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4人が帰ると、逢坂がホワイトボードに逐一入る情報を整理して、時系列に纏めてくれていたので、それで各々書き足して行き、事実関係が漸く整理出来た。
○片桐愛(取手絵美子)。メリークッキングスクールの講師名は早乙女麗子。
・中学時代、北条尊に失恋する。
・北条花梨に多大な嫉妬心あり。
・凡そ30年前位の高校生の時から、取手絵美子はバイトで稼ぎながら整形を始め、北条花梨に似せて来ていた。
・それから短大を卒業するまで、北条花梨(当時龍造寺花梨)のストーキング行為を続けていた可能性が高い。
・短大時代に片桐愛と知り合う。
・片桐愛の両親の目撃証言。『人形の様』
・短大卒業前に、父親が手掛けていた邸宅を荒らし、父を失職させている。
・両親とは不仲で、短大に入って以降の音信は途絶えている。
・北条花梨と似た様な境遇(被虐待)。
・短大時代にアルバイトしていたクラブで知り合った15歳年上の島田芳雄と結婚。
・整形を繰り返し、肌の手入れには2時間掛けていた。
・島田氏が借金塗れになると、即離婚。
・直後にクラブで片山宏紀氏と結婚。
・整形の証言は得られなかったが、肌の手入れとメイクに毎日3時間を費やす。
・また、髪はカツラ。本当はゴワゴワの髪のショートカットで、コンタクトを外すと黒目も小さく、男の様→必死に北条花梨に似せている?。
・片山氏に離婚された3年前に、同級生の榊雅江より、北条夫婦の居所を聞き出す。
〜事件〜
・片桐愛失踪事件。
パリに行くと言い残し、消息を断つ。
その直後、部屋から手紙やアルバム、住所録などの取手絵美子との繋がりが分かりそうな物が根こそぎ盗まれる。
・篠原和彦殺害計画の中止。
妻に断られ、金が取れなかったせいか、中止している。
妻利佳子。メリークッキングスクールの特別な日のディナーコースに通っていた。そこで夫との離婚調停中の話をした所、殺害を持ちかけられ、断る。
特別な日のディナーコースは、自宅ポストに入れられたチラシ。
そのチラシは、その近所では、篠原邸にしか入れられていない事が判明。
意図的に篠原利佳子を誘き寄せたと思われる。
・第一被害者、藤井剛太。大手家電メーカー営業課長。
・妻栄子。片桐愛のメリークッキングスクールの特別な日のディナーコースに通っていた(篠原夫人の証言あり)。夫の死亡後、100万円の出費あり。
・被疑者長沢隆。逮捕後1週間で拘置所にて自殺。
・妻、長沢彩子。片桐愛のメリークッキングスクールの、簡単時短メニューコースに通っていた。
ハワイ旅行中に失踪。ハワイからの絵葉書あり→取手絵美子が殺害したか。
・第二被害者、細田春尚。建設会社役員。
・妻数子。クッキングスクールに通っていたかは不明。夫の死亡後、90万の出費あり。
・被疑者、会沢和男。細田殺害直後に自殺。
・被疑者の妻友恵。メリークッキングスクールのキッズコースに子どもを通わせていた。そこで、夫の愚痴(夫が邪魔だという類いの)を話していた→現在行方不明。
・片桐愛之助というLINEの友達名を目撃。
・第三被害者、近藤祐一。建設会社営業部長。
妻由恵。クッキングスクールに通っていたかは不明。夫の死亡後、100万の出費あり。
・被疑者佐藤喜一。拘置所にて自殺。
・妻佳子。メリークッキングスクールの簡単時短コースに通っていた。愚痴内容は同上。
LINE友達名の片桐愛之助を目撃。ただ、履歴は常に消去されており、浮気の証拠は掴めず。
・第四被害者、梶田正輝。株式会社シーマ社長。
・妻真美。メリークッキングスクールに通っていたかは不明。夫の死亡後、90万の出費あり。
・被疑者、小林誠治。拘置所にて自殺。
・妻摂子。唯一、LINEのやり取りを目撃。履歴の消去は愛の指示と判明。メリークッキングスクールの簡単時短コースに通っていた。同じ愚痴を言っていた。
・仙崎弁護士殺害事件
第4の事件の被告である小林の弁護を担当。
泥酔状態にし、歩道橋から靴のかかとを踏み付けて、転落させた物と見られる。
スニーカーの型番は、ハイバランス514。
力的に男性の犯行と思われるが、他に手掛かり無し。
・簡単時短コースの主婦層から、寂しい夫を探し出し、実行犯候補にする。
・一方、意図的に同級生の妻に接触を持ち(恐らく、特別な日のディナーコース)、殺害計画を持ち掛けたと思われる。
・川端さんが描いた似顔絵と島田氏から借りた写真は酷似。
また、片桐愛の両親の証言とも酷似。島田氏より拝借した取手絵美子の写真を見せたところ、「エリちゃんだと思う。」との事。
↓
片桐愛と名乗る女と取手絵美子は同一人物と推定。
・1週間前、北条夫婦の息子、貴也に接触。
北条花梨に正体がバレそうになると逃走。
・3年前からマンション付近で北条花梨が、中学時代から感じていたと同様の嫌な視線を感じる。
・北条尊も写真を撮られた記憶あり。
・北条花梨を知っている人物にとっては、『蝋人形』に見えるとの事。
・取手絵美子のフェロモンは人工的な物。シベット(ジャコウネコの分泌物)ではないかと思われる。効く人間と全く効かない人間がいる→北条花梨には生まれつきあり、甘い香りという夫の証言あり。それを何処かから聞いて、なんとかしようと思ったのか?。
・北条花梨を執拗に見ていたのは、仕草や声、話し方を真似る為?。
ホワイトボードを暫く見ていた夏目がポツンと呟いた。
「北条花梨になりてえんだな…。なってどうすんのかな…。」
その言葉を聞いた霞は、息を飲む様な声を出し、叫ぶ様に言った。
「乗っ取りだわ!。」
「霞ちゃん、何?。どうゆう事?。」
「課長、私達は課長のカンのお陰で、取手絵美子に辿り着きました。でも、もし、課長のカンが無かったら、北条花梨にしか会えていません!。
そしたら、どうなりますか!?。」
「被疑者として、任同求めるだろうね…って、あああ!。北条花梨は、心臓病だ!。そんなストレスとショック与えたら…!。」
「そう悪くて亡くなります。亡くならなかったとしても、かなり分の悪い被疑者になりますよね。
そこに北条花梨に似た取手絵美子が、北条尊や貴也君につけ込んだら…!。」
「妻の座を乗っ取れると!?。ええ〜!?。そんな簡単に行くかああ!?。」
「多分、北条尊の事を分かってないんだと思います。彼は強烈な性格とお聞きしましたが、結構気難しいタイプなのでは。」
「そう思う。篠原和彦もそうだった。」
甘粕が答えると、霞は静かに頷いて続けた。
「だから、中身も北条花梨じゃないと駄目なんです、2人共。
彼女を好きな人はみんなそうでしょう。
だから、蝋人形の様だって、気味悪く思うんです。
そこを取手絵美子は分かっていない。
外見だけ、仕草とか表面的な物だけ似せて行けば、みんな靡くと思ってる。
北条尊は、ある意味、彼女の幻想で、理想です。
中学時代の憧れの人であり、今、成功して高所得にもなっている。
美少年の母想いの息子まで居る。
彼女の理想の妻の座なんです。」
「はあ〜!。動機はそれかああ!。」
太宰は驚きながらも考えた。
だとしたら、取手絵美子は次にどうするつもりなのか。
捜査の手がメリークッキングスクールに及んでいるのは、被害者の妻達から、取手絵美子の耳に入っている筈だ。
だとしたら、もうクッキングスクールは開けない。
つまり、殺し屋の調達が出来ない。
だったら、諦めて、このまま逃走してしまえば、逃げ切れると思うが、取手絵美子はもう後戻り出来ないだろう。
多分、3年前から、計画して来たのだ。
拗れて、捻くれて、歪んだ妄想で突っ走って来ている。
「危ねえのは…。同級生達じゃない!。北条花梨だ!。」




