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次の冒険へ……



 「……何? リザードラゴンだと?」

 マナの大樹の一件から数週間の後、自室で読書中だったクロウ・リュミエーラは、やって来たアクア・ジーニアスとリリム・チコットから報告を聞き顔を顰めた。

 「少し前にリティアらが遭遇した個体ではないだろうが……で、遭遇したのがダンだと言うのだな?」

 「ええ、ダン君も最初はそんくらい俺一人で退治してやるわーって意気込んでたみたいなんだけど、戦ってみたらやっぱ無理だから助っ人を送ってほしいって」

 その知らせの手紙を持って来たのは、オークのオーバとカーダだった。 どうやらリザードラゴンの現れた場所の近くに彼らの棲家があったらしい、そのため偶然に遭遇してあれこれあって伝令役を頼んだとの事だ。

 娘達が改心させたというオークと、妙な縁があるものだとクロウは思う。

 「ダン君ももう若くないんだから、流石に一人じゃねぇ……」

 リリムとアクアが肩を竦める。 

 そもそも仮にも騎士団長が何で城をほっぽらかしてて出歩いているんだと思うが、それを言っても仕方がないのは長い付き合いで分かっている。

 「まあ、増援についてはすぐに考えよう……あまり待たせると我慢できずに一人で突っ込みそうだしな」

 「あーダン君ならねぇ……」

 「……ところでだ、この話はリティアには言っておるまいな?」

 「うん? まーリティアちゃんには・・言ってないよクロウ君」

 しかし、リリムの言葉に安心どころか疑いのまなざしをクロウは向けた。

 「……誰には言った?」

 「スレイだけど?」

 あっけらかんと言うリリムを。クロウは無言で睨みつけると、そこへ彼の妻であるミトラ・リュミエーラがノックをして入って来た。

 「あなた、リティア達がどこにいるか知りませんか?」

 

 リーネの村へと向かう道の途中で、アディン・ランディールは二十人近い野盗に襲われていた……というか、すでにそのほとんどを倒して残りはリーダーを含めた三人になっていた。

 「な……ななな! なんだてめーはっ!!!?」

 そのヤッバ・ターニエンが驚きと怯えの声を上げる。

 「何って……ただの自警団員だよ」

 別の村へ用事で出かけた帰りにヤッバ達と遭遇したアディンは、自分逃げたら彼らが村まで追ってくるかもと考えてその場で迎撃行動をとった。 その結果、少し時間はかかったがほとんどを気絶させて倒す事が出来た。

 「俺達は二十人だぞ! それなりに戦いの心得もあるんだぞ! 噂のお転婆姫じゃあるまいし何で一人にここまでやられるんだよっ!!!!」

 子供めいてわめくヤッバは、「……お転婆とは言うな?」という男の声を聞いた直後に手下のミトーが呻き声を上げて倒れるのを見た。

 「……な!?」

 「リティア嬢を侮辱する言葉はな? 例え事実であってもこのレイト・ヴィヨンドが言わせんぞ?」

 いつの間にか黒い鎧を着た白髪の剣士がやって来ていた、「なんだてめー……」と言い切る前に今度はナットが倒された。 ナットを手刀で倒したのは眼鏡を掛けたメイド服の少女だった。

 「事実とは認めちゃうんですね……私はスレイ・チコット、リティアちゃんに仕えるメイドです」

 「……リティア? リティアって言ったぁぁぁあああああああっ!!!!?」

 まるで魔王の名前でも聞いたかのようにヤッバは怯えだした、その目の前に赤毛の少女が「そうだよ?」と着地した。

 「な……!?」

 「あたしが!」

 少女はヤッバの腹に強烈なパンチを撃ち込み、そして……。

 「リティア! リティア・リュミエーラだよ~!!」

 ……と、アッパー・カットを見舞い宙に浮かせた。 

 誇張表現なしに数メートルは上昇したヤッバは、今度は勢いよく落下して「ぶば!?」と気絶する。

 その光景を呆然と見ていたアディンは、「……リティア姫……?」とようやく口を開けた。

 「久しぶりだねアディン! 元気そうだね?」

 「この数を一人で倒すか……腕を上げてるなアディン!」

 「お久しぶりです、アディン君」

 再会を喜ぶ三人、それはアディンも同じなのだが、どうしてこの国の姫がこんなところにいるのかが分からない。 いや、別に何もおかしくはないのだが、流石に用もないのにやっても来ないだろうという意味だ。

 「実はな、我が父のダン・ヴィヨンドがリザードラゴンと遭遇してな? 流石の父上も一人では苦戦してるらしく助っ人に向かうとこなのだよ」

 かつて自分も戦った強敵の名に驚くアディンだ。

 「まあ……もちろん陛下の許可とかはありませんけどね」

 肩を竦めるスレイを見ながら、そうだろうなとは思う。

 「んでね、アディンにも手伝ってほしくてやって来たんだ」

 「……は? 僕に!?」

 「うん、もしかして無理かな? やっぱり自警団の仕事もあるし……」

 ある事はあるが無理という事もない、それにかつて死ぬ思いで戦ったリザードラゴンへ怖さはあるが、それ以上にリティア姫が自分を頼って来てくれた嬉しさが勝った。

 だから、気が付けば「いいえ、僕で良ければ力になります」と言っていた。

 「ほんと? ありがとね!」

 喜ぶリティアは、アディンの腕を掴むと「じゃあ、行こう!」と引っ張ろうとしたんには、「ちょ! 待ってください!」と静止した。

 「……流石に父さん達には言ってからでないと……」

 「……あーごめん……」

 「ふ! そんなに急がなくても我が父は大丈夫だ。 いくらなんでも一人で無茶は……まあ、しないだろ?」

 「自信なさげですねぇ……」

 みんなで笑い合いながら、リティアはそうじゃない気がしていた。 確かにダンも心配なのだが、それよりもアディンを含めた四人で冒険をする事に対する高揚感を感じているのだ。

 「……まあ、何にしても……」

 スレイがメイド服のポケットから何本ものロープを取り出す、どう考えてもあり得ない光景だが、古の魔術師ドーラ・エイモンの編み出した収納魔法が種明かしだ。

 「……彼らを全員縛り上げてしましょう?」

 「ああ、そうだな?」

 「そうですね」

 「うし、さっさとやっちゃおう~」

 すぐに行動を開始しようとしたリティアは、不意に視界に飛び込んできたマナの大樹に目を止めた。 

 広がる青空を背景に霞む程度に見える大樹は幼い頃からずっと見てきたもの変わらない。 しかし、今見えているのはずっと見てきた大樹とは違うものだと知っている。

 そしてその大樹がこの先の世界を見守っていく、自分が大人になって子供を産んで、その子供も大人になって……ずっとずっと命を繋いでいくのをだ。

 でも、ニンゲンであるリティアにはそんな話は途方もなさすぎるし、こうして大好きな友達と今を精一杯生きてくだけだと、そう思うのであった……。

 


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