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満月の夜3  作者: 桐生初
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北条尊の話は大体こうだった。


中学3年当時、花梨を好きだと表明している男は10人程居た。

その内の4人が、この一件の被害者達だった。


しかし、その内の1人、田辺の話にも出た、篠原という少年が北条尊と大喧嘩をし、目に見える三角関係だと噂が立ち、軒並み諦めて行ったらしい。


でも、諦めたとかはあまり関係無いのかもしれない。

大体、現段階では、この可愛い恋の鞘当がどんな関係があるのか、サッパリ分からない。


「その方達のお名前と、出来ましたら、ご連絡先を教えて頂けませんか。」


「児島と本町、篠原の連絡先は分かりますが、あとの3人は分かんないですね。」


連絡先を書き留めている甘粕の向こう側には、ダイニングテーブルがあり、そこにはさっき挨拶だけした可愛い顔の少年が、母親譲りの澄み切った目で、甘粕と太宰を興味深気に見つめていた。


「篠原君は、息子の学校の先生をしています。」


妻の花梨が言った。


「そうなんですか。どこの学校?。」


「T大付属です。」


息子はサラッと答えたが、T大付属中高校といえば、全国の国立のNo.1。

東大進学者も全国1といわれており、そこに入ったというだけで、天才に近い秀才と言える。


「凄いな!。T大附属生って初めて見た!。」


太宰の天然な褒め言葉に、少年は苦笑している。


「篠原先生は高校の物理の先生で、国立T大の研究室にいらしたそうですが、教授と喧嘩されて、出世の道が絶たれたので、うちの学校に。

でも、多分、そんな長居をするつもりは無いんじゃないかな。」


「そうなの。君と仲がいいの?。」


「はい。可愛がって頂いてます。」


その瞬間、父親である北条の眉間に皺が寄った。


「お父さんとは仲悪いままなのかな?。」


太宰は息子の方に聞いたのだが、北条尊が答えた。


「嫌いなもんは一生嫌いなままなだけですよ。カミさんに纏わりついてたのが終わったと思ったら、息子って…。」


妻が笑いながら、夫の膝の上に手を置いた。

いかにも仲がいい感じだ。


「お2人は学級委員をされていたそうですが、女子生徒の中で、奥様と奥様の事を好きだった男子生徒と何かあった方はご存知無いですか。」


北条尊の方は両手を挙げた。


「俺は全然分かんないです。女子は。お前、なんか覚えてる?。」


打って変わって、妻には優しい口調。

多分、未だにラブラブ夫婦なのだろうというのは、見ているだけで分かる。


「ん〜…。正直、その4人を好きだって女の子は聞いた事無いですね。

だし、その4人は女の子を揶揄ったりするキャラでもないので、恨みを買ってもいないでしょうし…。

どちらかというと、女の子でもあまり意識せずに話す人達だったと思います。他の6人も。」


「篠原はお前だけでしょ〜。」


「ああ、そっか。」


「他の6人を逆に好きだった女の子は?。」


「ええっと…。本町君を好きって女の子は結構居ましたね。あと、主人も結構モテてました。主人が気にいるかどうかは置いといて。

篠原君は何故かモテませんでした。

でも、そんな事で殺しちゃうんでしょうか…。」


「殺意というのは、どこで拗れるか分からない物なんですよ。それに、殺したい程憎いから、ターゲットになる物でも無いんです。」


「はあ…。そうですよね…。4人も殺したら、殺人鬼ですものね…。」


「では奥様、白扇女子短大の心理学科に行かれた方は、同級生でご存知無いですか。」


「ー白扇女子短大…?。どこにある大学ですか…。」


そういえば、田辺の話では、2人共高校は県立では1番のC高に進み、浪人したがW大と、天辺みたいな所を歩いて来ている。

白扇女子短大というのは、埼玉の方のかなりレベルの低い短大であり、知りもしないかもしれない。


「埼玉にあります。」


「埼玉…。誰か埼玉の短大に入ったって聞いたかもしれない…。誰だっけ…。」


妻はアルバムを手に取り、1人1人、指差しながら、じっと見つめた。


「ーあ!。この子です!。名前は、取手絵美子さん。」


「誰、それ〜。」


夫は全然覚えていない様だが、2人のクラスに在籍している。


「私も今まで忘れてたけど、この人も主人が好きだったんです。」


甘粕と太宰は妻が指差している少女を見た。

背丈は花梨よりも大きそうだし、お世辞にも可愛いとは言えない。

どちらかというと、かなり不細工な方だろう。

鷲鼻だし、目は細く吊り目で、口も大きいし、顔も大きく、髪も見るからにゴワゴワしている。


エリちゃんという、片桐愛の友達には程遠い。

余程、花梨の方がピッタリだ。


だが、太宰には何かが引っ掛かった。


「その取手さんと奥様のご関係は?。」


「ん〜…。偶に用が有れば、話す位でしたでしょうか。虐められている所を何度か庇った覚えはありますが…。」


「ーそういや、お前、取手に悪口言われたって言ってなかったっけ?。」


「悪口…。ああ、また下らないんですが、確かに。」


「何を言われたんですか。」


「その三角関係の噂が立った頃、私の様ないつ死ぬか分からない不健康な人は、北条君には似合わない。さっさと死ねばいいと…。」


「死ねばいいまで言ったのお!?。」


夫と息子が異口同音に怒り出すと、妻はまた苦笑しながら宥める。

夫と息子にこよなく愛されている妻らしい。


「実はね。」


「てめえが死ねだろ。縁起悪い事言いやがって…。」


「奥様はお具合が悪かったんですか。」


甘粕が聞くと、夫が答えた。


「心臓悪いんです。その当時から。今は病名ついて、発作も起こす状態。

ですので、あんまりドッキリさせないで欲しいんですが…。」


「あ…ああ、申し訳ありません…。」


と言った側から、妻はドッキリしてしまった様だ。


「も…もしかして、私の事好きだった人達が狙われているんですか!?。主人も、篠原君まで!?。」


肩で息をして、もう苦しそうだ。


「ちょっとお!。刑事さ〜ん!。」


「すみません!。いえいえ!。まだそうと決まった訳ではありませんから!。」


「はあ…。」


「あの…。その取手さんはエリちゃんとか呼ばれて居たりとかは…。」


「ああ…。」


幾分苦しそうな状態ながらも、夫に支えられて妻は答えてくれた。


「仲のいい子、2人位にはそう呼ばせていたみたいです。」


「ーそうなんですか!。」


ここで、呼び名だけは繋がった。


「はい。虐められていたのも虚言癖のせいでした。

お父さんが今で言う、DV男で働かず、お母さんとお母さんの実家に身を寄せているんだとか、本当はエリって名前になる筈だったのを、お父さんが絵美子にしちゃって、不吉だから、エリって呼んでとか言ってました。

でも、本当は、お父さんは大工さんみたいな事をちゃんとされていて、生活は豊かではなさそうでしたが、ご兄妹も3人居て、普通な感じに見えましたが。」


境遇も、嘘の方はピッタリ一致している。


「居所、分かりませんか。」


「う〜ん…。雅代ちゃんなら知ってるかなあ…。ちょっと聞いてみますね。」


「お手数お掛けします。」


夫は妻の身体が心配だから早く帰ってくれと言わんばかりの目で、素人とは思えない圧を掛けて来ているが、太宰は動じない。


電話に立った妻を横目で見ながら、質問を続けた。


「ご主人は何か覚えていらっしゃいませんか。」


「は〜、全く。もしかしたら、手紙の類いは貰った様な気がしますが、その場で突っ返したか、破り捨てたかしたと思います。」


「ーそ…そらまた強烈な断り方ですね…。」


「だって、好かれても迷惑な奴って居るでしょ。」


「は…はあ…。」


「そう言えばですが。中学の時じゃなくて、それ以降、花梨が大学入って実家を出るまででしたが。」


「はい。」


「近所を2人で歩いてたり、彼女1人で歩いてたりすると、刺す様な視線を感じると言ってましたね。

後、無言電話も。

もしかしたら、それ、取手なのかもとふと思いました。

男の気配だけじゃなかったから。」


「ご主人は気配で大体お分かりに?。」


「まあ、ど近眼なのもあるんですけど、剣道と古武道やってましたんで、気配には割と昔から敏感で。

だから、素人の暴漢程度なら、返り討ちに出来るんですけどね。」


「それは心強いですが、どうかご無理なさらずに…。」


妻が戻って来た。


「残念ながら、地元の事情通の友人も知りませんでした。

でも、埼玉の短大に入って、暫くしたら、音信不通になって、実家には全く帰って来なくなったそうです。

ご近所の話だと、短大を出て、直ぐ結婚したとかなんとか…。」


「そうですか。有難うございました。

で、今、ご主人からお聞きしたんですが、嫌な視線を感じられていたとか?。」


「そうですね…。粘っこい感じの…。そういえば、中学の時もよく感じてた視線ですね。誰からなのかは、いつも分からなかったんですが…。

なんだか一挙手一投足見られている気はしました。」


そう言いながら、上品な所作で紅茶を淹れてくれた。


「ごめんなさい。お出しするの忘れてしまって。少し冷めてしまったかもしれません。」


「ああいえ、十分です。有難う御座います。」


喫茶店の様に美味しい紅茶を飲みながら、太宰と甘粕は静かに妻を観察していた。


家族と居るせいもあるのか、表情はコロコロと変わり、矢張り、人形という表現は遠い気がする。

ただ、人形の様に可愛いとは思った。

陶器の様な白く美しい肌に、美しい目も小さな鼻も、凹凸の少ない顔立ちも、フワフワの柔らかそうな長い髪も、片桐愛の両親の証言とも、夏目が川端に描いて貰って来た似顔絵にもよく似ていた。


彼女は見た目だけなら、かなり犯人に近い。


そして独特な目の動かし方は、相当魅力的だった。

太宰だって、妻子が居なかったら、グラッと来そうだし、甘粕も見惚れている所を見ると、好みなのだろう。


だが、印象は薄くない。

彼女の様な可愛らしいタイプが好みではなかったとしても、全く思い出せない程印象の薄い顔ではない。

寧ろ、中学時代よりも美しくなっている分、人には覚えられるだろう。

また、表情の豊かさもあって、人形の様にも思えない。

それに、愛という女は見た目30代と聞いているが、北条花梨は、20代に見える。


太宰の頭にもう一つの確信めいた疑念が湧いた。




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