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満月の夜3  作者: 桐生初
13/31

13

太宰と霞が住民票に記載されている片桐愛の住所に向かっていた頃、夏目は川端邸の座敷で正座し、黙って待っていた。


川端は、芥川の予想に反して機嫌を悪くしているでもなく、いつものぶっきら棒と大差無い表情で3人を出迎えた。


道すがらの芥川の話で、奥さんを亡くし、息子達も独立して、一人暮らしをしているのは分かっていた。


「見ての通りの男やもめだ。茶が欲しけりゃ、セルフサービスで頼むよ。」


そう言って、描きかけの水墨画が散らばっている座敷に通すと、概要を夏目から聞いた。

質問はせず、ただ頷いて全てを聞いた後、夏目ではなく、青木に一言聞いた。


「惚れてんだな?。その女に。」


青木が気まずそうに頷くと、青木を窓辺のラタンの椅子に座らせ、川端はその前に座った。

そして、ボソボソと小声で話しかけながら、スケッチブックを広げ、鉛筆を動かし始めた。


川端の聞き方は独特だった。


「まず、目を瞑って、深呼吸して、彼女の顔をゆっくり思い出してみな。あんたが好きな顔だ。」


青木は言われるがまま、目を閉じて、深く息を吸い込んだ。


「そうだ。あんたに話しかける。あんたを見上げる。どんな仕草して、どんな目であんたを見上げてるかな。」


川端の静かな抑揚の無い声のせいなのか、丸で愛がそこにいるかの様に、青木の表情が柔らぎ、力が抜けて行くのが、夏目にも見て取れた。


「浮かんできたかい。」


「はい。」


「じゃあ、聞いて行くよ。浮かんで無い所は分からないって言ってくれていい。

先ず、髪はどんな感じだい。柔らかそうか、硬そうそうか。」


「柔らかそうで…。少し茶色がかっています…。凄くいい匂いがしてて…。ハーブみたいな…。」


「ハーブか。花のハーブかねえ。」


「そうですね…。どっかで嗅いだかもしれないな…。あ、高級ホテルとかのラウンジの匂いかもしれない…。」


最近はホテルや旅館でも、ハーブの香りで出迎えるような工夫がされている所も多い。

夏目はメモした。


「そうか。じゃあ、その髪はどの辺まであったかな。胸までか、肩までか。」


「鎖骨…。鎖骨の辺りでカールしてました。でも、わざとらしいカールじゃなくて、自然にクルッて感じです。」


「髪のボリュームはどうだい。多く見えたり、重そうだったりしなかったかな。」


「しませんでした。フワフワしてる感じで、綺麗な髪でした。」


「極端に艶があるとか、逆にボサボサしてる感じでも無いか。」


「ないですね…。」


「じゃあ、前髪はどうだい。目の上までかかっていたか、気づかなかったか。」


「すみません…。気がつかなったです…。目がとても印象的っていうか、あの目に見つめられると、他分かんなくなっちゃうような…。」


「そうか。目が魅力的なんだな。どんなだった。」


「普通の大きさなんですが、黒目が大きいのかな…。なんか凄く綺麗な目で…。それでこう、吸い込まれそうになる様な…。」


「うんうん、なるほどな。」


感覚的過ぎて、これで絵になるだろうかと思うが、そこが川端の才能なのだろう。

粗方、青木から聞き取ると、川端は手を休める事無く、描き続けていた。


「五課の夏目…。」


「はい。」


川端に唐突に呼ばれた夏目は、姿勢を崩す事なく、川端を見つめた。


「太宰のとこの坊主か。幸田の天敵の。」


「ええ…。まあ…。」


はいとはっきり返事もしづらいので、珍しくモヤモヤっとした答えをすると、川端は笑った。


「確かに強烈な男だな。年寄りの寝込みを襲うとは。」


「申し訳ありません。」


「いや。いいんだよ。この手の仕事は目撃者が見つかったら、何時だろうがその時にやらなきゃ意味が無い。記憶ってえのは、都合のいい様に改ざんされて行くし、時間の倍のスピードで消えてっちまうからな。慣れっこだ。」


夏目は黙って頭を下げた。

捜査上、重要な手掛かりとなる川端の仕事と、その真摯な姿勢に頭が下がる思いだったから下げただけなのだが、これが川端はいたく気に入った様だ。


芥川が知る限り、このご老体は殆ど喋らず、表情も変わらない。

眉間の深い皺がデフォルトになっていて、消えている所も、増してや笑っている所も見た事が無かった。


それが、ほんの少し笑っている。

こんな表情は見た事が無いし、多分、機嫌がいいのだと思う。


「夏目、目撃者ってのは、大体感覚的にしか覚えてねえもんなんだ。」


「こいつに限った事ではないんですか。」


「まあ、こいつはちょっと酷えけどな。でも、大体はそうだ。怖いと感じる現場目撃してたら、ホシの顔は鬼の様にインプットされる。

目撃者の感情を通して出て来る証言を、網で濾して、本当の顔を探って行くのが俺の仕事だ。」


「根気の要る作業ですね。」


「うん。お前には向かないな。」


夏目が笑って頷いた。


ーこれはもしや、気が合ってんの?。


芥川、相変わらず心の中で突っ込みっ放し。




その頃、太宰達は想像以上に謎に包まれていた。

片桐愛の住所に着くと、そこは大豪邸で、品の良い老夫婦が出て来た。


「警察!?。愛が見つかったんですか!?。」


という事は片桐愛という女性も、行方不明なのだろう。

実際話を聞いてみると、三年前にフランスに行くと言って出て行ったきり、戻って来ず、警察にも、フランス当局にも、捜索願を出しているそうだが、手掛かりは全く無いと、老紳士が肩を落として語った。


念の為、片桐愛という女性の写真を見せて貰ったが、4人全員が探している、魔性の女の愛では無いと思った。

本物の片桐愛は、背も高く、スラッとした美人で、服装もかなり派手だ。

服装は置いておいても、鼻筋が通り、彫りの深い顔立ちは、一度見たら忘れないし、印象に残る。


霞が、片桐愛の出身校や専攻分野を聞いた。

魔性の女の愛はどう考えても、心理学や、それに近い専門知識がありそうだからだ。


「出身は鳳凰女子短大です。専攻は心理学でした。」


母親のこの答えに、一同は驚いた。

心理学専攻…。

もしかしたら、満更無関係でもないのかもしれない。

太宰は慎重に聞き取りを再開した。


「その学生時代のお友達や、心理学科の関係で、仲のいい方はいらっしゃいませんか。」


太宰は魔性の女が、片桐愛を手にかけ、戸籍と名前を奪い取ったのではないかという直感という細い糸に賭けてみた。

仲のいい友達で、家庭環境など知っていれば、なりすますのも簡単だ。


老夫婦は暫く考えたのち、2人で少し話し、母親が話し始めた。

その話によると、実は男友達の方が多く、女性の友達の話というのは、1人しか聞いた事が無いという。

短大の同じ学科の友達で、行方不明になる頃も交流はあった様だが、残念ながら、両親は一度も会った事が無いそうだ。


「年賀状などは来ていませんでしたか。或いは、写真なんかは…。」


「ええ…。それなんですけど、刑事さん…。」


話し始めた母親困惑している様な様子だ。


「無いんです。何も。不自然な位に。

でも、愛が居なくなってから、私達も、手掛かりを探して、愛の部屋を隅から隅まで探したんですけど、愛の持っていたはずのアルバムも年賀状の束も、お友達の住所録も、全部無くなっているんです…。」


その為、事件ではないかと警察に届けても、部屋に荒らされた形跡は無いし、失踪直前に悩んでいた様子もあるので、本人が自主的に失踪したのではないかと言われ、捜査はしてもらえていないのだという。


「その、女友達だけでなく、全ての友人との交流の記録が無くなっているという事ですね?。」


太宰の確認に、夫妻はコクリと頷いた。

大学の名簿なども無いらしい。

愛が関わっているのか、それとも、本人の意志で失踪したのか、分からなくなって来る。


「その、愛さんのお悩みというのは、何だったんですか。」


「私にはよく分からなかったんですけれども…。」


一言一言、考えながら話してくれたのはこんな感じだった。


愛は容姿の良さからかなりモテた。

だが、直ぐに捨てられた。

若い内はそれでも次から次へと言い寄る男も居たが、年を取るにつれ、そういう男も少なくなり、気がつけば婚期を逃し、お見合いもロクな相手が来なくなりとなった所で、改めて、自分が中身の無い人間だという事に気が付いた。

女友達も、エリちゃん以外は、誰も相手にしてくれなかった。

どちらかというと、学生の時も、会社勤めの今も、女性には嫌われている。

だが、何故嫌われてしまうのかが分からない。

エリちゃんだけが救いの神だったが、最近冷たい。


そんな事を訴え、鬱気味になり、会社も辞めた。

医者にも通っていたが、徐々に何も話さなくなり、両親を敵視しているかの様な態度になってきたらしい。

帰りが遅かったので、誰かと会っていたのかと聞いただけで、うるさいと激昂するようになったそうだ。

病気のせいかと、当たらず触らずに接していたが、突然、気晴らしにフランス旅行に行くと言って、家を出たまま帰って来ず、現在に至る。


その旅行は誰と行ったのか、非常に気になったが、残念ながら、両親に旅行の概要や、同行者についての説明は無かったそうだ。


「そのエリちゃんというのが、唯一のお友達だったんですね?。」


「ええ…。」


「どんな子だと言っていましたか、何でもいいです。思い出せる事、どんな小さな事でもいいので、教えて頂けませんか。」


太宰が思わず前のめりになって聞くと、母親も真剣に思い出してくれた。


「家庭の事情が複雑なお嬢さんだって言っていましたわね…。」


意外と、エリちゃんの話は覚えていた様で、母親はかなりの量の話をしてくれた。


エリちゃんという友達は、父親がロクに働かない上、今で言うDV男であった為、中学生の時に母親と2人で逃げる様に東京の母親の実家に転がり込んだ。

その後、母親は病気で亡くなり、祖父母の家で祖父母に育てられ、公立の高校を出た後、一般受験で鳳凰女子大学に首席で合格。

特待生となって、学費の心配もなくなって、安心してしまったのか、祖父母共に他界した。

祖父母の家を売り払い、そのお金で大学の近くのアパートで慎ましく暮らしていると、当時聞いたそうだ。


「正直申しましてね…。私も、愛は我儘に育ってしまって、そんな大変な苦労をされて、自立されているお嬢さんが仲良くしてくださる様な娘には思っていなかったんです…。

ですから、せめてお礼がしたくて、お連れしなさいと言ったんですが、一度もいらっしゃらなかったですね…。」


すると、ずっと黙っていた父親が、ハッと顔を上げた。


「いや、待ちなさい。1回来てくれた事が無かったかね。」


「え…?そうでしたかしら…。」


「愛が醜態を晒した時、送って来てくれた事が無かったか?。引き止めたんだが、直ぐに帰ってしまって…。」


愛が男にフラれて、飲み過ぎて正体を無くした時、タクシーで送って来てくれた事があった。

父親が話し出した事で、母親も思い出してくれた。

その時、急いでいるからというエリちゃんに、タクシー代だと言って、かなり多めのお金を渡したらしい。


2人は顔もしっかり覚えていた。


「背が小さくて、身体も細くて、お人形さんの様に可愛らしいお嬢さんでしたわ。とても綺麗な目をしていて、優しいお顔立ちの。

そういう意味で、特徴は無いかもしれませんわね。お人形さんのお顔って、特徴という特徴ってございませんでしょう?」


母親がよく覚えていたのは、もしかしたら、彼女自身が、人形コレクターだからかもしれない。

豪奢なリビングには、高そうなフランス人形が所狭しと並んでいる。


太宰はその人形達の顔を眺めた。

確かに、人形にはこれという目立つ特徴は無い。

目が大きめで、全体的にこじんまりとして、可愛らしく見える顔に仕上げてあり、どれもこれも、素人目には同じ顔に見える。

もしかしたら、愛と名乗っている女の目撃証言が、悉く曖昧なのも、こういう理由なのかもしれないと、ふと思う。


一緒に人形を見ていた霞が、太宰に許可を得てから、母親に聞いた。


「つまり、エリちゃんは、とても綺麗な大きな目をしていて、顔も小さく、鼻も口も小さくて、一見、幼い印象を与える顔立ちだったという事でしょうか。」


「ええ、そんな感じですわ。」


幼く見える顔立ちというのは、顔半分の所で線引いた時に、横線の部分の近くに目がある場合が多い。

子どもの顔がそうだからだ。

子どもの顔がそうなっているのは、無意識に人間が可愛いと思える配置だからとも言われている。

だから、童顔と呼ばれる人々は、大体額が広めで、目が横の線のライン上前後に収まっている事が多い。


しかし、顔の印象云々に関して、この仮定が真実だとしても、エリちゃんだとしたら、45前後になる。

目撃証言の30代前半という年齢とは、10も離れているが、それはどうなるのか。

童顔なだけで、10も若く見えるのか。

しかし、最近は、ぱっと見10は若く見える中年というの増えている。

テレビでは…の話ではあるが、有り得ない話ではないのかもしれない。




「ガイシャ…。全員同い年って、同級生とかじゃねえよな…。」


ホワイトボードを見ていた甘粕が突然言うと、隣に立った逢坂も言った。


「やっぱ、甘粕もか。実は俺も。」


「ちょっと、原田に調べて貰おう。ここに出てる経歴は大学までだからな…。」


甘粕が原田に電話し、小学校からの出身校を調べて貰うと、30分もすると、原田が電話して来た。


「流石ダーリン、ビンゴだよ。」


「どこかで一緒だった!?。」


「うん。全員同じ中学校。C県F市のS中。1985年度卒業の同級生。シーマ社長梶田と会社役員細田の3年の時の担任は消息分かった。隣の小学校で算数の教科担任してる。もうお爺ちゃんだけど。」


「住所も分かる!?。」


「当たり前じゃん。言うよ〜。」




夜も10時だが、甘粕は太宰に連絡を入れた後、東京のベットタウンであるF市の元担任の家に車を走らせた。


その間、逢坂が被害者の妻達に被害者の中学時代について電話で聞いてみたが、全く知らない上、当時の同級生との付き合いも無いと言われた。




田辺という、老教師の家に着き、無礼を謝り、状況を説明すると、気の良さそうな老教師は沈痛な面持ちで2人を中に入れながら、話し始めた。


「梶田、細田はうちのクラスだったんですが、この近藤、藤井は、2組と3組でしたね…。ええっと、卒業アルバム持ってきますね…。」


暫くして、あまり片付いているとは言えない室内の本棚から、緑色の表紙の卒業アルバムを持って来てくれた。


「人から恨まれる様な子達じゃなかったんですが…。」


「何か共通点はありませんでしたか。」


「共通点…。比較的成績が良かった位しか…。梶田と細田も、特別仲が良かったとも、悪かったとも記憶していませんが…。」


それから暫く、4人についての話を聞いてみたが、要するに4人は可もなく不可も無い、はっきり言って、印象に残り難い生徒だった様だ。


生徒だったと言っても、もう30年以上前の事だし、逆にこの老教師はよく覚えているなと思う。


「被害者同士の唯一の接点なんです…。この人達と未だお付き合いのある方なんかは…。」


「ああ〜。付き合いがあるとは思えませんが、当時の学級委員は学級委員同士で結婚して居るので、住所と連絡先は知ってます。

俺よりは若いので、何か覚えてるかもしれない。」


「教えて頂けますか。」


教えて貰った後、貸してくれるという卒業アルバムを差し出し、その結婚しているという2人を指差して貰う。

1人は如何にも気の強そうな眼鏡の背の高い少年。

だが、周りの子に比べると、結構カッコいい。

少女の方は、正反対に背が小さく、華奢で大人しそう。ちょっと不機嫌そうだが、長い髪で周りの子に比べると可愛い気がした。


「これね、花梨の方はすっごく写り悪いんだよ。実物はもっと可愛かったんですよ。ああ、挟んであった。こっち。」


修学旅行中らしき1枚には、確かに可愛らしい少女が可憐な笑顔で写っている。


「そうなんですか。お借りしてよろしいんですか。」


「うん。返してね。」


「はい。」


「尊と花梨は大学まで同じ所行きましてねえ。

話によると、中学卒業した途端に付き合いだしたって…。まあ、在学中も、この篠原ってのとよく揉めてましたけどね。花梨を巡って。

この3人、成績はずば抜けて良かったんですが、まあ〜、個性的でねえ。未だに覚えてるって言うので、お察し下さい。」


多分、成績と頭は最高だが、かなり変わっていたか、先生泣かせな悪ガキだったのだろう。


「そうですよねえ。30年も前の生徒さんなのに…。」


「うん。」




流石にこの時間に突撃するのはまずいだろうと、翌朝の土曜に今度は太宰と甘粕で訪ねると、甘粕と同じ背丈の、体格のいい白髪混じりの男性が出て来た。


少し前から禿げ上がって来ているし、眼鏡も掛けていないが、あの少年だと直ぐに分かったのは、気の強そうな強い目が全く変わっていないからだった。


「刑事さん…?。何か。」


「お休みの所、申し訳ありません。」


太宰が謝り、説明し出すと、北条尊という男性は中に入れてくれた。


丁度ブランチに入る所だったらしく、エプロン姿の奥さんが不安そうに、美味しそうなキッシュをテーブルの上に置いていた。


「梶田と細田が殺されたんだって。」


「ーええ!?。中学の時、同じクラスだったよね…?。」


「多分…。」


どうも2人ともよく覚えていない様だが、それなりにショックは受けた様だ。

一般人が、知り合いが殺されたなどと聞いたら、通常ショックは受ける。

夫の方は冷静というか、ポーカーフェイスを崩さないが、妻の方はかなり動揺しているのが分かる。


しかし、太宰と甘粕は、奥さんの花梨という女性を見て驚いていた。

彼女は中学時代の可愛い方の写真と殆ど変わっていない。

というか、それよりも美しくなっている。

それに、愛という女の薄ぼんやりとした目撃証言を彷彿とさせる、幼くて人形のように愛くるしい顔立ちに、いかにも骨が細そうな華奢な骨格と、小柄で柔らかそうな長い髪・・・。

犯人とは思わずとも、無関係にも思えない。


また、夫と並んでソファーに座ると、同い年の同級生には全く見えない。

どう見たって、20代にしか見えない程、若く見える。


しかも整形した様な、不自然な所は一切無い。


「梶田さん、細田さんの他、近藤さん、藤井さんが亡くなっているんですが、共通点や、4人が誰かとトラブルになったとか言う事は、覚えておられませんか、どんな些細な事でもいいです。」


2人は顔を見合わせて、首を捻っている。


「なんだろね…。」


「さあな。朧げに思い出してきたけど、お前の事好きだったじゃん…って、あ…。」


「なんでしょう。」


「いや。下らないです。」


北条尊は苦笑して、考えを振り払う様に、首を横に振った。


「いえ。なんでも構いません。」


「じゃあ、言いますが、この4人はうちのカミさんが好きでした。」


「そうだったのお!?。」


花梨の方が先に驚いている。


「そう。三角関係の噂立ってから消えたけどな。」


「お…お待ち下さい…。もしかしたら、重要な事かもしれません…。」


太宰が穏やかに、しかし、有無を言わさぬ迫力を秘めて遮ると、花梨は不安気な目で太宰を見つめた。


太宰と甘粕は花梨のその、吸い込まれそうに美しい、黒目勝ちの澄んだ目と、凹凸の少ない、少し幼くすら感じる顔を見て、矢張り刑事の勘が確信に近くなって来るのを感じた。


昨夜、片桐愛の母親に聞いた、エリちゃんという女の子はこういうタイプで、無関係ではないと。


ただ、印象は薄くなく、こういうタイプが好みではない太宰でもしっかり残る。


そこが歴然と違ってはいるのだが、とても無関係には思えない。

聞いた話や川端の似顔絵に、あまりに近過ぎる。


「その辺を詳しくお聞かせ願えませんか。」


「関係あんですか?。中坊の恋愛モドキなんて。」


「逆に共通点がそれだけというのが引っかかるんです。お願いします。」


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