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満月の夜3  作者: 桐生初
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北条花梨と、念の為だが、同級生達への警護は続けられたまま、1週間が経過した。


片桐愛こと、取手絵美子と安部恒雄の行方も、ようとして知れない。


しかし、幸田と原田が新たな事実を持ってきてくれた。


「大田区の事件の主婦のさあ。」


相変わらず、入って来た途端に喋り出す幸田。


「ガイシャの膣内に残された精液なんだけども。」


「おう。なんか出たか。」


「よ〜く調べたら、2種類あったんだよ。」


太宰は思わず椅子を蹴って立ち上がって、勢い込んで聞いた。


「もしかして、安部恒雄のDNAか!?。」


「そう。1種類かと思ったんだけど、よ〜く調べてみたら、2種類。親子ってえのは、よく似てるからな。増して男同士じゃ。」


「ってことは、もう一つは安部朋樹で間違いないか!?。」


「ほぼ確定だな。他に思春期の息子がいなきゃ、朋樹で間違いねえだろう。」


「ありがとよ〜!。幸田〜!。」


これで、朋樹は重要参考人ではなく、重要容疑者だ。


そして、恒雄も関わっているのが確定したことで、恒雄も指名手配できることになる。

これは大きな進展だった。


幸田と入れ違いに、いつもの様にドスドスと足音を立ててやって来た原田は、ニヤリと笑って、ノートパソコンの夜景の写真を見せた。


「これ、事件とは無関係な人が写した、野次馬的な事故現場写真なんだけど、ここ拡大してみるとね。」


と言って、拡大された箇所を見て、4人は息を飲んだ。

その事故現場写真は、仙崎弁護士がトラックに立て続けに轢かれた直後の、趣味の悪い野次馬写真なのだが、歩道橋の上に男が立って、その様子を見ているのがしっかり写っており、更にその人物を拡大すると、安部恒雄だったのだ。


この一帯は監視カメラもなく、目撃者も居ない状況だったのだが、原田は必死にこういった悪趣味な人間の写真をネットで漁ってくれていたらしい。


「お手柄だ。原田!。」


「お陰で漸く繋がったよ!。ありがとう、原田!。」


満面の笑みでそう言った甘粕は、次の瞬間、矢張り青ざめて5課の笑いを誘うことになる。


「違うでしょ、ダーリン。そこは愛してるぜ、ハニーでしょ。」


「あ・・・、ありがとう・・・。愛してるぜ・・・ハニー・・・。」


またも大爆笑の中、偽りの愛を叫んでいると、今度は芥川が飛び込んで来た。


東京湾の漁船が奇妙な物を立て続けに3つ拾ったという。


3つ共、かなり大きなスーツケースで、中身は1つは白骨化した女性の遺体。

後の1つは腐敗が進んでいる女性の遺体。

もう1つは、腐乱が始まりかけている女性の遺体で、直ぐに会沢の妻、友恵と判明した。

其々のスーツケースに、重しと思われる、コンクリートブロックが入っていた。


柊木が調べた所、白骨遺体の身元は片桐愛。

腐敗が酷いのは、長沢彩子だった。

3人共、死因は致死量の3倍のトリカブト毒を酒と一緒に飲まされていた。


ハワイからの絵葉書は恐らく偽造だろう。

海外旅行に誘い、空港に行く途中で殺し、被害者のスーツケースに入れて、東京湾に捨てたのだ。


重しが上手い具合に効いて、今まで浮かんで来なかったのを、たまたま海流の関係で漁師が地引網で攫ったという事だろう。


そして、証拠も見つかった。

取手絵美子の元夫の島田氏が未だ持っていた、絵美子のヘアブラシに付いていた取手本人の毛髪のDNA、及びカツラの人毛と、スーツケース内から見つかった2種類の毛髪が一致した。

更に、安部恒雄の毛髪と体液らしきDNAも採取され、この三件の殺しにも深く関わっている事が判明した。


取手絵美子は、このスーツケースは見つからないと思っていたのか、穴が多い。


更に篠原夫人から、料理教室には、トリカブトの鉢植えが置いてあったとの証言が得られ、取手絵美子の関与は濃厚な物になった。


しかし、指名手配はかけているのに、取手恵美子も安部恒雄親子の行方も分からないままだ。


そんな平日の夕方。

篠原から帰宅した太宰に電話が掛かって来た。


「ー今、妻を拘束しています。」


「ーはっ!?。」


「珍しく私にコーヒーを淹れるというので物陰から見ておりましたら、毒を入れようとしていたので、止めて若干の抵抗があり、現在ふん縛っておりますが、問題はそこではありません。」


「十分問題な気がしますが、何処ですか!?。」


「花梨と一緒に死んでしまえばいい!。と半狂乱状態でして、私にはこれ以上話さない。

でも、花梨と一緒にというのが気になります。

彼女は無事なんでしょうか。」


太宰が捜査員に連絡すると、花梨は1度も家から出ていないらしい。


「取り急ぎ、甘粕と森という者をそちらに向かわせます。篠原さん、お怪我は無いんですね!?。」


「はい。私は問題ありません。」


太宰は電話を切るなり、さっき脱いだばかりの上着を取って、家から飛び出しながら、甘粕に電話して、直ぐに向かわせると同時に、夏目にも電話しながら、車を走らせた。


「北条家のマンションで合流な!?。」


「承知しました。」


「ん!。」




霞を拾った甘粕が篠原のマンションに到着すると、玄関の外まで女性の金切り声が聞こえていた。


「お手数掛けてすみません。」


不機嫌が諸に顔に出ている篠原が玄関に出て来た。

相当怒っているらしく、両方のこめかみに青筋が立っている。


室内に入ると、篠原の妻、利佳子は両手をネクタイで縛られた上、柱に括られていた。


「離して!。こんな事して、貴方もただじゃ済まないわよ!。」


霞が利佳子の前に立ち、冷静に話し掛ける。

2人の後からは鑑識が入って来て、落としたらしい、毒物の瓶やコーヒーメーカー、コーヒーカップを撮影し、回収している。


「いえ。ただじゃ済まないのは、貴女だけです。ご主人の殺害未遂ですから。しかも前回は騙されたとはいえ、これで2回目です。実刑は免れ無いと思いますよ。」


「ーえっ…。捕まる…?。主人の事は、結局殺してないじゃないですか!。」


「それは篠原さんがお気付きになったからです。殺人未遂は立派な罪です。毒まで用意していたとなったら、夫婦喧嘩の酷いのとは判断されません。」


「そんな…!。」


「北条花梨さんが亡くなったりしたら、貴方は殺人の共謀罪にも問われますから、更に刑期は延びるんじゃないでしょうか。」


「和彦さん!。助けて!。」


篠原は利佳子をギロリと睨みつけ、蔑む様な目をすると、彼女から目を逸らした。

完全に拒否している。


「今、ここで全てを正直にお話しされた方が、未だ心証も良くなって、多少の減刑は期待出来ると思いますけど。」


利佳子は今度は真っ青になって、蚊の鳴く様な声で話し始めた。




昨日の昼間、利佳子の電話が鳴った。

出ると、妙に甘ったるい、聞き覚えのある声がした。


「片桐です〜。」


「か…片桐さん!?。警察が…!。」


「そんなのは大丈夫。ねえ、それよりこのままでいいの?。北条花梨さんがご主人と不倫してるの、許しておいて。」


「やっぱり不倫してるんですか…。」


「私見たもの。昼間から2人がマンションの部屋で色々してるの。」


言葉を失う利佳子に、男をたらしこむ様な更に甘ったるい声で片桐愛は続けた。


「ねえ、旦那殺しちゃいなさいよ。私は北条花梨を殺すから。」


「ー北条花梨が死ねば、主人は戻って来るんじゃ…。」


「篠原さんて、そんな単純な人なの?。出て行った原因は、北条花梨との不倫だったのかしら〜。」


それは違う。

篠原は利佳子の浪費癖と、篠原の東大講師という立場を、自分の成果の様に威張り散らして、鼻持ちならない奥様面しているのが我慢ならないと言って出て行った。

その頃に女の影は全く無かった。


「ね?。篠原さんを毒殺するのよ。そして、その罪を北条花梨に着せるの。

北条花梨は4人の男をたらしこんで、4人の男を殺させて、愛人の篠原さんも殺して、自殺っていう筋書きよ。

貴女に疑いは行かないわ。

私がちゃんと上手くやるから。」


北条花梨に殺人の罪を着せて、自殺させるというのは、利佳子には魅力的な誘いだった。

利佳子もまた、北条花梨が憎くて堪らない。

自分より容姿も頭も性格も良いという事実が、余計に彼女を落ち込ませ、そして苛立たせていた。


片桐愛に指定された駅ビルの女子トイレのタンクの裏側から、トリカブト毒の入った小瓶を回収し、篠原のマンションに行き、コーヒーを淹れると言うと、既に篠原は怪訝な顔をした。


「コーヒーはいい。話があるなら、早く話して、帰ってくれ。忙しいんだ。」


「い…いいじゃない、偶には妻らしいことしたって…。」


篠原がリビングというか、書斎の様なスペースに行った隙に小瓶をバックから取り出し、コーヒーカップに毒を入れ様としたところで、気配を消して近付いて来ていた篠原に手首を掴まれた。


「何をしている。」


それで彼女は真っ白になってしまい、錯乱して暴れ、篠原に縛られる事態となった。


「北条花梨と死ねばいいのよ!。」


「ー花梨と?。どういう事だ?。」


「そんなに好きなら一緒に死なせてあげるわよ!。」


「だから、なんの事だと聞いているんだ!。」


「いいから、これ外して!。離してえ!。」




そして現在に至る。

太宰の読み通り、篠原を残して置いた事には意味があり、そして片桐愛は、自ら花梨を殺そうとしている。


「人にはやらせねえだろうな…。本命の超本命…。自分でやりたいだろ…。」


甘粕が呟くと、霞が頷き、そして篠原は真っ青になって甘粕を見た。


「無事なんですか!?。」


「ー現在、課長が確認中です。」


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