聞かされるまでは。

 

「優希ちゃん、この前ね、事故に遭って亡くなったそうよ」学校から帰宅した後、訃報を聞かされた。

 

「え……」言葉を失い、持っていたランドセルをドッサリと落とした。


 絶望の淵に突き落とされた。



 流れる川をただ茫然と眺めることしかできなかった。


 2人の思い出が走馬灯のように、蘇る。

 

 公園で遊んだこと、たまに行ったショッピングモールでデートしたこと。


 

 あの頃の素敵な笑顔は、見るだけで元気になれた。

 

 気が落ち込んだ時に彼女は優しく包み込んでくれた、冷たくなった心に温かく寄り添って。


 

 お別れの日、ちゃんとデートしていればと後悔が募る。亡くなったら二度と会え……ない?


 ――またもう会えないの……?

 瞳に微かに灯っていた光が消える。悲しさなんて通り越した。

 

 もうサヨナラなんてこりごりだ。


 立ち直れる気がしない。


 それは、小5の聡には重すぎる別れだった。

 


 失ってから初めて、大切さに気付かされる。


 外交的だった性格は内向きに捻じ曲げられ、社交性がなくなった。


 他人とは一枚の壁を作り、彼らと接する。


 偽りの自分。


 全てが馬鹿馬鹿しくなった。


 そんな時、電話が鳴る。池山実加だった。出る気にもならず、出なかった。


 彼女は留守番電話を残した。


 聡は音声を再生する。


 

「もしもし、池山です。私、見ちゃったの。優希が階段から突き落とされるところ。浦原さんがやってたの。私じゃないの!」

 

「なのに、次の日学校に行ったら私がやった事にされてた。みんな私のせいにするから、学校に行くのが怖くなっちゃった」


「もう誰にも信じられなくてもいい。だから、高村君だけには信じてもらいたくて。ごめん、いきなり電話して」終始彼女の声が震え、時々鼻水を啜り、恐怖と闘いながら彼女は話していた。

 


「菜々子がやった……?」真相を知り、聡は落胆した。


 でもどうしてだろう、彼女が言う事は嘘だと思わなかった。

 

 菜々子のことはよく知っているつもりだ。


 彼女が嫉妬深いことも。


 だからなのか、不思議に思わなかった。

 

「信じるよ」聡はメールを送る。その手は割と早かった。


 恨みや怒りは湧いてこない。


 

 自分にはもう関係のない事だと思っていたからか、そんな気力も残っていなかったからか。


 布団を頭まで被って丸くなる。


 ただただ悲しくて泣くしかなかった。


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