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満月の夜3  作者: 桐生初
20/31

20

夏目と同着となった太宰は、所轄の警護の車に走った。


「外部から人の訪問は!?。」


「宅配業者がいくつか…。」


「ちゃんと出て来た!?。」


「えっ…。だって、ここタワーマンションですから、宅配便なんてすっげえ数なんですよ?。」


「業者の中に、女居た!?。」


「居なかったと思いますが。」


確かにそうかもしれないが、だからこそ、宅配業者には化け易いのではないか。

それに、取手絵美子はメイクとカツラ、コンタクトを取ったら、男の様だったという話だった。


同時にそう思った太宰と夏目は、一目散にエントランスに走り込み、北条家の呼び鈴を押した。

ところが、居るはずの花梨の応答が無い。


「旦那に連絡!。部屋行こう!。」




花梨は宅配便だと言われ、玄関を開けた。


花梨より少し背の高い程度の小さな男性と思った瞬間、宅配便業者は箱ごと花梨を押して転ばせ、それと同時に、背の低い男も室内に侵入して来て、鍵を掛けた。


花梨は押し除けて出ようとしたが、最初に入って来た人物に物凄い力で殴られて2メートル位飛ばされた。


帽子を取った、男だか女だか分からない不気味な作り物の様な顔をしたその人物は、花梨を憎悪の目で見つめている。


「傷はつけるなって言っただろ!?。」


男の方が言った。

聞き覚えがある声の様な気がするが、思い出せない。


男は目深に被った帽子を取り、花梨を見つめて、いやらしい笑みを浮かべた。


それで漸く安部恒雄だと分かり、恐怖で身が竦んだ。


「この女は殺すって言ったじゃない!。一回は楽しませてあげるから、今殺させてよ!。」


性別のわからない人物は酷く甲高い、嫌な声でそう言った。

でも、声で漸く女性と分かった。


「勿体無いだろ。北条から離せばお前の目的通りじゃないかよ。」


つまり花梨を犯すという事なのだろう。

しかし、恒雄への恐怖心を抑え込まなければ、この状況は好転しないと思った花梨は、冷静に状況を整理することに努めた。


「私を殺したいの…。貴女は取手さん…?。」


「そうよ!。」


「何故殺したいの…。」


静かに聞きながら、花梨は逃げる為、そこら辺の物を投げようとしたが、恒雄に羽交い締めにされて倒され、あっという間に後ろ手に手錠を嵌められ、自由を奪われた。


「あんたは昔から、頭いい、人気のある人にばっかり好かれて!。どうしてあんたなの!。北条君も篠原君も!。どうして篠原君にしとかなかったのよ!。なんで北条君なの!。」


どう答えても怒りは収まる事は無いだろうと黙っていると、更に金切り声を上げた。


「あんたになれば、男は思いのままだと思って、あんたになったのに…!。

顔の骨削る手術なんて、本当に地獄の苦しみだったのに!。

折角あんたになって、幸せになったと思ったのに、浮気されて、離婚されて…!。

なんであんただけ幸せなのよ!。」


ダイニングの床に転がされている花梨は、取手絵美子の意に反して、シニカルに笑った。


「何笑ってんのよ!。」


「尊君は、今は時間の自由も効く立場になったけど、それまでは家庭持ってるとは思えない勢いで仕事してた。

貴也と土日に遊んだのも、家族旅行も数える程しか行けてない。

貴也の入学式も卒業式も、他のお宅はお父さんもしっかり来てても、いつも貴也は私1人か、良くて祖父母。

参観日も運動会にも来られない。

私が父親もやって来た。

小学校の時はずっと母子家庭か、どっかの愛人とその子どもだとまで言われて来たわ。

私は都合のいい家政婦なのかなと思いながら過ごして来た。

それが幸せなの?。」


取手絵美子が彼女なりに男を見つけて、幸せで居た頃、花梨は夫不在の寂しさの中、息子を1人で育てていた事を初めて知り、取手絵美子は動揺した。

この3年、監視していた間は、夫の尊は比較的早く帰宅し、休日も花梨や貴也を連れて、楽しげに車で出掛けていた。

だから、ずっとそうだったのだと思った。


「だけど…、だけど、贅沢出来るじゃない!。大企業の部長夫人じゃない!。」


「それは尊君が必死に働いて稼いだお金でしょう?。部長に登り詰めたのは尊君であって、私じゃない。私が踏ん反り返れる事じゃないと思うけど。」


「う…煩いわよ!。」


取手絵美子は手の甲を使って、また花梨を引っ叩いた。


「いいから、これ飲んで早く死んで!。」


「約束が違うだろうがよ!。いいから手筈通り、龍造寺さんをカートに入れて、ここから出ようぜ!?。」


「嫌よ!。」


「何なんだよ、急に!。龍造寺さんは俺にくれる計画だったじゃねえかよ!。急に変えんなよ!。」


「この顔見たら、生かしちゃおけないと思ったのよ!。」


「何でだよ!。」


取手は憎々しげな表情で花梨を睨み付けた。


「何の努力もしてないくせに・・・。整形もしてないくせに、何よ、20代みたいな見た目して・・・。昔より老けたなら分かるけど、綺麗になったなんて、許せないのよ!。昔から許せないの!。恵まれた家と容姿で生まれて来たこいつが!。」


恨まれる道理は全く分からないが、花梨は時計を見た。

現在、夕方4時半。

貴也は部活の日だから、6時半過ぎないと帰宅しないが、あと30分近くすると、今日は尊が早めに帰宅する筈だった。


このまま宅配便の業者を装った二人に連れ去られてしまっては、ほぼ希望は無くなるだろう。


警視庁や都内の所轄が血眼になって探している指名手配犯のくせに、一向に捕まらなかったのだから、潜伏の仕方も相当上手いのだろうと思う。


だが、上手く共犯関係を結んでいた二人は、いざ花梨を目の前にしたら、ずれが生じて来ている。

突くならここだと思った。


「二人が今までして来たことと、これからの計画を話してくれるなら、安部くんは私を好きにしていいし、取手さんの言う通り大人しくそれも飲むわ。

時間は大丈夫よ。尊君は遅いから。」


時間稼ぎと、そして興味から聞くと、安部恒雄と取手絵美子は語り始めた。

その様は、嬉々としており、丸で偉業を話すかの様だった。

新聞やニュースでは事件概要は殆ど公表されていなかった為、花梨には驚きと、そして嫌悪の連続だったが、二人を得意にして喋り続けさせなければ命は無いと割り切って、興味深げに、時には感心した振りをしながら聞き続けた。




3年前、取手曰く、一方的に離婚を言い渡されると、急に忘れ去っていた中学時代を思い出した。


今頃、花梨はどうしているのか、よもや北条尊と結婚してなどあるまいなと、榊雅代に聞いてみると、結婚していると言う。

腹が立って見に行ってみれば、仲睦まじく手を繋いで歩いているのみならず、一人息子は美少年。

ネットで北条尊と検索するだけで、出版した本やら名前やらバンバン出てくる、業界の有名人になっていた。

住んでいる場所も、芝浦のタワーマンション。

何故、相変わらず花梨だけが恵まれているのかと、激しい憎悪に襲われ、ふと思いついたのが、乗っ取ってやる事だった。

花梨の幸せを全て奪ってやると。

それと同時に、花梨を好きだと言っていた男達の出世もまた取手を腹立たせた。

何故、こんな将来性のある男達ばかりが花梨を好きになるのかと。

イラつく気持ちは、男達への憎しみに変わった。


そして、計画を思いついた。

中学の同級生で、花梨を好きだと言っていた男で、出世している男だけを殺してしまおうと。


計画は様々な可能性を考えたらしい。


まずは自分が関わっているとバレない様にする為、無関係の男に実行させ、白状しない内に自殺させる。


それでも万が一自分が関与していると疑われたら、その罪を全て花梨に着せて、逮捕させる。


それも難しい場合の為に目を付けたのが、安部恒雄だった。


警察が花梨は犯人ではないと思ったら、恒雄が花梨を連れ去り、飽きるまで監禁し、用が済んだら取手が殺す。

その間に北条尊は取手の物にするという第二の案だった。


恒雄は二つ返事で乗った。

彼もまた花梨への初恋を拗らせていたのだ。

ずっと問題児で、先生にも親にも叱られてしか来ていない、友達も極端に少ない恒雄は、馬鹿にされるか蔑まれる対象でしかなかった。

それが面白くなくて暴れるものだから、余計に馬鹿にされ、疎まれた。

剣道部で一緒だった尊と篠原は学年トップの成績だけあって、頭がいいせいか他の同級生のように虐めたり絡んだりはして来なかったが、その分空気扱いだった。

向こうも嫌っているのだろうが、恒雄の方もお高く止まっている様にしか見えない、自分を人間以下にしか見てくれない二人が大嫌いだった。


そんな恒雄に唯一優しく声を掛けてくれ、授業の時、勉強まで教えてくれ、暴れないように立ち直らせてくれたのが花梨だった。


花梨の方は、隣の席だし、何とか暴れさせないで済む方法はないかと模索しただけで、特別な好意などは一切無かったのだが、恒雄は期待してしまった。


しかし、花梨はよりにもよって尊と付き合ってしまう。

夜遅くお互いの家から出て来たとか、ラブホテルに入って行く所を見たという噂まで聞き、多大なショックを受けた。


あの花梨を尊が好きにしていると想像しただけで無性に腹が立ち、花梨のお陰で収まっていたキレやすい性格が再発し、非行に走った。


そして女の味を知った。

花梨はどんななのだろうと思うと性衝動が抑えられなくなる様になり、強姦を繰り返し、花梨を襲ってしまおうとしたら尊の妨害に遭い、尊への憎悪が増した。


そのまま花梨の面影を追いながら、似た雰囲気の女性を強姦しては服役するを繰り返し、何となく似ている女と結婚して、暫くは幸せだったが、妻の浮気を知ったのが3年前だった。


弱っているところに取手が現れ、迷わず誘いに乗った。


取手は片桐愛になりすます為、彼女をフランス旅行に誘い、恒雄に運転させていた車内でトリカブトを飲ませて殺害し、二人でトランクに死体を入れた。


そして片桐愛の名で、太宰達が掴んだ通り、料理教室を開き、ターゲットの同級生の妻達を誘き寄せ、殺害を持ちかける。

それと同時に、殺害犯となる男を見つける為、長澤達の妻を格安の料理コースで集め、物色と、これも太宰達の読み通りだ。


長澤夫人、会沢夫人は自分を疑い始めたので、警察が来ない内に失踪に見せかけて、片桐愛と同様の手口で恒雄と殺害、遺棄した。


事件をいち早く掴みかけた仙崎弁護士を陸橋から落として殺したのは、原田が見つけてきた画像通り、恒雄だ。

仙崎弁護士の靴の踵についていたハイバランスのスニーカーは、取手が買い与えた物で、初めての憧れのブランド品が嬉しくて、ずっと履いているらしく、今も履いている。




「あなた達はどこに居たの・・・?。」


花梨の質問をせせら笑う取手が、目の前の雑居ビルを指差した。


「あそこよ。配送業者の看板出して、そういう格好して出入りしてたら、誰も気づかない。安部の顔なんて何処にでもいる顔だしね。帽子被って、同じ様な制服着てたら、まずバレないのよ。」


何処にでもいる顔と言われて、ムッとしたのか、恒雄が小馬鹿にした様に取手を蔑んだ目で見た。


「お前だって、手配写真と別人じゃねえかよ。そんな男みてえな素の状態じゃ、女とすら思われねえからだろ。整形しまくったの、崩れ始めてるし。」


確かに、取手の顔は目を逸らしたくなる程、崩壊している。

鼻は曲がり、歪な形になっているし、目も二重整形が壊れ始めているのか、瞼が下がって、化け物の様だ。


顔の骨を削ったと言っていたが、その影響なのか、フェイスラインもガタガタだ。


「うるさいわね!。お金はあるんだから、また直せばいいだけの話でしょ!。」


そろそろ話が終わってしまいそうだが、尊が帰宅するまでにはまだ時間がある。

何とか引き延ばさねばならない。


「それで・・・。この後、どうやって尊君を落とすの・・・?。」


「一緒にあなたを探してあげるとか、そこは大丈夫よ。私はどんな男でも落とせたんだから。」


どんな男でもという事は無いだろう。

特に、尊は一筋縄では行かない。

でも、ここで否定してしまったら、直ぐに恒雄に襲われるか、取手に殺されるかなので黙っておく。


「あんたの死体が万が一見つかっても大丈夫。

あんたが私達が話した全ての事件を起こしましたって遺書も用意しておくし、篠原も殺しましたって事で自殺にしとくから。」


ずっと冷静さを保ってきたが、これだけは聞き捨てならなかった。


「ー篠原君!?。篠原君を殺して来たの!?。」


青ざめる花梨を憎々しげに見る。


「今頃奥さんに殺されてるわよ!。悲しい!?。ねえ!。不倫相手と北条君とどっちが大事なの!?。」


「やめて…。篠原君をこれ以上不幸にしないで…。」


「幸せなんじゃないの?。あんたと死ねるんだもん。それに篠原を不幸にしてるのは、あんたでしょ。」


「だから言ってるのよ…。」


取手絵美子は突然スイッチが入った様に、花梨を蹴り転がして、引っ叩いた。


「モテる女は辛いって顔止めなさいよ!。

兎に角、あんたが死んだら、私がこの家に入ってあげる。貴也君も私が大事に育てて、北条君にも私が尽くしてあげるから、あんたは心配しないで死になさい。どうせ死に掛けなんだから。」


恒雄が止めに入ると、取手は突然ニヤリと笑って、携帯を手に距離を取った。


「じゃ、安部、好きにやりなさいよ。録画してあげるから。」


恒雄の手が花梨のブラウスにかかり、花梨は身を捩って逃れようと踠く。


太宰達が押した呼び鈴が鳴ったのは、その時だった。


「誰!?。」


「本物の宅配便じゃ無いのか?。」


待ちに待った花梨の身体を奪うことしか頭にない恒雄が適当な返事をするが、取手は嫌な予感がしたらしい。

ここまでやって来て培われた自衛本能だったのかもしれない。


恒雄の手も止まった。

花梨が狭心症発作を起こして苦しみ出したからだ。


「毒を飲ませなくても、このまま放っておいたら死ぬかもしれないわね。ここは逃げるわよ。」


そう言って、取手が逃げ出そうとした時だった。




「早っ!。」


太宰は礼を言うよりも何よりも早く、尊の到着の早さに驚いていた。


夏目が道具を使って鍵を開けようとしていた所に、さっき連絡したばかりの筈の、スーツ姿の尊が走って来たのだ。


「丁度帰ろうとしてたとこだったんで、タクシー飛ばさせたんですよ。」


早口で言いながら、鍵を開けている。


確かに尊の会社から、このマンションまで車を相当飛ばせば、2分程度で着くとは思うが、それにしても早い。


3人で雪崩れ込むと、顔が崩れた様に見える、宅配業者の制服を着た、男だか女だか分からない人物が、何かを片手にこちらに向かおうとしていた。


「取手!。抵抗せず、自首しなさい!。警察だ!。」


太宰が叫ぶと、室内に戻ってしまい、苦しんでいる花梨に向かって小瓶を構えて、金切り声で叫び返して来た。


「来たら、これ飲ませるわよ!。」


そして、恒雄は丸で俺のだと言う様に、花梨を抱きかかえて後退りしている。


太宰と夏目は足を止めたが、尊は止めなかった。


「北条さん!。」


「発作起こしてんですよ!。てめえ、その汚え手離せ。」


「来ないで!。飲ませるわよ!。」


「取手だか牛久だか知らねえが、俺の女になんかしてみろ…。

一生恨んでやる…。

てめえは安部だな。」


恒雄の顔が恐怖で引き攣った。

それほどに北条尊の迫力は凄まじい。


「さっさとその汚ねえ手離せってえんだよ。

これ以上花梨に触っててみろ。生きてんのを死ぬ程後悔させる苦しみ味合わせてやるぜ…。

その覚悟があんならやれ!。無いなら離せ!。」


あまりの迫力と言葉の怖さからか、恒雄と取手の手が一瞬緩んだ。

その隙に夏目が恒雄を蹴り飛ばして、手錠をはめ、太宰は取手を押さえつけて毒薬の瓶を回収。

尊はスーツのポケットからニトロのスプレーを出して、花梨を抱き起こし、舌下に入れている。


「刑事さん、これ、外せます?。」


夏目に取手絵美子も任せ、太宰が花梨の後ろに回った。


「警察用じゃねえから、俺の鍵じゃ無理だな…。夏目、鍵見つかった?。」


夏目は言われる前から、取手絵美子のポケットを探って、鍵を探してくれていた。


「はい、ありました。」


言い終わらぬ内に太宰に鍵を投げて寄越す。

受け取った太宰は手錠を外し、尊に抱きかかえられたままの土気色の顔色をした、花梨の顔を見つめた。


「大分殴られましたね…。念の為、病院行きましょう…。」


花梨は太宰を不安そうに見ながら、掠れた声で、怯えた様子で聞いて来た。


「刑事さん…。取手さん、篠原君も殺すって言ってました…。篠原君は…。」


「ご無事です。それを未遂に防いで知らせて下さったんです、貴女は大丈夫かと。

ですから、どうにか間に合いました。」


そう答えると、見るからにホッとした様子で、尊にもたれるように、身体の力を抜いた。


「はあ…。良かった…。でも、またお世話になってしまった…。」


ずっと心配そうに青ざめた顔で花梨を見ていた尊は一言だけ、ボソッと言った。


「旦那は出来ねえんだから、そん位させてやれ…。」


花梨の発作が落ち着き、花梨の頭を愛おしそうに撫でた尊は、突然無表情になると、太宰から恒雄をもぎ取って担ぎ、15階の窓を開け放った。


「な・・・、何する気ですかあ!?。北条さん!。」


「こいつ、こっから投げ落とします。」


「間違いなく死ぬでしょ!。ダメよ、それえ!。過剰防衛だよ!。」


太宰が後ろから飛びついたが、北条尊は相当な鍛え方をしているらしく、暴れる恒雄を担いでいるというのに、ベランダに向かって歩を進め、中年にしてはかなり逞しい部類の太宰がずるずると引き摺られている。


思わず呆気に取られて観察してしまう夏目。


「だって、また直ぐ出て来ちまうんだろ。こんな変態、世に放っていいはずない。」


「待って!。多分、そいつ、二度と出て来れねえ余罪があるし、今回の殺しの中の一件には確実に手を下してる!。だから、一生出て来れねえか、死刑だ!。」


尊の足が止まった。


「それよりも何よりも、俺に真っ当に生きてる貴方を逮捕なんてさせないでくれよ〜!。こうやって折角知り合えたんじゃん!。学校違ったって、同級生じゃん、俺たち〜!。」


尊は立ち止まり、クスッと笑うと、振り返りざま、室内の誰も居ない方向に向かって恒雄を投げて太宰を見た。


「結構な殺し文句言うね、太宰さん。」


「だって、本気だもん。」


「分かりましたよ。だから殺し文句って言ったの。」




「篠原和彦と北条花梨は、本当に不倫関係は無えな。」


帰りの車で太宰が呟くと、夏目が苦笑した。


「強烈旦那の台詞ですか。」


「そ。あったら、ああいう事は言えねえもん。にしても、あの強烈旦那は、お前みたいね。」


「ああ〜、W大同士だからですかね。」


「そういう問題か…?。でも上手く行ったから良かったけど、あれで取手がヒステリックに、トリカブトばら撒いたりしたら、危ねえのはあの旦那だぜ?。」


「それでもいいから、奥さん助けたかったんでしょう。」


夏目の妻、美雨も狭心症だ。

発作の時のあの苦しがり様は、早くなんとかしてやりたいと思う気持ちは、太宰よりも、ずっとよく分かるのかもしれない。


「そうね…。会社行ってんのに、スーツのポケットにニトロってのは、どんなに忙しくても、大事に思ってる証拠の様で、ちょっと胸が熱くなったねえって、夏目のポケットにも入ってんのかい。」


夏目は赤い顔で黙ってしまった。

答えはイエスなのだろう。


太宰は嬉しそうに、にやけてしまった。


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